概要
アプリあんさんぶるスターズ!の登場人物影片みか×斎宮宗の腐向けカップリング。
ユニット「Valkyrie」のメンバーであり、リーダーの宗の家に関西出身のみかが居候している。
みかは宗を崇拝しており、宗が他人から変人扱いされたり、貶されたりといった際にみかはいつも怒りをあらわにしている。一方宗は普段はみかを「粗忽者」「脳みそを落っことした失敗作」などと罵ったりするものの、「メンテナンス」や「調律」など、パフォーマンスから散髪に至るまでみかの世話をなにくれとなく焼いている。かと思えば、追求のあまり明後日の方向に向かう宗をそれとなく押しとどめたり「しょうがないなぁ」と受け入れたりするのがみかである。
自らを「お師さんの人形」と呼ぶみか。それはお師さん=宗への崇拝の証でもあると同時に、みかのプライドでもある。「人形」だと自らをいう彼が、いかに「人間」になろうとするかは、下記のストーリーから辿ってみていただきたい。
公式では
イベントストーリーのネタバレがあります
●「追憶 マリオネットの糸の先」
1年前を扱う「追憶」中で最も早く公開されたストーリー。かつて学院の王者と呼ばれていたかつてのvalkyrieの栄光とその終焉を描くストーリーである。
●「Saga 駆け上がるレインボーステージ」
(さあ、俗物たち!後で振り返って、自分たちがどんだけ見る目の無い阿呆やったか気づくんや!ほいで、俺と同じぐらい悔しがれ……!)
引退した往年のアイドルたちが「弟子」を取り、その様子を記事にまとめるという企画―Saga計画―に椚先生から参加を命じられたみか。Valkyrieの活動資金を稼ぎたい彼だが、宗によるアイドルの歴史と愛を約2時間以上も聞かされるなど、宗に憧れて飛び出してきたが知らなかったアイドルの歴史に触れ、Saga計画への参加を決意する。
――そしてやってきたお披露目ライブ本番当日。みかは困惑していた。
ダンスはお師さんから学んだものに比べ、あまりにも単純だった。
パフォーマンスはValkyrieに比べて精密ではなかった。
それなのに、なぜお客は喜んでいるのだろう?
なぜあれほど血を吐くように努力したお師さんは、ドリフェスの投票では認められないのだろう?
その悔しさに、みかの心は怒りに燃える。
そこで心の中で発した台詞が冒頭のものである。お師さんを認めない、数字に眩んで認識しようともしない人々への怒り。その怒りを、みかは表面上ではパフォーマンスを続け笑いながら、たぎらせていた。
……後に述べるが、形は違えど「人々への怒り」が、そして芸術がみかと宗を結びつけるものであった。
その様を、春川宙は次のように述べている。
(ドロドロしてる……。でも、その奥にとっても強くて綺麗な光がある)
(マグマをお腹に溜めた火山な~。それがほんの少しだけ吹き出し始めてる)
(そんなものを浴びたら、世界はどうなっちゃうんでしょう?怖いけど、ちょっと見てみたい!)
なお、このストーリーで宗が実際に登場するのは一話だけである。
そして、Sagaシリーズはフルボイスが実装されている。そのみかの笑いは、どうかご自身で聞いていただきたい。
●「演舞 天の川にかける思い」
「失敗作でも出来損ないでも、おれがお師さんの唯一の人形や。舞台の上ではな!」
「泥だらけの薄汚い烏の羽でも、折れて痛くてほんの少ししか羽ばたけへんでも!一瞬でも1ミリでもお師さんをより高く、導けるなら!ほんのわずかでも、お師さんの役に立てるなら!ぜんぶぜんぶ売り払ったる、人生も生命もなにもかも!」
「そのためなら将来なんか、おれの明日なんか要らんわ……!」
ドリフェスにはまだ参加しないものの、ライブハウスなどで少しずつ勘を取り戻しつつあるvalkyrie。彼らをドリフェスへと引きずり出すべく、英智が宗にあえて喧嘩をうり、七夕祭のステージへと誘いだそうとする。
かつてValkyrieに所属していたなずなを人質に取り、宗を煽る英智に対し、宗の命令により黙っていろと言われたみか。しかし、お師さんが、過去にトラウマを植え付けられた相手に罵られている、圧を掛けられている。そんな事実に腹が立ったのか、
「なぁ……あんた、もう黙ってくれん?」
「あんたが、お師さんの何を知ってるっていうん?」
「あんた、もうお師さんに関わらんといて……。頼むから、ほっといてや?」
と英智の胸倉を掴んでまで怒りを露わにしていた。今まで()内で表現されていたみかの怒りの心情が口に出た瞬間である。この二人のやり取りを見た宗は、「やめろ、影片」
「やめてくれ」と制止の声をあげていた。このやり取りがただのカップルにしか見えなかった人はそう少なくはないだろう。
そして、その後、宗が手芸部部室内で毛布をひっかぶって七夕祭の案を考え、それに幼馴染のはずの紅郎までドキッとするなか、平然と「いろいろまとまったら、また動き始めてくれると思うわぁ、良くあるんよ、こういうこと」というのも、またみかである。
だが、このストーリーではこれすらも序の口である。
七夕祭当日。ドリフェスに出場したValkyrieは、英智の予想を上回り、「異形」と評されるほどのパフォーマンスを見せつける。そして、みかもまた、ダンスと自身の歌声でその存在を見せつける。それならばしっかりと、正統派のレッスンを受ければよいという弓弦にみかは冒頭の台詞を言い放つ。
自分は宗の人形であり、そうあれるのなら、宗の芸術の一部となれるなら、自分の未来なんかいらないと。
「お師さんの人形」としてもっとも分かりやすく激烈なせりふであることから、みかと人形の文脈ではこのセリフが良く引用される。しかし、ちょっとまっていただきたい。この台詞には「唯一の」「お師さんを導く」という表現も含まれている。もしかするとみか自身も気づいていなかったかもしれない、宗に対するプライドと執着と――そして「人間」になろうとする兆しさえも見られるストーリーとセリフである。
●「リアクト マジカルハロウィン」(秋)
「うん、せやけど、そんなおれをお師さんは捨てずにずっと手元に置いてくれたんや」
「おれがおるよ、ずっとずっと、おれが一緒におるよ」
「『Valkyrie』が消えてなくなっても、たとえ死んでも、地獄の底までお師さんと一緒やで」
Valkyrieは七夕祭以後、評価を回復し始める。ハロウィンライブで目の回るような忙しさの中の宗だが、彼もまた、まちがいなく変化しはじめていた。――彼のもつアンティーク人形・マドモアゼルの声が聴こえなくなりはじめていたのだ。それは、1年前の革命で傷ついた宗が回復し、大人になりつつあることを示していた。
一方、みかも不気味がっていた。近ごろの宗はかつてのように罵声を浴びせることが少なくなり、みかに任せたり手ずからさらに教える部分が多くなってきていた。そのことを想いだし、みかは宗が「死病にでもかかったのではないか」と不安がる。
そして当日。関西から駆け付けたみかの「きょうだい」たちの前で、Switchとの合同ライブが開催される。その際の台詞が冒頭のものである。むかしむかし、ゴミ捨て場にいた自分を拾って着飾らせてくれた、体温を与えてくれた宗から離れては生きていけない、と。
「地獄の底まで」というのがあまりに激烈なためにこの部分が強く残っている読者も多いだろうが、問題はそのあとである。
「今は『Valkyrie』の出番やで~、他のひとは引っ込んどき!お師さんと、お師さんの人形だけが、今はこの世界の頂点で中心なんや!」
Valkyrieの、あんスタにおいて何度も繰り返されるテーマの一つ、「永遠」。まだみかは「お師さんの人形」であり、傑作で後世にも残る宗の作品の一部であれることが、永遠に至る道だと疑っていない。そして七夕祭でもみたように、みかはお師さんの「今は」舞台上での唯一の人形であることを自負している。
だが、もうそれだけではいられない。ハロウィンライブの衣装を作りながら宗はいう。
「別離の瞬間が訪れるまでに、これまで僕に文句も言わずに付き添ってくれたあの出来損ないに……あの愚かな案山子に、一人でも生きていけるだけの財を遺そう」
「あれには豚に真珠、猫に小判かもしれないけれど。単なる代償行為、意味のない感傷かもしれないけれど。あの壊れかけの人形に、せめて僕の仕立てた最高の衣装を」
宗はつむぎから指摘される。それはみかの将来を、自分のことを後回しにしてまで考えてのことであることに。
「衣装をつくったお師さん的には、悪魔をイメージしたみたいなんやねんけどなぁ。難しすぎて子供には伝わらへんから、多少わかりやすい要素をいれてもろたんよ」
「…うん。今回は、『Valkyrie』は俺が中心になったパフォーマンスをするんよ」
「お師さんの真意がどこにあるにせよ、おれはその望んだとおりに振る舞ってみせる」
影片みかもまだ気づいていない。自分が「表現する」ことへの一歩を、人間への一歩を踏み出していたことに。
2人を単に時間の止まった「永遠」の先へ向かわせるべく、物語は動き出していく。
●「スカウト テディベア」
「この世の何もかもを憎むみたいに、執念深く芸術していたお師さんが好き!」
「お師さんが、おれの知らんひとみたいに変わってしまったなら……おれ、おれ、ほんまにどうしたらいいかわからへん」
宗がみかに「やさしい」という状態はその後もつづき、みかは不安に駆られる。そんな中、不注意でみかは宗の大事にしていた年代もののテディベアを壊してしまう。それをきっかけに、みかの不安はついに決壊する。
自分は、宗の世界にはいらない失敗作の人形ではないのか?
いらないから、宗は自分にやさしくしようとしているのではないか?
自分がいることで、宗の芸術は損なわれてしまうのではないか?
これまでの事典中で何度もふれたとおり、みかは宗の「人形」であること、宗の完璧な世界の一部であれることを誇りに思ってきた。その中で、みかの人間としてのプライドの萌芽にあたるもの――美しく振る舞うこと、彼らを認めない「世界」に対して立ち続けること――もすこしずつ育ってきた。
だが、それはまだ「人形」として、みかにとっては絶対的な宗の存在があってのことだった。それはみかが宗の「唯一の人形」という自負がなくなった時、その誇りもなくなることも意味する。その揺らぎがこのストーリーでは一気に噴出する。
物語は宗が血相を変えてみかに電話をかけてきたところ、つむぎたちが宗がみかを大事に思っていることを指摘すること、仲直りのためにみかが新しいテディベアを買おうとするところで終わる。
「ほんまはずっと抱っこしてもらいたいっておもってたから」
●「モーメント 未来へつなぐ返礼祭」
「ならば神様のいじわるや、この世の理不尽、全てを愛すべき芸術に変えて見せびらかそう」
「うん。それで救われる魂もあるやろ、おれみたいに」
間もなく返礼祭というころ。海外留学をする予定の宗を前に、みかは宗が卒業すればValkyrieを解散する気でいた。「人形」である自分が宗の芸術を怪我し、地に貶めるのがいやだったからだった。
だが、渡航前の最後のライブを終えたその直後。宗はみかに「ここから先は人形はいらない」と言い放つ。
宗にとって芸術とは、人間が行うもの。人を獣から、弱肉強食で本能のままに動く生き物から引き離すもの。踏みにじられた者たちが、愛や正義を謳って恥じない横暴な本能に逆らい、別の価値を作り、そうしてほかの踏みにじられたものたちを守りうる、――「人間性」の別名。それが、かつて踏みにじられた時に裁縫やアンティーク人形に救ってもらった宗の、「世界」を名乗るものたちへの怒りの源泉であり、ともに歩くものに求めるものだった。
それができないのならば、荷物をまとめて去れと。
ショックを受けたみかは故郷へと帰る。だが、そこで彼はようやく気付く。
自分が、生まれ育った孤児院の子供たちの憧れになっていたことに。かつてのみかにとっての宗になっていたことに。
そうして、みかは自分の芸術の源泉に気付く。愛されなかった、虐げられた、我慢してきた子供たちにとっての光になること、手が届く憧れになること。それが先に気づいた宗が「情熱と執念」と呼んだ、そしてこの直前、Valkyrieの作品を子供に対してヒットさせたみかの芸術の基になるものだった。――Sagaの説明でのべた、宗とみかが共有する「世界への怒り」だった。
そして返礼祭当日。急ぎ整えたみかのステージが開幕する直前、宗はみかを「芸術家」のとば口にたったと認める。それは、みかが「人形」ではなく「人間」として、宗と共に歩いていけることを意味していた。
「おめでとう影片。君は人間らしく……運命をわずかに変更した」
「到底覆せないような理不尽な現状を、執念と情熱で変えてみせるがいい」
最後に一つだけ。タイトルともなっているモーメント(moment)の意味はいくつかある。一つは「瞬間」。そしてもう一つは物理の用語、動き出す物を回転させる力の大きさである。
一つの瞬間の中に留まらず、その先へ動き出して、2人の芸術家の物語は続いていく。新章にむけて。人類が続く限り、美しい物を本能に逆らって残そうとする人々の意志へ、「永遠」へと繋いで。
「灰は灰に、塵は塵に……それが神の定めた道理なのだろうけど、僕たちは尊く価値のあるものを保存し、来たるべき麗しの新世界へと運ぼう」
「それが罪だというのなら、一緒に地獄に落ちてくれるね?」
「うん、地獄の果てまで一緒やで。泥の底に沈んでも、世界中の人に忘れられても。俺が一緒におるよ。せやから、おれたちは……『Valkyrie』は永遠や」
余談(イベスト以外)
①ユニットソング
最初のユニットソングのCDジャケットでは、操り人形と人形師という関係性が目立ったデザインだったが、回を得るにしたがって、対等に共闘するような絵柄に変化していく。
②みかソロ曲「琥珀ト瑠璃ノ輪舞曲」
アルバムシリーズで初公開されたみかのソロ曲を聞いた人々からは「明らかに宗に向けての歌」「重い感情」という声が相次いだ。