バリツ
ばりつ
原点
アーサー・コナン・ドイルは困惑していた。
「ここにきて続編かよ……空気嫁……」
ここしばらく耳に否応なしに飛び込んでくる、彼の作品のファンたちの声。皮肉にもこの声援こそが、彼の頭脳をきりきりと締め付ける。
"宿敵ジェームズ・モリアーティとの格闘の末、滝壷に転落し、そのまま行方知れずに"……こんな衝撃的な結末によって、一度幕をとじたはずだった、シャーロック・ホームズの物語。ここで彼の活躍絵巻にはけりをつけ、次なる創作に向けた思索にふけりたいと心底思っていただけに、この--うっすらと予想していた状況とはいえ--ファンのラブコールに、ドイルは恨み言のひとつでも投げかえしてやりたいくらいであった。
「もう少しだけ続くんじゃ……か。 フン、笑えん」
ホームズは死んでいなかった……そんなことが可能なのか。滝壷に身を投じたホームズを救い出すだけの、奇想天外な、そう、あまりに無理のあるトリックを、どのように仕組んでやるか。ここにきてドイルの頭脳は、すでに"作家、コナン・ドイル"として、あらたな作品の構想を練り上げるために、回転し始めていた。
古びた紙とインクの香りが幽かにたちこめる彼の書斎には、今日も乾いた靴の音が、響き渡る。
バリツとは
アーサー・コナン・ドイルの探偵小説『最後の事件』において滝に転落して死亡したとされていたシャーロック・ホームズを、ファンの要望に応え執筆することとなった続篇『空き家の冒険』において再登場させる根拠となったのが、架空の日本式の格闘技、"バリツ"である。格闘技の心得があったことにより、ホームズは宿敵モリアーティ教授を滝に投げ落としたのだ、と作中で説明された。
pixivのタグとしては、テレビアニメ『探偵オペラミルキィホームズ』に関連するイラストにつけられていることがほとんどである。これは本作第4話でシャーロック・シェリンフォードがこれみよがしに使って見せたシーンが元ネタとなっている。第4話は何かと神がかっていた。
ちなみに
バルス、ではない。目も潰れないので安心してよい。