その人の名を口に出してはならない。
「名前を呼んではいけないあの人」は偉大な事を為したのだ。
恐ろしい!……しかし、偉大な事をな……。
「アバダケダブラ!」
「俺様の前にひざまづけ。さすれば命だけは助けてやろう。おまえたちの親も、子どもも、兄弟姉妹も生きることができ、許されるのだ。そしておまえたちは、我々がともに作り上げる、新しい世界に参加するのだ」
演:リチャード・ブレマー(第1作)、レイフ・ファインズ(第4作〜)
吹き替え:江原正士
概要
『ハリー・ポッターシリーズ』のラスボス。
主人公ハリー・ポッターの宿敵にして、彼の両親の命を奪った仇でもある。
魔法界の歴史上「最強」にして「最悪」の魔法使いであり、闇の魔法使いや闇の生物を束ねる「Dark Lord(闇の帝王)」。
彼の信徒は「Death Eater(死喰い人)」と呼ばれる。
また、髑髏と蛇を掛け合わせたような絵柄である「Dark Mark(闇の印)」を自らの紋章としている。
その恐ろしさから名前を呼ぶことすら憚られた結果、「例のあの人」や「名前を呼んではいけないあの人」と呼ばれる。
その脅威は英国魔法界のみならず全魔法界で恐怖の対象となっており、まね妖怪(ボガート)は魔法使いの大半に対してヴォルデモートの姿になると言われるほどである。
実際、歴戦の戦士であるアラスター・ムーディや、英国に住んでいないガブリエル・デラクール、ゲラート・グリンデルバルドに祖父を殺害されたブルガリア人のビクトール・クラムでさえボガートはヴォルデモートに姿を変える。
正式名は「ヴォルデモート卿(ロード・ヴォルデモート)」。
ちなみに更に正確に言えばフランス語風の読みが正しく、「ロード・ヴォルドゥモール」と呼ぶのが正しい、これは死の飛翔を意味する。
ロードとは卿とも訳せるが、王や神という意味合いもあり、どこまでも不遜に訳せる語でもある。
34センチのイチイの杖を持ち、その芯はハリーの杖と同じ不死鳥フォークスの尾羽。兄弟杖である。映画版では白色。
経歴
複雑な出生
ホグワーツ創設者の一人サラザール・スリザリンの末裔で、ホグワーツの伝説にある「スリザリンの継承者」その人。
さらに、死の秘宝を生み出したとされるペベレル三兄弟の長男あるいは次男の末裔でもある。
両家は強大な純血一族で、魔法界の歴史を凝縮したような血統ながら、複雑な事情から一族で最初で最後の半純血(魔法を使えない人間であるマグルと魔法使いの混血)として誕生した。
スリザリンの末裔、聖28一族ゴーント家の長女メローピーが父や兄による家庭内暴力・虐待の末に家出した際、ハンサムなマグルを愛の妙薬により強制的に自分の夫とした結果生まれる。
その後、メローピーが妙薬を使わなくなり、妙薬の効果が切れたことにより父は逃走し、母はそのショックで廃人同様となり死亡した。
そして赤子は生後まもなく母が死亡したことによってロンドンの孤児院に預けられ、マグルとして生きることとなる。
ただし、以上の事実は本人とアルバス・ダンブルドア以外は誰も知ることはなく、決して公にされたことはなかった。
ヴォルデモート卿の本名、学生時代、血族については闇に包まれており、死喰い人の側近にすら明かされたことはなかった。
彼は、自らの過去を捨てたのである。
闇の帝王
1950年頃、ヴォルデモート卿と名乗る人物が英国魔法界に姿を現す。
純血主義者を中心に人々の関心を集める。
この頃は死喰い人も組織されておらず、彼の支持者は「ヴァルプルギスの騎士(ナイト・オブ・ヴァルプルギス)」と呼ばれていた。
また彼の危険性に気づく者もほとんどいなかった。
そして本編開始の20年前の1970年頃、彼は「純血主義」の名の下に、仮面をつけた「死喰い人」や吸魂鬼や巨人や人狼といった闇の生物と共にマグルや敵対者に大弾圧を行った。
誰が死喰い人なのか分からないこと、魔法省に内通者がいたことも相まって魔法界は大いに混乱し暗黒時代となる。
この時からヴォルデモートの名は恐怖の対象となり、イギリス全土で「名前を呼んではいけないあの人」と呼ばれるようになる。
犠牲者の数は凄まじく、最も強力とされた魔法使いたちが死亡している他、有力な非純血主義の旧家が族滅されている。
その規模は一世代前に史上最強にして最悪と謳われたゲラート・グリンデルバルドの存在を人々の記憶から霞ませてしまったほど。
なお、当時闇の勢力に対抗していたのが、ホグワーツ校長アルバス・ダンブルドア率いる秘密結社不死鳥の騎士団である。
ただし、数的には死喰い人の方が圧倒的に優位であり、当時の騎士団のメンバーの多くが命を落としている。
この戦乱期は英国〜欧州魔法史において最悪の暗黒時代とされ、「Wizaring War(魔法戦争、魔法使いたちの戦い)」と呼ばれている。
しかし、開戦から約10年後の1981年のハロウィン(10月31日)、とある「予言」に従ったヴォルデモートは当時赤ん坊だったハリー・ポッターの殺害に失敗。
逆に自らの死の呪いが跳ね返り肉体を失った。
復活、そして
肉体を失ったヴォルデモートは霊魂以下の状態でアルバニアの森を彷徨っていた。
これは後述するが、彼が魔法により不死性を獲得していたからである。
しかし、ダンブルドアなど一部を除いて世間はヴォルデモートは完全に死亡したと思っており、1981年から約10年間は魔法界は平和であった。
しかし、ハリー・ポッターが11歳になりホグワーツ魔法魔術学校に入学する頃から、ヴォルデモートは徐々にその力を取り戻す。
そしてハリーが4年時(第4巻)の結末にて、復活。
魔法界は二度目の戦いへ突入していく。
これらの詳細な過程はハリポタシリーズ全7巻を参照されたし。
年表
(幼年期)
1926年 大晦日(12月31日)に孤児院で誕生。
(少年〜青年期)
1938年 約11歳 ホグワーツ入学。スリザリン寮に選ばれる。
1942年 約14歳 ホグワーツ監督生に選出される。秘密の部屋を開き、マグル生まれを殺害。罪をルビウス・ハグリッドに着せる。この時に初めて分霊箱を作成。
1943年 約15歳 在学中に父とその両親を殺害。罪を伯父に着せる。この時に初めて母方の血筋を正確に知る。ゴーントの指輪を入手。
1944年 約16歳 ホグワーツ首席に選出される。
1945年 約17歳 ホグワーツ卒業。
1946年 約18歳 ボージン・アンド・バークスに勤めるが、ヘプジバ・スミスの殺害に関与し蒸発。ハッフルパフとスリザリンの遺品を入手。ここで本名と過去を捨てる。
ー空白の10年ー
1956年 約28歳 ダンブルドアにホグワーツ教授職を求めるが拒絶される。
この際、某所で入手していたレイブンクローの遺品を必要の部屋に隠す。
この時点で既にヴォルデモート卿の名は浸透していたが、人々から関心を得ており恐怖の対象ではなかった。既に外見はやや恐ろしげに変化し、瞳が完全な赤に。
ー約10年間でヴォルデモート卿として台頭ー
(中年期)
1970年 約44歳 死喰い人と共に第一次魔法戦争を起こす。本性を現したヴォルデモートを人々が恐れ始める。
1970年代後半 英国魔法界を事実上支配する。その名を呼ぶ事を憚る習慣が生まれる。
1979年 約53歳 闇の帝王を滅ぼす可能性を持つ唯一の存在が生まれる予言を知る。
1981年 約55歳 予言の子ハリーに死の呪いを反射され一時的に破滅する。第一次魔法戦争が終結する。
ー約10年間仮死状態で潜伏ー
1994年 約68歳 肉体を取り戻す。第二次魔法戦争を起こす。
1997年 約71歳 魔法省を制圧。今回は表には姿を現さず黒幕として英国魔法界を支配する。
1998年 約72歳 グリンデルバルドを殺害。ホグワーツの戦いでハリーに敗北し、完全な破滅を迎える。第二次魔法戦争が終結する。
能力
至上の魔法使い
最強であるアルバス・ダンブルドアをして「存命中の魔法使いの誰をも凌ぐ広範な知識を備える」「私がどれほど巧妙な魔法を用いてもヴォルデモートには突破される」と言わしめる力を持つ。
戦闘においては即死の呪い「アバダケダブラ」を主軸に「悪霊の火」を思わせる「炎の大蛇」、ニワトコの杖の呪文さえ弾く「銀色の盾」などを操った。
アバダケダブラを一発打つだけも強力な魔法力が必要とされるため、それをメインウェポンとして連射するというのは相当な魔法の使い手であることを意味している。
神秘部の戦いにおいてはダンブルドアにはさすがに劣勢となり撤退しているが、ニワトコの杖を用いるダンブルドアですらヴォルデモートを倒す事も捕縛する事もできず、ほんのわずかなダメージを与える事すらもできなかったのである。
そもそも学生時代から非凡な優等生であり、直接的な決闘術以外の魔法も熟達している。
開心術の腕前は人知を超えると称され、他人の記憶を自由自在に改竄する事もできる。
ヴォルデモートの開心術はあまりにも強力で、常人の閉心術など意に介さず、相手の心を細切れにして全てを見通す事ができる。
作中ではバーサ・ジョーキンズに本気の開心術を使用し廃人にしている。
無言呪文はもちろんのこと、杖なしで魔法を使うこともできる。
これは最高位の魔術師にしか使えない繊細な奥義であり、ホグワーツ入学前から独学で習得していた。
その実力を強調するためか、映画版では素手で魔法を使う場面が増加している。
『ハリー・ポッターと呪いの子』では、ネビル・ロングボトムが死亡してナギニが倒されなかった場合の未来が描かれているが、こちらはヴォルデモートが戦況を覆し、闇の陣営が勝利する事となった。
つまり、ヴォルデモートたった一人で「ホグワーツの戦い」の勝敗が左右されるほどの力を有していたという事になる。
それに加えて、7巻終盤のホグワーツの戦いにおいては、数百は下らないであろう手下共の総攻撃でもビクともしなかったホグワーツの守りを一撃で破壊している。
これらはどちらも、杖が言うことを聞かず並の杖以下の力しか出せていないというハンデを負っている状態でのことである。
それはすなわち、手下共を束にしたよりもヴォルデモート1人の方が強いということを意味する。
なお、映画版では教授陣数人で張った結界という印象だが、原作ではそもそも何人も突破不可能と評される強固な古代魔法によるホグワーツの守護結界が存在し、それを教授陣がさらに補強したものである。
秘術の探究者
魔法の探究者としての一面もあり、数々の新術の発明を行っている。
例えば「欠損した肉体を修復する魔法(ピーター・ペティグリューに用いた)」「箒を用いずに煙のように空を自在に飛ぶ魔法」などを開発している。
作者は箒なしで空を飛べる人物を「魔法使いの中のトップ1%、そのさらに上位の者だけ」としており、ヴォルデモートはこの条件に当てはまる数少ない存在となる(ダンブルドアでさえ空を飛ぶには箒を用いる)。
しかも、ヴォルデモートの飛行速度はセストラルにも容易に追いつくほど速い。
セストラルは競技用箒ファイアボルトをも上回る速度とされており、そのファイアボルトすら時速150マイル/時速241.402km以上ものスピードを誇っている。
まさに「死の飛翔」である(映画版では見映えのためかなぜか成人の魔法使いのほとんどが使用できる。ただし、箒を超えるスピードを出せないため、本格的な飛行には原作同様ヴォルデモート以外は箒を用いている。)。
また、一定の条件下において運命を操作することができ、かつて「闇の魔術に対する防衛術教授が1年以上在籍する」という事象が未来永劫排除されるよう運命を操作した。
これはダンブルドアがニワトコの杖を用いてさえ修正することはできなかったため、かなり特殊な魔法であることがうかがえる。
作者曰く、彼は魔法の深淵にある法則をいじくっており、究極的な力と技を発揮する事ができた(しかし、ハリーの杖がヴォルデモートに対してのみ異常に強力になるという事象の原因でもあったという)。
不死の禁術
学生時代から不死魔術ホークラックス(分霊箱)により魂を7つ(実際には8つ)に引き裂き体外の物品に閉じ込めており、その全てを破壊しなければ倒せない。
分霊箱それぞれに強力な防衛魔法がかけられているだけでなく、当時の彼の邪悪な魂が分霊箱を持っている者を乗っ取ろうとする。
しかもどこに隠されているか他人からは分からない。
これら全てを破壊することは現実的には不可能であり、ヴォルデモートは不死同然となっていた。
歴史上に分霊箱を作った魔法使いはいても、複数、それも7つに自分から魂を引き裂くという行為は魔法の技量的にも倫理的にも常軌を逸しており、ゲラート・グリンデルバルドを倒したダンブルドアも、ヴォルデモートを倒す手がかりを掴む、ただそれだけで人生の大半を使う事になった。
彼が作った分霊箱の一覧は分霊箱の項目を参照。
悪の首領
彼の元には学生時代から、「自分より洗練された暴力に惹かれる乱暴者」「栄光のおこぼれを得たいコバンザメ」「庇護を求める臆病者」などが集った。
ヴォルデモートは悪として力を持っており、それは同じような悪を誘惑し惹きつけ、支配してきた。
また、純血を守るという大義名分は多くの保守派にとって魅力的であった。
性格
邪悪にして苛烈
ダンブルドアが「開闢以来最も危険な魔法使い」「通常我々が悪と呼ぶものを超越している」とまで評するほどに邪悪。
敵にも味方にも一切容赦がなく、邪魔な石ころをどけるのと変わらない心情で他人を心身共に傷つけ、命を奪い、殺してしまう。
突発的な事故ではない、確固たる殺意を持った殺人をもってしか作成できない分霊箱を7個も作ったことはそれを明確に示している。
しかし、自分の力が極まるまではその邪悪な本性を決して人前に晒そうとはしなかった。
若年の頃は持前の頭脳や端正な容姿といったカリスマ性を主軸に手下を束ねており、用意周到な計画と知略によって数々の完全犯罪を成し遂げるなど現在とは外見も含めてほとんど別人。
このため、かつての才能に満ち溢れた美しい魔術師と同一人物だと気付いた者は極少数だった。
ただし、幼少期からいじめの主犯であり(やり返しの可能性もあるが)、孤児院の子供達から物を巻きあげたり、ペットを痛め付けたり、恐怖を味わわせたりするなど、根は変わっていない。
青年期も裏では躊躇なく人殺しをしている(描写されている分では3人)あたり生粋の俺様気質である。
それ故に最初から自分の本性を見抜き、決して自分の意のままに操れなかったアルバス・ダンブルドアを内心では非常に恐れている。
アルバスの存命時にはホグワーツには一切の手出しをせず、彼を排除するのに自らの手を汚さずドラコに暗殺を行わせる手段を使った(普通ならば選択肢の一つであり違和感を感じることではないが、他人を全く信用せず重要な案件は自分で行うヴォルデモートの性格を考えると異常な行動)。
なお、その恐怖心はアルバスの死後も消えることはなく、ハリーのレジスタンスが活発になるに連れて逃れることのできないトラウマとなり疑心暗鬼に陥っていった。
作者公認のサイコパスである。
おそらく母方の濃すぎる血も影響している(精神病気質の人間が多い)。
映画版ではカットされているが、死喰い人達への制裁としていちいち極限の苦痛を与える磔の呪いをかけるなど、その残虐さはもはやヒトのそれではない。
自己愛と孤独
愛や他者との関係性に基づく魔法を過小評価しており、学生時代からダンブルドアと多くの議論を重ねたが平行線をたどった経験がある。
成人後も闇の魔術を研究する過程で、「愛が力に勝る」というダンブルドアの自説を否定し続けてきた。
「依存」を何よりも嫌う。
幼少期から何事も一人で事を成したがり、初めて魔法界に足を踏み入れた時から一人で教科書を揃えてホグワーツに出向き、以来現在に至るまで家族や友人、仲間を必要としたこともない。
卓越した魔法の技術により、杖や箒さえ必須ではなくなった。
闇の帝王となってからも、重要な仕事は自身の手で行うことを好む。
そんな彼が唯一気を許す存在が巨大な雌蛇であるナギニ。
愛を否定するヴォルデモートだが、ダンブルドアが言うには「もしもヴォルデモート卿が何かを好きになる事があるとすれば、それはナギニだろう」との事。
ハリーは「ヴォルデモートはホグワーツに強い愛着があったのではないか」と考えていた。
孤児であり周囲に恵まれず、家と呼べる場所がなかったヴォルデモートにとって、ホグワーツは初めて自分が魔法使いとしてありのままでいることが肯定される場所であり、好きなだけ学ぶことのできる場所だった。
実際に、ヴォルデモートは幾度となくホグワーツ教授の職を求めており、分霊箱の隠し場所としても選んでいる。
このように自己以外を基本的に考慮しないため、「裏切りに気付かない」「自分が無価値と切り捨てたものには恐ろしく無知」「保身に執着するあまりやり過ぎて墓穴を掘る」といったミスが多く、特に物語終盤ではダンブルドアの計画やハリーの活躍もあって激しく弱体化した。
魔術への耽溺
愛することをしない男だが、特定のものへの「愛」着は激しい面が見えてくる。
まず幼い頃から収集癖があり、相手から奪った物をコレクションしていた。
学生時代から魔法界の伝統的な品々に関心が強く、己の魂の入れ物も創設者の遺品や自分の家宝で揃えている。
またその隠し場所は自分にとって特別な場所にしたり、予言を信じて行動したり、ハリーを自らの手で殺すことに固執したりと、「験担ぎ」や「流儀」を重んじる。
ここから見えるのはヴォルデモートのある種の依存傾向である。
ヒトへの愛情はないが、そのぶん魔術をはじめとするモノやコトを過剰に礼賛している。
だからこそ魔法の使い手としては一流になれたが、それ以外に対して視野が狭くなっているのだ。
思想
原作・映画版でも共通する描写として、支配者であるという事を強く意識した言動が多いものの、実際には表立っての権力や栄誉、女性や富を求めることはなかった。
死喰い人を結成し、魔法界からマグルや、マグルとの間のハーフを迫害・弾圧する強い選民思想を持っているが、マグル支配もグリンデルバルドなどと比べるとイデオロギーとして利用している側面が強く、選民思想自体も、魔法界に従来から存在する過激な保守派の思想であり、彼特有の思想ではない。
「現実的にやれなかったから、誰もやらなかった」だけで、下手をすればハリー自身がこの思想に目覚めてもおかしくはなかった。
作中時代でこそヴォルデモートに敵対し、アーサー・ウィーズリーと並ぶ選民思想や純血主義への反対派の大御所であったアルバス・ダンブルドアも、親友と共にかつては実際に染まっていた時期がある。
また本人が自覚していたかは不明だが、掲げる純血主義も結局の所支配のための建前に過ぎず、自分に歯向かう者であれば聖28一族の人間であろうと容赦なく拷問、殺害し、場合によっては一族もろとも根絶やしにすることも厭わない。
彼が前進する最大の動機は、「死の克服」そして「自分の血筋の正当化」である。
不思議な話なのだが、数多の人を犠牲にし政府まで乗っ取った悪が求めたのは実は「自己防衛」と「保身」のみであり、強大な力や不遜な態度や言動とは裏腹に、欲求そのものはむしろ矮小かつ賎陋である。
世界を支配するほどの悪の欲求と言うものは、おおよその場合「全人類が幸福になるために全人類を管理する」という、行き過ぎた正義や理想としての高尚な一面が存在するのだが、彼の言動にはそんな理念は無い。
これは彼の思想の本質が唯一無二の特別な存在になりたいという自己顕示欲にあり、究極的には誇大妄想を拗らせてしまっただけでしかないという事が根底にある。
皮肉なのは、彼の持つ「特別な何かになりたいという願望」は、万人が、それこそマグルですらもが持ちうる「ごく普通の欲求」でしかないという事だろう。
言い換えるならば彼は、「非凡な才能を持っているだけの、平凡な人間」でしかなかった。
これは「愛と言う平凡な思いが何よりも特別な魔法」と言うハリー・ポッターのテーマが裏返しの形で現れたともとれる人物造形であり、「どんなに特別な才能が有ろうとも、その本質は凡人と変わらない」と言うヴォルデモートの存在は、ある意味でシリーズ最大の道化なのである。
血と死への拘泥
自己愛が強い反面、強烈なコンプレックスの塊であり、特に血筋と自分の死に対しては終生において異常なまでに執着していた。
母が死んで自分が孤児となったこと、母がスリザリンの継承者であるにもかかわらずマグルへの歪な愛に狂い、自己を守れずに死んだことが彼の中で凄まじい劣等感となっているからか、ある種幼稚なまでに彼は自分自身の死を極端に恐れている。
また孤独であり適切な愛情や教育を受けなかったこと、そして魔力や血統により自分が特別であると認識したことで彼の世界における自他が完全に切り離され、自分の命を守るためにいくらでも他者を犠牲にするようになった。
ヴォルデモートは「誰にも愛されたことが無かったから、誰も愛さなかった」のである。
ヴォルデモートがダンブルドアの「人間の愛や絆はどんな魔法にも勝る」という理念と自説を否定し続けてきたのもこのため。
愛を知らずに育ち、愛を信じ切れず、愛することのできないヴォルデモートにとって「愛こそ全て」などという道理は、それこそ自分の存在と人生を全否定されるも同然であり、絶対に認めるわけにはいかなかったためである。
作者曰く「メローピーが生き残って彼を育て、彼を愛していたらすべてが変わっていたでしょう。」とポッターモアで記述している。
また、ボガートがヴォルデモートに見せる恐怖は「自らの死体」である。
主な人間関係
- ハリー・ポッター:最大の因縁の相手。自らの手で殺すことに固執する。
- アルバス・ダンブルドア:かつての師で仇敵。唯一自分より手強い相手。
- ベラトリックス・レストレンジ:最大の腹心であり弟子。
- セブルス・スネイプ:腹心として重用。しかし……。
正体と容姿
かつてホグワーツで最も優秀だったと言われる学生トム・リドル。
過激な純血主義者だが、本人はマグルの父と魔法使いの母との間に生まれた混血。
マグルの父と同じ名前を嫌い、学生時代から密かにヴォルデモート卿と名乗っていた。
当時は現在のヴォルデモートと違ってグリンデルバルドに近い知能犯タイプである。
力よりも自身の容姿や巧みな話術といった人心掌握を主軸としていた。
元々はハリーも認める程の美形。
黒髪で黒眼、細身でどことなくハリーと通じる雰囲気を持つ細面の美青年だった。
しかし不死魔術ホークラックスによる影響なのか、全盛期には蛇を思わせる姿に変貌している。髪のない肌は青白く、鼻は鼻腔を残して無くなり、瞳は赤く切り裂いたように細い瞳孔が開いている(トム・リドル時代から、激昂すると目は赤く変色していた)。
もっとも本人は父親似な顔への未練はなかったらしく、作中では気にも留めていなかった。
黒いローブを着ており、映画版では和装のようなテイスト。
決着とその最期
第二次魔法戦争の末期に勃発した「ホグワーツの戦い」において、アルバス・ダンブルドアの計略とハリー・ポッターの活躍により全ての分霊箱を破壊され、最終的には1998年5月2日にハリーとの一騎打ちで敗北し命を落とす。
71歳没。ヴォルデモートの敗因は様々な要因が複雑に絡み合っているが、簡潔にまとめると以下の2つとなる。
- 「ヴォルデモートが生きている限りハリーが死ななくなっていた」
あくまでもダンブルドアの推測によるものだが、ヴォルデモートの魂は度重なる分霊箱の作成によって非常に不安定な状態になっていたため、両親のみならず幼子までも殺そうというダンブルドア曰く「言語に絶する悪行」を為した時、ヴォルデモートの魂は本人が意図しない形で引き裂かれ、その欠片がその場にいた唯一の生きた魂…すなわちハリーに引っ掛かった。
つまり、ハリーは「ヴォルデモートが意図せずに作ってしまった分霊箱」だったのである。
ハリーが蛇語を話すことができたり、ヴォルデモートとの間に精神的な繋がりが生じていたのは、彼の魂にヴォルデモートの魂の欠片が付着していたためであった。
1995年6月、ヴォルデモートはワームテールとバーテミウス・クラウチ・ジュニアの協力によって、蘇生魔術で自身の肉体を復活させた。
この時、儀式に用いる材料として「父親の骨」「しもべの肉」「敵の血」の3つを揃える必要があったのだが、このうち「敵の血」としてハリーの血液を使った。
これによって、ヴォルデモートの肉体はハリーの中にあったリリーの防御呪文まで一緒に取り込んでしまったため、ハリーはヴォルデモートの肉体が生きている限り死ななくなったのである。
ヴォルデモートはこのことに気付かないまま、「強力な魔法特性をもったもの」という分霊箱を破壊することが出来る条件を満たすニワトコの杖を用いてアバダケダブラをハリーに使用した。
当然、上記の理由でハリーを殺すことはできず、ハリーの中にあったヴォルデモート自身の魂の欠片のみが破壊される結果となった。
- 「ニワトコの杖の忠誠心を得ていなかった」
忠誠心は不変ではなく、勝ち取ること(殺害する、武装解除する、力尽くで奪取する、など)によって次の持ち主に移る。
ただし、計画された死(殺す・殺されることを事前に示し合わせる)では忠誠心は変化しない。通常の杖は、持ち主が変わった場合、新しい持ち主に対する強い忠誠心を持つものの、以前の持ち主への忠誠心も完全には失わない。
しかし、死の秘宝の一つで、「死の杖」「宿命の杖」とも形容されるほど強力な魔法特性を持つニワトコの杖の場合、新しい持ち主への忠誠心が非常に強く、以前の持ち主への忠誠心を完全に無くすという特徴がある(そのため「殺人によって継承されてきた」という伝説がある)。
この杖は長きに渡ってダンブルドアが所持していたが、自分の死期を悟ったダンブルドアはニワトコの杖の忠誠心が自分以外の誰かに移動しないように、セブルス・スネイプと示し合わせて「スネイプがダンブルドアを殺す」という計画を立てた。
結果的にこの計画は、スネイプが殺す前にドラコ・マルフォイがダンブルドアを武装解除したことで、ニワトコの杖の忠誠心がドラコに移ってしまい、成功しなかった。
ヴォルデモートはダンブルドアの墓から盗み出すことによってニワトコの杖を入手したが、その忠誠心は得ていなかった。
彼は、ダンブルドアを殺したスネイプがニワトコの杖の忠誠心を得ていると勘違いし、ナギニに命じてスネイプを殺害させた。
しかし、上記の通りスネイプはニワトコの杖の忠誠心を得ていないため、ヴォルデモートがニワトコの杖の忠誠心を得ることはできなかった(たとえドラコがダンブルドアを武装解除しなくても、スネイプは事前に示し合わせた上でダンブルドアを殺害したため、いずれにせよ忠誠心がスネイプに移動することはない)。
一方、ドラコはこれらの事情を何も知らなかったどころかニワトコの杖に触れることなく忠誠心を勝ち取ったわけだが、マルフォイ邸で繰り広げられたハリー達と死喰い人との戦闘において、ハリーがドラコから彼の杖(オリバンダー製)を奪い取る。
この時、彼の杖の忠誠心がドラコからハリーに移動するが、同時にニワトコの杖の忠誠心もハリーに移動した。
これにより、ニワトコの杖の真の所有者はハリーとなった。
最終的にヴォルデモートはハリーと対峙した際に、自分ではなくハリーがニワトコの杖の忠誠心を得ていることを告げられ、これまでに犯した罪に対する悔恨(分霊箱の作成によって分割された魂を元に戻す唯一の方法であるが、自らを滅ぼすほどの苦痛を伴うとされる)のチャンスを与えられたが、これを無視し、ニワトコの杖を用いてアバダケダブラをハリーに放つ。
しかし、ニワトコの杖の強固な忠誠心によって、杖の真の所有者であるハリーにアバダケダブラは効力を発揮せず、逆にハリーの放った武装解除呪文によってヴォルデモート自身に跳ね返った。
この件に関連して、ダンブルドアを過大に評価していた点も敗因の一つである。
作中におけるダンブルドアの力量はニワトコの杖でブーストされた上でのものである。
通常の相手であればヴォルデモートは自分と対等以上に渡り合う相手の過剰戦力を疑問視し、杖の正体に気付く事は容易であったはずである。
しかし、ダンブルドアは決してヴォルデモートに弱みを見せないように努め、ヴォルデモートは唯一自分に刃向かい続けるダンブルドアを必要以上に恐れた。
結果として、ニワトコの杖でブーストされているダンブルドアの実力を本人の才覚と誤認し、杖の確保が遅れる事になった。
もしも杖の確保が迅速であれば7巻の大半を杖の捜索に費やしたヴォルデモートは自由に行動できる事になり、最終的な戦局は大いに変わったはずである。
このように幾重にも重なった要因によって、ヴォルデモートの魂と肉体は完全に滅び去った。
死後、その魂はゴーストになって現世に戻ることも死後の世界に進むこともできず、永遠に生死の世界を彷徨うことになった。
余談
リアルでも正体はイケメン
トム・リドル時代の彼が美形であった事は前述の通りだが、あの恐ろしいヴォルデモート卿状態の彼を演じているレイフ・ファインズはベテラン英国人俳優勢内でもトップクラスのイケメンであり、よく「ヴォルデモートを演じているのはこの人」という情報のみで初めて彼の素顔の写真等を目にした者が己が目を疑わんばかりに驚いた等といった話はわりかし良く聞く。
言うまでもなく本人に鼻はちゃんとあり、特殊メイクでのっぺり顔と青白肌にはしてるものの、鼻だけはCG加工で消していたとの事。
ともあれ、鼻有りでも十分におどろおどろしいそのメイク状態でファインズ氏は「この機にフザケなければ損」とでも思ったのか、撮影機材を手にスタッフ相手に幾度となくチョケて回っていたらしく、その光景は抱腹絶倒のオフショットフォトという形でしっかり残されている。
そのカリスマ性をリアルでも遺憾無く発揮して飛行機でCAと盛ってしまったなんてエピソードも……。
「イケメンな上にユーモラス」だなんて、ぶっちゃけズルい…
一人称と迷言
よく邦訳版での一人称が俺様であることや、おじぎをするのだという台詞から日本ではネタ的な人気を誇る。
多くのAAも作られた。
どちらも原語での雰囲気を損なうという評価が主流だが、ヴォルデモートの俺様感や言動から垣間見える幼稚な精神性を表現するのには合っているという声もある。
LEGOムービー
「レゴバットマンザ・ムービー」にキングコングやサウロン達とサプライズゲストとして出演 (ちなみに、ヴォルデモートにはサウロンの親玉冥王モルゴスと似ている部分もある。「Dark Lord」という自称は冥王の原著版の表記。また、MERPにはクトゥルフ神話と似た描写の存在が登場するが、そこに「名前を言ってはいけない存在」も含まれている)。
極悪ゾーンに投獄されていたところをジョーカーの手引きで脱獄。魔法を使って活躍したものの、バットマンファミリーの活躍で再びファントムゾーンへ投獄された。
子供向け映画である為か、映画版で多用したアバダケダブラなどは使用せず、浮遊術や変身術などを使う程度に留まっている。(お前そもそも児童書のキャラなのに人殺しすぎだろなどとツッコんだらアバダケダブラされる。)
演じたのはエディー・イザード(日本語版は山路和弘)。ハリポタ映画版でヴォルデモートを演じたレイフ・ファインズが出演しているものの、こちらのファインズはアルフレッド・ペニーワース役を演じている。
関連イラスト
関連タグ
ウィザーディング・ワールド ハリポタ ファンタビ
スリザリン 死喰い人
死の飛翔 闇の魔術
分霊箱 ニワトコの杖
杖兄弟
タナトフォビア
DIO(ディオ・ブランドー):『家族に恵まれず父親を憎んでいる』・『環境は恵まれなかったが、非凡な才能と努力でのし上がった悪のカリスマ』・『作中で美形であることが強く強調されている』・『舞台がイギリスである』・『嘗て自分を追い詰めた男に対し未だにコンプレックスを抱く』・『一度倒されるが長い時を経て復活する』・『ライバルとの間に奇妙な絆が生じている』など、多くの点が共通している。
リドリー:『宿敵(主人公)の幼少期にその両親を殺し、その後も大切な人を次々に殺して奪った』『巨大犯罪組織の大ボス』『狡猾で残虐な大量殺人犯』と共通点が多い。名前もヴォルデモートの本名と似ている。ただし、トム・リドルの「リドル」は「なぞなぞ」から来ているのに対し、リドリーは映画監督の「リドリー・スコット」から来ているとされている。
鬼舞辻無惨:『本質が小物』・『死を強く恐れる』・『異常なパワハラ気質』・『嘗て自分を追い詰めた男を未だに恐れている』・『自分によって家族を殺された頭に傷のある少年によって引導を渡される』などが共通。
稀咲鉄太:「巨大な犯罪組織のトップ」、「真面目で平凡な少年を演じつつ計算しながら上り詰めた」、「警察や法律でも手が付けられない」、「ものすごく頭が切れて要領がよく、人心掌握に長けているが、本質が小物」など共通点が多い。ただし、稀咲はあくまで自分の能力の限界を知っており、その上で他人を利用し踏み台にしていくスタイルだが、ヴォルデモートは「自分こそが最強」と信じて疑わず、事実それに恥じない実力もちゃんとある。
ゴア・ザ・ゴッド・ブッチャー:MARVEL作品に登場するヴィラン。性格や経歴はどちらかと言えば正反対なのだが、白い肌・黒い服・切れ込みを入れたような鼻と外見がそっくり。
そのため、実写映画『ソー:ラブ&サンダー』では意識して変更された。
ロンドンオリンピック(2012年):開会式にヴィランズの一員としてハリー・ポッターを差し置いて登場。同開会式ではJ・K・ローリング女史やケネス・ブラナー(かつて劇場版第2作でギルデロイ・ロックハートを演じていた)も出演している。