概要
顧客が本当に必要だったものとは「何かの失敗作があった。我々が見たかった理想型はこれだ!」という意味の言い回しではない。
本来は「仕様について伝言ゲームをするうちにどんどんおかしくなっていった……と思ったら、最初の人の説明の時点で変だったね」という状況を風刺したとある10コマ漫画の題名である。
(厳密に言うと「プロジェクトの姿ー顧客が本当に必要だったもの」という題名である)
「プロジェクトの姿ー顧客が本当に必要だったもの」は
1)顧客が説明した要件
2)プロジェクトリーダーの理解
3)アナリストの設計
4)プログラマのコード
5)営業の表現、約束
6)プロジェクトの書類
7)実際の運用
8)顧客への請求金額
9)得られたサポート
10)顧客が本当に必要だったもの
という順番で構成されており、最後の10コマ目で「開発者が無能だったからおかしくなったのではなく、(1)の時点での顧客の説明の時点でおかしくなっていた」というオチがつく。
■10コマ目の像は、誰が思い描いたものか
10コマ目はあくまで顧客「が」本当に必要だったもの(=主観)であり顧客「に」本当に必要だったもの(客観)ではない点に注意。
後者では(10)が→(1)が顧客→プロジェクトリーダーへの伝言ゲームのミスであるという点が失われてしまうが、本来のこの言葉の意味はあくまで「顧客が脳内ビジョンを上手く伝えられなかったこと」を皮肉っているのである。
■「顧客」とは
「企画が顧客→プロジェクトリーダーへの説明からスタートしている」という点も大事である。
つまり、本来このテンプレートにおいて顧客とは「こういうものが欲しいと発注した人」であり、例えばTVアニメの出来についてテンプレートを用いる場合、顧客とは視聴者ではなくアニメの制作を依頼した者である。
(10)の「理想像」は視聴者にとっての理想像ではなく、制作を依頼した者の思い描いた理想像なのである。
出来上がったものが視聴者の理想像とは異なっていたとしても、それが制作を依頼した者の理想通りであるならば「顧客が本当に必要だったもの」という構図には当てはまらない。
……結果、TVアニメの人気が出ずに制作依頼者が利益を得られなかったならば顧客「が」本当に必要だったもの(主観的な、売れるアニメ)と、顧客「に」本当に必要だったもの(実際に売れるアニメ)が違った、ということになる。
■「どうしてこうならなかった」の使い分け
つまり、よくこのタグの付いたイラストで主張される「自分の見たかったor欲しかったものはこれだ」という理屈ははっきり言ってしまえば誤用であることには留意しておくべきである。
失敗作に対する理想の作品を意味する言葉・タグについては“どうしてこうならなかった”というものがあるので、貴方が「顧客(制作依頼した人)」でないならば、そちらを使おう。