夏スバとは、あんさんぶるスターズ!に登場するキャラクター逆先夏目と明星スバルのカップリングである。
概要
「あぁ、こいつと俺は一年生のころからのお友達なんだ! ね〜、夏目♪」
「友達じゃないヨ。観察対象としては、君はわりと興味深いけどネ……バルくん♪」
夏目とスバルは一年生、二年生と同じクラス(1-A、2-A)に所属している。
夏目は頻繁に意味深なことを言っては、単純なスバルをからかったり、惑わせたりして愉しんでいる様子。
現在「夏目」「バルくん」とお互いを呼び合っている。人にあだ名をつける癖のあるスバルが、親しい人物の名前をそのまま呼ぶことは極めて稀であり、また、夏目はスバルの所属するユニット『Trickstar』のメンバーのことを、「ホッケーくん」「サリーくん」などとスバルのつけたあだ名に「くん」をつけて呼んでいるようである。
夏目は混乱時代の夢ノ咲学院を牛耳っていた五人の天才『五奇人』の一員であるが、実はスバルは夏目よりも前に、かつての『五奇人』候補に名が上がっていた。また夏目がスバルの家庭事情について詳しいのは、彼の母親がスバルの父親と懇意であったため、よく話を聞いていたからである。
スバルは生徒会に反旗を翻すために『Trickstar』を結成した張本人。彼らによって革命が達成されたのち、しばらく前線から身をひいていた夏目は校内でも本格的に「過去ではなく未来のために、生きとし生けるものすべてを幸福にするために」『Switch』を始動させていく。かつて生徒会に退けられた夏目はスバルたちの功績を引き継ぐようにして、夢ノ咲学院を導こうとしていることにも注目したい。
ストーリーごとの動向
「魔術師にご用心」
2016年8月26日公開「ストーリー付きスカウト Switch編」☆3「授業放棄」逆先夏目のストーリー。
「自分の言いたいことだけ一方的にまくしたてるのは、君の悪い癖だネ」
「まぁ悪く言えば空気読めない、良く言えば孤高の天才だった君ガ……気遣いを覚えたという点は、興味深いし賞賛されるべきだと思うけどネ」
「んっ? どっかからか『夏目』の声がするっ、どこだ〜! 出てこ〜い、おまえは完全に包囲されている!」
「包囲されてはいないヨ、『バルくん』」
「アハハ……♪ 君は鋭いのか鈍いのかわからないネ、ほんと変な子だヨ」
意味深な台詞を言いながら、夏目は体育の授業で転校生と話していたスバルの前に登場。スバルの頭上の木の上から、一瞬で彼の正面へ移動するという離れ業をやってのけた。
「久しぶりじゃん夏目っ、学校にきてたの? せっかく同じクラスになったのにさ、いちども顔を見なかったから寂しかった〜☆」
「抱きついてこないでヨ、暑苦しいナ……。君は相変わらず肉体言語が豊富だネ、無駄な動きがおおいけド」
はじめはべたべたとくっついてくるスバルに辟易とした様子の夏目だったが、巧みな話術でスバルを惑わせ、暴き、彼の核心へと迫っていく。
「自分から距離を詰めるのはいいけど、他人から迫ってこられるのは苦手なのかナ」
「君は、嘘つきだね」
自分の中に踏み入ってこられることに慣れないのだろう、はじめは強引に自分のペースに持って行こうとしたスバルだったが、次第に露骨な反応を表に出すようになる。
「えぇい、俺を解析すんな! 気色悪い!」
「ごめんネ、悪気はないんダ。ボクの悪い癖だネ、君とは友達じゃないけど……べつに嫌われたくもないんだヨ?」
「好意のかたまりのような君が、誰かを嫌ったり、不快に思ったりするのは珍しい事例だかラ……。それはそれで、興味深いけどネ」
「うああっ、実験動物を見るみたいな目で見るな!」
常に相手を自分のペースで振り回してしまうスバルを、いとも簡単に翻弄することができる夏目は貴重な存在と言えるだろう。
「スカウト! 薔薇十字物語」
2016年10月14日から開催された限定スカウト。演劇部と夏目を中心としたストーリーで、出番は僅かながらスバルも登場する。
ある日、ガーデンテラスで昼食をとっていた北斗に夏目が話しかける。「ホッケー」と呼ぶなと注意する北斗を、夏目は「エェ〜? バルくんにはそう呼ばせてるじゃン、バルくんだけ例外ってこト?」とからかった。
北斗がスバルのことを「ひとの話を聞かない」と言うと、夏目はこう発言する。
「そうだネ。バルくんは、『ひと』の話は聞かなイ」
「だけど君が心からそう望めバ、ちゃんと聞いてくれるはずだヨ」
「君は彼の世界観のなかでは希有な、対等な人間だからね」
その日の放課後、2-Aの教室。演劇部の活動へ行くという北斗に同行することになった夏目は、スバルに対して挑発的なことを言う。
「ごめんねバルくん、お友達をとっちゃッテ♪」
「べつにとられてないし。ふたりって、仲良しだっけ? 今日の昼休みにも、一緒にごはんを食べてたみたいだけど〜?」
単純なスバルは、露骨に面白くなさそうな態度になった。
その後、役作りのためにお姫様の格好をした友也が彼らの教室を訪ねてくるが、友也の懸命なお姫様の演技を、スバルが悪気なく笑ってしまう。スバルを叱り、友也に応える形ですぐさま王子様の演技を返した北斗と、彼ら二人を冷静に観察している夏目の様子に、スバルは戸惑う。
「えっ、何? どういうこと?」
「すでに演劇部のみんなは『役作り』に入ってル、ってことサ……」
そして夏目はスバルの内面へ、一気に鋭く切り込んだ。
「バルくん、思ったことをそのまんま言っちゃうのは君の美徳ではあるけド」
「本気でやってる人間を嗤う権利は、誰にもないよ」
「それは、君がいちばんよく理解してると思うけどね」
「…………」
夏目の言葉に、スバルは黙り込んでしまう。
彼には、友也が演技を「本気でやってる」ことがわからなかった。今まで『Trickstar』として華々しく活動してきたスバルの、いまだに残る他人との感覚のずれがここで明らかになる。 「本気でやってる人間を嗤う権利は誰にもない」ことを「君がいちばんよく理解してる」という厳しい台詞は、スバルの性質と過去をよく知る夏目にしか言えなかったことであろう。
余談ではあるが、「スカウト! 千夜一夜」において、夏目と同じ『五奇人』の朔間零は、夏目について「あの子は我輩たちが言えんことを代弁してくれるんじゃよ、たぶん意図的にな」と発言している。夏目は、ほかのどんなキャラクターにも言えないことを容赦なく突きつけることで、相手に何かを自覚させるという重要な役割を担っていると考えられる。
まだ混乱している様子ながらスバルが友也に謝罪してからは、それ以上夏目が口を出すことはなかった。最後に、教室に残されるスバルへとからかい混じりに声をかける。
「じゃあねバルくん、また明日」
「……寂しいなら、一緒に来てもいいヨ♪」
「招福*鬼と兄弟の節分祭」
2017年1月31日から開催されたイベント。主に葵兄弟と朔間零が中心となって、ストーリーは進んでいく。
スバルと同じ『Trickstar』に所属する衣更真緒は、鬼を撃退するスタッフとなって零が用意した試練に挑んだ。鬼役の夏目は、宙を捕らえようとしていた真緒にスマホの音声で話しかける。
『フム……。君はバルくんやホッケーくんとちがッテ、サリーって呼ぶな〜みたいな反発はしないんだネ』
『君はボクがいるべき位置にまんまと収まった憎たらしいやつだからネェ、魔法使いのサリーくん♪』
真緒に対する明確な敵意と共に、意味深な発言を繰り返す夏目。
ほかにも「お見事♪ よくヒントを見逃さなかったネ、単純なバルくんとかなら確実にひかかったのにサ」など、さりげなくスバルのことを話に出してくる。
「サリーくん」という呼び方は、言うまでもなくスバルのつけた真緒の渾名「サリ〜」に由来するもの。
「お陰で助かったよ、やっぱりサリ〜は俺たちの『魔法使い』だぁ〜☆」(メインストーリー第15話「荷担」)
「天敵」だという真緒と夏目の関係に、スバルの存在が関わってくるのかはまだ不明である。
「追憶*春待ち桜と出会いの夜」
2017年3月31日から開催された、キャラクターたちの一年前の姿を描く追憶イベント。
夏目とスバルは、共に1-Aに所属していた。二年連続で同じクラスであるらしい。
「明星スバルくん」
「うひゃ!? あぁビックリしたっ、急に話しかけないでよ〜?」
「えっと。さ……さかきくんだっけ? 俺に何か用事〜?」
「サカキじゃなくてサカサキ。よく間違えられるけどネ、逆先夏目っていうんダ……」
「クラスメイトなんだし名前ぐらい覚えてネ、どうぞ以後お見知りおきヲ♪」
「『お見知りおきを』! あはは、面白い喋りかたするねっ☆」
「ってかクラスメイトなの? きみ……えっと、夏目って呼ぶ? あんまり、教室で見かけたことないけど?」
ふたりがまだ入学したての頃。教室にて、独りで日直の仕事をしていたスバルに、夏目が話しかける。驚くスバルだったが、めったにクラスメイトと関わることすらできない彼は、まだ遠慮が残る話し方ながらも、嬉しそうに夏目との会話を始めた。
しかし夏目は初対面にもかかわらず、「人間ハ、太陽を直視しつづけると目が潰れるようにできていル」「君が周囲から浮いてしまうのモ、誰にも理解されないのモ、『そういうこと』サ」とスバルを太陽に喩え、鋭く彼を分析する。
「んっと。ごめん、難しいことを言われてもわかんない」
「アハハ、『わからないふり』をしてるだけだろウ?」
ひたすら困惑するスバル。夏目は一転、にこやかな態度になる。
「むしろ……。ボクは君の友達になりたくて声をかけたんだヨ、明星スバルくん」
「えっ、友達に? 嬉しい〜! 入学してから、普通にお喋りできるような友達ができなくてさ!」
「だろうネ。君を邪心や嫉妬もなク、『友達』として受け入れられる人類はあんまりいないかラ。可哀想にねェ、天才は孤独ダ♪」
「友達になりたい」という夏目の申し出にスバルは無邪気に喜ぶが、夏目はまた「心を許せる友達がひとりでもいれバ、どんな過酷な戦場でも乗り越えられるのニ」「互いが競争相手である芸能界デ、『それ』を見つけるのはなかなか難しいよネ」と不穏な台詞を並べ、ついにはスバルの父親について触れた。
「君の父親にも、そんな『戦友』がいてくれたら……。あのような、悲劇的結末を迎えずに済んだのかもね」
「……ねぇ。俺の父さんのことを知ってて、面白半分に声をかけたわけ?」
「きっぱり否定しよウ、誤解ダ」
笑みを消し、静かにそう問いかけたスバルに、夏目もまた真剣な様子で返した。
「君の父親はあまりにも偉大すぎテ、これまで君に話しかけてくるのはだいたいぜんぶ『そういう連中』だったんだろうけド」
「ボクが用事があるのハ、『あの明星さんの息子さん』じゃなくて『明星スバルくん』なんだよネ」
「うちのマミィが君の父親と懇意でネ、よく話を聞いてたからサ……。共感や好奇心があっテ、話してみたいなと思っただけだヨ」
アイドルだったスバルの父親と、著名な占い師である夏目の母親は知り合いだったという。一瞬警戒心をあらわにしたスバルだったが、明星スバル個人と話したいという夏目の言葉に感じるものがあったのだろうか、次第に態度が和らいでいく。
「つい長々とご高説をぶってしまうのモ、ボクの悪い癖だネ」
「あはは。そうやって自分の『悪い癖』をひとつひとつ確認して、口にだして相手に伝えるのも……キャラづくりっていうか、きみが自分に定めたルールみたいな感じ?」
「自分の欠点を自覚して修正できるし、相手に自分がこういうキャラだよ〜って伝えられるもんね。一石二鳥だね♪」
それまでは夏目の発言に翻弄されるばかりだったスバルが、笑顔で、あっさりと彼の本質を衝くことを言う。そんなスバルを、夏目は冷静に観察した。
(ふぅン……。やっぱり馬鹿じゃないナ、ずばりと本質を見抜いてくル)
(仕事を手伝うとか友達になろうとか言えバ、ころっと好意的に傾いてくれると思ったのニ)
(そんなの気にせず真っ直ぐに、こっちの深いところに興味を抱いてキラキラした目で観察してくル……)
(太陽は悪意もなク、ただ太陽であるというだけで周囲を灼熱地獄へ変えてしまウ)
(まぁ本人が無自覚っぽいシ、ボクになら対応も制御もできル。扱いをまちがえたら即死だけどねェ、それもまた面白イ♪)
ひとり思考を巡らせる夏目に、「どうしたの、黙っちゃったけど……?」とスバルがおそるおそる話しかけた。
「ごめん! 俺、また変なこと言っちゃったのかなぁ? たま〜に、俺が何か言うと周囲が一気に押し黙ることがあってさ?」
「だろうネ。でもそれハ、それだけ君の発言に強いPowerが宿ってるってことサ」
「そのPowerを有意に用いることができれバ、世界中のひとを笑わせることだってできル」
すぐにスバルとの会話に戻る夏目。スバルはまた笑いながら、いとも簡単に夏目の核心に迫る。
「あはは〜。世界中のひとよりも、今は目の前のきみを笑わせたいな」
「な〜んか夏目って、笑顔でもぜんぜん『笑ってる』感じがしないもん。目が笑ってないっていうかさ、俺の気のせいかな」
それに反応して、「アハハ。『目は口ほどに物を言う』っていうけどサ、目の周りは不随意筋だから意図的には動かせないんだヨ」とお得意の話術で返した夏目だったが、スバルははしゃぎながらも「あっ、意味ありげなことを言って誤魔化そうとしてるな! ほんと夏目って、ルールがわかりやすくて喋りやすいな〜♪」と夏目の本音を鋭く見抜くのだった。
ふたりが会話しているうちに、クラスメイトの北斗が入室してくる。「今度はそいつに唾をつけているのか、次から次へと節操のない」と夏目に対して呆れたように言い、「俺たちを、というか俺やおまえの親の名声を利用して何か悪巧みしているだけだ」「あまり逆先とは関わらんほうがいいぞ」とスバルへ忠告した。夏目は北斗を睨み、「君が予想以上に使えないかラ、明星くんに鞍替えしたんだヨ」と言う。
そんなことを聞いたのにもかかわらず、スバルはそのあと「ふふん。日直の仕事を手伝ってくれたお礼に、今日は夏目に付きあうよ〜♪」と、ゲーム研究部へ向かう夏目に同行。目的の部室の前に来ると、無邪気に夏目の手を引いた。
「行こう行こう、夏目! 何だか、楽しそうなにおいがする〜☆」
「わわっ……手ぇ引っぱらないでヨ、明星くん?」
自身の策略のもとスバルに声を掛けた夏目の認識とは異なるだろうが、それでもこのときのふたりは、スバルの望む『友達』そのもののような様子であった。
季節が変わって、秋の【金星杯】。
一年生を代表する成績優秀者として選抜されたスバルは、同じ出演者の北斗と会話を交わすうち、夏目がメンバーにいないことに疑問を覚える。忙しさからか、スバルに構うことがなくなった夏目に対して、「寂しい」と素直な不満を述べた。
「あいつ『五奇人』になってから忙しそうだよね〜、あちこち飛び回ったりしてさ」
「年上のすっごい天才たちにチヤホヤされてたら、同い年のやつのことなんか眼中になくなるのかな」
「それこそ入学したてのころは、よくお喋りしてくれたのに」
「寂しい〜! 氷鷹くんはちゃんと俺の相手をしてねっ、ずっと友達でいようね☆」
「迷い星*揺れる光、プレアデスの夜」
2017年8月15日から開催された、逆先夏目と彼の所属する『Switch』が新たな一歩を踏み出すまでを描いたイベント。
夏目を掘り下げるイベントにスバルが☆4で登場したこと、そして何よりも「プレアデス」というスバルの名をあらわす単語が入ったイベントの名称に、予告の時点で墓に入る夏スバ民が続出した。夏目の成長・再出発にスバルが非常に重要な役目を果たす、夏スバ必修イベントである。
学院の屋上で創とともに天体観測していたスバルは、校門のあたりで夏目たち『Switch』が揉めているのを見かける。
次の日、大吉の散歩中に商店街でつむぎ・宙と出くわしたスバルは、夏目が最近個人の仕事のために彼らと別行動をとっていること、その影響で『Switch』が不穏な関係となっていることを聞く。
ごまかそうとするつむぎに、「ん〜。でも気になるよ、夏目は友達だし。俺たちも余計なことに首を突っこんでる場合でもないんだけど、できれば詳しく聞きたいな」と食い下がったスバルは、突然こう提案をした。
「よかったら、うち近所だからくる? 晩ご飯をご馳走するよ、その場でいろいろ話そう!」
「わぁ、強引な子……。そういうところは本当に、夏目くんの友達って感じですね」
「じゃあ、どうしましょう。正直、最近さらに夏目くんのことがわからなくなってきたので……仲良しっぽい明星くんに、いろいろ助言してほしかったりしますけど」
「あっ、じゃあおいで! 大歓迎ッス先輩☆」
このようなやり取りを経て、スバルの家に宙とつむぎが泊まることになったのだった。
次の日の朝、スバルは「夏目! 夏目はいるか〜っ、出てこ〜い!」と勢い良く教室に飛び込む。すでに登校してきていた北斗・真とのじゃれあいもそこそこに、スバルは必死な様子でまくしたてた。
「呑気にしてないでっ、誰か夏目の居場所を俺に教えて!(プレイヤー名)、『プロデューサー』なんだし連絡先とかわかる?」
「むしろ、おまえはあいつの連絡先を知らないのか? 仲良しの友達だろう?」
「う〜。そりゃ、俺も夜遅くまで電話でお喋りとかしたいけど」
「占い師は自分の情報をできるだけ晒さないのが鉄則なんダ、とかいつものあの口調で拒否られるんだよね」
ここで、スバルが夏目から連絡先を教えてもらっていないことが判明。つまり夏目は、スバルのことを『Switch』と明確に区別しているのである。
「あはは。逆先くんの物真似、すっごい似てる♪」
「こんなの芸にもならないってば」
「う〜……夏目のやつ、用があるときにかぎって会えないのは何なの。お呼びじゃないときは、こっちが嫌がってもグイグイくるくせに」
いつもなら真っ先にふざけるはずのスバルが、そうこぼしながら真剣に思い悩んでいた。
ちょっとした騒ぎになっているなか、遅れて当の夏目が登校してくる。
「逆先。噂をすれば何とやらだな。ちょうど良かった、明星が捜していたぞ」
「バルくんガ? 何だろうナ、愛の告白だったりしテ♪」
愛の告白。冗談とはいえここで夏目の口から飛び出したとんでもない爆弾発言に、多くの人が吹き出したにちがいない。
「おはよう、逆先くん……。そういうんじゃないと思うよ〜、明星くんすっごい剣幕だったし」
「…………」
「ほら、明星くん。何の用事だったかは知らないけど、逆先くんがきたよ? どうして無言でじりじり遠ざかっていくの?」
「……だって。夏目、ものすごい不機嫌じゃん。導火線に火が点いた爆弾って感じ〜、迂闊に触ったら破裂しそう」
「そうなのか? むしろ、いつもよりご機嫌に見えるぞ?」
一見「ご機嫌」にしか取れない態度に隠された夏目の本心を、スバルだけが敏感に見抜き、おびえた様子を見せる。夏目は同じく楽しそうな口調で、こう続けた。
「ウン、ホッケーくんの言うとおリ。ボクは見てのとおり上機嫌でネ、むしろハッピーな気持ちで爆発しちゃいそうなんダ♪」
「決しテ、怒ってないヨ?」
「昨晩、うちの連中とバルくんが楽しく晩ご飯を食べてゲームで遊んデ……お泊まりまでしたのヲ、頼んでないのにうちのセンパイが画像つきで教えてくれたけどネ?」
「何でボクは呼んでくれなかったんだとカ、ちっとも思ってないヨ?」
「羨ましくもないしそれで不機嫌になるなんて有り得ないかラ、勘違いしないでよネ?」
『嘘と本音の合わせ鏡』逆先夏目が、ここまでわかりやすい嘘をついたことがかつてあっただろうか。スバルはおそるおそる、夏目に言う。
「あの、夏目……。べつに夏目を仲間はずれにしたんじゃなくて、何か喧嘩中らしいから逆に気を遣ったっていうか」
「ヘェ、バルくんって気を遣えたんだァ?」
「そこそこ長い付きあいなのに知らなかったヨ、所詮は一緒にお泊まりしたこともない上辺だけの友達だもんネェ?」
完全に拗ねている夏目。ちなみにスバルが気を遣えるなんて知らなかった、という彼の発言だが、「まぁ悪く言えば空気読めない、良く言えば孤高の天才だった君ガ……気遣いを覚えたという点は、興味深いし賞賛されるべきだと思うけどネ」と「魔術師にご用心」(春)の時点で言っているので、明らかに嘘である。そもそもスバルがつむぎと宙を家に呼んだのは、友達である夏目の力になるため詳しく話を聞きたいという理由からだったことも忘れてはならない。
「あの。だって、夏目ってそういうのに誘うと怒りそうなんだもん。馴れあうつもりはないヨ、とか気取っちゃってさ」
「お泊まりしたかったの? 言ってよ〜!」
スバルは夏目の台詞に惑わされることが多いとはいえ、初対面のときからずっと、夏目のことを深い部分まで把握している。しかし、ここだけは夏目の嘘を本気にしてしまい、今以上に距離を縮められずにいた。一向に素直になろうとしない夏目は厄介であるが、ある意味スバルもなかなかである。
そしてその日の防音レッスン室にて、全員集合した『Trickstar』は『Switch』のことを話す。真緒の台詞に反応し、スバルは「裏街道! あはは☆ 知るひとぞ知るって感じの『ユニット』だもんね〜、『Switch』って」「夏目なら、もっと表舞台でもキラキラできると思うんだけど〜?」と夏目を評価した。
「スバルは逆先と仲良しなんだろ、おまえのほうから表でも活動するように説得してやれよ」
「ん〜、いま夏目すっごい不機嫌だからあんまり話しかけたくないんだけど」
いまだにおびえている様子のスバルに、北斗が「心配のしすぎじゃないか。逆先はかつての『五奇人』だ、俺たちの学年では飛び抜けて優秀だぞ」「どんな問題も、自力でさらっと解決するだろう」と言うも、スバルの表情は晴れないままだった。
「夏目だって、俺たちと同い年の男の子だよ……。まぁ本人が関わらせてくれないなら、俺たちにできることは何もないけどさ」
「このままじゃ、誰も笑えないような哀しい展開になりそうで怖いよ」
帰りの通学路で、スバルは『Trickstar』と転校生を相手に、つむぎと宙から聞いた『Switch』の現状を語る。夏目が母親の代理で占い師としてTV番組に出演し、人気を博したということ自体については、スバルは喜ばしいことと捉えていた。
「それは当然だし、俺としても友達として誇らしいぐらいだよ」
「お母さんが偉大すぎて陰に隠れちゃってたけど、夏目は占い師として大成するために死ぬほど努力してたし」
「それが報われたんだ、『おめでとう』としか言えないよ。でも、ちょっと予想外の影響があったみたいでさ」
母親が復帰するまで占い師の仕事を優先させなければならないために、夏目は『Switch』の活動を休みがちになっていた。次第に『Switch』として振舞っているときまでも客から占い師としての自分を求められるようになり、『ユニット』活動に悪影響が出ていることに夏目は思い悩む。そして、占い師としての仕事に集中するため、アイドル活動を一時休止することに決めたという。
「夏目はたぶん、『Switch』の三人で色々やりたいこととかあったと思うんだよ。未来を見据えて、いつでも何か企んでるようなやつだし」
「でも。完全に占い師になるなら、アイドルとして予定していたことをぜんぶ放棄しなくちゃいけない」
「たぶんもう、『Switch』じゃいられなくなる」
「夏目は完璧主義者だし、どっちも中途半端にやるってことはできないだろうから」
「夏目には夢がある、でもあいつの夢はひとつじゃない」
「最高の占い師になる、素晴らしいアイドルになる……。どっちの夢も、叶えられたら良いんだけど」
「あいつの性格だと、歌って踊れる占いアイドル〜みたいなちょっと半端な立ち位置は受け入れがたいと思うんだよね」
「アイドルならアイドル、占い師なら占い師として真っ当に純粋にそれを極めたいんじゃないかな」
「本人に確かめたわけじゃないけど、俺はそんな感じがしてる」
「あいつは夢を叶えたんだ。でもそのせいで、アイドルとして生きていく未来を捨てようとしてる」
『Trickstar』の仲間たちに、スバルは大切な友達のことを切々と語る。
スバルは秘め隠された夏目の気持ちを感じ取ることができるだけでなく、それに寄り添い、真摯に彼の力になろうとするのである。
後日、秘密の部屋を訪れたスバルは、つむぎの膝で眠っている夏目を目撃する。つむぎたちと話しているうちに、夏目が目を覚ました。
「ボクもまだまだ未熟だなァ、『五奇人』のにいさんたちなら弱ってる姿は意地でも見せなかっただろうニ」
「弱ってるの、夏目? 大丈夫?」
「平気サ、ボクを誰だと思ってるノ? っていうか他人の心配してる余裕はないはずだよネェ、バルくん?」
心配するスバルに、当然のごとく夏目は強がってみせる。
スバルから事情を聞いた転校生の提案で、『Switch』と『Trickstar』は【星霊祭】という名の合同ライブをおこなうこととなった。つむぎ、宙とのやり取りを通して、夏目はその【星霊祭】に前向きに取り組む姿勢を見せる。
(【星霊祭】を存分に活用しテ、悩みや鬱屈をすこしでも解消しよウ)
(今度ハ、うまくいくかナ。あぁ未来はいつでも不確定デ、恐ろしいネ。どれだけ占っても推測してモ、もやもやとした闇が渦巻いていル)
(けれどそこニ、希望という名の星を見つけてみせよウ)
【星霊祭】本番は、夏目が出演するTV番組で宣伝したことにより大にぎわいとなった。
『Trickstar』が別件の仕事が入って本番直前に会場入りするという話を聞いた夏目は、このように呟いた。
「フゥン……。やっぱり忙しいんだネ、あの連中ハ」
「はい。なのにこうして俺たちに付きあってくれるんです、有り難い話ですよね」
「良かった〜。夏目くんって変な子だから絶対に同年代の子たちのなかで浮いてると思ってましたけど」
「ちゃんと親身になってくれるお友達がいたんですね……♪」
つむぎが商店街でスバルに会ったときに言った「友達」という単語は、直前のスバルの発言を受けてのものであった。そのときの「仲良しっぽい」という言い方も合わせて考えれば、つむぎはこのときまでスバルのことを、本当に夏目の仲良しの友達だと信じきれていなかったのではないか。性格に難があり、他人を遠ざけがちな夏目に「親身になってくれるお友達」がいたことに、つむぎは心から安堵した様子で笑う。
そのあと無言になった夏目に、もしや殴られるのではないかと怯えるつむぎだったが、夏目は静かにそれを否定した。
「べつに殴らないヨ。何かむしろ、じぃんと感動しタ」
「『五奇人』は討伐されて滅んダ、ボクももう普通のみんなと同じように友達をつくってもいいんだネ」
「もちろん。俺が言うことでもないですけど、血で血を洗う哀しい時代はもう終わったんですよ。生き延びたからには、幸せに過ごしてもいいんです」
「人間は誰だって、幸せになるために生きてるんですから」
今までも周囲から見れば、夏目とスバルは仲良しの友達だった。しかし夏目自身はずっと、スバルと自分との関係をそう捉えることを避けていた。『五奇人』としての名前が周りに悪影響を与えるのではないかという恐れ、戦いの中で守られ生き延びてしまった罪悪感などから、夏目は自分が幸せになることを拒んでいたのだろう。自分が当たり前の高校生のように友達を作っていいのだということに、親身になって自分を助けてくれるスバルたちを友達と呼んでいいのだということに、夏目はこの瞬間、ようやく気づいたのである。
初めに「友達になりたい」と自分から声をかけてから一年以上も経て、夏目はやっと、本当の意味で、スバルの差し出した手を取ることができた。
いっぽうできっとスバルにとっては、夏目についての認識はずっと変わらず、”夢ノ咲学院に入ってから初めてできた友達”なのだろう。「魔術師にご用心」で、「あぁ、こいつと俺は一年生のころからのお友達なんだ!」と笑顔で言っていた通りである。
「主流派になれズ、魔女のように迫害されたボクたちだけド。だからこソ、世界中にいるそんなひとたちを導く希望の星になれル」
「逃げこんだ先で、プレアデスのように美しく輝く星々になろウ」
友達のためにと忙しい中懸命に奔走したスバルの存在がなくては、夏目はアイドルとして、新しい一歩を踏み出すことはできなかった。そんな彼は、スバルの名と同じ「プレアデス」のような存在になることを誓う。
「なっつめ〜☆」
「……バルくん。何でみんナ、ほいほい抱きついてくるノ。暑苦しいったらないヨ」
「夏目、何かいつも良いにおいがするから! ね〜♪」
「な〜♪」
本番前に駆け込んできたスバルは迷いなく夏目に抱きつき、宙と仲良く笑みを交わすのだった。
呆れた様子の夏目が、じゃれてくるスバルに無反応を示すと、「あっ、無視はやめて! それがいちばん哀しい!」と訴えられる。
「アハハ、君はほんとニ、お星さまみたいだよネ」
「誰かに見つけテ、気づいてもらえなけれバ……。どれだけ輝いてモ、虚しいもんネ」
「春待ち桜」(一年前の春)、そして「魔術師にご用心」(春)と、今までスバルのことを「太陽」と喩えていた夏目が、このときには彼を指して「お星さま」と表した。夏目はいつも、スバルの内面を的確に表現する。
そして同じ「星」ならば、夜空で共に輝けるのだ。