「恐怖の幻影」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第28弾「PHANTOMS OF FEAR」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
作品解説
クールの北東、アフェンの森の奥深くに住む、森エルフの集落。
そこに住まうエルフの中に、戦士を父に、シャーマンを母に持つ者がいた。それが君……エルデナリン、すなわち「部族の守護シャーマン」である森エルフである。
既に両親は、ティール・ナン・オグ……エルフたちの母なる海の息子の島、時が来れば誰もが行かなくてはならない場所に旅立った(これは、人間で言えば「寿命で死んであの世に行った」という事に等しい)。
そんな君は、ある日に夢を見て、目覚めた。夢の中で啓示を受けたのだ。
タイタンの魔界に存在する、デーモンたちの長「魔王子」。
そのうちの一つ、魔王子イシュトラが混沌の怪物たちを集めだしているという。タイタンのこの現世を支配すべく活動を開始したのだ。
とはいえ、混沌の軍勢ゆえ、忠誠など彼らには無い。イシュトラでさえ、魔法で無理やり部下たちを抑え込んでいる始末。ゆえに、イシュトラを倒せば、軍団は瓦解する。
そしてまだ、イシュトラの軍は大きくはない。なので……すぐに旅立ち、対決せねばならない。
目覚めた君は、夢での啓示を皆に伝えた。神が、エルフの主神にして創造主たる女神ガラナ(エルフたちは、リリアナと呼ぶ)が、そして善き神々が、イシュトラを討つために自分を選んだのだと。
君は森エルフの中でも「夢の世界を歩む」事ができる能力を有している。それはイシュトラの強大な力に比べ、ほんのちっぽけなものに過ぎない。だがそれでも、神は君を選んだ。君は魔法の剣・テレッサを手にして、旅立った。
シリーズ28弾。
今回は、「善なる種族の森エルフが主人公」「データベースに掲載されているだけだった、魔王子イシュトラをラスボスに」という内容になっている。
主人公=プレイヤーキャラクターが森エルフとなり、人間と異なる価値観と視線・視点で動く。これは「モンスター誕生」でも、「主人公がモンスター」というところから行われていたが、本作では「人間より長い時間を過ごし、人間と異なる思想と思考を持つ」という存在を主人公にしているため、また違った冒険譚が楽しめる。
人間の立場で考えて、良かれと思い行った事が、かえって良くない事を起こす、もしくはエルフにとっては推奨しかねる行為だという事が、各所で見られるのだ。
また、本作におけるエルフは、「剣の他に魔法を使える」が、この魔法は系統が決まっているわけではなく、使う時々にふさわしいものとして選択肢に出てくる処理になっている。減らすのは体力点でなく「魔力点」になるが、ソーサリーに若干近い。
加えて、「夢の啓示を受ける」という特徴を有している。これは本作におけるエルフの個人的な能力のようだが、この「夢」というものを行き来する能力を駆使し、様々な情報を得たり、進むべき道のヒントを得たりする事も可能になっている。
本作では、人間の冒険者ともかかわる事はあるものの、基本的に主人公はあまり他の登場人物と関わって進んで行くような事はない。あくまでも森エルフは孤高に、自然と夢とを重視して、人間など他種族とは簡単に慣れあわずに己が道を行く。そのような特徴が描かれている。
そして、後半になり。イシュトラの軍勢が駐留している洞窟内では。悪夢と現実とが半ば重なり合っているような状態なので、夢の世界と現実世界とを行き来できるような舞台になっている。
そして、選択次第では現実世界でも、夢世界でも。どちらでもイシュトラを迎撃する事が可能になっている。
ただし、現実世界ではイシュトラは(たとえ魔法の武器を有していても)倒す事はできない。なので、現実世界で魔法を用い、イシュトラを奈落に追い返すか、夢世界で自身の魔力を高めたうえで、夢の中でイシュトラと戦い倒すか(完全に滅ぼせはしないが)、そのどちらかを選ぶことになる。
「夢と魔力を操る森エルフ」だからこその冒険を、本作では体験できるのだ。
そのイシュトラにしても、タイタン世界における最強の悪の一角であり、データベース上で記されはしていても、作品に登場するのは初めてである。そして世界観の資料に描かれていた通り、最強かつ最恐の存在である事が、作中では描かれていた。
資料集「タイタン」で描かれていた魅力が、作品に活かされた。そんな一冊である。
唯一の問題点は、人と異なるエルフの思考を理解したうえで進めねばならないため、初心者にはややとっつきにくい設定と内容な事くらいか。
ただ、ある程度はタイタンの世界観に慣れた者なら、よりわくわくする作品である事は間違いない。