余談
「腰巻が原因で逃げ遅れて死亡」というデマ
1932年に発生した、白木屋百貨店火災事故において「ズロースではなく腰巻を着けていた女性たちが、飛び降りれば助かったのに、野次馬に陰部を覗かれるのを恥らったため死亡した」という俗説がまことしやかに囁かれ、あたかも事実であるかのように語られている。
しかし実は、そのような理由で亡くなった女性は一人もいない。
この火災事故の死者数は14人、うち8人が女性だったが、その理由は煙に巻かれて追い詰められた挙句に転落、あるいは帯やロープ、雨樋を利用して脱出しようとしたが失敗して転落と、いずれも果敢に脱出を試みたものの、力尽きた結果である。
- そもそも、この事故は日本史上初の高層ビル火災(白木屋は当時としては珍しい8階建てだった)であり、飛び降りていたらむしろそれが原因で亡くなっていた可能性が高い。
ただ、和装の女性店員が脱出の途中で野次馬の存在に気付いて羞恥を覚え、思わず裾を抑えた結果、ロープから手が離れてしまい転落、負傷したという事実はあった。これを受けて当時の白木屋専務が「これからはズロースを着用するよう指導する」と発言し、マスコミがこれをこぞって報道、「いざという時のために」とズロースの普及を呼び掛けた。
その結果、女性の死者と腰巻が結びついたデマが誕生。女性の恥じらいが死亡事故に結び付くという、ある意味ロマンチシズムを感じさせる物語はウケが良いため、現在まで語り継がれる伝説となってしまったのである。