概要
本項では「巨人症」および「先端巨大症」について下垂体腺腫を原因とする成長ホルモン過剰分泌による症候群(高ソマトトロピン分泌症:hypersomatotropism)であるとして取り上げる。
本来人間の身体は、下垂体と呼ばれる器官から分泌される成長ホルモンによって身体が過剰に成長しないように調整されている。
しかし下垂体に腫瘍が発生して、その機能が損なわれないまま成長ホルモンが過剰分泌された結果、成長にブレーキがかからなくなってしまい、身体が異常に大きく成長してしまうことになる。これを「巨人症」という。
なお、成長軟骨帯(骨端線)という軟骨が骨化する=骨端線が閉じることによって骨の成長が止まり、身長が伸びなくなるが、この骨端線が閉じる前(子供のうち)に発症すると巨人症、閉じた後(成人してから)に発症すると「先端巨大症」と呼ばれる。「末端肥大症」と呼ばれることもある。
症状
手足や顔の骨(額や鼻、あごといった突き出している部分)が大きく変化するといった症状が現れる。
また、骨の変化に伴い筋肉が肥大し、大きくなった身体に対応しようと内臓にも症状が現れる。
極端な成長から骨が脆く、関節も弱りやすいため、歩行能力が低下しやすい。また、内臓の機能は身体の大きさに比例して変化することはないため、心肺に大きな負担がかかる。臓器の発育不全も起こることがある。
心疾患や呼吸器合併症、高血圧のほか、糖尿病や高脂血症などの代謝の異常が起こりやすい。
また、腫瘍が肥大することで神経や臓器を圧迫し、視野狭窄(視野が狭くなり、ものが見えにくくなる症状)、頭痛、脱力感などの症状があらわれる。
無治療の場合は身体への負担が大きく、患者の余命は短くなる。また、治療後も腫瘍が発生しやすく、がんになるリスクも高い傾向にある。
成長ホルモンと近い構造をもつ「プロラクチン」の増加が併発することで「高プロラクチン血症」を起こすことが多い。プロラクチンの分泌は生殖器に影響し、女性の場合は月経不順、男性の場合勃起障害を引き起こす。
顔立ちや体格の変化に伴う症状もある。具体的には、顎の骨が張り出し、舌の筋肉が肥大することで噛み合わせが変化する、声帯(喉頭)の軟骨が厚くなることで声が太くかすれたものになる、などがある。
社会との関わり
その身体の大きさを活かし、バスケットボールやプロレスなどのスポーツの分野活躍する人物がいる。
日本では巨人症の著名人として、ジャイアント馬場やアンドレ・ザ ・ジャイアント、チェ・ホンマンらが知られている。患者数の多い病気ではないが、比較的知名度が高いのは彼らの活躍によるものであると言える。
2020年現在、「世界で最も背の高い男性」としてギネスブックに登録されているスルタン・キョセンは、トルコの元バスケットボール選手で、現役当時は「最も背の高いバスケットボール選手」として知られていた。
2018年にはガンバレルーヤのよしこが下垂体腺腫と診断され、緊急入院となったことで話題となった。のちに出演したテレビ番組で「顔がどんどん変化しているのがわかった」「足のサイズが24.5㎝から27㎝に変化した」と語っている。
治療方法
国で指定される難病でもあり、その治療も困難であるが不治の病ではない。
手術による腫瘍の切除・摘出や放射線治療による腫瘍の破壊が主な治療方法である。稀ではあるが血管付近に発生することがあり、手術が危険と判断された場合にはホルモン療法を施される。