概要
旧大日本製薬(現:大日本住友製薬)から市販されていたアンフェタミン系の向精神薬(精神刺激薬・覚醒剤)のひとつ。依存性薬物規制の直接の原因になった、日本で最も有名な向精神薬の一つ。
現代でも(厳重な管理の下)ADHDやナルコレプシー等の治療などの「限定的な医療・研究用途での使用」に厳しく制限され用いられている。日本においては覚せい剤取締法によって一般人への販売・使用・所持が禁止され、医療目的の使用でも院内処方のみ・都道府県知事への届け出が必要など極めて厳重な規制が行われている。
詳細
塩酸メタンフェタミン製剤。大日本住友製薬の商品名であるが、一番売れて有名になった当製品が『覚醒剤の代名詞』としても使われる場合がある。
類似品に「ホスピタン」(参天製薬)、「ゼドリン」(武田長兵衛商店(現:武田薬品工業)、アンフェタミン使用)など多数の商品があり、覚せい剤取締法施行までは合法の除倦覚醒剤として販売・使用されていた。
※画像はイメージです
元は化学物質による風邪薬の開発中に生まれた副産物であり、これを研究者が有効活用の道を探った結果、肉体の疲労感を消失させたということ(もちろんこれは風邪を治したわけではなく、単なる興奮作用でしかないが…)から疲労回復薬として一般に流通させたのが最初だという。
副作用として口渇、落ち着きのなさ、血圧上昇、食欲不振、便秘、勃起障害などがすぐに現れる。長期間乱用するとさらに被害的な幻覚・妄想、意欲低下、脳萎縮など重大な症状が出現してくる。ダメ、ゼッタイ。
歴史
日本では、大東亜戦争以前より製造されており、太平洋戦争下で『生産性の向上』を目的として工場で工員に、あるいは『夜間に視力が良くなるという理由』で夜間の歩哨に、あるいは『集中力が増す』と言ってB-29の迎撃にあたる航空機搭乗員に支給され……と、政府・軍部の推奨のもと大々的に使用されていた。
《メタンフェタミン(ウィキペディアの記事)》によると、『当時はメタンフェタミンの副作用について、まだ知られていなかったため、規制が必要であるという発想自体がなかった』とのことである。
※画像はイメージです
「ヒロポン」の語源は俗に「疲労(『ひろ』う)を『ポン』と飛ばす」と言われているが、実際はギリシャ語"philoponus"(労働を愛する)が正しい語源である。
戦後
敗戦後に、酒やタバコの代用品として在庫が闇市場に一気に流入し、やがてアンプル一本が低級の焼酎一杯以下とも言われる激安価格で、裏社会と縁の無い庶民でさえも近所の薬局で気軽に買えるほど流通したため日本社会全体に広範な薬物汚染を引き起こした。
これが教訓となって1951年の覚せい剤取締法制定へと繋がり、以降ヒロポンはいわゆる違法薬物とされるようになった。
下記に示した実在の服用者やその関係者の回想に出てくるヒロポンは注射剤が主であるが、本項メイン画像のように錠剤や内服液も存在した。覚せい剤取締法施行後は注射剤のみとなり、法による管理のもと、病院向けに販売されている。
韓国でのヒロポン
当然のことながら、ヒロポン全盛期は当時日本国内であった朝鮮半島でも販売されていた。この為、ヒロポンは現在の韓国でも「かつて合法であり現在は違法の覚醒剤」の代表格として扱われている。
ここから転じて、韓国人でも「これはひどい」と思うほどの狂信的な愛国行為(主に反日行為)対して、韓国語で“国”を表す「ググ」とヒロポンをかけ合わせたググポンなる造語がある。
代表的な実在の服用者
- 6代目笑福亭松鶴(笑福亭鶴瓶、笑福亭鶴光らの師匠)
- 太宰治 坂口安吾(ともに無頼派の作家)
- 石原慎太郎(作家、元東京都知事、衆議院議員)- よりによって彼の知事時代の発言中に「合法時代に服用したことがある」のを示唆したものがあり、いくつかの憶測を含む反響を呼んだ。
…などなどなど。
上述のように戦後にその危険性が指摘され違法となったヒロポンだが、現代日本と同じ様な「覚醒剤=心身に重大な悪影響を与える非常に危険な薬物」という常識が世間に浸透するまでは時間がかかった。現代でもしばしば違法薬物に関する事件で世間を賑わす芸能界に至っては、1950~60年代は既にヒロポンが違法であったにもかかわらず愛好家、そして中毒者が当然のように居たという。
ビートたけしが自身の師匠である深見千三郎のほか、東八郎、由利徹をはじめ浅草芸人や幾つもの芸能人の実名を挙げてその中毒による奇行の数々をトークのネタにしているが、同時にたけしは中毒者になった先輩芸人の末路を多く目にしたこともあり、自身は決してヒロポンを始めとした薬物一切には手を出さないと述べている。他にも藤田まことや正司歌江など当時すでに一線で活躍していた役者や芸人たちが中毒体験を自伝等で告白しているくらいなので、「実在の服用者」として有名人だけに限定したリストを作ろうにも多すぎて割愛せざるをえないほどである。
また、先に触れたウィキペディアのメタンフェタミンの記事においては「旧日本軍における兵士へのヒロポン投与」として黒鳥四朗中尉および倉本十三飛曹長(6機撃墜のエースパイロットペア)のケースに触れられている。
代表的な架空の服用者
- ムスビ(はだしのゲン)
ヤクザに騙されて打たれ、最後には仲間の金に手を出して共同生活をぶち壊してしまった。
更生が描かれるはずの第二部がついに執筆されず、またムスビも非業の最期を遂げてしまったため、ヒロポンといえばムスビ、ムスビと言えばヒロポンジャンキーのイメージに…。
ガン牌を使用する為に超人的な集中力を得る手段として使用、命を縮める事となった。
- 伊佐坂先生、トンダミヤコ、トンダカンイチ(似たもの一家)
執筆活動用のビン入り液体タイプを隣の家の子供のミヤコとカンイチが誤飲した。
※サザエさんにヒロポン誤飲ネタが登場したとするのは誤りである。伊佐坂先生の登場や、ミヤコとカンイチのデザインがそれぞれワカメ・タラオと同一であったことからの誤認だと思われる
その他の「ヒロポン」
覚醒剤の名前であることがよく知られているため現在では一般的ではないが、「ひろ」で始まる名前の人に対するニックネームとして使われることがある。有名所では元エンターブレインの広瀬栄一デスクが、かつて担当をしていた桜玉吉にこのあだ名で呼ばれており、この流れからこの当時を知る漫画家(須藤真澄など)にもこう呼ばれている。
Pixivでは
戦時中を想起させる題材(近年よく使われる題材で言えば艦隊これくしょんなど)での活躍(?)が見られる。
覚醒剤ゆえに前述の「視力が良くなる」と同じ感覚で「感度が良くなる(性的な意味で)」としてR-18方面では媚薬のように扱われていることも。
また概要にもある「ムスビうそをつけっ」をパロったシーンにも(手にしているのがヒロポン以外でも)タグが貼られることがある。