概要
伝説の「大破壊」によって荒廃した世界、そのうちの一地域「アシッドキャニオン」を舞台にした『メタルマックス2』。多くの町やダンジョンがある中、ひときわ異彩を放つ施設、それがデスクルスである。
順当に旅をしていれば最初にデスクルスの名を聞くのは湖東の町イスラポルトだろう。病院で臥せっている1人の男が謎の感電をしながらデスクルスの名を叫ぶ。その時は意味がわからなくとも、プレイヤーに印象を残す名前として刻まれるであろう。
次にこの名前を聞くのはおそらくモロ・ポコの町だと思われる。そこで聞こえるのは「入ったら二度と出て行きたくなくなる町」という妙な言い回しの評判であった。
そして、巨大な谷レインバレーまで辿り着いた一行の前に巨大な建造物が姿を見せる。
確かに目の前にある坂を下りればレインバレーなのだが、その前に興味本位で入ってみた人もいるのではなかろうか。
いきなり流れるエルニニョの町と同じBGM・・・そして書かれていた看板に書かれていた「じゆうの らくえん デスクルス」の文字・・・なぜか刑務所の面会窓口の向こう側でモロ・ポコの評判と同じ言葉を喋る人々・・・
いよいよもってプレイヤーの疑いは確信へと変わる。
騙されて連れてこられた人々が閉じ込められている刑務所そのものであることを。
しかし騙されるのを覚悟でいざ潜入してみたとき、さらに想像を絶する実態が広がっていたことを、まだ知る由もなかった。
「ドラム缶」
意を決して潜入すると、やはり待っていたのは強制労働であった。
しかしその労働内容は一般の刑務所とは一線を画す。
広場に置かれた5個のドラム缶。
これをすべて広場の反対側へと押していく。
それが終わったら看守へ報告し、
そのドラム缶を今度は再び元の場所へと戻す作業が待っていた。
何の意味があるのだろうか。
しかも看守が言うには翌日は本日の2倍のノルマになるとのこと。
どういうことだろうか。
翌日。
広場に置かれた5個のドラム缶。
これをすべて広場の反対側へと押していく。
それが終わったら看守へ報告し、
そのドラム缶を今度は再び元の場所へと戻す作業が待っていた。
戻し終わったら看守へ報告し、
戻したばかりのドラム缶を再び反対側へと押して行き、
報告ののち再び元の場所へと戻していく。
本当に何の意味があるのだろう?
看守が言うには翌日は本日の2倍のノルマになるとのこと。
そろそろ自分の名前さえ忘れかけてくるころである。
翌日。
広場に置かれた5個のドラム缶。
これをすべて広場の反対側へと押していく。
それが終わったら看守へ報告し、
そのドラム缶を今度は再び元の場所へと戻す作業が待っていた。
戻し終わったら看守へ報告し、
戻したばかりのドラム缶を再び反対側へと押して行き、
報告ののち再び元の場所へと戻していく。
2往復したことを報告した一行は、
それらドラム缶5連を反対側へと押して行き、報告してからそれを戻していく。
もう一度報告し、
やはりドラム缶5連を反対側へと押して行き、報告してからそれを戻していく。
ここで生きる意味とは一体なんなのか。
そんなことを考える間もなく、
ここでの生活が板についた一行は、看守によって、厨房係へと任命された・・・
厨房では食器の整理を命令される。
しかし一行はこの刑務所から脱獄した男の噂を聞かされる。
独房からある日忽然と姿を消した事件があったこと。
そこでは怪しい金属音がしていたという。
食器の中に割れたスプーンを見つけた一行は、噂を辿ってそのスプーンを使い、掘れそうな地面を探り当てる。
首尾よく地下へと逃げ込んだのち、地下道を抜けて刑務所の外へと脱出したのであった・・・。
要約および実態
意味のない強制労働とは、最も精神的にこたえる拷問である。
だが、それをゲーム内において忠実に実装してしまったことで、ドラム缶ならびにドラム缶押しの作業が、プレイヤーの脳髄へと嫌でも刻まれることになり、それまでは崩壊した世界において使いまわしのよい道具程度にしか思われていなかった「ドラム缶」というオブジェクトが、メタルマックスシリーズを象徴する道具の1つへと昇華された瞬間でもある。
ちなみにこのドラム缶押しを卒業したい人は、厨房において絶対に木箱を調べてはならないことを忠告しておこう。入口からは出られないが、メモリーセンターは利用できるため、セーブしておくのも手かもしれない。
厨房の置くにある食器棚から「さきわれスプーン」を発見することで、使われていない独房のタンスの真下にある地面を掘り進み、地下から脱出できるようになっている。敵も出現するが、きゅうけつナマコやびんかんバニーといった弱い敵なので大丈夫だろう。
しかし、この刑務所の真の恐ろしさは、頭防具を感電ベルト「エンジェルリング」に強制交換させられており、現時点では自分じゃ外せないという点。看守である監獄キーパーにまともに逆らうと、電撃リモコンによって強制的に「マヒ」状態にさせられ、全滅してしまうのである。イスラポルトの病院にいた男が感電していた理由でもあり、多くの強者がなぜこの刑務所から出られないかの答えでもあった。非常にレベルが高い場合や、スリープ・ボトルなどで状態異常に落として足止めすれば例外的に勝てるかもしれないが、正攻法ではひとまず看守は放っておくのが定石となる。
感電ベルトは守備力自体は無いに等しいため、脱獄するだけでは真に解決したとは言えない。今後のことを考えると、大元を断つ必要があるだろう。
対処法はきちんとある。リモコン一つで感電させられるのは送電施設というカラクリが存在するためであり、デスクルスの地下道から送電コンピュータへ辿り着いてこれをOFFにしてしまえば、監獄キーパーはもはや、偉そうに威張っているだけのタダの人。
しかし彼らがボスというわけではなく、本当のボスは刑務所中心部の見張り塔の頂上で待ち構えているスカンクスコピー。かつてのスカンクスと似ているが、ポチをつれてこられないうえに白兵戦を余儀なくされるため十分な戦力は必要になるだろう。
かくしてスカンクスコピーは撃破され、刑務所を牛耳るグラップラーの勢力が消えうせた次の瞬間、囚人たちはいつの間にかこの敷地を自分たちの町として使うようになっていた。この切り替えの早すぎる対応も一種の持ち味と言えよう。
グラップラーが牛耳っていた割には、人間狩りへ連れ出したという報告が噂一つ立っておらず、人間狩りに利用できそうな囚人の中には何故か10年もここで労働させられていた人までいたらしい。なぜ人間狩りに送られなかったのかという点など、最後の最後まで目的がよくわからない刑務所であった。
なお、町として解放されてからはエンジェルリングも外れるようになり、入口は戦車止めの杭が抜かれ、戦車に乗ったままで買い物などができるようになる。受付で装備品を返してもらうのを忘れずに。
アフターエピソード
町として解放されたデスクルスだが、広場へ向かうとそこにはドラム缶5連が変わらず設置されている。もちろん看守だった男はもはや命令するわけにもいかず、かといって解放された町へおめおめと入るわけにもいかないのか、看守だった頃の場所で立ち尽くしていた。
しかし彼が言うには目の前で自分にとって異様な光景が未だ繰り返されているらしい。
「別に、誰に命令されたわけでもねえのに、みんな時々ドラム缶を押しに来るのさ。
どうしてだ? 懐かしいのか?」
これまで人々をこれでもかとムシケラ呼ばわりしながら命令してきた男だが、さすがに自分の所業の深さはなんとなく自覚していたらしい。
この問いに「いいえ」と返答すればそれを窺わせる科白を見る事ができる。
「んなわきゃ ねえよな‥‥ 俺もこの仕事が長いから、そろそろヤキが回ってきたかな‥‥。」
それは、命令していた立ち位置にいながらも何もすることができず、狂気の光景を見せられる毎日であった。
しかし、このやりとりの見所は、この問いに「はい」と答えた場合にある。
「わかんねえな‥‥ 俺には。
‥‥押してもいいんだぜ! 懐かしいドラム缶をよ!」
やられたと思ったプレイヤーはどれぐらいいるのだろうか。
確かにもう何のかかわりをもつ必要もないドラム缶ではある。
しかし、押すという自由は確かにそこにある。
だが、途中でやめても、誰に咎められるわけでもない。
かつては無意味で過酷な往復だったが、終わってしまえばドラム缶が懐かしいと本気で思ったプレイヤーもいる。
あるいは、かつての真似事をしながらも途中で放棄して帰ることで、改めて自由を体感したプレイヤーもいる。
この町で強制労働を味わうことにより、自由って素晴らしいということを逆説的に気づかされるスポット、それがデスクルスなのかもしれない。