概要
二次創作とは、原典となる(小説・漫画・映像・音楽作品などの)作品の一部分、ないしは設定や世界観などを利用し、権利者の監修を受けずに創作を行うこと、あるいはそうして世に送り出された同人誌や、同人ゲーム・同人グッズなどの創作物。
英語圏ではfanartや「ファンフィクション(Fanfiction)などと呼ばれる。パラレルワールドという設定でau(Alternative universe)という呼称もある。
「派生作品(Derivative Work)、二次的著作物のうち、非公式なもの」とも言いうる。二次創作は同人誌形態で出回ることが多いので、「同人」が二次創作の言い換えのように用いられることがあるが、「同人誌=二次創作」ではなくオリジナル創作の同人誌も多い。また(公式・非公式問わず)二次創作商業アンソロジーも多く出版されている。
二次創作作品では、原作では明記されていない部分を独自に補完した二次設定がしばしば用いられるほか、原作と矛盾する独自設定(捏造設定)をあえて混入させていることもある。
類語として三次創作があるが、これは「二次創作に影響を受けて作られたもの」を指し、さらに三次創作に影響を受けて作られたものを四次創作と呼ぶなど、以降も付けようと思えばいくらでも増やすことができるが、同人界隈でのみ通用する言葉であり、本来はどれも二次創作の一種である。
原著作者の創作した作品を本来の契約とは別の目的に転用・転載する場合は「二次使用」「二次利用」と呼ばれるが、全く別物の概念である。
二次創作と著作権
二次的著作物を創作する権利は著作権の1つで、原作の著作者の許諾が求められるため、権利者の承諾がない二次創作は基本的には違法ということになる。しかし、「個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき」は、一部の例外を除き、「著作権者の許可を得ずして、著作物を複製できる」と定められており、これを「コミュニティ内での配布を目的とした二次創作」と拡大解釈することで二次創作著作物が世間に流通しているわけだ。二次創作が流通している有料コミュニティ、例えばpixivFANBOXなどのサイトで代価の支払いを「販売」ではなく「支援」と呼んでいるのはこのためである。
また、著作権侵害は親告罪であるため、「二次創作同人誌をDL販売する」、「出版社が著作権者に断りなく非公式二次創作アンソロジーを商業流通させる」など、著作権法を字義通りに解釈すれば「どう見てもアウト」な事例であっても、権利者に告訴されなければ犯罪にはならない。これを「二次創作は法的にグレーゾーン」と表現することもある。
日本では同人誌即売会をフィールドに古くから二次創作が栄えており、これを入り口に創作の道に入ったプロのクリエイターも多い。例えば、庵野秀明総監督の自主製作映画『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』は円谷プロとTBSに無許可で制作されたが、後に「事後承諾」の形で商業媒体でのソフト化が行われた。権利者としても二次創作によってコンテンツの知名度上昇やファンコミュニティが盛り上がるというメリットがあるため、よほど原作のイメージを損なうような創作ではない限り(あるいはそういった創作であっても大っぴらにやらない限りは)ファンが二次創作で好き勝手やるのを寛大に見てくれているのだ。
この辺の事情は、アメリカ合衆国(米国)など海外でも大きくは違わない。SFファンダムなどでは既存のSF小説や映画やドラマなどの二次創作の入った同人誌(ファンジン)が多く創作されてきたし、Archive_of_Our_Ownなどの二次創作サイトからは、英語圏でもファン文化の一環として二次創作が栄えていることがうかがえる。ただ、米国のファン文化における二次創作は日本のそれとは考え方が少々異なり、公式がファンアートを(勝手に)プロモーションに活用したり、ファンアートによって二次的に創作された要素が公式に逆輸入されるケースが多いなど、「二次創作も公式作品の一部」「創作物はファンと共に作り上げるもの」という認識が一般的に存在している。海外のペイントソフト紹介の絵の中に、アメコミキャラクターといった二次創作が掲載されている事があるのはそのためである。
日本においても、スタジオぬえの同人誌『Gun Sight』の内容がガンダムセンチュリー』を介してガンダムシリーズの公式設定に取り込まれたり、一部のプレイヤーの間で流行していた非公式設定のいくつかが公式に取り込まれた『艦隊これくしょん(アニメ)』のような類例は存在する。日本では米国とは異なり「(特にナマモノにおいて)二次創作は隠れるべき」「公式であってもファンアートを勝手に使うべきではない」という通念があるが、日本語の作品でも二次創作ガイドラインなどで「公式が二次創作を承諾無しに利用することができる」などと明記している場合もある。
二次創作自体は"違法"とはいえ多くの権利者から寛容に見られており訴訟になることは少ないものの、1998年にポケモンの成人向け同人誌を創作・販売していた女性が著作権法違反容疑で逮捕・起訴され罰金刑を言い渡された有名な事件が発生している(ポケモン同人誌事件)。これは、今ほど同人活動が一般化していない時代、京都府警が女性の背後に暴力団がいると誤認して摘発に踏み切ったという特殊事情があり、女性を警告なしで告訴してしまった任天堂の対応の是非についても今に至るまで様々な議論がある。また、二次創作を歓迎する旨を公言していたゲームへのヘイト創作や同ゲームのプロデューサーの肖像権侵害などの挑発的行為を行なったサークルが当該プロデューサーを激怒させ、「二次創作の一切禁止」を言い渡されるなどのトラブルも発生している(神戸かわさき事変)。
「二次創作はファン活動の一環」というのが建前だが、今や同人イベントは零細印刷会社(印刷所)やイベント業者が稼ぐ場となっており、にわかが流行のジャンルに飛びつく(いわゆる同人イナゴ)ケースも多く発生している。特に同人グッズに関しては「海賊版」に当たるとして作成を控えるよう注意を呼びかけているサークルもある。
なお、二次創作であっても著作権は成立する。原著作者の許諾のない二次創作同人誌であっても、無断利用については損害賠償請求できるという判例がある(同人誌違法サイト事件、2020年10月6日知財高裁判決)。
二次創作ガイドライン
2010年代にはTPP問題も相まって、このような二次創作の先行きに懸念が強まったこともあり、「二次創作ガイドライン」を設け、公認する(黙認ではない)ケースが増えてきている。ガイドラインによっては二次創作による営利活動を認めている場合もある。このことから必ずしも「二次創作はグレーゾーン」とは言えないケースが生まれてきている。もちろん、その場合はガイドラインに則った形での活動を求められる。
ガイドラインで二次創作を認めている作品については、二次創作ガイドラインの記事を参照。ただし、ガイドラインによっては文中で許諾を与える旨が明言されていないこともあり、そういった作品は依然グレーゾーンのままである。恐らく、ガイドラインには則っているが権利者の意に沿わない二次創作について、著作権や商標権を盾に差し止めさせる権利を留保するためであろう。
「性的・暴力的な二次創作」を大っぴらに認めているものもある一方、キャラクターや作品のイメージを損なうものに関しては禁止しているものも多い。あくまで「良識の範囲内」のファンアートのみ可ということだろう。
その他、正式に二次創作が可能な例
- pixiv運営と各作品の公式がコラボしたイラストコンテスト。
- 描いてもいいのよタグがつけられたオリジナルキャラクター。
- 古典文学など著作権が切れた作品の二次創作。
- ライダー・ウェイト・タロット(※著作権が切れているが、細部の改変・調整や塗り直しがある場合は著作権が発生する)。
- 同人マークの付与された作品。
二次創作を一部または全面禁止している作品
上記二次創作ガイドラインおよび二次創作に厳しい作品一覧を参照。なお「二次創作ガイドライン」については、古い情報に基づく一方的な決めつけに基づいて書かれている部分も多分にあるので注意。
二次的著作物に関連する訴訟
ゲームショー取材動画発信者情報開示請求事件 東京地裁令和3.4.23令和2(ワ)5914では
判決文においてポパイのネクタイ事件について言及したうえで二次的著作物として著作物性を有するものについて記された。
判決文9ページから抜粋
(前略)
争点1(権利侵害の明白性)について
(1) 争点1-1(本件原告動画の著作物性(「二次的著作物」該当性))につい
て
ア 「二次的著作物」については,「著作物を」「翻案することにより創作し
た著作物」であると定義されており(著作権法2条1項11号),二次的
著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分の
みについて生じる(最高裁判所平成4年(オ)第1443号同9年7月1
7日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。
そうすると,本件原告動画が本件プレイ動画の二次的著作物として著作物性を有するとい
えるためには,本件プレイ動画の具体的表現に修正,増減,変更等を加え
ることにより,本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作
的表現が付与されていることを要するものと解するのが相当である。
(以下略)
加えて権利者の許可を受けたと言うのは準備行為であって表現そのものではない、つまりそれだけでは創作的表現が付与されたという根拠とならないという旨が記された。
判決文13,14ページから抜粋
(前略)
(イ) また,原告は,①本件原告動画の作成に当たり,本件ゲームの公表情
報や発表会の実施日程に関する情報を事前に入手したこと,②株式会社
ナムコの担当者から,本件プレイ動画の撮影に関して許可を受けたこと,
③取材方法や撮影アングルなどを検討の上,撮影機材を取捨選択して,
本件プレイ動画の撮影をしたことに創作性が表れていると主張する。
しかしながら,上記①及び②の各行為は,いずれも,本件原告動画を
作成するための準備行為にとどまり,表現行為そのものではないから,
本件原告動画に創作的表現が付与されたことの根拠にはならない。
(以下略)
こうしたことなどから発信者開示に必要な要件を満たすことができず開示請求は棄却された。
検索上の注意
オリジナルを探す目的で検索から「創作」を検索すると、この「二次創作」タグまでヒットしてしまう可能性があるので、混同を避けたい場合は「一次創作」や「オリジナル」と検索するのが望ましい。しかし、二次創作にオリジナルタグが付けられている場合もあり、注意喚起用の「二次創作にオリジナルタグ」もある。オリジナル作品を探したい場合は「オリジナル -二次創作 -2次創作 -オリジナル設定」など、マイナス検索を併用する事が推奨される。