「モンスター誕生」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第24弾「CREATURE OF HAVOC」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
作品解説
背景
アランシア東部、逆風平原とトロール牙峠の北側。そしてクモの森に月岩山地と呼ばれる一帯。そこは、妖術師ザラダン・マーの支配地域である。
誕生
悪名高き魔女たちの村、ドリーで生まれたザラダンは、恐れられている魔女三人「ドリーの三姉妹」により育てられた(老婆の魔女しかいないドリーで、誰が父親なのかは不明。地獄デーモンか、魔術の産物か、色んな説がある)。
ザラダンは成長し、そして邪悪な魔術師ヴォルゲラ・ダークストームのもとに生徒として赴いた。
ザラダンは、魔女たちのまじないを軽蔑していた。唯一、別の生物同士の器官をつなぐ「マランハ」のみは夢中になっていた。
友人でライバルでもある同期の二人……オルドラン・ザゴールと、バルサス・ダイアとともに学んだザラダンは、全てを学んだ後に三人で協力し、師匠を殺害。師匠の研究室を略奪した後に、ダークウッドの森で過ごし、それぞれの道を目指して別れていった。
野望の開始
ザラダンはドリーの村の近くにある町、コーブンで、鉱夫と身分を偽って向かった。
最初は、地下に自分の居城を築くつもりだった。が、その前に金の鉱脈を掘り当ててしまった。
イエローストーン鉱山は、ザラダンに金と権力を与え、彼の真の目的……己の帝国を築き、全アランシアを征服するという野望を実現するための手がかりになった。
ザラダンはヴァラスカ・ルーを引き入れ、金山を管理させた。そして近くのよじれ樫の森に住む、中立の魔術師・ハニカスから聞いた伝説の事を考えていた。
エルフの「煙」の伝説
ハニカスはトロール牙峠一帯の伝説に詳しく、その知識を得るためザラダンは味方に引き入れていた。そしてその伝説の一つに、エルフの「スティトル・ウォードの煙」があった。
クモの森の奥深くにある、美しい「虹の池」、その一帯を支配する森エルフの村・エレン・ダーディナスこと、スティトル・ウォード。
そこのエルフには、冒険心に富む者もいた。そのうちの一人、リーハ・フォースルホープは、人間の村の居酒屋に出向いては人気者になり、酒に酔い、エルフの秘伝を人々にべらべらと口にするようになっていった。
その秘伝とは、このエレン・ダーディナスにて神々と契約を交わしたエルフの女王が、代々神々と交わり、出産した「煙」……すなわち特殊な力を持つ精霊に関するものである。
そして現在の女王エレシスは、この「煙」を三つ有していた。交わる神によって煙は異なるが、エレシスは言葉と理性と、魔術の三神と交わり、それぞれの煙を出産していたのだ。
この、エルフの魔術を手に入れれば、ザラダンは無敵になる。
新たなる邪悪の仲間
数年かけて、ザラダンはスティトル・ウォードを探していたが、見つからずにいた。その間にも金山はより大きくなり、ザラダンは更なる富と権力を得ていた。
ヴァラスカは半トロールのサグラフを連れて戻り、ザラダンの新たな仲間として紹介。
サグラフはよじれ樫の森にあるハニカスの家を改造し、来るべき侵略のための軍隊の「訓練所」を建設。その訓練所所長となった。
全ての伝説を聴き終わり、ザラダンはハニカスを無価値と判断。
加えて、ハニカスの代わりの人材を、ヴァラスカはすぐに連れて来た。それがポート・ブラックサンドの士官をしていた、ハーフエルフのアンデッド、ダラマスである。
ダラマスは拷問や殺害を喜び、死刑を自らの手で行っていた。処刑の前には、長時間の拷問を行い、楽しんだうえで。
イエローストーン金山の管理長に付いたダラマスは、まず労働者たちの給料として鞭打ちと鎖での拘束を支払うように。倒れるまで働かせ、倒れたら立ち上がるまで鞭打つのだ。
鉱夫の数は当然激減したが、そうなったら近隣の村々に、サグラフが率いる軍が奴隷狩りを行い補充。金山は更なる富をもたらし、軍も強大になっていった。
英雄でも傑物でもないハニカスは、どちらかと言えば無能な魔術師であった。そんな彼には、もう抵抗するすべなど無かった。
無垢なるエルフの裏切り者
そして、サグラフの訓練所の兵士たちに対し、一人の森エルフが興味を覚えた。
ダーガ・ウィーズルタング。エルリア・フォールスホープの従弟で、酔ってエルフの秘密を口走った、リーハ・フォールスホープの曾孫。
ダーガはサグラフの兵士である一人のサイ男と仲良くなり、話し合う間柄になっていった。
ザラダンはこれを聴き、このサイ男に魔術で変装してダーガに近づき、彼の好意を得た。そしてこっそりと「魔法生物支配」の呪文をかけ、ダーガに意識させないようにして、三つの「煙」を盗ませ、それを成功させた。
だが、持ち帰った「煙」をどんなに調べても、使い方は全く分からない。スティトル・ウォードの村そのものを見つける必要があると、ザラダンはその誓いを新たにした。
空飛ぶ船『ガレーキープ』
しかし、村を地上から調べても、森の自然と魔術とでおそらく見つからない。
悩むザラダンは、東の空からやって来た空飛ぶ巨大な船を発見した。
人々にガレーキープと呼ばれたその船は、一千もの兵士が乗り込めるほど巨大で、なおかつ船体も分厚く、優雅に飛行している。
ザラダンはこの船の奪取を決意し、あれを用いて空からスティトル・ウォードを探索する計画を立てた。それだけでなく、この船に乗る事で、世界の支配者として己の名を鳴り響かせる事も可能だ。
こうして、ザラダンはトーキ(戦闘用のグリフォン)の部隊を編成し、訓練所で訓練を積んだ兵士たちをガレーキープに襲撃させた。
ザラダンは船を手に入れ、司令室をそこに置き、自身も船で生活し始めた。
ザラダンの躍進、そして世界の危機
現在ザラダンは、広大なクモの森の上空を探索している。
もしもザラダンがスティトル・ウォードを見つけ、「煙」の秘密を手に入れたら。もはや無敵になる。それに加えて、ザラダンの前に立ちふさがる者はいなかった。
チャリス、シルバートン、ストーンブリッジでは、勇敢な冒険者がかき集められ、「煙」の探索に出発した。が、その三都市の者たちは「煙」が何かすらわからず、冒険者たちに何を探せばいいかすらも伝えられていなかった。
あの排他的なドワーフの町、マイアウォーターですら、バードマンの軍隊を組織しようとしていた。が、バードマンたちはガレーキープを恐れ、奪還どころか接近すら不可能だった。
サラモリスでは、北にエルフを向かわせ、なんとか他のエルフたちに警告を伝えようとしていたが、これも無駄足に終わる算段が多かった。森エルフたちは、同じエルフの仲間も信用しようとしないからだ。
ザラダン・マーに対抗できる者は、存在しない。彼がアランシアを征服するのは、時間の問題だろう。
そして、ある地下迷宮にて
そして、ある地下迷宮の一角で。
理性無き一体のモンスターが、目を覚ましていた。
それは人間ではない。人間とかけ離れた姿で、手には鉤爪、皮膚は鱗に覆われ、相手を殺し、食らう事しか頭に浮かばなかった。
自分が何者か分からぬまま、モンスターは立ち上がり、歩き出した。
作品の解説
スティーブ・ジャクソン(英)が久々に手掛けた、彼の集大成ともいうべき長編の傑作。
パラグラフの総数は460、上記の背景も短編小説に匹敵するほどの状況説明と情報とが詰まったもので、ストーリー性もかなり濃く、プレイしクリアした暁には「密度の濃い物語を読み、体験した」という充実感に満たされる。
イアン・リビングストン、および後続の作家諸氏により、タイタン世界が整えられ、その世界観もより多く設定された後、それらを全て含めて反映させた作品として、本作は作られている。
今まで築き上げた、ファイティングファンタジーの世界の集大成として、作品が成立しているのだ。
作風としても、ジャクソン(英)が以前に手掛けた「地獄の館」のように、「特殊アイテムでなんとか状況を打破し先に進めても、それが正解のルートとは限らず、デッドエンドになる」という点が多々あり、クリアするのは非常に難しい。が、同作のように、「難しくとも、何度も挑戦して解きたくなる」という魅力にも溢れている。
そして最大の特徴が、主人公=君が人外、モンスターであるという点。
今までの作品は、基本的には読者の分身たる主人公=君は、人間であり、人と異なる存在とは相いれず、特にモンスターに対しては戦って当然、倒して当然といった暗黙の了解もあった。
が、本作はあえてその構図を逆転させ、「討たれるべきモンスターが、読者=主人公」とされ、その立場での視点で話が進んで行く。
当然、人間ではないので、屋外にて人間と遭遇すると、恐れられ、逃げられ、時には攻撃もしてくる。そのような立場の変化、視点の変化が、新たな魅力となっているのだ。
当然、これは単に立場を変化させただけ、またはモンスターを主人公にする事での新奇性をてらうだけではない。背景の長く、かつ多数の情報量と照らし合わせると、「モンスターが主人公」という事の必然性が明らかになってくるのだ。
すべての真相が明らかになると、仮に主人公が既存の作品のように「ただの人間の冒険者」だとしたら。ザラダンを阻めず、むしろ陳腐かつ必然性の薄い凡作か駄作になったと言っても過言ではない。
むしろ、この主人公がモンスターだからこそ、ザラダンを討つための存在として選ばれた。そう言いきっても過言ではない重要性が込められているのだ。
また、本作はジャクソン(英)のストーリー性が色濃く出ている。
この後、タイタン世界の重大な出来事として「トロール牙峠戦争」を、小説で発表しているが、これはジャクソン(英)および関係者諸氏の、「ゲームよりも、作品世界そのものをより楽しんでもらう」という方向にシフトしているためでもある。
本作により、ジャクソン(英)氏の産み出したタイタン世界のアランシアという地の冒険譚は、一つの極みを見せた。
今後は、この世界観をより良く見せて、読者に異世界での冒険譚を提供していく……という方向性に舵が切られるようになる。
ゲームブックとしては、非常に難しい一作ではあるが。
「ファイティングファンタジー」の、「タイタン」の世界に少しでも魅力を感じたならば、ぜひプレイしてほしい、そしてプレイすべき最高傑作と言える。
主な登場人物
主人公=君
本作の主人公。モンスターであり、地下迷宮の一角で目を覚ます。
当初は理性も無く、気まぐれと衝動とで動くのみの存在だった。大柄で体中は鱗に覆われ、怪力と鉤爪とを用いて戦う事ができる。通常の人間の冒険者や怪物などは、比較にならないほど強い。場合によっては一撃で相手を即死させる事すら可能(戦闘時、サイコロの目が6のゾロ目なら即死扱いになる)。また、鱗の皮膚は固く、並の剣程度では貫通しない。
人間の言葉や文字などはろくに理解できず、持ち物も気に入ったものでもなければ持ち去らない。打ち倒した人間などを、そのまま引き裂き、食らい尽くす。人間のみならず、ホビット(ハーフリング)の肉が好みで、柔らかくたっぷりした肉に牙を沈め食らう事で、体力を回復させる事が可能。
次第に、理性を得て、言語を解するようになり……。
ザラダン・マー
本作のラスボス。
空を行く巨大なガレー船、「ガレーキープ」に乗り、強大かつ巨大な軍勢を率いてアランシアを、世界を支配しようと企む悪の魔法使い。
ザゴールとバルサスの同門であり、三人まとめて「悪魔の三人」と後に呼ばれるようになる。幼少時には三人の魔女「ドリーの三姉妹」に育てられた。その時に、生物の器官を別の生物に移植し、モンスターを作り出す魔法「マランハ」を学び身に付ける。
父親は誰かは不明。一説によるとドリーの三姉妹が呼び出した地獄デーモンの一人とも、ザラダン自身がマランハの産物とも言われている。
当初はザラダン・ドリーの名前だったが、ヴォルゲラに師事している最中に、「改名の魔法」を用い、ザラダン・マーと名を改めた。
アランシアのエルフやドワーフ、各地方の軍や勢力と敵対しているのみならず、バルサスの軍勢とも敵対している。
バルサスの混沌の軍団に比べ、自身の軍団は中間管理職を多く擁し、訓練所のサグラフ、金山のダラマスといった人材を集め、うまく運営している。
周囲の存在全ては、自分が利用するためにあるものだと考えているかのようで、無能や役立たずと見なせば、身内や味方と言えども平気で斬り捨てる。ハニカスを斬り捨てたのみならず、選択しだいでは盟友で有能な部下のヴァラスカ・ルーですら、簡単に処刑してしまうほど残忍冷酷。
登場は最後の最後のみであるが、その打ち立てた帝国そのものの大きさから、その力の強大さ、悪の支配者としての貫禄とカリスマ、そして力を渇望するゆえの貪欲さが伝わってくる。タイタン世界における最強の悪の存在の一人と言って過言ではない。
ヴァラスカ・ルー
ザラダンが金山の管理を任せるため、雇い入れた男。なりはみすぼらしいが、丸々と太り気性が激しく、力を渇望し、鉄のように固い意志を持つ。ザラダンに忠誠を誓い、ザラダンも彼を信用し、秘めた野望を明かした。
ザラダンの軍を指揮する人材を探し、スカウトしたのは彼の手腕。
なお、「ルー」とは「ルーエイ(放蕩)」の異名らしい。
サグラフ
ザラダン軍兵士たちの、訓練所所長。半トロールの男で、粗削りなユーモアと残酷さとを兼ね備え、それらがザラダンに気に入られた。
スカウトしたのはヴァラスカで、ゼンギスのちっぽけな宿屋で互いに酔って殴り合ったのが、知り合った切っ掛けらしい。
ダラマス
イエローストーン金山の管理者。ハーフエルフのアンデッド。
ポート・ブラックサンドで士官をしていたところを、ヴァラスカが見つけ連れて来た。
慈悲や良心といったものを全く持ち合わせず、人を拷問し殺す事を喜びとしている。士官として、罪人の処刑は必ず自らの手で行っていた。その際には、単に自分が楽しむためだけに長時間の拷問を行ったうえで殺している。
金山の反逆者や、自分に歯向かう者に対しても、可能な限り残酷な手法で、苦しませたうえでじわじわと殺す事を好む(投げつけた米粒を、生物の肉体を食い荒らす蛆虫に変化させ、じっくりと苦しめ食い殺させる、など)。ザラダン・マーには忠誠を誓っているが、彼の行う事(マランハのモンスターの処遇など)には興味はない。
上級のアンデッドらしく、通常の物理的な攻撃ではダメージを与えられない(首の骨を折ったところで、すぐに回復する)。
しかし、ハニカスが密かに隠し持っていた「祝福の指輪」には弱い。
ハニカス
よじれ樫の森に住んでいた、中立の魔術師。魔法に必要なアイテムを買い求めにコーブンを訪れ、ザラダンと知り合った。見た目は、白く長いあごひげを伸ばした、貧相な老人。
ザラダンに、然るべき地位を保証しようと言われ、それを承諾。地下の研究所の管理を任された。
トロール牙峠一帯の伝説に通じており、ザラダンはその知識をわがものにしようと企み、近づいて仲間に加えていた。スティトル・ウォードの煙の伝説をザラダンが知ったのも、彼からである。
全ての伝説や知識をザラダンに知られ、利用価値は無くなったのみならず、自身の研究所を荒らされた事も気付かないという自身の無能さをさらけ出してしまった。そのため、盲目の呪いをかけられ、金山の地下迷宮に軟禁された。
しかし、ダラマスを倒すためのアイテムをこっそり隠し持ち、なおかつ自身が処理していなかったあるものが、最後の最後にザラダンの攻略に一役買うことになる。
ドリーの三姉妹
ドリーの村の魔女。盲目の魔女と、歯の無い魔女と、蛇のようにシュウシュウと言っている魔女の三人。
不意に旅人たちの前に現れ、驚かせたり、からかって無意味な探索につかせたりするが、害を及ぼした事はない。実際の所、人間に対しては母性本能のようなものを持っていただけで、特に友好的でもなければ、敵対的でもない。しかし彼女たちの存在が、ドリーの村のイメージをより悪くさせたのも事実。
幼少期のザラダンを村の外に連れ出し、月岩山地で彼を育てていた。物心がついたザラダンを、フラットランドに送り、そこで教育を受けさせる。そして高名な魔術師のもとで魔術の才能を開花させようと、ヴォルゲラ・ダークストームに師事させた。
本編中でも、モンスターの前に現れて、ある事を依頼する。
ヨワのスワインベアド
ドワーフの罪人。
冒頭で、目覚めたモンスターに発見され、剣を振るったが瞬殺された。
サラモリスの乾燥地帯での重罪である『放火』をしたらしく、その贖罪のために、ザラダン・マーに奪取されたエルフの『煙』の捜索に加わっていた。
グログナス・グロートゥース(グロッグ)
マンオーク。
コーブン村にて、犬を盗んで食べようとしたところを見つかり、人間たちから袋叩きにされていた。
ドリーの三姉妹から探索の依頼を受けたモンスターに助けられ、その旅に同行する。
占い師の魔女、ロシーナ・ドリーと知り合い。魔法の「煙」の一つを手に入れており、そのフラスコが入ったザックを隠していた。
ロシーナ・ドリー
逆風平原にある小屋に住む、占い師の魔女。見た目は、太って腰の曲がった老婆。金貨二枚で未来を占ってくれる。占いはタロットのようなカードを用いるが、それだけで全てを占えるわけではないらしい。
水晶玉を用いての占いも行えるらしく、主人公のモンスターをカードで占った後に、水晶玉を取り出してドリーの三姉妹と会話し、スカル藻の事を教えた。
ダーガ・ウィーズルタング
よじれ樫の森に住む白髪の若きエルフ。冒険心に満ちた若者であり、森から抜けて様々な種族と友人になりたいと思っている。
従姉妹は、魔法の『煙』を三つ所有する美しきエルフの女性、エルリア・フォールスホープ。そして曽祖父は、エルフの『煙』の秘密を、酒場で酒に酔って人間たちに暴露してしまった、エルフの間では恥さらしとも言える、リーハ・フォールスホープである。
本人の意識しないうちに『煙』を盗み出して、ザラダンに渡してしまう。
人間などには、ホワイトリーフを名乗る。その話す言葉には、真実と虚偽が混ざっている。主人公のモンスターが出会った時にも、何かトラブルを起こしたらしく、二人の人間から一方的に殴られていた。
魔女「ドリーの三姉妹」の持つアイテム「真実の指輪」を見せられると、真実を口にする(その際には、「ふむ」と言ってから話し始める)。
キンメル・ボーン
空飛ぶガレー船、ガレーキープの船医。
ザンバー・ボーンの兄弟であり、アンデッド(リッチロード)。その姿は普通の骸骨そのもので、医務室で骨格模型のふりをしてぶら下がっている。
狂気の医師で、診察に来た者に病気だと言って睡眠薬を飲ませ、眠っている隙に解剖し、脈打つ内臓を摘出する事などを行っている。
普通に戦っても、一時的にばらばらには出来るが、即座に再生するために倒す事はできない。
ギャンガ
背景の中のみに登場。排他的なドワーフの町、マイアウォーターの商人(そのため、種族はドワーフと思われる)。
普通の商人が珍しい果物や宝石、絹織物や香料を持ってドリーを訪れても、その全ては二度と戻ってこなかった。が、商人としてギャンガは初めてドリーの村をおとずれ、戻ってくる事ができた。
魔女と取引するためには、魔女が必要としているもの、しかもめったに手に入らないレアなものを持って行かねばならないと考え、それを実行した。
それが功を奏し、ギャンガは金持ちに。その後数年間、他の商人が魔女の欲しがるものに気付くまで、ドリーとの商売はギャンガが独占していた。
その商品は、香辛料ではなく薬草……スカル藻、メデューサ草、呪い葉、清め草の他、マンティコアの毒、エルフの眼球、ゴブリンの乾燥肝臓やグラップの煮汁など。
ニンビカス
天候の魔法使い。半月型の眼鏡をかけた、白髪混じりの長髪の老人。ガレーキープ内部に、様々な道具をそろえた一室を与えられている。風を吹かせる呪文を心得ており、ヴァラスカ・ルーなどから自身の都合の良いように風を吹かせるよう命じられていたらしい。
自身はガレーキープを快く思っていないようで、ドリーに付いたら船から降りて、ブラックサンドへと馬で行くつもりだった。
それでも、室内に勝手に入り込み荒らすような不届き者には、大風を吹かせて吹き飛ばすことはできる。
ユーフィディアス
コーブンの村にて、薬局を営んでいる老人。
スカル藻の種を用いる、幸運の薬を調合していた。本人も魔法を使う事が可能らしく、魔法の癒し油や、呪いを解く魔法の薬の調合なども取り扱っている。
調合の時には夢中になり過ぎる癖があるらしく、あるモンスターが訊ねてきても気付かないでいた。
主なモンスター
オフィディオタウルス
全身が鱗に覆われた、馬のようなモンスター。大きさや体格も馬と同程度で、足先には二つに割れた蹄。顔は蛇やトカゲに似ており、曲がった角が二本生えている。牙の並ぶ口からは、長く伸びる舌が覗き、小動物に巻き付いては飲み込む事が可能。長く伸びた尻尾の先には、モーニングスターのように、毒針に覆われた球体がある。
馬と同じく、大地を力強く駆け抜ける事が可能。戦いに際しても、キックのみならず噛み付きと尻尾の一撃で、相手に強烈なダメージを与えられる。エルフの森には、必ず一頭は飼われているという。
オシャベリ烏
その名の通り、人語を解し、自身も人語を口にするカラス。
樹の下などで休んでいると、いきなり頭上から言葉をかけて、危険地帯を警告してくれる。
しかしその話す言葉は、ひどい罵倒ばかりなので、声をかけられたほとんどの者は、「何もしてないのに、いきなりひどい誹謗中傷を浴びせかけられた」と誤解する。
例:
「くずやろう!くずやろう!どっか行っちまいな!」
「そのうんこみたいな顔を見せるな! 背中を向けていっちまえ!」
「ごみやろう! どぶを這いずってるのがお似合いだ! 戻れ! こっちには何もないぞ!」
「ノータリン! はやく北に行け! ドリーの村だ! 西には逆風平原しかないぞ! なにもないったら! 何をぼーっとつったっているんだ!」
雑多な虫を好んで食し、地虫や芋虫と交換で、付近の情報や危険地帯の情報を教えてくれるように説得できるかもしれない。が、遊牧民などからはその性質の悪すぎる話し方に苛立たしく思われ、しばしば迫害されている。魔術師や魔女に使い魔として飼われる事もあるが、やはり言葉遣いの悪さの前に、主の堪忍袋の緒が切れてしまい、追い出されるか殺される事が多い。
ペチャクチャ獣
あらゆる知的種族の言語を解し、それを口にする事が出来るモンスター。
地下迷宮の、とある部屋の窪みにて、陽気に声をかけてくる者がいる。天井からの僅かな光源で、声の主らしき者の姿がかろうじて見えるが、そいつは頭を隠して座り込み、もっと近くにおいでとのべつくまなく喋りかけてくる。
その声に従い、近づくと。この怪物の意図と本性を知る事となる。
シャドウ・ストーカー
地下迷宮の、松明で照らされた一室に出現する。
そいつはナイフを持った影のみの存在。本体は見当たらない。そして部屋に入った犠牲者の影に、その怪物の影がナイフで切り付けると、犠牲者の本体も傷つく!
逆襲しようとしても無駄だ。影そのものへの攻撃はもちろん、影があるとおぼしき場所に攻撃しても、空振りするのみ。
この怪物から逃れるためには、影が出来ない場所、すなわち、部屋から出て良き光の無い場所へと退散するしかない。
ディバウワー(大喰らい)
身長2m以上の体格を持つ、大柄かつ怪力を持つモンスター。
全身を汚れた長い体毛に覆われ、猿のような頭部には白濁した両目と、牙だらけの口を持つ。誤解されやすいが、両目は盲目ではなく、食事や睡眠を邪魔されるなどすると怒り狂って赤く燃え上がる。
マニック・ビースト(狂獣)
ディバウワー同様に、身長2m以上の大柄なモンスター。その姿に違わず、大柄で怪力を持ち、なおかつ凶暴。
通常はゴリラなどのように、怪力と両拳を用いて戦うが、傷つけられると怒り狂い、バーサークして攻撃力を増加させる(攻撃力にプラス2する)。
次のラウンドも負傷したらこの効果は続くが、逆に自身が相手を負傷させると、効果は消える。
いくらか苦みはあるが、このモンスターの肉は極めて食用に適している。そのため、南方の都市ワープストーンにおいては、このモンスターを多く飼育し、その肉を保存食として供している農場が存在する。
キャリオン・バグ(腐肉虫)
洞窟や地下迷宮に潜む、体長1~2mの巨大な甲虫。その名の通り、動物の死肉を主食としているが、生きている動物にも襲い掛かる。
その頭部はドクロにそっくりで、死体から死肉をこそげ落とすための鋭い牙を有している。
屍肉喰らい
地下迷宮に潜む、小柄の人型モンスター。その体格はゴブリン程度で、目は小さく、口は大きめ。冒険者や動物、モンスターの死体を主食としている。
5~6体の集団で行動するが、死体を漁っている時には背後からの襲撃を防ぐため、透明になる能力を有している。その状態で死体を漁りかじりつくため、はたから見ると「死体の肉が少しずつ消えていく」という光景になる。
ただしこの能力は、食事をしていない時には発揮できない。また、空腹時には気が荒くなる。透明になって死体を齧っている最中に、偶然でも何かに攻撃され当たった場合。透明化が解除され、襲撃した何者かへと攻撃する。
舞台となる場所
イエローストーン金山
ザラダンの金鉱。地下迷宮と隣接しており、マランハで作り出したモンスターはこの地に送られ、実験される。
金山はダマラスが管理し、鉱夫は休みなしに働かされ続ける。
コーブン
イエローストーン金山近くにある、小さな村。
ドリーの村や金山など、魔女やザラダンなどの存在に村人は怯え、そのためにモンスターや人外の存在に対し辛辣かつ敵対的。
ドリーの村
サラモニスの魔法学校を追放された魔女、ロミーナ・ドリーが腰を落ち着けた場所に建てられた村。ロミーナの信奉者や邪悪を帯びた魔女たちが集まり、結果、魔女の村となった。
基本的には魔女たちは自分の魔法の研究以外に興味はなく、外部からのよそ者は好かない。そのため、積極的に外部の人間と接触はしてこないし、ちょっかいも出さない(ドリーの三姉妹を除き)。
しかしマランハの魔法実験による人体改造は行っており、ここを訪れた無知で間抜けな旅人、または一儲けを企み訪ねたおせっかいな商人などが、捕らわれてその実験素体とされた。
現在、ドリーの村は住民ほとんどすべてが年老いた女性で、汚れ切った環境となっている。
村の裏通りには、マランハにより作り出された怪物……手や足の欠損、皮膚の爛れ、様々な動物が合成されたもの、動けないもの、その他もろもろの怪物が蠢き、ゴミや残飯を漁って這いずっている。
村自体、異様に薄暗く、住民の衣類や怪物の皮膚、建物など、その全てが黒、もしくは黒っぽい色で統一されている。
大気は埃に覆われ、どんよりし、太陽ですらこの地には光を照らしたくないようにも見える。
普通の人間がこの地を踏むと、十中八九ろくな目に這わない。そのため、近づかない方が無難である。
訓練所
かつて、ハニカスが住んでいたよじれ樫の森の家。サグラフがそこを改造し、ザラダン軍の兵士たちの訓練所とした。
見た目は巨大な門を持つ要塞で、近づくと小柄な種族(ハーフリングより大きいが、人間よりは小さい。黒い皮膚で、顔はしわだらけ)がテレポートで現れ、案内する。
中庭には、兵士たちが訓練を行っている。構成している種族で明らかになっているのは、オークやゴブリンはもちろん、人間やエルフ(黒エルフや闇エルフと思われる)、サイ男にトカゲ兵など。その他にも様々な怪物が、兵士として参加している様子。
ここでは名前は無く、兵士たちは全て番号で呼ばれている。11番兵は人間で剣とメイスを持つ。29番兵はサイ男で、ある理由があってこの場所に居続けているらしい。
その他、アイテムなど。
ガレーキープ
空を飛ぶ、巨大なガレー船。純白の帆をたなびかせ、アランシアの東の空から飛んできた。
この船の事を知ったザラダンは、これを奪取し、自身の司令室をここに移した。千人以上の兵士や乗組員を乗せて移動する。
時折、食料調達のために、地上でいくつか仕掛けていた罠(木をしならせ、輪を作って固定。獲物が踏み込んだら、足を引っかけて吊り上げる)に引っかかっていた動物を回収し、船内で首を落とし、そのまま食肉とする。
内部には他にも、ヘルファイア・スピリットの上位種族とも言える「マスター・ヘルファイア(業火の主)」のための部屋を用意している(ザラダンが召喚して手を結んだらしい)。
スカル藻
蒼い茎を持つ植物。コーブン村の周辺地域では、ディードル川の南にあるカエル沼にしか生えない。
乾燥させた種や葉は、幸運の薬を作る素材として用いられる。
ロシーナ・ドリーが使っていたカード
占い師の魔女、ロシーナ・ドリーが、モンスターを占うために用いたカード。タロットのような絵札で、いくつか種類がある。
- 大いなる謎:黒地に多数の疑問符が描かれている。あらゆる出来事は見た目とは異なり、過去、現在、未来には謎が秘められ、当事者本人もそれを知らない事を暗示。
- 闇に差す一条の光:黄色い太陽が描かれている。任務の達成を暗示している。
- 母の死:棺桶に入った若い妊婦が描かれている。何らかの存在の誕生を暗示している。
- 魔術:マントと机が描かれている。魔法を暗示している。
- 誓い:雲に乗った男が、遠くを指差している姿が描かれている。
- 達成しなければならぬ任務:二つの頭を持った男が、別々の方向を見ている姿が描かれている。「誓い」のカードと合わせ、「何かのために送り出された」事を暗示している。
マランハ
ロシーナ・ドリーが最初に使い出した、生物の肉体を改造する魔術。
薬品や魔法、外科手術などで、ある動物やモンスターの器官(手足や頭部や内臓器官など)を、別の動物と組み合わせたり、動物を別の動物に変化させたり、色々な処置を施す事でまったく新しい生き物を創造する事ができる。マランハそのものの成功率は、決して高くはない。
ロシーナにとっては、これはただの慰み者であり、マランハで作り出したおぞましい怪物はただの『もの』であって、ただの実験台でしかない。そのため、放置されゴミあさりや共食いで生き延びたり、更なる実験の材料にされたりするだけであった。
しかしザラダンはこの魔術を用い、全く新しい、しかし強力なモンスターの創造のために心血を注いだ。ザラダン自身は、ドリーの魔女たちの魔術を軽蔑していたが、このマランハだけは夢中になり、極めるように。
ザラダンは作り出したマランハのモンスターたちを、コーブンの地下迷宮にて目覚めさせ、どのような能力があるのかを観察。然る後に最終的な使い方を決める。
当初はザラダンでもうまくいかず、野ネズミをジブ・ジブに、家ネズミをグラニットにといったように、小動物でしか成功しなかった。高等動物を強力なモンスターに変える実験はことごとく失敗していたが……。