概要
顧客が必要としているシステム(以降ブランコに例える)が本当は「タイヤブランコ(a tire swing)」であるとしても、顧客自身は複雑なブランコを要望し、それを聞いたプロジェクトリーダー以下は要件の無理解から奇怪なブランコ、華美なブランコ、過剰なブランコ、無理なブランコを設計していくという風刺である。
解説
顧客が本当に必要だったものとは「何かの失敗作があった。我々が見たかった理想型はこれだ!」という意味の言い回し…ではない。
本来は「仕様について伝言ゲームをするうちにどんどんおかしくなっていった……と思ったら、最初の人の説明の時点で変だったね」という状況を風刺したとある10コマ漫画の題名である。
(厳密に言うと「プロジェクトの姿ー顧客が本当に必要だったもの」という題名である)
「プロジェクトの姿ー顧客が本当に必要だったもの」は
- 顧客が説明した要件
- プロジェクトリーダーの理解
- アナリストの設計
- プログラマのコード
- 営業の表現、約束
- プロジェクトの書類
- 実際の運用
- 顧客への請求金額
- 得られたサポート
- 顧客が本当に必要だったもの
という順番で構成されており、最後の10コマ目で「開発者が無能だったからおかしくなったのではなく、(1)の時点での顧客の説明の時点でおかしくなっていた」というオチがつく。
1)顧客が説明した要件
元ネタでは板の部分が3枚もある明らかに機能過剰なブランコが描かれている。
どう見ても本来のブランコの役割を果たすには無駄があり、素人が聞きかじった情報をもとに理想像をあれもこれもと要求していることが窺える。
2)プロジェクトリーダーの理解
元ネタでは幹を挟んで二本の枝にそれぞれロープを結び付けたブランコが描かれている。
客の説明からとりあえずブランコが欲しいことはわかったが、そのままでは不可能なことも容易に想像できる。
とりあえず現実的な路線として枝二本に体重を分散させることで解決を図ったが、それがさらに重大な問題を起こしていることに気付いていない。
3)アナリストの設計
元ネタではプロジェクトリーダーの理解の設計そのままに幹を上下にぶった切ってそこにブランコを通すという異様な姿が描かれている。
プロジェクトリーダーの説明そのままでは到底ブランコが動かないため、「ブランコを動かす」という至上命題を満たすためだけにとりあえずの解決策を取った形である。
明らかに不自然だが、少なくとも「枝二本に結んだブランコを作れ」というプロジェクトリーダーの要求は満たしているため、アナリスト的には十分OKなのだろう。
4)プログラマのコード
元ネタでは幹に直接ブランコが結び付けられている。しかもロープが長すぎるため、ブランコが地面に付いており役割を果たしていない。
アナリストの説明が悪かったのか、それともよほどのデスマーチ環境だったのか、「幹にブランコを結びつけられている」だけであり、どう見てもまともに動くプログラミングが為されていない。
しかし、とりあえず「板をロープで木に結び付ける」という条件は満たされているので「開発は順調です」と説明はできる状態である。
5)営業の表現、約束
元ネタでは豪華絢爛なソファが木からぶら下げられた姿が描かれている。
ブランコとしてはあまりに重すぎて役割を果たせそうにないが、本質から離れた過剰な機能を売り込むのも営業の手腕の内ということだろうか。
この状況を見ると、そもそもプログラミング側と営業側に致命的な意思の齟齬が発生している可能性もあり、その場合「とりあえず盛り込めるだけ全部盛り込んで」説明する他ないのかもしれない。
6)プロジェクトの書類
元ネタではブランコどころかそれを結び付けていた木すらない。痕跡がわずかに残るだけである。
プロジェクトに関する書類は何一つ残っておらず、あるのは膨大な議事録と意味不明なメモだけ……そんな状況も往々にして起こり得る。
そもそもまともな書類があれば、営業だって無茶苦茶な空手形を切る必要もないわけである。
7)実際の運用
元ネタではロープが一本だけ木からぶら下がっている。
「木からぶら下がって揺れて遊べる」というまさに顧客の求めた最低条件だけ満たした状態。
腕が疲れるじゃないかとか、そもそもこれはブランコと呼べるのかとか、いろいろツッコミどころはあるかもしれないが、一応みんな頑張った結果ではある。
そもそも顧客の求めていたものが定まっていればこうはならなかったわけで。
8)顧客への請求金額
元ネタではジェットコースターが描かれている。
ブランコ如きにジェットコースターのようなとんでもない金額を請求したということか、あるいは乱高下を繰り返すジェットコースターを「最初は追加仕様の多さに当初の見積もりを大幅に越えた金額になっていたのに、あまりに情けない運用実態を批判されて急に価格を下げる」ということになぞらえているのかもしれない。
いずれにせよ、明らかに実際の運用に見合う金額を請求しているわけではないだろう。
9)得られたサポート
元ネタではブランコが結ばれていた木が切り倒され、切り株だけが残っている。
「流石にロープ一本では腕が疲れる」という顧客の要望に場当たり的に対応した結果、ブランコとしての最低限の機能すら失われてしまった。
座って休むことはできるが、もはやこれはブランコとは呼べないだろう。
10)顧客が本当に必要だったもの
元ネタでは木からロープで古タイヤがぶら下げられている。
本物のブランコには見劣りするとはいえ、最低限のコストでブランコとしての必要十分の機能を満たせる理想像。
本来なら最初の顧客の説明からプロジェクトリーダーの理解に至るまでの段階でここにたどり着くべきだった。
■10コマ目の像は、誰が思い描いたものか
10コマ目はあくまで顧客「が」本当に必要だったもの(=主観)であり顧客「に」本当に必要だったもの(客観)ではない点に注意。
後者では(10)が→(1)が顧客→プロジェクトリーダーへの伝言ゲームのミスであるという点が失われてしまうが、本来のこの言葉の意味はあくまで「顧客が脳内ビジョンを上手く伝えられなかったこと」を皮肉っているのである。
■「顧客」とは
「企画が顧客→プロジェクトリーダーへの説明からスタートしている」という点も大事である。
つまり、本来このテンプレートにおいて顧客とは「こういうものが欲しいと発注した人」であり、例えばTVアニメの出来についてテンプレートを用いる場合、顧客とは視聴者ではなくアニメの制作を依頼した者である。
(10)の「理想像」は視聴者にとっての理想像ではなく、制作を依頼した者の思い描いた理想像なのである。
出来上がったものが視聴者の理想像とは異なっていたとしても、それが制作を依頼した者の理想通りであるならば「顧客が本当に必要だったもの」という構図には当てはまらない。
……結果、TVアニメの人気が出ずに制作依頼者が利益を得られなかったならば顧客「が」本当に必要だったもの(主観的な、売れるアニメもしくは作りたかったアニメ)と、顧客「に」本当に必要だったもの(実際に売れるアニメ)が違った、ということになる。
「消費者が本来必要としていたもの」と言う意味ではない
つまり、よくこのタグおよびコメントが付いたイラストで主張されている「自分の見たかったor欲しかったものはこれだ」という解釈や「なぜ自分の思い通りの物を作らなかったんだ」「公式がファンや自分の需要を満たさないものをよこしてきた」という抗議や皮肉の意味を込めた用法ははっきり言ってしまえば誤用であることには留意しておくべきである。
消費者を顧客とした場合、本来の風刺に当てはめたら「消費者が要望した要件に不備があったから駄作・失敗作ができた」となり、これだと無意味なブーメランになってしまう。
なので、「自分(あるいは消費者・ファン)の理想像」と言う意味でこのタグを用いるのは本来適切ではない。
失敗作に対する理想の作品を意味する言葉・タグについては“どうしてこうならなかった”というものがあるので、貴方が「顧客(制作依頼した人)」でないならば、そちらを使うべきである。
そもそも公式・原作者が作った失敗作(実際のクオリティの低さに限らず、何らかの理由でファンからの評価が著しく低くなったケースも含む)をこき下ろす目的で、理想の(自分達の需要を満たす、本来ファンが見たかった)二次創作・同人作品を当てつけに評価する、という行為自体があまり褒められるものでもないが。
ただし、誤用的な意味で用いられているこのタグを消して回るのは、逆に自治厨やタグ荒らしとして通報される可能性があるので要注意。
ただ、誤用と知ってか知らずか中には意図的に原作・公式を貶める為にこのタグやコメントが付けられている場合もある。
元は最初の部分(1「顧客が説明した要件」)からして違う事を皮肉る風刺だったにもかかわらず、最終的に出来上がった物(の出来)に対して(一番最後に手に渡る事になる)、最末端にいる消費者(これは開発中の風刺なので消費者が手に取るのは10「顧客が本当に必要だったもの」よりさらに先の段階である)が原作者や開発者を皮肉る用語となってしまっているのが現状である。
また、元々の作者の意図と消費者の需要が根本から違っていた為に二次創作においてこのタグが用いられてしまう、という事もたまにある。
熾烈な戦争モノ・戦記モノ的な過酷な世界観に対して日常系アニメのドタバタや癒しを求められてしまったようなケースだったり、敵と苦戦の末に最終的に和解する物語なのに敵を一方的に打ち倒す物語を期待されていたというようなケースの場合、前線の陣地の中に難民キャンプを立てられても需要が満たされるはずもなければ、和解が前提の物語で一方的な無双や殲滅戦が起こるわけもなく、当然このようなすれ違いが起きてしまうわけである。
原文では顧客が説明した要件と顧客が本当に必要だったものは一致していないが、誤用的な意味で使われる場合は一致している場合が大半で、さらに肥大化した要求(=説明すべき点が「他にもあった」という意味で不十分だった)として結実している事も少なくない。そもそも最初からズレていたという風刺が大方できていないのである。
これは自分達の要望が説明した要件≒必要だったものとなり、営業の表現・約束の部分は消費者側は一抹も要望していない企業都合の宣伝行為が置かれ、実際の運用や得られたサポートの部分が全く思い通りにいっていない事を消費者の目線から皮肉っている形となっている為である。
そもそもの原文の"What the Customer Really Needed"のCustomerを顧客と訳してしまったために、顧客=消費者とも捉えられることから、このような誤用が生じてしまったのであろう。Customerを依頼者を意味するclient(クライアント)にするか、翻訳する際にCustomerを依頼者や取引先としておけば誤解が生じる余地も薄れたはずである。
関連タグ
※本来の意味での関連タグ
ウォーターフォールモデル…このような失態を犯しやすい旧来のシステム開発。
アジャイル開発…「顧客が欲しいもの」は、常に変化すると考える。
※誤用的な意味での関連タグ
コレジャナイロボ…自分が欲しかったのはこれじゃない!
外部リンク
テンプレ