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概要

仕組み

航空機の機体に異常が発生した際に、乗員を脱出させるための脱出装置の一つ。

ロケットエンジン圧縮空気などにより座席ごと乗員を機外に排出する。

脱出後は座席は切り離され、パラシュートで降下する。


歴史と必要性

かつて航空機の速度が(比較的)低速だった時代は脱出用パラシュートを積んでおき、事故や被撃墜時にはパラシュートを背負ってそのまま脱出するというスタイルだったが、航空機の速度が上がると人力だけで機外に出ることが難しくなってきた。

この状況は第二次世界大戦時にすでに現れており、ハンス・ヨアヒム・マルセイユのようなエースパイロットでも機体故障による脱出時に尾翼に激突し、死亡するケースもあった。また被弾して乗員自身が負傷していると、脱出の動作自体も行いづらくなる。


このため開発されたのが射出座席である。

世界初の射出座席搭載機はドイツハインケルHe280で、戦闘機がレシプロ式からジェット式になり、飛行速度が上がると瞬く間に普及した。戦闘機など小型機に使われることが多いが、爆撃機などの大型機にも採用されることがある。


現在の射出座席

現在のものは乗員拘束装置により正しい射出姿勢を強制的に取れるようになっており、高度ゼロ・速度ゼロでも脱出可能なもの(ゼロゼロ射出座席)がほとんどであるが、射出座席というもののコンセプト自体が「機体もろとも墜落して確実に死ぬより、大怪我をしても生存できた方がマシ」、五体満足で着地できれば良しというものであり、射出時に15Gもの高Gが乗員にかかるために負傷するという事も多い。この時に脊椎を損傷し、そのまま引退を強いられる場合もある。


また通常のパラシュート同様に周囲の状況により電線等に引っかかり宙吊りになる、建築物等に衝突するなどすることがある。


射出の際に邪魔となるキャノピーガラスだが、その排除方法は枠ごと投棄する、キャノピーガラス内に仕込まれた導爆線で破砕される等により射出前に排除されるが、もしキャノピーガラスの排除が出来なかった場合でも射出座席の背もたれによって破砕されるようにはなっている。

座席内には緊急用のゴムボートが畳まれて内蔵されており、海上で脱出した際には着水後に自動膨張し、脱出した乗員の身を護ると共に発見を容易としている。


イギリスの場合

イギリスのマーチンベーカー・エアクラフト社は、射出座席のパイオニアとも呼べるメーカーである。

1942年、社名に名を残す創業者コンビの片割れにして、テストパイロットでもあったヴァレンタイン・ベーカーが、自社開発した戦闘機MB3の試験飛行中に墜落、死亡してしまう。これに大きなショックを受けた創業者コンビのもう片方、ジェームズ・マーチンは、1944年に空軍から受注した『安全な航空機用脱出装置』の開発に信念を燃やし、1948年に最初の射出座席を実用化させるに至った。

以降、マーチンベーカーは航空機メーカーから射出座席メーカーへと転向、マーチンベーカーの射出座席は西側諸国製の様々な機体に採用され、2015年10月21日現在で7,487人ものパイロットの命を救っている(ちなみに、マーチンベーカーはオフィシャルサイトで自社の射出座席で救われたパイロットの数を公開している)。


アメリカの場合

F-15F-16といったアメリカ等の西側製戦闘機では標準的に使われているボーイング製ACES II射出座席は亜音速以下での射出が想定された設計になっており、超音速飛行時に射出した場合は無事では済まず、死に至ることもある。


ロシアの場合

NPPズヴェズダ製K-36DM射出座席では乗員拘束装置に加えてウィンドブラストデフレクター(風よけ)が採用されており、高高度飛行時や音速飛行時での射出も可能としている。

意外に思われるかもしれないが、射出座席はソビエト時代より盛んに研究されており、これは技術的な問題で軍用機そのものの安全性が高くなく、搭乗員の生還率も低かったため。

Yak-38及びYak-141ではVTOL時にパイロットが自力で射出座席を作動させることは難しいという事が初期のYak-38で判明したため、異常を感知して自動的に作動させるAESを搭載している。この為、同時期に運用されていたハリアーと比べると、事故が起きた際パイロットの生存率はこちらの方が高かったらしい。


射出座席よもやま話

  • 射出座席で脱出することを「ベイルアウト」と呼び、警告コードは「イジェクト・イジェクト・イジェクト」。(これはNATOの場合で、ロシアなど他の軍は異なる)
  • F-104の初期型は、鋭利な垂直尾翼に衝突して悲惨な事故になることを警戒し下向きに打ち出す射出座席を採用していた。もちろんこんなものを低空で使うと地面に激突してパイロットが乙ってしまうので、後期型からは普通に上向きに打ち出すタイプに変更されている。
  • 英国で射出座席の開発を行っていた時期には、その他のプランとして機体上部のアームで乗員を放り出す、コックピットの下が開いて乗員を放り出すといったトンデモ機構も考案されていた。
  • 超音速爆撃機B-58の脱出装置は、低速では座席のみを打ち出す一般的な射出座席として機能するが高速では座席をシールドで覆って脱出カプセルとして打ち出すという二段構えとなっている。XB-70では全ての速度域で完全なカプセル式となった。
  • ヘリコプターは比較的低高度を低速で飛ぶので人力での脱出が容易な上、高高度の場合はオートローテーションという技術もある、下手に射出座席を使うとローターに乗員が巻き込まれてこれまた悲惨なことになってしまうので採用例は極端に少ないが、ロシアカモフKa-50はヘリコプターとしては珍しく射出座席を採用している。同軸二重反転ローターを採用している為、オートローテーションが非常に難しく、エンジン停止即墜落に繋がりかねないためである。ちなみに脱出前にローターを爆薬で吹き飛ばした後にロケットで乗員のみを引っ張り出す構造になっている。
  • VTOL用のエンジンを別に搭載しているVTOL機はVTOL中に片方のエンジンが故障した際にパイロットが自力で脱出することは難しいため、自動で射出座席を作動させるシステムが搭載されている。
  • ボストークジェミニなどの初期の有人宇宙船でも、大気圏内での脱出用に射出座席を採用していた。 人類初の宇宙飛行を成し遂げたガガーリンも帰還時には射出座席で宇宙船の外に脱出して地表に帰還した。これは事故ではなく当時は重たい宇宙船を安全に着陸させるための技術が乏しかったためである。
  • 上記のように脱出は命がけのため、米軍にはキャタピラーズクラブ(芋虫の会)とイジェクション・タイ・クラブという団体があり、共に射出座席でのベイルアウトして生存した者のみが入会できる。
  • エアショーではデモフライト時に時折事故が起きているものの、ロシア機の場合は超低高度、異常姿勢という脱出が難しい状況であっても無事に脱出に成功して射出座席の優秀さを実証しており、「射出座席のデモをしている」と冗談が言われている。
  • 事実、1992年のモスクワ航空ショーでは、後席員が射出座席のデモンストレーションをするはずがエンジントラブルを起こし、しかも観客の面前でパイロットまで脱出するハメになった。低空・低速と条件は悪かったが、もちろん両名とも生還している。(ちなみに機種はSu-9U)
  • 他にもロシア(ソビエト)ではかつて、機体の技術的問題から墜落事故死が多発したため、射出座席の研究は進んでいる。もちろん安全性も高い。
  • ACES II登場以前のアメリカ最高の射出座席はマーチンベーカー社のものであった。上記のように射出座席メーカーとしては現在も存続しており、F-35開発にも関わっている。

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