本項には原作のネタバレがあります。未読の方はご注意ください。
概要
中国語読みはイーリン ラオヅゥー。
身長186㎝、享年22歳。
本項では魏無羨が夷陵老祖と呼ばれ始める時期から死亡するまでの内容を記載する。
人物
魏無羨の記事を参照。
容姿
全身に黒い服を纏い、すらりとして背が高い。腰には笛(陳情)を差している。
以前の魏無羨は、抜きん出て明るく意気揚々とした人好きのする紅顔の美少年で、目元と眉にはいつでも笑みを浮かべて自由気ままに歩くのが常だった。
しかし、鬼道を会得してからは、全身がひどく冷え冷えとした重苦しい気配に覆われ、美しい顔は青褪めた色をしていて、その微笑みまでも不気味さに満ちている。
経歴
温晁らにより夷陵にある無縁墓地「乱葬崗」に落とされた魏無羨。そこで三ヶ月の間籠り、鬼道を生み出した。
まず行動を起こしたのは、温晁らが潜伏する「監察寮」だった。
そこには邸宅を守る呪符が張り巡らされていた。この類の呪符の書き方は、魏無羨たちならば十五、六歳までには既に熟知している。魏無羨は本来守護を意味する呪符を書き足し、効果を反転させていた。
力強く自由自在な丹砂の筆勢。付け足したのはたった四筆だけだった。
その頃、温氏の「監察寮」を夜襲するつもりだった藍忘機と江澄は、加筆された呪符を発見していた。藍忘機は筆跡から同一人物であることを告げるが、江澄にはそれが誰であるかわからなかった。
藍忘機は周囲の邪気を気にするが、江澄は「この世に温狗より邪悪なものなんていない」「温狗を皆殺しにできさえすれば良い」と考えていた。
二人は四日目の深夜まで追跡を続け、辺鄙な山の上に建てられた宿場の近くで温逐流の足取りを掴んだ。
化丹手の技を懸念し、屋根の上に上がって中の様子を窺う。そこには酷く怯えた温晁の姿があった。彼の姿は、今まで傍若無人に振る舞ってきたあの人物と同じとは思えないほどに憐れだった。温晁の側には唯一温逐流だけが残っていた。
温逐流が階段の物音に気付いた。誰かが一段一段踏みしめながら、二階に上がってきていたのだ。
至る所に火傷を負った温晁の顔から、血の気が一瞬で引いていく。
ゆっくりと二階まで上がってきたその人影は、全身に黒い服を纏い、すらりとして背が高い。腰には笛を差し、手を後ろで組んで歩いている。その人物が悠々と階段を上がり、微笑みを浮かべながら顔を向けた時、藍忘機は信じられない様子で目を大きく見開いた。彼の唇は少し震え、声を出さずに何文字かの言葉を口にする。江澄も驚きのあまりその場で立ち上がりかけた。
『魏無羨!』
しかしその顔を除けば、元の魏無羨とは似ても似つかない雰囲気を醸し出していた。
がらんとした宿場の中に、温晁の甲高い叫び声が響き渡る。
魏無羨は何も聞こえないかのように服の裾をさっと払うと、卓のそばに腰を下ろした。彼が手を下に垂らすと、卓の下の暗闇から異様に白い皮膚の子供が一人現れ、まるで肉食獣のように魏無羨が与えたものを齧って食べている。
魏無羨が手を戻すと、その白い鬼童の頭をぽんぽんと叩いてやった。鬼童が何かを咥えながら振り返ると、魏無羨の脛に抱きついてやけに憎々しげに咀嚼しながら温逐流を睨みつけた。鬼童が咀嚼しているのは、切り取られた温晁の指だったのだ。
この状況下でもまだ温晁を守ろうとする温逐流に、魏無羨は「なんとも忠義に厚い温狗だな」と言う。対して温逐流は「知遇の恩には報いなければならない」と言った。それを聞くと、魏無羨の口調と表情がいきなり凶悪なものに変わり、彼は荒々しい声を上げた。
「なぜお前が受けた恩の代償を他の誰かに払わせる!」
話の途中で逃げ出そうとする温晁。その時、天井から一塊の赤い影が落ちてきた。赤い服を身に纏い、青褪めた顔をした髪の長い女が、踏み潰すようにして温晁の体の上に落ちたのだ。
温逐流は彼を助けようとしたが、その時には魏無羨の足元にいた鬼童が飛びかかっていた。温逐流は女と鬼童両方を相手にし、珍しく慌てふためき散々な体たらくだった。必死に応戦しながらふと顔を横に向けた時、魏無羨がせせら笑いながら傍観しているのが見えた。
温逐流が魏無羨に向かって飛びかかる様子を見て、屋根の上にいた二人は同時に顔を強張らせる。咄嗟に藍忘機が手のひらから一撃を放ち屋根瓦を砕くと、飛び降りて温逐流と魏無羨の間に立ち塞がった。
呆気に取られる温逐流の首に、紫に光る長い鞭が巻きつく。江澄は彼の体を吊るして宙に浮かせた。
女と鬼童は新たに現れた見知らぬ二人に警戒の眼差しを向ける。鬼童が牙をむき敵意を丸出しにすると、魏無羨は微かに手を振って牙を収めさせた。
「お前の剣だ!」
江澄は仙剣・随便を放り投げ、魏無羨は反射的に受け取った。俯いてしばらくの間随便を眺めてから、やっと口を開く。
「……ありがとう」
先ほどまで彼の体を覆っていたあの冷え切った不気味な気配は、江澄とのやりとりで大分薄くなっていた。その間も藍忘機は始終魏無羨に視線が釘付けになっている。
江澄は再会の喜びと同時に怒りも湧き、思い切り魏無羨を抱きしめたあと、またいきなり押し飛ばして怒鳴った。魏無羨が戻らない三ヶ月間、忙しすぎて頭が割れそうだったのだと。
魏無羨はさっと服の裾を払うとまた卓のそばに座り、手をひらひらと横に振った。いろいろあって一言じゃ済まない。温狗に捕まって、ろくでもない場所に放り込まれて痛めつけられたのだと。
彼が話している間、青褪めた顔の女は魏無羨の太ももにくっついていた。まるで見目の良い愛妾が主人の機嫌を取っているかのようだ。魏無羨は彼女の柔らかく長い髪を撫でる。その姿を見て、藍忘機はますます冷えて険しい表情になった。
藍忘機は、魏無羨がどういう方法でその邪悪なモノたちを操っているのかと詮索する。しかし、魏無羨ははぐらかすだけで答えなかった。藍忘機は無言で魏無羨に手を伸ばすが、それをすべてかわしていく。
「藍湛、お前いったい何がしたい?」
「私と一緒に姑蘇へ帰るんだ」
藍忘機は一音一音はっきりと答えた。
その他
一見昔の魏無羨から変わってしまったと思われがちだが、素の内面は変わっていない。
その為、子供を土に埋めて大根と一緒に育てようとするような奔放さは健在である。
(ちなみに子供の方も破天荒な魏無羨についていける程なので非常に逞しい)
自分の身が多少犠牲になっても構わず、喉元過ぎれば熱さを忘れる性格もそのままなせいで、目隠しをしている最中に非常に力が強くて恥ずかしがり屋な仙子に襲われたりもしている。
詳細は原作小説にて。