黄前麻美子
おうまえまみこ
概要
黄前久美子の6つ上の姉で、東京の大学に通う大学3年生。
トロンボーンの経験者で、久美子がユーフォニアムを始めるきっかけとなった人物であるが、原作小説とTVアニメ版では設定が多少異なっている。
原作小説では小学校4年生の時に金管バンドに入り、トロンボーンを担当。小学校6年生の時には母親と妹の久美子の見守る中でステージマーチングショー(コミカライズ版ではパレード演奏、TVアニメ版ではステージ演奏)の一員として演奏を披露している。
しかしこの頃から受験を意識しはじめ、勉強をするために今まで続けていた金管バンドとトロンボーンから手を引く。
おねえちゃんトロンボーンやめちゃやだよ、と詰め寄る妹の久美子(当時小学校1年生)に対しては、腕をつかんで無理やり床に押し倒した挙句「次に変なこと言ったら、アンタの口縫うからね」と冷ややかに言い放っている。(原作3巻、91ページ、TVアニメ版2期8話)
中学以降は家と塾と学校とをぐるぐると行き来する生活を送り、久美子に対しては「部活じゃ大学には行けないよ」等の冷やかしの言葉を投げつけている。
TVアニメ版では、中学校に進学後も引き続きトロンボーンを担当している。
中学3年生の時には自宅に楽器を持ち帰ることもあり、小学校4年生になり金管バンドに入った久美子に対してマウスピースの吹き方のコツや楽器の手入れの方法を教える事もあった。
性格の方も、原作に比べてやや穏やかな印象を受ける。
自らの意志
進路と軌跡への葛藤
台風の到来した9月初旬のある日、麻美子は雨の降りしきる中びしょ濡れになって京都の実家へと帰省する。
突然の帰省に驚く母親を前に、開口一番「私、大学辞めたいの」と告げた麻美子は、その後数日間にわたって自室に引きこもり、両親に対しても辞めたくなった理由を明かそうとしない。
そんな姉を見た久美子は「お姉ちゃんは良い学校行って、良い会社入るために勉強してたんでしょ? やめたら意味ないじゃん!」と、今までさんざん「勉強しろ」と言われ続けてきたことへの裏返しの言葉を向けるが、麻美子はそれに対しても「アンタには関係ない」と吐き捨ててその場を後にする。(原作3巻、48ページ、TVアニメ版2期6話)
それからしばらくの間麻美子は変わらず自室に引きこもっていたが、9月の末に差し掛かった頃、両親に対して大学を辞めようと決めた本当の理由を打ち明ける。
麻美子は、中学時代からずっとなりたかった美容師になるために大学を辞めて専門学校へ入学したいと切り出し、また同時に自分自身が『姉だから』という理由のもとに、今までやりたいことを我慢して勉強に打ち込んできたということを語る。
そんな麻美子に対し、父親は逆に「大学に行くと決めて受験したのはお前自身だ。違うか?」と聞き返すと、もし大学を辞めて専門学校に進もうとするなら、学費も生活費も全て自分で支払うように示し、「リスクを背負わずにやりたいことができると思うな。お前が言っていることは、あまりにも自分に都合がよすぎる。本気なら、その覚悟を示せ」(原作3巻、143~144ページ、TVアニメ版2期8話)と告げてその場を後にした。
両親と揉めた数日後、風邪をこじらせて早退した久美子が自室でユーフォニアム奏者・進藤正和のCDを聴いていると、麻美子は「聴きたくないの、嫌いだから!」とオーディオを止めに久美子の部屋に入る。
そのまま部屋を出ようとした麻美子に対し、久美子は「だったら、続けたかったなんて言わないでよ!」と口を開くと、今までさんざん吹奏楽を馬鹿にしてきた挙句、今になってトロンボーンを続けたかったなんて言うのはずるいという事や、ずっと両親から学費やアパートの家賃を払って貰っていた事実などを突き付ける。
そんな久美子を「うるさい!!」の一喝で制した麻美子は、「アンタに… 私の気持ちなんて分かるわけない」と独り言のようにつぶやくと、口を閉ざして部屋を後にした。
その後、マンションを出ようとした麻美子は、エントランスに差し掛かったところで久美子の幼馴染である塚本秀一と偶然再会する。
秀一は久し振りに会った麻美子と話し込む最中、不意に「俺たちの演奏聴きに来てくれたことありました?」と切り出すと、自分たちの演奏がみちがえるほど上手くなったこと、久美子も本当は麻美子に自分たちの演奏を聴いて貰いたいと思っているんじゃないかという考えを口にする。
今でこそ疎遠であるものの、もともと久美子が楽器を始めた理由は姉である麻美子の影響によるもので、当時の久美子は「上手くなっていつか一緒に吹くんだ」と麻美子の背中を追いかけて練習に励んでいた。
そんな秀一の言葉を受けて、かつて自分自身がトロンボーンを吹いていた頃に思いをいたした麻美子であったが、その思い出は今となってはあまりにも遠くに過ぎ去っており、麻美子はただ「忘れた…」と呟くしかなかった。
しかし、かつての「やりたかった事をやっていた」頃の自分を顧みる機会を得た麻美子は、今現在の久美子の「頑張り」が気になるようになり、彼女が吹いている北宇治高校吹奏楽部のCDを借りるために再び久美子の部屋へと足を踏み入れた。
後悔との決別、そして…
それから数日が経ったある日の夕方、母親の帰りが遅くなるのを知った麻美子は料理を作って仲直りをしようと画策するが、その意気とは裏腹に料理音痴が災いして鍋を焦がすなど一向に料理を進めることができなかった。
そんな姉の有様を目にした久美子は、麻美子に代わって料理を引き受けるとともに、黒焦げになってしまった鍋を洗うように彼女に勧めた。
そうして姉妹で肩を並べて作業をしている最中、麻美子は沈黙を破るように自らの話を久美子に語った。
麻美子は、今まで自らの進路を自分で決めようとせず、親や周囲に流されるようにして過ごしてきた。やりたいことを我慢して、親の言うことを聞いて耐えることを”頑張る”こととして据えていた麻美子は、大好きだったトロンボーンさえも親の勧める学校に進学するために手放していた。
そのような行いを積み重ねることにより、大人のふりや「社会とはこういうものだ」と分かったようなふりをし続けてきた麻美子は、就職活動のために今までのことを振り返った際に「自分ってこれまで何してたんだろう」(原作3巻、251ページ)という思いに駆られるようになり、同時に自分のやりたいことをやれている妹の久美子を見て、なんでアンタばっかり……という羨望の念も抱くようになる。
その思いに導かれるようにして、自分が本当にやりたかったこと、そのためにやるべきことは何かを見出した麻美子は、今までの”大人を演じていた”自分を止めたことを久美子に明かすとともに、「後悔も、失敗も、全部自分で受け止めるから、自分の道を行きたい。そう素直に言えばよかった」と今までの自分自身を評した。(原作3巻、253~254ページ、TVアニメ版2期10話)
これからは自らの意志のもとに自分の道を決めるときっぱりと告げた麻美子は、少しばかりの寂しさを浮かべる久美子に対し、吹奏楽コンクールの全国大会を聴きに行くこと、そして「アンタも、後悔のないようにしなさいよ」(原作3巻、256ページ)という一言を残してその場を立ち去った。
親の意向に流され続けた結果感じた「こうするべきではなかった」という後悔、そしてそこから新たに自分の道を選んで進もうとする麻美子の決意は、久美子の胸に確かに響くものであり、やがて母親の要求に従おうとする田中あすかを止めるための一大決心へと繋がることとなる。