概要
野々宮珠世とは、横溝正史の長編推理小説「犬神家の一族」の登場人物である。
犬神佐兵衛の恩人である、那須神社の神官・野々宮大弐の孫娘。幼い頃から佐兵衛には孫のように可愛がられていた。彼女の愛用の懐中時計は佐兵衛がくれたものである。
犬神佐清とは幼い頃から相思相愛で、懐中時計を壊したときはいつも佐清に修理してもらっていた。珠世曰く、懐中時計の修理は佐清さん以外には頼みたくない(懐中時計を佐清さん以外の人間に触れさせたくない)とこだわりを持っている。これは懐中時計は元々男性用であり、珠世が結婚するときに相手に懐中時計をあげるように佐兵衛から言われていたからである。佐清からも修理して返してもらうたびに「君が結婚するときにお婿さんにあげる時計だから、大事に可愛がってやらなきゃだめじゃないか」と言われていた。これらのことからも、珠世は幼い頃から佐清を慕っていたことがうかがえる。
両親が相次いで亡くなった後、佐兵衛のはからいで、姉弟のように育った猿蔵と一緒に犬神家に引き取られた。
遺産相続の一件で、佐武や佐智に襲われて危険な目にあうなど、複雑な立場に追いやられる。
白マスクの佐清が偽者であると勘づいていて、懐中時計についた偽佐清の指紋を、那須神社に奉納されている佐清の手形と照合して、本物かどうか確認させようと画策するが、狡猾ともいえるその行動の根底にあるのは佐清に対する愛情からである。
偽佐清が殺されたときも、珠世は金田一たちに指紋をとって調べるように頼み、そのことによって死んだ佐清が偽者であると明かされた。
実は佐兵衛の孫。珠世の母祝子は大弐の妻晴世と佐兵衛の娘で、二人の仲は大弐も知っていて隠していた。終生を日陰の花として送った晴世と佐兵衛の長女でありながら貧しい神官の妻で終わった祝子に対する佐兵衛の後悔と憐憫の情が、珠世に莫大な遺産相続の恩恵を与えることにつながった。
事件の真相が明かされた後、佐兵衛の遺言で贈られた犬神家の全相続権を示す家宝を佐清に贈ることで、佐清を犬神家の後継者にした。
人物
絶世の美女だが、常に毅然としていて隙のないとっつきにくい性格。白マスクの佐清(正体は青沼静馬)が偽者であると勘づいて、懐中時計の修理を頼むふりをして懐中時計を偽佐清の手に持たせることで、偽佐清の手の指紋を時計にとり、それをあたかも偶然指紋が残っていたと金田一たちに話して、奉納手形の指紋と照合させて偽者かどうか確かめようとするなど、狡猾な面も見せた。
だが好きな人や心を許した人には素直なようで、佐兵衛や佐清について語るときは穏やかな様子を見せる。
前述のように、利口で狡猾だが、好きな人(佐清)には純情一途で、佐清が母松子の罪を隠すために自分が犯人として死のうとした際、その演出のためにわざと珠世を殺そうとしたふりをしたときには、佐清が自分を犯人だと疑って殺そうとしたと思った珠世は佐清に嫌われたとショックを受けて、佐清が自分を殺す真似をしたことの真相を知ったときは泣いて取り乱した。
また松子から「佐清が刑を終えて出てくるまで待っててくれるわね?」と聞かれたときは、「お待ちしますわ、10年でも20年でも。佐清さんさえお望みなら」と答えるなど、好きな人(佐清)に対する一途さを見せていた。