同人誌
どうじんし
本来は複数人(同人サークル)で集まって制作する合同誌、アンソロジーを念頭に置いていた言葉だと思われるが、現在では個人サークルが出す本(個人誌)が多数を占めている。
体裁的には同人サークルの会誌であり、サークル仲間の内のためのものだが、活動に参加する代わりにお金を払うことで分けてもらっている、という体である。そのため、「販売」ではなく「頒布」という言葉を用いる。
同人誌と言えば「成人向け」や「二次創作」というイメージもあるが、少なくとも数の上ではオリジナル創作や全年齢向けに該当するものの方が多い。
また絵が描ける人のものというイメージが強いが、後述する通り評論誌や小説など多岐に渡り、作者の好きなものを詰めた本が溢れており、誰でも参加出来るものである。
基本的には趣味で頒布するもので、企業などが利益を目的として刊行する商業誌の対義語だが、商業誌で連載を打ち切られた漫画や文芸 作品の続編を同人誌形態で刊行することもある。また、大部数の出版が望めない古い作品を同人誌形態で復刻することもある。自費出版との違いは、版下の作成・デザインや印刷の手配を著者自ら行うところにある。
利益を目的としない実費負担という建前で有料頒布されるものが多いが、無料配布される同人誌もあり、フリーペーパーとの境が曖昧なことがある。
種類
大きくわけて一次創作と二次創作、全年齢向けと成人向けになる。
種類は
- 漫画をまとめた「漫画同人誌」
- イラストを集めた「イラスト本」(イラスト集・画集とも)
- 詩や小説を集めた「文芸同人誌」
- 批評や研究成果をまとめた「批評誌」・「評論誌」・「資料集」(pixivの記事は評論・情報)
- 作者及びその周囲での出来事をまとめた自伝・エッセイ
などがある。
印刷の種類は
といった区分もある。
文芸同人誌
絵を中心にした「漫画同人誌・イラスト本」に対して文を主にした作品もある。絵を描くのに比べれば参加ハードルは比較的低い。ただし、内容量に対して印刷費が高くなりやすく、同人誌即売会における4割は表紙買いと言われるため、中身をどれだけ魅力的にしても手に取ってもらえないリスクが高い等、同人誌という媒体との相性がイマイチよくないのが実情である。
評論同人誌
本当に何でもあると言っても過言ではない。料理レシピ、廃墟写真集に風俗レビューまで自由である。
自身の専攻学問・職業知識や趣味などを専門外でも分かるように記載したものも多く、最も誰でも書ける分野と言っていい。
コミックマーケットなどではやや上級者向けと言われることもあるが、ヘンテコな本の人気は根強い。
印刷の種類の解説
オフセット印刷とすると1冊目の値段が非常に高いが部数を増やしても安く、逆にオンデマンド本とすると1冊目の値段は安いが部数を増やしても一冊あたりは安くならない。
値段の境界は印刷所によるが、250前後だとオフセットの方が安く、それ未満ならオンデマンドの方が安くなるケースが多い。
というわけでオフセットの方が大手の証のような性質があるのだが、、印刷品質にこだわって100部未満の少部数でもオフセット本を刊行するサークルもある。また、箔押し、ラメ入り、活字を使った活版印刷、レーザー彫刻やツヤ盛り、小口染めといったこだわりの印刷を依頼するサークルもある。
コピー本はかつては入門の本としての立ち位置だったが、印刷所が発展しオンデマンド等で安く高品質の印刷が出来てしまうようになり、割高の割に低品質というメリットの少ないものになってしまった。
同人誌即売会等でも売れにくく、初心者が陥る罠となりつつある。
ただし評論のジャンルなどイラスト以外では未だにコピー本のサークルは少なくない。
また印刷所に頼むのに比べて、例え当日だったとしても印刷出来るというメリットがある。そのためついでで出したかった内容をギリギリにコピー本で出す、ということは未だにある。
同人誌の事情
外野から見ると儲かって楽しそうだが、実際は厳しい事情がある。
8割が赤字
特に二次創作などに対して「他人の褌で利益を出すな!」と怒る人も居るのだが、残念ながら同人誌即売会に参加している人の8割は赤字とされている。印刷代は可変だが、参加費、交通費や宿泊費は万単位で固定のため、規模が小さいサークルでは赤字になるのだ。
黒字になるサークルでも執筆時間を考えると時給換算は相当安く、壁サークル(3%前後)など一握りの大手でもなければ趣味の厳しい世界である。
印刷物は基本的に1冊目が高く、大量に刷るほど一冊あたりは安くなる性質を持つ。なので、自分の作品を本にして、ついでに欲しい人にも頒布して安くしよう程度が気楽かもしれない。
参入ハードルの上昇と保護・分散
2010年代中盤以降、アズールレーン等の中韓ソシャゲの流入・美大受験の厳しい中韓などからの絵師の流入と共に、比較的玉石混交だった艦隊これくしょんなどの時代より見る側の目が肥えつつあるのが実情。そのため、マイナージャンルや、昔だったら売れていた熱意だけの狂気の本というのはあまり売れにくい事情がある。
そうした本はオールジャンルだと埋もれやすいため、オンリーイベントへ逃げる動きもある。
また申込時もブルーアーカイブなどの人気ジャンルよりも評論などのマイナージャンルの方が当選しやすいことが知られており、イベント運営側がマイナージャンルの保護をしてくれている。
商業誌と異なる需要
同人誌の4割が表紙買い、4割が告知買い、2割がリピーターだと言われている。商業誌に比べると刊行がローペースであり、前巻が良かったから、という買い方は明らかに少ない。
そのため、表紙を良くすることが全てとなりがちな側面もあり、上手い人に表紙だけ依頼するというケースも見られる。
過去においてはその種の雑誌などに広告が掲載され、そこから郵便にて通信販売を行うことが主であったと思われ、現代でもこの手法をとっているところも存在する(さすがに宣伝はインターネット上のWebサイトに移行している)。
委託販売
同人誌を作ったはいいが、通信販売も即売会へ行く余裕もない場合や、頒布の手段を増やす場合に用いられる。同人誌即売会の委託サークル枠に申し込むパターンと、委託販売を行う業者や委託書店に販売をお願いするパターンに分かれる。
また即売会の場合、知り合いのサークルのスペースに頒布物を置かせてもらうという方法もある(信頼関係がしっかりしていないと難しいが…)。
特にコミックマーケット100などコロナ禍以降となった同人誌即売会ではサークルの当選数自体が少なかったり、リスクを回避するために行かない参加者も多く、それに伴い委託販売がかなり一般的になった。
コミックマーケットの場合はメロンブックスととらのあなが出張しており、売れ残り分をそのまま委託することが可能である。
逆に委託分をイベントへ直送してもらうことも可能なので在庫を家に一切抱えずに同人イベントに参加することが可能である。
同人誌の委託販売または電子書籍形式でダウンロード販売をしてるサイト
読まなくなった同人誌の処分は長年多くのオタクを地味に悩ませている問題である。
紙の冊子のため古紙回収に出すこと自体は一応可能ではある。が、同人を知らない層の目に触れるような処分の仕方は暗黙のマナーでタブーとされている。
多くの場合、一ページずつ切り取ってシュレッダーにかけたり、外から見えない袋に入れて可燃ゴミとしての処分が一般的。
送料のみ自己負担だが、エコサリオといった同人誌の古紙回収が可能なサービスもあるので検討してみるといいだろう。
同人誌のはしり
はしりは明治時代に刊行された文芸誌『我楽多文庫』である。最初は原稿をまとめて綴じた回覧誌という形式であった。ごく一部だが活版印刷されて書店にも出回る同人誌も現れた。無名だった頃の太宰治や芥川龍之介、菊池寛など、現代に名を残した作家たちは作品の発信媒体が限られていたこともあって同人誌からの出発が多く、そこから注目を集めていった。
コピー機が普及していなかった時代の同人誌は、原稿を綴じた冊子を漫画研究会などのサークルの仲間内で直接回覧したり(肉筆回覧誌)、ガリ版で印刷した小部数を仲間内に配布したりといったものが多かった。有名になった漫画家がアマチュア時代に作っていた回覧誌は非常に貴重かつ重要なものとして扱われる事がある。
1967年に手塚治虫が立ち上げた雑誌「COM」の読者投稿コーナー「ぐらんどこんぱにおん」(ぐら・こん)を担当していた真崎守は、全国の漫画ファンを組織化する壮大な構想を抱き、各地方にぐら・こんの支部を作った。1971年のCOMの休刊によって構想は挫折したものの、「全国のまんがファンが相互の交流を図る」というコンセプトに共鳴した支部員たちが「日本漫画大会」に結集し、各地の多種多様な同人誌が頒布された。これに参加した団体の一つに迷宮というサークルがあり、この迷宮が1975年に立ち上げたのが「コミックマーケット」である。
頒布の方法
個人向けのコピーや印刷が容易でなかった時代の同人誌の頒布の手法は「回覧」しかなかった。
後にミニコミや同人用の少部数印刷を請け負う同人誌印刷所が現れ、数十部から数百部程度の部数のイラスト・漫画本の複製が容易になると、郵便による通信販売が可能となり、雑誌等の媒体で宣伝が行われた。同人誌即売会は当初は同志の親睦が目的であったが、やがて「金銭を対価とした頒布の手段」ということが主体となり、かつ店舗による委託販売を利用することによって、大部数を店舗や通販で常時頒布することも可能となっている。
インターネットの普及に伴い、データ化した原稿を個人サイトに掲載する、SNS等で発表する、電子書籍として配信サイトで流通させるなど、展示/頒布の幅がさらに広がっている。
コメント
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