今から遠い未来、僕らは「 宝石 」になった。
概要
市川春子による漫画作品。
これまで読み切り短編をメインに活躍していた市川の初となる長編連載作品。
2012年12月号より、講談社の月刊アフタヌーンにて連載。2021年1月発売の2021年3月号に95話が掲載されたのを最後に1年以上休載し、2022年6月発売の2022年8月号で連載再開となった。そして2024年4月発売の2024年6月号で完結。全108話の物語に幕を下ろした。
2013年7月23日に単行本第1巻が発売。第1巻発売時にはスタジオ雲雀制作のアニメーションPVが公開された。
上述したように第95話の本誌掲載を機に約1年半の休載期間を挟み、第11巻から2年4ヶ月を置いた2022年11月に第12巻が刊行。特装版には「The Party At The End」と題された上製本が同梱されている。
英題は『Land of the Lustrous(煌きの国)』となっている。
『宝石の国』1巻発売記念フルアニメーションPV
作風
シンプルながら繊細かつ美しい絵柄で、数千年単位の時を跨いだ宝石たちの戦いと彷徨を描く。作者が仏教校で得た知見に着想を得ており、教典に記された「極楽浄土を飾り立てる宝石」のイメージと、鉱物それぞれの特徴から立ち上がるキャラクターを掛け合わせ、“装飾品として狩られる鉱物生命体”が生まれた。
大きなテーマとして「不死の身体を得た者たちの、人格の連続性や同一性」が据えられており、読者からはテセウスの船に例えられることが多い。
また、遠未来における生命の変容といったSF的設定に、正体不明の敵・月人をはじめとする仏教的なモチーフを織り交ぜた独特な世界観が特徴となっている。
物語としては、純粋無垢で美しい宝石たちが集団生活の中で抱く煩悶や葛藤など、のびやかな空気と仄暗い緊迫感が同居するエピソードが描かれているが、緩急の激しい展開は数多くの読者に衝撃を与え、甘い毒と比喩され、或いは端的に地獄とも形容される。
その絵柄とストーリーの重さのギャップから、Twitter上では「安易には人に薦められない」という声も多い。
アニメ
2017年5月19日にテレビアニメ化が発表。
2017年10月から同年12月にかけて、AT-X、TOKYOMX、BS11、毎日放送で放送された。放送曜日は土曜日に統一されている(AT-Xは初回放送分)。
また、TOKYOMXは木曜日(夜10時台後半)に再放送を行っており、それと並行する形で、専用アプリ『エムキャス』での同時放送も実施していた。
2022年11月には第12巻の発売を記念して、また2024年11月には最終第13巻の発売を記念して、YouTube「フル☆アニメTV」においてどちらも年末までの全話無料公開が実施された。
監督は京極尚彦。シリーズ構成に大野敏哉、キャラクターデザインに西田亜沙子が起用された。
アニメーション制作は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』や『劇場版 マクロスF』のCGパートを手掛けたオレンジが担当。
学校の日常や月人とのダイナミックなバトル、何より宝石たちが放つ鮮やかな光彩を3DCGで表現している。
『宝石の国』PV
すぐわかる『宝石の国』
ストーリー
粉々になっても破片さえ集めれば再生する体を持つ「宝石」たちの物語。
自分達を装飾品にしようと天から襲いかかってくる「月人(つきじん)」との戦いに備えつつ、日々の役割を分担して暮らす彼ら28名。
戦いに加わることを望みながらも、身体の脆さと才の無さによって何の役割も与えられていなかったフォスフォフィライト――通称フォスは、宝石たちを束ねる金剛先生から、博物誌を編む役割を与えられる。
ようやく与えられた地味な仕事に、鬱憤を募らせるフォス。
そんな彼はある日、夜にたった独りで見回りをしている孤独な宝石・シンシャに出会う。
用語
宝石たち
人の姿をした鉱物生命体。地球上に唯一残された島で、“緒の浜”と呼ばれる海沿いの地層から生まれる。多くは完全な人型になり損なうため、「先生」と共に「学校」で暮らしているのは、意識が発現し自律活動ができる状態で生まれ落ちたごく一部の個体たちである。それぞれの名は、実在する宝石・鉱物に由来する。
銘々が硬度(モース硬度)や靭性を備えており、それに応じてある程度の役割・立場が決まる。
見張りや戦闘を担う者は基本的に二人一組で行動する。ペアは同属か硬度や靭性の近い者同士で組むことが多いが必ずしも全てがそうとは限らない。
鉱物から成る体が生物のように活動できるのは、体内に存在する微小生物(インクルージョン)の働きによる。光を栄養・動力源としており、摂食や排泄や呼吸を行わない。そのため夜間や、特に光の弱まる冬の間は活動力が鈍り、不慮の事故を防ぐために一部を除いて「冬眠」に就く。
「死」の概念がなく、身体の成長や老化もないため実質不老不死。年齢が明らかになっている者で最年長は3600歳ほど、最年少でも300歳である(物語開始時点)。
人の肉体のような柔軟さを持っているように見えるが、あくまで彼らの身体は「鉱物」であり、固い物とぶつかれば硬質な音を響かせる。断面が髪と同色の宝石の輝きを持つことからわかるように、本来の姿は宝石の色そのもの。
人間でいう肌にあたる部分には化粧のように白粉を塗っている。白粉が取れた姿を「見るも無残」と嫌い、水中に入るときなどは耐塩樹脂を塗るなどして対策をとる。直接素肌で触れ合うと「超過敏反応」が起こり、割れたり欠けたりすることもある。
自身の硬度・靭性に耐えられない衝撃を受けるなどすると身体にひびが入ったり砕けたりするが、破片を継ぎ合わせれば再生が可能。修復作業は特に「閉じる」と称される。損壊が一定以上になると行動不能となり、破片を永久に失った場合、失ったインクルージョンに応じる量の記憶を失う。
戦闘などにより体の一部が失われてしまった際は、基本的にインクルージョンの棲んでいない鉱物で補うことになっている。本来の体と同質の鉱物であるほど可動率は高いものの、インクルージョンが補った部位を気に入ってくれなければ上手く接合せず、接合しても自分の意志で動かすこともできない。
宝石たちの衣装は制服としてほぼ共通しており、冬服は白いシャツにネクタイを締め、黒い上着と一体型のショートパンツ。夏服に衣替えしたときはシャツに吊りキュロット姿になる。個体によってはソックスやグローブを身に着けているが、これらは超過敏反応を防止するためでもある。
哨戒時には腰から垂らしたベルトに刀を吊り提げている。全員分の衣装はレッドベリルが、武器はオブシディアンがそれぞれ制作を担当している。
生産物は基本的に手工業によるもので、月人との戦争においても飛び道具を相手に刀剣を用いた接近戦を強いられており、膨大な戦闘記録から出現予測こそ立ててはいるものの、防戦一方となっている。
多くが中性的ないし女性的な見た目をしているが、彼らは「宝石」であるため性別は無い。作者は上半身は少年・下半身は少女をイメージして描いているとのこと。アニメ版では金剛以外の宝石たちは女性声優が担当している。
互いを呼ぶ際は形式上「彼」「兄ちゃん」「お兄さま」や「弟」などの男性的な呼び方を用いる。アニメの英語字幕ではノンバイナリー(男性でも女性でもない性別)な代名詞「they/them」が用いられている。無性だが「恋愛」について語ったり、「えっち」と発したりといった場面もある。
一人称は「僕」「俺」「私」など様々。一様に美しい容姿しているが、これは金剛が生まれた時点で削って整えているため。本人達も容姿に自信はあるようで、フォスなどは頻繁に「カワイイ」を自称している。
宝石達は体液を持たないが、金と白金を取り込んだフォスが合金を、シンシャは生来から持つ銀色の毒液を涙のように流す描写が存在する。
宝石
28名の宝石たち
最後に残った島にいる28名のこと。ゴースト/カンゴームとアメシスト33/84を別々で数え、そこに金剛先生を含めるとちょうど28名となる。
前述の通り宝石たちにはそれぞれモデルの宝石や鉱物があり、体質や特徴などは基本的にそれに準拠している。以下、モデル表記は「英名/和名(中国名)」。
※一部非公式/推測を含む。
CV:黒沢ともよ
本作の主人公。300歳。愛称は「フォス」。モデルはフォスフォフィライト/燐葉石。
硬度三半、靭性ぶっちぎりの最下位という脆過ぎる体とは裏腹に、お調子者で図太い神経の持ち主。持ち前の不器用さから生まれて300年仕事をあてがわれてこなかったが、ついに先生から博物誌制作の仕事を言い渡されるところから物語が始まる。他の鉱物と親和性が高い特異なインクルージョンの持ち主。
CV:小松未可子
硬度二。モデルはシナバー/辰砂。
体から銀色の毒液を無尽蔵に生み出せる特異な宝石。一人で月人を追い払えるほどの高い戦闘力を持つ一方、全てを汚す自身の体質を疎ましく思っており、他の宝石たちとは自ら距離を置き、過去に一度も月人が現れたことのない夜の見回りを一人で担当し続けている。ダイヤと同じ年生まれ。
CV:茅野愛衣
硬度十。モデルは(単結晶)ダイヤモンド/金剛石。
愛称は「ダイヤ」。虹色に輝く眩しいほどの髪を持つ。かわいいものや恋話が好きな優しい性格で、口調も所謂女性口調。前述の通り硬度は十と最高を誇る強さも持ち合わせるが、劈開(へきかい・特定方向に割れやすい性質)があるため靭性が低く、無茶が利きにくい。シンシャと同じ年生まれ。
CV:佐倉綾音
硬度十。モデルは(多結晶)ダイヤモンド/金剛石。
見回りではダイヤとペア。ダイヤとは異なり劈開がないため割れにくく、硬度・靱性共に最高の素質を誇る。持ち前の観察眼と戦闘センスもあって、宝石たちの中では最強格の一人。黒いロングヘアが特徴。力強く厳しい性格で遊びがなく、戦闘にしか興味がないため戦闘狂と呼ばれている。
CV:内山夕実
硬度六。モデルはルチル/金紅石。
医務担当の宝石。月人との戦闘などで割れてしまった宝石たちの体の修復のほか、宝石たちが体に塗っている白粉や対塩樹脂の生成や管理を行っている。隠れナンバーワン美脚。
CV:伊瀬茉莉也
硬度三。モデルはアンタークチサイト/南極石。
愛称は「アンターク」。通常は完全な液体だが、気温が下がると結晶化して人型となる特殊な宝石。そのため冬の時期しか活動できず、他の宝石たちが眠りにつく冬の見回りを担当している。
硬度七。モデルはファントムクォーツ/幽霊水晶。
愛称は「ゴースト」。長期休養所と図書館の管理を担当している宝石。おっとりとしてどこか虚ろな雰囲気を漂わせているが、時折急な行動力を見せることがある不思議系。二重構造の体を持っており、内部にもうひとつの人格を持つ。
ゴースト・クォーツの中にいるもうひとつの人格。
おっとりとしたゴーストとは対照的に性格は辛辣。ゴーストいわく、かつてペアを組んでいたラピス・ラズリの言う事だけは素直に聞くらしい。
CV:高垣彩陽
硬度七。モデルはジェード/翡翠。
壊れにくさでは二番目で、別名「堅牢のジェード」。緑の髪を項で二つの輪に結っている。真面目気質で、学校では議長を務めている。
CV:能登麻美子
硬度七半。モデルはユークレース/脆玉石。
愛称は「ユーク」。水色と灰色(銀色)のツートーンカラー。太眉。書記担当で、見張りの計画作成などを担う。穏和で察しがとても良い。
CV:田村睦心
硬度七半。モデルはモルガナイト/緑柱石。
愛称は「モルガ」。ゴーシェナイトのペア。
薄いピンク色のボリューミーな長髪。口調が粗く、やんちゃ。
CV:早見沙織
硬度七半。モデルはゴーシェナイト/緑柱石。
愛称は「ゴーシェ」。モルガナイトのペア。
横に撫でつけたような銀色のショートヘア。常に困り眉の優しい性格。
CV:内田真礼
硬度七半。モデルはレッドベリル/緑柱石。
愛称は「レッド」。美意識の強さから服飾を担当しており、自身の仕事に奉仕と愛と美を見出している。ピンク色の長髪は、髪型が毎日変わる。
CV:皆川純子
硬度十。モデルはダイヤモンド/金剛石。
愛称は「イエロー」。島に残っている宝石たちの中で最年長の3597歳。みんなの「おにいさま」でもあり、経験した別れも多い。レモンイエローの髪は額を出した真ん中分け。俊足。
CV:茜屋日海夏
硬度七半。モデルはジルコン/風信子石。
イエローダイヤモンドのペアを務める。くせのある山吹色のショートヘア。フォスに次いで若いが、戦闘でも優秀なしっかり者。
CV:伊藤かな恵
硬度七。モデルはアメシスト/紫水晶。
双晶であり、二人で一つ。基本的には左目が隠れているのが「エイティ・フォー」、右目が隠れているのが「サーティ・スリー」。のんびりとおっとり。
CV:種﨑敦美
硬度五半。モデルはネプチュナイト/海王石。
愛称は「ネプちー」。細長いおさげの黒髪。現実主義で少々辛口の変わり者。
CV:小澤亜李
硬度六半。モデルはベニトアイト/ベニト石。
愛称は「ベニト」。青いショートヘア。寮ではシンシャの隣室。巻き込まれ体質で、個性が弱いことを少し気にしている。
CV:広橋涼
硬度五。モデルはオブシディアン/黒曜石。
愛称は「オブ」。黒のおかっぱが特徴。武器制作担当で新しい武器やその発想には目がない。ハードな業務の割にノリは軽い。
CV:釘宮理恵
硬度八半。モデルはアレキサンドライト/金緑石。
愛称は「アレキ(さん)」。裾がぱっつんの長髪。情報戦略担当の月人マニアだが、月人を目視すると赤色に豹変する“二重人格”の持ち主。
CV:朴璐美
硬度九。モデルはパパラチアサファイア/特になし。
クセのあるボリューミーな赤い長髪。生まれつき体にたくさんの穴が空いており、近しい鉱物で補っているものの適合は芳しくなく、もう長いこと眠っている。知性派で戦闘スキルにも優れる。
CV:上田麗奈
硬度五。モデルはヘミモルファイト/異極鉱。
愛称は「ヘミモル」。青緑でぱっつん前髪のロングストレート。ウォーターメロン・トルマリンのペアで、若手のホープ。
CV:原田彩楓
硬度七半。モデルはトルマリン/電気石。
39話より登場。愛称は「メロン」。ボリューミーな黄緑の長髪で頭上の一部だけがピンク色。ヘミモルファイトのペア。マイペースだがストレスがかかると帯電する。
CV:桑島法子
硬度六半。モデルはペリドット/橄欖石。
黄緑色のショートヘア。紙の制作担当。
スフェンのペア。年上のイエローより大人っぽい。
CV:生天目仁美
硬度五。モデルはスフェン/くさび石。
工芸意匠係。三つのおさげで緑の混じったオレンジの長髪。
ペリドットのペア。地味な作業が好き。
硬度五。モデルはラピスラズリ/瑠璃。
愛称は「ラピス」。金色の粒を含んだ深い青色のストレートヘア。ゴースト・クォーツとコンビを組んでいた宝石。好奇心に従順な天才。現在は頭部だけを残して月に連れ去られている。
CV:中田譲治
宝石たちを束ねる存在。僧侶のような佇まいをしている。宝石たちとは異なる手段で、月人を瞬く間に霧散させる力を持つ。宝石なのかは不明だが、その身体はおそろしく硬い。一度眠るとなかなか起きないため、緊急の場合には硬度の高い宝石たちが体を張って叩き起こすことになる。
過去に月に連れ去られている宝石
- ヘリオドール:ゴーシェと組んでいた黄色い宝石。大きなリボンで結わえたハーフアップ。フォスの過去に登場している。
- クリソベリル:アレキサンドライトとペアを組んでいた。ハチミツ色の長髪。
- グリーンダイヤモンド、ルビー、サファイア、ピンクトパーズ:イエローダイヤモンドとペアを組んでいた4名。
- ブルーゾイサイト:ペリドットとペアを組んでいた。青髪でヤンキー風。
- トパーズ:スフェンとペアを組んでいた。シャンパン色のショートヘア。
- ピンクフローライト:アンタークチサイトが戦った月人の新型器に断片が載せられていた。
- アクアマリン:レッドベリルとペアを組んでいた。
- エメラルド、パープルフローライト、レッドダイヤモンド:特装版で新たに姿と名前が明らかになった子たち。このうちレッドダイヤモンドは最初に生まれた宝石である。
宝石以外の種族
アドミラビリス族
ウミウシやナメクジのような軟体生物が殻を背負った、カタツムリのような形状の生物。月人の新兵器と目されていたが…(※リンク先ネタバレ有)。
月人
空に現れる「黒点」の兆しと共に、宝石たちを装飾品にせんと容赦無く攫いに来る無数の敵。仏教の天女や仏像のような姿をしている。言葉は話さないが、意志疎通は可能。
- エクメア:月人の指導者。「王子」とも称される。
- バルバタ:月人の科学者。ある計画の責任者となる。
- しろ:二重の黒点から出現した異形の月人。
- キマ:高級衣装店ストゥラニカのメインディレクター。
- セミ:フォスの監視兼世話係として任命された大柄な月人。
- クイエタ:エクメア専属のファッションデザイナー。
- 分子構造パズルゲーム:二重の黒点から出現した群れの月人
関連イラスト
関連タグ
グループ、トリオ、コンビ、カップリングタグ
評価タグ
イラスト
小説
二次創作タグ
※人によっては好みが分かれるジャンル・設定もあるため、必要に応じて棲み分けタグを使いましょう。
その他のタグ
アンモライト:「古代生物の死骸が地中で長い年月を経て変化し、やがて宝石となったもの」という意味で成り立ちが作中の宝石達と似ている。
外部リンク
“はかりしれないほどの光”でも、すべては救えない / 漫画を描くことで人間の秘密をつかみたい - cakes(サイトのサービス終了につきリンク切れ)
上は少年、下は少女。性別のない宝石たちは「色っぽい」! 『宝石の国』市川春子【前編】
妄想がかたちづくる物語は、自分自身でも予測不能! 『宝石の国』市川春子【後編】
TVアニメ『宝石の国』制作秘話 - CGWORLD.JP