概要
休載の多さで有名なHUNTER×HUNTERだが、長い連載期間の中で最終回が考えられ、没になることもあった。
その中で実際に存在が確認された公式の没最終回をここで紹介する。
D案
2023年11月21日に放送されたテレビ番組『イワクラと吉住の番組』(テレビ朝日)内のコーナー「拝啓、中の人」で、冨樫義博が番組からの質問に手紙で回答する形で明かされた。
この時点での冨樫は、最終回候補としてA・B・Cの3パターンを想定しており、それぞれ読者からの反応を「賛成:反対」の比率で、Aは8:2、Bは賛否拮抗、Cは1:9と予想している。特にCは自身が最も好む結末であるものの、基本的にはこの3つに収まらないより面白い結末を目指していると語った。
その上で、「未完のまま私が死んだらこれが結末だったということで御容赦いただけますと幸いです」というメッセージと共に、3つの候補から漏れた「Dパターン」が番組内で紹介された。
ストーリー
池のほとりで釣りをする少女・ギン。突如、竿が大きくしなり、見事、池の主を釣り上げる。得意げに母親の元へ駆け寄り、「約束通り主を釣ったよ!これでハンターになれなんて言わないでしょ?」と訴える。母親は、主を釣り上げることでギンの狩猟本能を目覚めさせようとしていたのだ。
母親が父親に「途中で気が変わるかも」と話すと、姿の見えないギンが森の奥から「出ないからね!」と叫び返す。父親はそれを楽しげに見守る。
舞台は変わり、ミトの代から続く店で、ギンは釣り上げた主を下ごしらえしている。彼女は、祖父であるゴンのようにハンターとして旅立つことを拒んでいた。ゴンがハンター時代の思い出を語る時、祖母がさりげなく席を外していたこと、ノウコばばの相槌が伝言であり、ゴンのそばにいられなかった寂しさを滲ませていたことを思い出し、誰かの帰りを待ち続ける辛さ、そして誰かを待たせる辛さを味わいたくないと強く決意する。
そこへ、山菜を抱えた小太りの少年が店にやってくる。少年は主を釣ったギンを褒め称え、島民全員に振る舞おうと提案する。ギンは、ずっと一緒にいたい人と、ずっと一緒にいることを心に誓い、少年と共に満面の笑顔で料理を作り始める。
島から一羽の鳥が飛び立ち、様々な人々が暮らす街の上空を舞う。それは誰かの息子、誰かの娘、誰かの孫であり、それぞれの場所で誰かと笑顔を交わしている。その中には、かつて登場したキャラクターの子どもや孫の姿もあるかもしれない。鳥は空の彼方へ飛び去り、それを見送る誰かの後ろ姿で物語は幕を閉じる。
解説
第1話のセルフオマージュになっているのだが、ゴンがハンターとして世界を駆け巡る物語とは対照的に、ギンはくじら島に留まり、島の人々と共に生きることを選ぶ結末。
主人公ゴンの物語の直接的な結末ではなく、彼の血縁者である少女・ギンを主人公とした、その後の世界を描いた後日談となる。
本編が穏当に終わればどこからでも繋げられそうな、言ってしまえば無難な最終回と言えるかもしれない。
ゴンと結ばれる相手が原作でも名前が少し出るだけの超マイナーキャラであるノウコというのも話題になった。
第61話「阿鼻×叫喚×レクイエム」 第62話「緋の目×沈黙×カタストロフ」
こちらは1999年から2001年にかけて放送されたテレビアニメ『HUNTER×HUNTER』において、当初予定されていたものの、諸事情によりお蔵入りとなった幻の最終回のこと。
本来、第61話「阿鼻×叫喚×レクイエム」、第62話「緋の目×沈黙×カタストロフ」の2話構成で最終回を迎える予定でTVガイドの番組表にも載っていたのだが、以下のような要因から差止めとなった。
- 原作側からのクレーム:最終回の内容が原作とは大きく異なり、アニメ独自の展開となっていたため、原作者である冨樫義博から待ったがかかったとされる。冨樫は「ハンターはちゃんと最後まで描き上げるので」とコメントしたというが定かではない。
- 続編制作の可能性:テレビアニメの続編(OVA)の企画が水面下で進行しており、中途半端な形での完全終了を避けるため。
こうして没になった後、本来の原作に沿った最終回へと変更されたのが第61話「クモ集結×ゾル家×最終決戦の時」と第62話「クラピカ×仲間×クモの最期」である。
この幻の最終回の存在が明るみに出たのは、2001年4月頃にYahoo!オークションに出品された絵コンテがきっかけだった。最低落札価格25000円で出品された絵コンテは最終的に81000円で落札。その後絵コンテがどうなったのかは全く不明だが、現在閲覧不可の出品ページに表紙とその中身の計3枚の画像が掲載され、その衝撃的な内容が当時ネット上で話題となった。
真偽について
この最終回が公式で公表されたことは一切ないため、デマを疑う声も当然存在する。
しかし、番組表でのタイトル変更が実際に起きていたこと、ヤフオクでの画像が本物にしか見えなかったこと、後に同じ監督が別作品で同じようなノリのアニオリ完結編を製作したこともあってか没最終回の存在自体はほぼ確実視されていた。
後に神戸洋行氏(実際の62話の一部のシーンを担当したアニメーター)が自身のサイトで没になった絵コンテとレイアウトを掲載したことで、アニオリで物語を締める構想が実在していたことが確定した。
ストーリー
※判明している内容が断片的なため、一部推測が含まれています。
クラピカは最後の力を振り絞りクロロとの死闘を繰り広げ、遂にクロロを討ち果たす。しかし、その代償として今にも力尽きそうになってしまう。
レオリオはクラピカの胸に手を当て、心臓が今にも止まりそうになっていることを悟る。
一方、ゴンはレオリオからクラピカの異変を知らされ、衝撃を受ける。しかし、レオリオは「行かせてやれ。あいつはもう…」とゴンを制止する。
この出来事を知ったキルアは深く狼狽する。クラピカの復讐劇を目の当たりにしたことで、自身の暗殺者としての血に苦悩しゾルディック家に帰ってしまう。
クラピカの死はゴンとキルアの友情に深い影を落とし、原作とは異なる悲劇的な結末を迎えることになる。
それから何年も経った後、カイトに連れられジンと再会するゴンとミト。しかし、そこにジン暗殺のため、かつてゾルディック家へ戻ったキルアとその父親シルバが現れる。
ジンを確認したシルバがそこへ向かって急襲、二人の戦闘によって凄まじい爆発が起きる。カイトはミトを守り、ゴンはすぐさまジンのもとへ向かう。
そこにいたのは心臓を握りつぶすシルバと、胸を抑えて顔を伏せるジン。直後、シルバは倒れる。彼が抜いた心臓はジンのものではなく、自分自身のものだった。
「オヤジ…」そう言ってキルアは即座にジンに攻撃を仕掛けるも、ゴンが身を挺して防ぐ。二人のオーラの凄まじい激突。衝撃波の中、隙を見たキルアがゴンの胸に右手を突き刺し、心臓をえぐり取る。それを見て呆然とするミトと顔をしかめるカイト、そしてキルアは自身の左手(左胸?)を確認し…
(BGM:太陽は夜も輝く)
解説
見ての通り、原作とは全く異なる暗い展開になっている。旅団はおそらく壊滅し、クロロとクラピカは相打ち同然で両者とも死亡。絵コンテではクラピカの左目は潰れているようにも見える。
ゴンとキルアはそのまま離れ離れとなり、再開後も会話することなく殺し合うこととなる。
ゴンとキルアの最後の戦いの結果は不明だが、噂ではゴンがキルアを殺してしまうとも言われており、左手を確認した場面では絵コンテになんじゃこりゃあの注釈まで入っているため、この時点でキルアは致命傷を負ったのではないかと推察される。
この結末はゴンとキルアが光と闇という決して交わることのない存在であることを示唆するもので、その後の原作の展開とは大きく異なっている。
古橋一浩監督のコメント
アニメ終了時に、監督の古橋一浩はクラピカについて以下のようにコメントしている。
- 後半のクラピカのとらえ方だけは、意図的に原作と変えました。悪人といえど人を殺した段階で、クラピカは同じステージに降り立ったわけです。復讐される側に立っているのに、幸せになれるはずがない。人殺しの罪は何より重く、それを清算する方法は一つしかないから。クラピカは、あえてその生き方を選んだ。覚悟の上で散っていくという未来が、クラピカにはふさわしい。……わたしはそう考えています。(ソニー・マガジンズ刊『AX』2001年6月号より)
このコメントからも、古橋監督はクラピカが復讐を果たすために死ぬという結末を描きたかったことがうかがえる。