概要
手のひらに濡れた口があり、白熱して膨れあがったぶよぶよとした体をした人間に似た姿のグレートオールドワン。
イゴーロナクの存在は『グラーキの黙示録』の第12巻に記されている。なお、本来のグラーキの黙示録は全11巻構成で、ある男がゴーツウッドの郊外マーシー・ヒルの頂上で夢に導かれて第12巻目を著したとされ、後にブリチェスターの書店が買い取ったとされる。
イゴーロナクはグラーキの黙示録を読んだ者の下に現れて影響を与えるとされ、逆に言うとそれ以外の人間には大した働きかけができないという面を持つ。TRPGではルール上、12冊の中の一冊の一ページでも目にすればイゴーロナクが接触出来るとしているが、実際にはグラーキ黙示録の中のあるページ(おそらくはイゴーロナクについて言及されたページ)を読んだ人の所にのみ現れる。そのページが12巻のものなのか他の巻なのかもはっきりしない。
イゴーロナクは自らを崇拝する地球のカルトの新しい神官を選ぶときにのみ現れる。これらの侍祭は残忍な願望を抑えている者から選ばれ、イゴーロナクはそれを叶える代わりに隷属することをもとめる。その結果、イゴーロナクの崇拝者達は特に邪悪ではあるが、数は少なく、単独でそれぞれの邪悪な行為を働くことを好む。
イゴーロナクの特徴的な姿は、選別された者(司祭)の肉体に邪神が憑依・顕現することによって生み出される。姿の詳細は選ばれた人間によって異なる。
そのため、書籍によっては「憑依の対象によって姿の詳細が変わる(エンサイクロペディア・クトゥルフ)」、「女性に憑依した場合、股間に鋭い歯が並んだ第三の口が生じる(ケイオシアムのTRPGシナリオ)」と記載されていることもある。
イゴーロナクは地中の夜の深淵を越えた先にある煉瓦の壁の向こう側で眠る存在である。だが、邪悪があるときイゴーロナクの名が唱えられ、または人目にさらされることで邪神は崇拝者や餌食を求めて現れ、犠牲者の肉体と魂を乗っ取ることで人の世へ帰還し、旧支配者が復活する日を待つのである。
信仰
カルトはほとんど持っておらず、それぞれも非常に小規模であるが、崇拝されれば威厳を持って応える。
イゴーロナクを信奉する最大のカルトは“Sons of the Hands that Feed(喰らう手の息子たち、貪る手の息子たち)”であるが、それでもメンバーは世界中でたった100人しかいない。
この神格は今のところ進んで影響範囲を広げようとは思っていないようである。
登場作品
ラムジー・キャンベルの短編「コールド・プリント(Cold Print)」がイゴーロナクの初出作品にあたり、教師の職に就くサム・ストラットという男を主人公とする話で、書店巡りを日課とする主人公をイゴーロナクの司祭が“心の内に邪悪を探す者”と見込んで新たな司祭にしようと画策する。
作中、イゴーロナクは書店の店長を装ってグラーキの黙示録を人目につく場所に置き、手ぐすね引いて自身の望む邪悪な人物を待ち受け、その役目にあたらないと見なした者を餌食として食い殺しており、雪が降る冬の街という舞台設定も合わさって暗い恐怖を喚起する短編である。
しかしながら、主人公の持つ邪悪な性質というのが特殊な分野の書籍を好み、肋木を登る生徒の姿にリビドーを覚える等の性癖であり、肝心のグラーキの黙示録の第12巻も台帳型の古い綴本とされ、主人公がイゴーロナクを脅しつけて逃げるために火をつけたマッチを綴本に近づけて脅したところ、そのまま炎上して灰になるという散々な扱いを受けている。
また、海外のクトゥルー神話TRPGサプリメントの公式サイト「Delta Green」に掲載されている短編小説の一つに「Y.GOLO.NET」がある。同作では司祭の手によってグラーキの黙示録の一節が記されたスパム“イゴーロナク・メール(Y’golonac mail)”が全世界のネットユーザーの下へ送られたために各地で猟奇殺人事件が頻発し、検証に当たる者も含めて爆発的にイゴーロナクの接触対象と犠牲者が増大している背景世界が語られている。