概要
舞台は現代日本。「御蔭神道」や「総本山」といった組織が社会の裏で異能や法術を武器に「怪異」と戦う中、一切の特殊能力を持たない主人公・九条湊が、怪異が起こす難事件に対しロジカルかつ科学的な手段で立ち向かっていくという一風変わった小説。
湊がいかなる(ある意味トンデモな)手段で怪異事件を解決するかが本作の醍醐味であるといえる。
主要人物
・九条 湊(くじょう みなと)
さびれた裏通りに立つビルの一室に事務所を構える青年。沙耶からは「先生」、ユウキからは「おっさん」と呼ばれる。よれよれのジーンズとだらしない黒いシャツというくだけすぎな服装が特徴的。
霊感、法力、神通力といった特殊な能力を一切持たず、己の知能を駆使して怪異事件を解決する。やっかみと疑いから同業者からは「零能者」や「無能力者」などと呼ばれている。怪異が起こす現象を理解不能なものとせず、できる限り分解して理解しその隙を突くという手法をとる。実体のあるものを除き、霊魂や浮妖の類は全く見えない。
斜に構えたクセのある性格で、仕事を選ぶ基準は「面白そうかどうか」。ギャンブル狂かつ借金まみれな上、毒舌で傲岸不遜なため、必要以上に敵を作っている。ふざけた発言が多い一方、冷徹な性格で、怪異や殺人犯を前にしても自分のペースを崩さない。一方で恩義のある人物のために奔走し、いつも以上の執念で事件に挑むといった面もある。沙耶やユウキのことは迷惑がっているが、最近はあきらめ気味。
生まれや家族に関する事柄はほとんど語られない。少年期にはすでに今のような人格が出来上がっていたが、今よりも少しだけ青かった。大学生の頃はあらゆる事象の完全シミュレートに関する研究を行っていた。
現在では依頼書が山積みになっているにも関わらず1カ月以上仕事をしないことがほとんどだが、かつてはもっと勤勉で総本山からの依頼だけでも成功率98%、失敗した依頼はわずか3件という驚異的な実績を誇っていた。
好物はクリームソーダ。
・山神 沙耶(やまがみ さや)
女子高校生にして巫女。16歳。神降ろしができる貴重な人材で、梓弓を使い霊力を蓄えた髪で形成した浄化の矢を放つ。浄化の力は母親譲り。
叔母である理彩子を「理彩姉さま」と呼んで慕う。1歳のころ父親は病死、7年前に巫女だった母親もお務めで命を落としているため、御蔭神道を離れてからは理彩子のもとに身を寄せている。真面目で人が良く、簡単に人を信じるため、湊からはいつももっと斜に構えて物を見ろと言われている。時折何気なく黒い発言をすることがある。湊の影響で考え方がスレてきているのが悩み。
修行場が山奥にあったため、かなりの健脚の持ち主で泳ぎも上手。叔母に似ず、年齢の割に胸が薄いことを気にしている。凶暴な怪異・嫉の封印が解かれる現場に立ち会ったことで腕に封じの伊ル日文字を宿すこととなり、贄となる運命を背負うも湊の説得により、共に嫉を倒すために動く。嫉を倒した後は、御蔭神道を離れ湊の元で怪異に対抗する新しい手法を学ぼうとしている。
普段は事務所の掃除やお茶くみなどの雑事をこなしており、依頼人への応対に加え、最近では借金取りの対応もさせられている。湊が依頼を受けた際には、助手として共に怪異事件へと挑む。
・赤羽 ユウキ(あかばね ゆうき)
10歳ながら総本山でも天才と一目置かれる法力の持ち主。怪異が最も苦手とするものを見抜く天性の勘を持つ。総本山では大人たちの嫉妬を受け、自分の力を正当に評価してもらえないと不満を抱いていた。高度な術と複雑な符を使いこなし力勝負で怪異を倒す戦法を得意とする。
祖父も母も高名な法力使いだったがすでに亡くなっており、5年前に唯一の肉親だった祖母が急性腎不全で亡くなったため身寄りはいない。私生活は謎に包まれている。年齢の割に大人びており、やや生意気。沙耶に淡い恋心を抱くが、沙耶からは弟分的な扱いをされている。年相応に幼い部分もあり、どんなに天才といわれても自分が本当に会いたい人々に会えないことを寂しく思っている。
自身の実力を示さんがため、後述の通り初期には無茶をしすぎることもあったが、最近では仲間を信頼できるようになってきている。嫉の一件で自分の力を示そうと、孝元に紹介された湊と共に嫉を倒そうとするが自分の活躍が評価されなかったことに不満を抱き、単身嫉に挑むが敗れる。しかし、この戦いでの成果が湊の勝利につながった。その際に武器として使用した降魔の利剣を損壊してしまい、総本山に居辛くなって湊の事務所に厄介になる。事務所ではもっぱら漫画を読んでいる。湊が依頼を受けた際には、助手として共に怪異事件へと挑む。
御蔭神道
神道に則した、怪異に対抗する組織。巫女や神官によって構成される。総本山とは緊張のある関係。
・水谷 理彩子(みずたに りさこ)
数々の怪異事件を解決した功績で28歳の若さで正階という高位につき、クチナシ様と呼ばれる。姉の娘である沙耶を溺愛している。姪とは対照的に、非常にグラマラスな体形。現在はマンションで沙耶と2人暮らしをしており、彼女が湊の事務所に通うことも社会勉強のためと許している。
湊が初めて怪異に関わってから10年来の付き合いで、かつては湊や孝元と組んで仕事をしており、湊以上に無鉄砲だった。現在は死んだ姉と雰囲気が重なる姪を守るため臆病になっていると自覚している。
現在は御蔭神道から湊への依頼を行う窓口の役割もこなしており、時には湊と組んで動くこともある。
総本山
仏教に則した、怪異に対抗する組織。法力僧らによって構成される。御蔭神道との関係や権力闘争など、外部でも内部でも不穏な動きを見せる。
・荒田 孝元(あらた こうげん)
主に渉外を受け持つ法力僧。湊への依頼の多くは彼を通して行われている。「よもぎ寺の昼行燈」とあだ名され法力はそれほどでもない。くだけた雰囲気と柔らかな物腰を持つ。度を越したお人好しで話をすぐに真に受ける性格なので、湊にはしばしば騙される。冗談のセンスが独特で分かりにくいため、周囲を困惑させることもある。借金を帳消しにする条件で湊にユウキの面倒を見るように頼む。実家が「よもぎ寺」と呼ばれているのにも何らかの理由があるらしい。かつては湊や理彩子と組んで仕事をしていた。最近はその時に比べて体力が落ちてきている模様。
漫画化
田倉トヲルによって漫画が連載されている。2011年9月から2012年12月までcomic B's-LOG エアレイドに掲載、2013年以降はB's-LOG COMICで連載中。既刊2刊。
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