概要
冷戦期に開発された、アメリカ軍の爆撃機にして世界初の超音速爆撃機。
愛称はハスラー。
「マッハ2級の速度で飛行し」「モスクワに核爆弾を落とす」という2点のみに特化した為、いろいろな意味でピーキー極まりない機体となってしまった。
まあ、こいつを作ったのは飛行機界のSUZUKIとも言えるコンベア(コンソリデーテッド・ヴァルティ・エアクラフト)だという点で、致し方ないとも言えそうだが(褒め言葉)。
開発
B-58の開発のきっかけとなったのは東西冷戦。
「もしもソ連が戦略爆撃機なり弾道ミサイルなりでアメリカ本土に核攻撃を仕掛けてきた場合の大量核報復」のための機体として開発された。
とはいえ相手の防空網は強固であり、B-52のような既存の戦略爆撃機でノロノロ敵地上空に殴り込んでもカモにされるだけ。
要するに、速さが足りないのである。
こうして至った結論は、当時の爆撃機では類を見ない超音速飛行による強行突破だった。
本機に与えられた役割は、ソ連及びワルシャワ条約機構の防空網を超音速・高々度巡航で突破し、敵の本陣であるモスクワに核爆弾による攻撃を加えること。
今ならともかく当時の技術でこれを実現するためか、様々な点で異様な機体に仕上がっている(後述)。
そういう意味では同じくピーキーな機体に(結果的に)仕上がってしまったXB-70とは兄弟分と言える機体でもある。
機体
機体はハニカム構造を取り入れることにより大幅に軽量化を実現。
胴体はエリアルール(機体の断面積変化を抑え、空気抵抗を減らす為に敢えて機体の一部を太くしたり細くしたりする設計)に基づき、中央部が若干くびれた形状となっている。
主翼はコンベアが得意としたデルタ翼を採用し、角度はマッハ2での巡航に有利な、60度に設定。
エンジンは主翼にゼネラル・エレクトリック J79 ターボジェットエンジンを合計4基ぶら下げる。
戦略爆撃機としては異様にコンパクトにまとまった機体と、J79が4つ主翼にぶら下がっているその形状はある種の異様さすら感じさせるものがある。
兵装は全て機外の兵装ポッドに搭載するという方法を採っているが、これは機体が小型すぎて機内に兵装を搭載できなかった為である。
ただし、一方でこのスタイルは結果的に爆弾槽に収まるかどうかを考慮せずに(マッハ2での空力性能をもちろん考慮した上で、という条件こそつくものの)どんな兵装でも積めてしまうという利点も生み出している。
固定兵装としては、自衛用のM61A1バルカン砲を機体尾部に装備する。
ここで面白いのは、マッハ2で巡航中にバルカン砲を発砲すると機体の速度>バルカンの弾速となる為、バルカンの弾が(結果的に)B-58を「追いかける」ように飛んでいき、追跡してきた敵機は「自分から」バルカンの弾に突っ込むような形で命中してしまうという点がある。その光景はさながらSF作品などで出てくる空中機雷である(敵を振り切る=敵が追い付けないなら意味ないじゃんってツッコミは禁止)。
ステルス性は特に考慮していない(レーダー?ンなモン例え見つかっても高々度・高速飛行で振り切ってやらあ!)ものの、機体そのものを小型化する事によりレーダーに映りにくくするような配慮はされていた。
脱出装置は当初はオーソドックスな射出座席だったが、超音速飛行中の脱出で死傷者が出る事故が起きたため、脱出カプセルを装備した。これは、普段は通常の座席だが射出の際に座席1つを丸ごと覆って内部を密閉するというもの。
で、どうだったの?
結論から言うと、本機は実戦投入すらされず、たった10年で運用を終了。
その理由には以下の点が挙げられると言われている。
- 「弾道ミサイルによる核報復」に方針が変わった
方針転換により、「撃墜されたら貴重なパイロットが乙になる爆撃機よりも、打ちっ放しで済む核ミサイルのほうがいいじゃん」となってしまった。
もちろん、地球の裏側まですっ飛んで核攻撃を加えられる長距離ミサイルなんてのもめちゃくちゃ金と技術が要求される(ほぼ宇宙ロケットと変わりないからね)けど、そんでも打ちっ放しで済む分「もしも」の時には爆撃機よりも損害は少ない(一番金かかるのはある意味パイロット)とかの利点を考えればミサイルぶっぱのほうが圧倒的に安上がりである。
「じゃあ爆撃機なんてもういらないじゃん」と言われそうなので一応念の為に言っておくと、国vs国のどつきあいとなる「正規戦」ではなく、国vsテロリスト・犯罪組織・工作員etc...となる「非対称戦」の場合は、むしろ爆撃機はミサイルなんかよりも有効とも言われている。相手の「本丸」や「基地」がはっきりわかっている国ならともかく、どこにアジトを構えているかすらわからないテロリストや犯罪組織が相手ともなれば、「ミサイルでピンポイント爆撃」なんかよりも「居そうなところに爆弾ばらまいてあぶり出す」ほうが有効なのである。
ミサイルはあくまで「目視でもレーダーでも地図でも(衛星写真でも)何でもいいので、何らかの形で相手の位置がはっきりわかっているのが前提」という兵器である。
また、発射ボタンを押したらもう引き返せない弾道ミサイルと違い、爆撃機なら核攻撃に飛び立った後でも目標を変えたり攻撃そのものを中止し引き返させる事ができるという利点もある。
- 兵装搭載量の少なさ、それ故の汎用性の悪さ
戦略爆撃機としては異常にコンパクトにまとまった機体のB-58。
更に機銃以外の兵装に至っては全部機外のパイロンに積むという設計。
これはB-52などの「一般の」戦略爆撃機と比べると、搭載量でどうしても劣ってしまうという事を意味する。
そりゃあソ連に核爆弾落としてほなさいならという「本来の任務」であれば、核爆弾だけ持っていけばいいので核爆弾を1発積めればそれで済むのだが、その任務が核ミサイルに取って代わられた以上「普通の」戦略爆撃機として使うとなると、搭載量の少なさは致命的なものとなる。
- 航続距離の短さ
当時はアフターバーナーを焚き続けていなかれば超音速飛行を維持できなかった時代。そのため、コンコルドなどと同じくバカみたいに燃料を食う。
しかも上述した搭載量の少なさにより、燃料も多く積めない。
結果、航続距離はB-52のおよそ半分。サポートに必要な空中給油機がより多く必要になった。
かのカーチス・ルメイ大将も「重要なのは航続距離であって速度ではない」と配備前から難色を示していた。
- 低空進攻に不向きな特性
更にB-58を「普通の爆撃機」として使用する場合、「低空での使い勝手の悪さ」も致命的となる。
B-58の翼面荷重は高速・高々度での巡航を前提として低く設定されており、低空では速度が上がらず横風にも弱い。
この事が(その後の)爆撃機において流行した「低空侵入による爆撃」とは相性が悪い(というかほぼ無理)という事が露呈してしまった。
- 撃たれ弱い
B-58は曲がりなりにも「モスクワに直行して核爆弾と落とす」為に開発された機体である。
少しでも航続距離を伸ばす為に、主翼内にどでかいインテグラルタンクが入っており、「主翼に被弾したら即アウト」に繋がる事が指摘された。
ある意味日本における一式陸上攻撃機に近いといえるかもしれない。
- 居住性の悪さ
速度を追及して極限まで胴体を絞り込んだB-58のコックピットは戦闘機ばりに狭く、しかも座席は大戦中の艦上攻撃機みたいな縦列配置であったため一度乗り込んでしまうと座席間の移動ができない。当然ながら交代要員も乗れない。これは長時間飛行を余儀なくされる爆撃機としては大きな問題である。
脱出カプセルを装備してからは、それがますます悪化。ただでさえ狭いコックピットが余計に狭くなり、乗員の体格を制限せざるを得なくなった。
加えて室内環境も悪く、地上では空調システムを作動させても室温が38度を超える蒸し風呂状態が珍しくなかったという。
- 整備性の悪さ、スクランブル任務に非対応
B-58は最初に書いた通り、いろいろな意味でピーキーな機体である。
整備性まで含めて。
まず、整備には専用の地上設備が必要とされる。
これは事実上アメリカ本土以外では整備・維持ができないという事を意味していた。
機体自体も50年台の技術でマッハ2を目指し、しかも長距離を飛んでモスクワに核攻撃…というある種の「全部入り」を目指した為か複雑なものとなり、整備性をより悪化させていた。しかもそのコストはべらぼうに高い。
また、機外兵装ポッドと地上のクリアランスを確保する為に着陸脚が長くなっており(おや?ソ連にも確かこんな旅客機があったような…)、乗り降りにはやたらと長いタラップを上り下りする必要がある。
すなわち「スクランブル発進に対応することが難しい」という事も意味している。
折しもその頃、ソ連の戦略原潜がアメリカ近海にも出没するようになり、スクランブル発進に対応できないという点は更に問題視された。
…ただし、B-58の名誉の為に書き加えておくとするならば、外装ポッドに偵察用のカメラをつけて「偵察機」に転用された機体がキューバ危機の際に偵察活動に従事していたり、あるいは「おい、ソ連とその腰巾着共!こっちにはモスクワに核爆弾を直!接!お届けします!ができる爆撃機があるんだぞ!」という事で威圧感を与え、防衛予算を割かせて財政的に圧迫させるという「嫌がらせ」ができたという点では有用な存在であったとも言われている。