バルサスの要塞とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第2弾「THE CITADEL OF CHAOS」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社で、その後扶桑社からも復刊されている。
作品解説
悪の魔法使い、バルサスは柳谷に住む善良な人々を滅ぼさんと、今まさに攻撃を開始しようとしている。彼の企みを阻止できるのは、<太古の大魔法使い>の一番弟子である君だけだ。多くの魔法と優れた剣術を身につけた君は、バルサスを討伐せんと単身彼の要塞に乗り込む。
シリーズ二作目であり、「火吹山の魔法使い」の主人公(プレイヤーキャラクター)には無かった、「プレイヤーの方が魔法を使える」というシステムを実装。
剣も使えるので、「魔法も使える戦士」、または「魔法スキルを有した戦士」と捉えるべきか。最初に持って行く魔法を決めてから冒険に赴くため、その際の選択が重要になる(つまり、魔法をガンガン使いまくるというゴリ押し的な使い方は出来ない)。
また、パラグラフにおける魔法の描写は、ゲームよりも小説のそれに近い。
(例:「火炎」の呪文を敵モンスターに使用した時、「相手の体力点を何点減らした」ではなく、「相手は呪文の火炎を受け、ひるんだ。いくばくかの火傷も受けたようだ」といった感じに)
また、「舞台の生活感」が強調されているのも特徴。
既に「火吹山の魔法使い」でも若干の描写はされていたが、それが本作ではより多くなっているのだ。
舞台となる「混沌の要塞」。
例えば、
「門のところには門番がいて、(選択次第では)兵士の誰それはろくでなしなどと会話」
「焚火では、オークが肉を焼き、ドワーフが自分の肉が足りないと文句を。その隣ではゴブリンの男女がいちゃついている……と、日常生活の描写がある」
「中庭では、商人と客とが買い物で値切りの真最中」
「要塞内部には、台所では魔女たちが夕食の支度をしていたり、遊技場では兵士や勤務してる者たちが賭け事で楽しんでいる」
「ルクレチアの寝室など、主要人物の生活する場所が描写されている」
……など、敵の本拠地内であっても、その内部には必ずあって然るべき『住民たちの生活』と、『日常の空気』とが記されているのだ。
この点は、本作の舞台を「単なる攻略対象」ではなく、それ以上の存在として昇華させる事に成功させている。そして、この点は後の作品にも活かされ、より魅力的な異世界の舞台(タイタン)を成立させていく。
呪文
本作では、特徴の一つとして「プレイヤーキャラクターである主人公=君が、魔法が使える」事が挙げられる。
それらの魔法は、一つ一つは強力とはいえないものの、使いようによって戦闘をすることなく事態を収拾したり、より優位に事を運んだりと言った事が可能になる。
最初にキャラクターを作る際、魔法点という「いくつ魔法を持って行けるか」の点数を決めておく(2d6+6)。
そして次に、魔法を一点につき一つ持って行く、というように決めていく。
そのため、劇中で使用できる魔法の回数には限界がある。下手に魔法を連発したらすぐに使い切ってしまうため、使いどころを考えねばならない。また、呪文を選ぶ際には、同じ呪文を複数選び持って行く事も可能。
魔法を使う際には、選択肢に仕える魔法が提示される。それ以外は使えない。
以下、呪文の一覧。
- 妖怪うつし:敵モンスターと瓜二つの複製を作り出す(能力値も同じ)。複製は術者=君の命令に従うため、相手と戦わせるように命じ、自身は高みの見物としゃれこむ事が可能。
- 千里眼:人間やモンスターなど、対象とする相手の思考を読み取ったり、閉じられた扉の向こうの様子を感知したりが可能。ただし、複数の対象が接近した状態では、混線する事も。
- 火炎:好きな時に、術者の望むように火炎を放つ事が出来る呪文。火炎や火球を敵に放つ他、地面に小さい爆発を起こしたり、数秒燃焼させ続けたり、敵の接近を拒むために火炎の壁を作ったりと、応用が可能。
- 愚者の黄金:ただの石や岩にかけることで、黄金の山に見せかける事ができる。この術を用いて賄賂代わりにする事も可能だが、幻影にすぎないためにすぐに元に戻ってしまう。
- 目くらまし:強力な幻影の術。用いる事で幻を発生させ、相手を騙す事が可能(例:術者自身を蛇に変身、床を燃える石炭で覆う、など)。幻は本物そっくりで、温度や匂いなども再現。しかし相手に違和感を生じさせる行動をとると、その場で解けてしまう(上記で蛇に変身した術者が剣で切り付ける、など)。知能が高い相手ほど効果がある。
- 浮遊:対象とした存在を重力から解放、自在に空中に浮かび上がらせ、意のままに動かす事が可能になる。対象は術者自身や敵、品物など、どれにもかけられる。ただし浮遊している途中で手にしたものには、効力は及ばない(浮遊している途中で重いアイテムを手にしたら、その重さにより落下する)。
- 防御:術者の目前に透明な盾を発生し、迫ってくるものを護り弾き返す呪文。ただし、この盾の防御効果があるのは、実体のある物理的な存在(投擲された矢や槍、剣などの武器、怪物の攻撃など)のみである。魔法および、魔法の呪文により生じた攻撃を遮断はできない(魔力により生じた火炎の攻撃など)。加えて、盾の外から術者を触れることはできないが、術者自身も盾の中から外のものに触れられない。
- 怪力:術者自身の腕力を、一時的に著しく増強させる。そのため、扉の錠前を破壊し開く、鉄格子を壊すといった力仕事に用いるほか、素手での戦い、崖や高い壁を飛び越えるジャンプ、力の強いモンスターとの戦いにも役立つ。ただし、筋力がいきなり増加するために、自身でそのコントロールが効かなくなることもあるため注意(剣を抜いたら、すっぽ抜けてしまうなど)。
- 骨抜き:対象とした存在の筋力を、著しく弱体化させる呪文。重たげな武器を持つ相手は、それが使えなくしたり、図体の大きいモンスターは、自重が支えきれず鈍重にさせたりできる。ただし、全てのモンスターに通用するとは限らない。
- 開運、技術回復、体力増強:それぞれ戦闘中を除き、いつでも使用可能。用いると、それぞれ運、技術、体力と、原点の半分を回復する事が可能。ただし、原点を超える事は出来ない。
主な登場人物
主人公(君)
腕利きの戦士。魔法も使えるが、回数に制限がある。
バルサス・ダイア
メイン画像の、本作のラスボス。柳谷の征服をたくらむ悪党。魔法・剣ともに一流の強敵だが、あるとんでもない弱点を抱えている。
ザゴールとザラダン・マーとは同期で、邪悪な魔術師「ヴォルゲラ・ダークストーム」に師事した、「悪魔の三人」の一人。
その外見は筋骨隆々の逞しい体つきで、一見すると魔術師というより戦士に見える。本人も剣での戦いは嫌いではない様子で、「剣でかたを付けられるとは願っても無いこと」と、喜び勇んで応じていた。そしてその腕前もかなり高い。更に、自身も剣術熟達の指輪や、魔力のこもった剣などを所有しているため、剣での勝負はかなり苦戦する事になる。
魔法もまた、当然ながら優れた技量を有する。主人公が魔法で対戦しようとしても、そのことごとくをはねのけてしまい、無力化してしまっていた。
主人公を当初は軽く見ていたが、選択肢によってはその力を認め、仲間になれとスカウトする様子も見られた。
自身が住まう『混沌の要塞』は、祖父のクラゲン・ダイアが建立し、父親が住んでいた。バルサスは自分の父親を刺殺して、要塞を手に入れている。
劇中でサラモリスと柳谷を征服し、住民たちを全員虐殺する事で、己の力と邪悪さをタイタンに知らしめ、虐殺で奪った魂を混沌の暗き神々に捧げようと目論んでいた。
ルクレチア
バルサスの妻。美女であり、その部屋は黄金の羊の毛皮を初めとして、多くの贅沢な調度品で飾られている。本人も強力な魔術師であり、その目から放つ火炎には要注意。女性らしく、美しい櫛などの装飾品には目が無い。
グラス・ドス・フッド
遊戯室にて、名前だけが出てきた人物。種族を含め、具体的にどんな人物かは不明(単に遊戯室で賭け事などして遊んでいた連中が、主人公を見つけて「あいつがそうにちがいない」と言い出したため)。人気者らしく、主人公が調子を合わせると、遊戯室で賭け事に加えてくれる。ちなみに違うと言ったら叩き出される。
キルトログ
門にて、門番の犬猿と猿犬を誤魔化す際。選択によっては名前だけが出てくる砦内の衛兵。飲んだくれで仕事をさぼってばかりらしく、病気になっても助ける価値は無いなどと言われていた。
付人
選択肢によっては主人公のよき友人となってくれることもある、本冒険におけるオアシス的存在。詳細はこちらの項目内を参照。
オシェイマス
レプラコーン。地下室にて遭遇する。
悪党ではないが、種族の特性ゆえに、出会った主人公に対し悪戯を仕掛ける。主人公を、恐ろしい目に合わせるが……。
ジーナ三姉妹
台所で働いていた三人の醜い老婆。魔女の村で有名なドリーの出身(「モンスター誕生」の背景にて名前および出自が明らかになった)。
台所に迷い込んだ主人公を、下働きか、あるいは食材かと尋ねていた。作っていた料理は不明だが、シチューらしき鍋には、生きた噛みつき魚が入り込み、覗き込んだ者の顔に噛みついた。また、台所の奥には焼き串にドワーフ一人を突き刺し、そのまま丸ごと焼いていた。
ノッポとチビの二人
中庭で遭遇する二人組。ノッポはチビへ短剣を売りつけていたが、チビは高すぎると文句を言っていた。選択次第では互いに戦い合ったり、主人公がその短剣を購入、またはタダで手に入れる事も可能(短剣は魔法のアイテムで、一度だけだが投げつけると相手に大ダメージを与えられる)。
殴られた浮浪者
中庭で遭遇する。ガンジーに遊び半分で殴られ、半殺しの状態にさせられていた。回復の呪文をかけてやると噛みついてくるが、それも自身の意思ではない様子。
洗濯女
地下の河川にて、洗濯している召使の女性。かつてはバルサスの下働きだったが、彼の正装の洗濯が間に合わず、その罰として死ねない身体にされて永遠に洗濯をさせられている。戦いを挑んだら、洗濯物が彼女を守るように襲い掛かってくる。
ワインセラーの黒エルフ
要塞地下の、ワインセラーを管理している黒エルフ。片脚を引きずっている。携帯用万能棒という、変幻自在のアイテムを所持している。
登場モンスター
ガンジー
※イラスト右。
みんなのトラウマ的存在。あるアイテムがないとバッドエンド行きの難敵。「ガンジーの住み家へようこそ!」
その姿は、「暗闇の部屋の中で、いきなり浮かび上がる恐ろしい顔」というもの。
この暗闇は魔法的な力によるもので、通常の光では明るくならない。更に、その顔のあまりの恐ろしさのため、出会っただけで技術や体力などを自動的に減らさねばならない。
ガンジー自体に対し戦いを挑んでも、剣はもちろん、呪文を用いての攻撃も含め、一切が無効化される。さらに加えて人間並みに知能も高い。暇つぶしに、冒険者を含めた他者を楽しむためだけにいたぶり殺す、残酷で悪質な一面を有する。
執事
※上記イラスト画面左。
ぼろぼろの服に身を包んだ、執事らしき立場の人物。異様な風体と外見のため、人間ではないかもしれないが、詳細は不明。砦内に入り込んだ主人公が、選択次第である場所にて遭遇した。「謁見室はどちらだ?」と聞かれて、ある方向を指差す。
カラコルム
選択肢によっては出会うこともある双頭のトカゲや蛇を思わせる生き物。立派な体躯を持っているが、ある小さな生き物を極端に恐れている。
詳細はこちらの項目内を参照。
ミク
目くらましの名人。金貨に目がない。初音ミクとは関係ないぞ。
その目くらましはあまりに見事なため、その特性をもコピーしてしまう(毒蛇に化けて噛み付いたら、実際に毒が回るなど)。また、目くらましで金属製品に変身する事はできず、変身している際にも金属製品を用いる事も不可能。
円盤人
円盤の形をした4つ足ならぬ「4つ手」の奇妙な生き物。挿絵のインパクトは抜群。
巨大な円盤状の身体をしており、その側面に巨大な顔が、そして四本の手首が生えているという、異様な姿をしている。ぐるぐると側転するように、四本の手首で身体を支え回転させつつ移動。回転しつつ、自分のベルトに差してある手裏剣を抜いて投げつける事で攻撃する。手裏剣の腕前はかなりのものだが、体型的に接近戦は苦手。
三匹の子供怪物
途中で、子供部屋のようなとある部屋にて遭遇した三匹の怪物。人間で言えば幼稚園児くらいで、大きさもゴブリンくらい。緑色の肌に細い糸目をしている。あまりかわいくない。
周囲に置かれている家具なども、ベッドを含めて子供用のものばかり。本人たちの戦闘能力も皆無に等しく、殺害するのも簡単。
警戒心もなく、主人公が手渡した眠りの木の実も喜んで受け取り率先して口にしていた。あるアイテムを渡すと、玩具代わりに遊んでいた。
劇中に説明が無かったため、何者なのかは不明。
ガーク
巨人とゴブリンを慎重に掛け合わせた種族で、番兵として謁見室らしい場所で待機していた。一見すると巨大なゴブリンに見える。ホブゴブリンより大柄で、オーガーやトロール並の体格をしている。単純かつ激高しやすい性格。種族の特徴として、きらきらと光る安ぴかものを集める事を好む。
デヴリン
台所で、ドワーフを丸焼きにしていた炎から出現したモンスター。ドワーフまたはゴブリン程度の大きさの、人型をした生きた炎。炎ゆえに剣および物理的な攻撃は通用しない。しかし水や液体などを大量に浴びせかける事で炎を消す事ができれば、倒す事も可能。
猿犬、犬猿
頭部が猿の犬と、頭部が犬の猿(猿と言っても、ゴリラのような大柄な類人猿)。
二匹一組で、砦の入り口で番兵として立ちはだかっていた。
竜巻霊(ワールウインド)の女
中庭で遭遇する、「生きた竜巻」。人間大の竜巻で、大まかに人間の女性の姿をしている。その頭部にはうっすらと女性の顔が浮かび上がり、何者かと遭遇した際、相手を罵倒する事を好む。風や石ころを相手に叩き付けたり、巻き込んだりして攻撃し、相手を気絶させる。
テンタラス
中庭に突如現れた触手。劇中では触手のみが現れたが、本体は巨大なイカのモンスターで、触手で人間を捕え喰らう。
焚火を囲んでいた者達
中庭の一角で、焚火を囲んでいたオークとドワーフ、ゴブリンの男女の四名。
ゴブリンは娼婦とその客らしく、いちゃついていた。オークは焚火で肉を焼き、その生焼けの肉を他の皆へ分けていたが、ドワーフはその取り分が少ないと文句を言っていた。
有翼グレムリン
中庭内に建つ、神殿めいた建物内にて遭遇。三体で飛び回っていた。三つの銀のゴブレットに注がれた液体の一つに口を付け、愉快そうに笑っていた。
サイ男
砦の本丸に入ろうとした時に、番兵として現れた。サイの頭部を持つ大柄なヒューマノイド。鎧を着て槍を持ち、主人公に立ちはだかる。
石ゴーレム
地下のとある部屋に置かれていた、石で形作られたゴーレム。宝箱を守っていた。
クモ男
ゴーレムが守っていた宝箱に入っていた、ガラス瓶に入っていたクモ。人間の顔を持つ、手のひらサイズの大き目のクモだが、強力な毒牙を持ち、噛まれたら即死する。
鉤爪獣
バルサスが、自室にまでやってきた主人公に最初に差し向けた。長い体毛に覆われた、ゴリラを思わせる人型の怪物で、腕は四本。手首から先は湾曲した一本の巨大な鉤爪になっており、それを鎌のようにして攻撃する。
凶暴で好戦的。つがいになる以外は群れも作らない(あまりに凶暴すぎて、群れでいるとその地域の獲物が短期間で食い尽くされるため)。
南方の貴人には、この鉤爪獣を何匹か捕獲し、自身の広大な宝物庫内部に放って、好き勝手歩かせているらしい。共食いは防ぐが満腹には到底足りない餌を毎日与え、番兵代わりにしているとの事。