「盗賊都市」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第5弾「CITY OF THIEVES」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
作品解説
平和な町シルバートン。
そこは最近、夜な夜な恐ろしい殺人犬「ムーン・ドッグ」がうろつき、アンデッドが襲い来るようになっていた。宿屋にやって来た冒険者に対し、市長のオウエン・カラリフが事情を説明する。「闇の王者」こと、ザンバー・ボーンが、オウエンの娘・ミレルを差し出せと迫っていたのだと。
ザンバー・ボーンを倒すために、ポート・ブラックサンドに隠居生活をしている善き魔術師、アラコール・ニカデマスの元へと赴いてほしいと、オウエンは依頼する。
しかし、ポート・ブラックサンドは別名「盗賊都市」。海賊にして邪悪なる領主、ヴァレック・アズール卿により支配され、あらゆる犯罪者や盗賊、悪漢、海賊などが集まる、無頼と悪徳の都市である。都市の内部を探索するどころか、ただ出入りするだけでも簡単にはいかない。
それでも、ザンバー・ボーンのもとに愛娘を差し出させるわけにはいかない。依頼を受けた冒険者=君は、ニカデマスの元を訪ねるために、ポート・ブラックサンドへと赴く。
ファイティングファンタジー、シリーズ5作目。
再びタイタンが舞台になった作品。今回の舞台は、「ポート・ブラックサンド」という「都市」である。
モンスターが徘徊し、邪悪な魔術師が最奥に待つ「地下迷宮」や「城塞」といった、冒険者が出向く、生活圏外の場所ではなく、「社会生活を営む者たちの、生活圏内」という意味での「都市」を舞台としている。
「バルサスの要塞」でも描かれていた、その世界における「生活の場」そのものを、冒険の舞台としているのだ。
通りがあり、店があり、店舗には店主が存在し経営している。そういう生活圏内に主人公=君が入り込み、店で買い物したり、情報を得たり、酒場で一杯ひっかけたりといった、生活そのものを体験できる作品になっている。
そして、設定上ポート・ブラックサンドは、犯罪者や悪漢の巣窟でもあるため、油断していたら住民に襲われて金貨や金目の物を奪われ、時には殺されたりもする。
さらに、この町を支配しているアズール卿と、その手下である衛兵たちにも、睨まれるとろくに歩き回る事もできない。
単にモンスターを倒したり、迷宮や危険な地での危険な状況をやり過ごし先に進む……という、それまでの物語とは異なり、「町における日常に触れつつ、依頼を遂行していく」という点が、最大の特徴である。
最終的には、アンデッドであるラスボス「ザンバー・ボーン」の居城に赴き、討ち取る事が目的ではある。が、本作は舞台となるポート・ブラックサンドの方が魅力的であり、ザンバー・ボーンの方は些末とも思えてしまう。
後に、ブラックサンドそのものを舞台とした「真夜中の盗賊」もリリースされる。
主な登場人物
主人公=君
剣士。オウエン・カラリフからニカデマスに会うため、ポート・ブラックサンドに赴き、ザンバー・ボーンの倒し方を教えてもらう様に依頼をする。
アラコール・ニカデマス
善の魔法使い。ポート・ブラックサンドの中央部、「歌う橋」の下の小屋に住む。
本作が初登場となる。この場所に引っ越してきた理由は、疲れ果て、これ以上の冒険はしたくないためで、難儀に陥った人々の声を聞きたくないからと話す。
オウエン・カラリフとは旧友であり、そのよしみで主人公=君に、ザンバー・ボーンの倒し方を教え、そのまま倒させに行かせる。
オウエン・カラリフ
ポート・ブラックサンド近くの小さな都市、シルバートンの市長。
娘のミレルをザンバー・ボーンに狙われている。ある冒険者にポート・ブラックサンドに赴き、そこに住むニカデマスを訪ねるように依頼する。最初に見事な広刃の剣と、金貨三十枚とを、前金として渡す。
J・B・ラギンズ
ポート・ブラックサンド・カギ通りにて、鍵職人として店を出しているドワーフ。ニカデマスと敵対しているらしく、ニカデマスを探しに来た冒険者が、彼の友人だと答えると犬をけしかけた(逆に、敵だと答えると友好的になった)。職人としての腕は確かで、あらゆる鍵を開けてしまうマスターキーを、金貨10枚で売ってくれる。
パイプ夫人
ポート・ブラックサンド・時計通りにて、花屋を営む老女。
様々な草花を育て、販売しているが、珍しい商品は「10枚の金色の花弁を付けた、黄金の花」。この花を犬の血に浸すと、それぞれが金貨に変わる。花はマジックアイテムか、武器、食料二食分と交換してくれる。
ベン・ボリマン
ポート・ブラックサンド・木靴通りにて、銀細工職人として店を出している人間の太った男。やや強欲だが、銀細工師としての腕は確か。
店内には、様々な銀細工を納めた戸棚がある。それを開ける鍵は常に持ち歩き、暴漢や強盗などに襲われたら呑み込み、ガス入りの卵を投げつけて自衛する。
とある冒険者の依頼で、ザンバー・ボーンを倒すために銀の矢を金貨10枚(またはマジックアイテム二個と交換)で作った(金貨が足りない場合、所有している食料全てを代わりに取って行った)。
ジミー・クィックティント
「盗賊都市」に登場。
ポート・ブラックサンド、粉屋通りの路地突き当りにて、入墨の店を営む入墨師。紫の絹衣を着た太った男で、入墨師らしく自分の腕や手足、顔や胸など、体中に色とりどりの入墨を施している。
ザンバー・ボーンを倒そうとする冒険者の依頼で、金貨十枚で、真ん中にユニコーンを入れた黄色い太陽の入墨をその額に彫った。
斜視の義兄がおり、隣の店で質屋を営んでいる。
サワベリー
ファットノーズ
ポート・ブラックサンドの衛兵であるトロールの二人組。衛兵の制服を着こんでいる。
ニカデマスと会うためやってきた冒険者に、だますような質問をした後に、「部外者は逮捕するが、捕まりたくなければ金を払え」と迫る。
特にサワベリーは、住民たちに対して似たような事を行ってきたためか、彼らから非常に嫌われていた。そのため住民たちは、件の冒険者がサワベリーと戦い殺したら、お礼だと言って町から脱出するのを手伝ってくれた。
ザンバー・ボーン
ポート・ブラックサンド近くの塔に住む、強力な力を有するアンデッド。
別名「闇の王者」。アンデッドとしての種は「リッチロード(死霊の王)」。ほぼ骨のみの身体に死肉がへばりついている姿をしている。
シルバートンをムーンドッグ(死の犬)をけしかけ、住民を殺させて、生贄に市長の娘を差し出せと迫っていた。
塔には僕としてスピリット・ストーカーや吸血鬼、ミイラなどのアンデッドを従えているほか、幻影の魔術などで侵入者を困惑させる。日中は超自然の存在ゆえに、戦い倒すには夜間しかない。また、倒す際にも蓮の花と黒真珠と魔女の髪の毛(この中の二つだけで良いという話もある)を混合したものが必要だと言う。
ヴァレック・アズール卿
ポート・ブラックサンドを恐怖と力で治める領主。
30年近く支配しているが、その外見を晒す事はほぼ無く、わずかに公衆の前に現れる時も、黒いローブで身を包み、その姿を見た者はほぼゼロに近い。
トロールなども含めた衛兵隊と、通行証によるシステム、それに恐怖政治などで支配し、皮肉ながらも支配に成功している。
ポート・ブラックサンドのガイド
当然ながら、ポート・ブラックサンドは都市であり、数多くの通りが存在し、そこに様々な種族の者が、店舗を出している。
正門
数ある町の出入口。しかしそこには、多くの衛兵が用もなく入ってくる者たちを追い払うため、常に任務に就いている。
通行証をどこかで手に入れそれを見せるか、賄賂を払うか、あるいは口八丁でなんとか丸め込み入れてもらうかしない事には、警戒され、拘束される。反撃しても、並の冒険者程度ではすぐに捕まってしまい、近くの牢に入れられる。
牢に入れられた場合、そこから衛兵を挑発したり、同房の囚人からアドバイスを貰ったりするなど、出るための策を講じる必要がある。
鍵通り
正門から入ってすぐ左にあり、そのまま西へと延びている通り。入ってすぐ、ドワーフの鍵職人、J・B・ラギンズの鍵屋がある。ここでは、ニカデマスを憎むラギンズから、マスターキーを金貨十枚で買える。
通りを突きあたると、右に直角に折れ、北に進める。が、この付近は要注意。よそ者や手ごろな獲物と見られると、周囲から密かに弓で狙い、警告(弓で狙っているから、金貨を道に置き立ち去れと書いたメモを渡す)する。
警告に従い金貨を置くと、金は失うが命は助かる。しかし拒むと周囲から弓を受け、針刺しのような状態にされる。
ただし、近くには癒しの技を使う者もいる。矢を受け瀕死の状態になったら、通りに面した小屋から少女が顔を出し、手招きしてくる。その招きに応えて中に入ると、揺り椅子に座った老人がそこには居る。彼は痛みを与える事無く矢を抜き、矢傷も治療してくれる(しかしその治療費として、所有している貴重なマジックアイテムを所望されるが)。
市場通り
正門から入ってすぐ、目前にある通り。その名が示すように、北に真っすぐ延び、マーケット広場に続いている。
この通りをまず進むと、左手にマンオークの店主が経営する薬草店が目に入る。
この店では、薬草から作った混合治療薬を金貨四枚で、同じく混合煙草がパイプ込みで金貨一枚で購入できる。治療薬は負傷した傷の治りが早くなるが、その効き目は一定ではない。煙草は、店主に言わせれば「軽い」との事だが、普通に吸ったら呼吸困難になるほどひどい代物なので、愛煙家といえどもおすすめはしない。
通りの奥、右側には「ぶち犬亭」という安酒場がある。人間以外の客も多いが、店主はよそ者を嫌い、見知らぬ客が来たらカウンターに短剣を突き刺し、出て行けと言うのが普通。これに文句を言うと、奥からトロールの用心棒が出てきて、一戦交えねばならなくなる。
その先には、富裕層らしき者の家が、やや引っ込んだところに建っている。正面には樫の木の扉と狼をつないだ犬小屋があり、内部は二階建て。室内には金貨や値打ちものなどをためこんでいるが、ここの家人は泥棒を簡単には逃さない術を持つ。
家の主の太っちょは、ファイア・インプを使い魔とする魔術師であるため、侵入者にそれをけしかけてくる。使い魔を殺したとて、稲妻を放って攻撃してくるため、泥棒という悪行の報いを嫌と言うほど味わう事となる!
時計通り
正門からはいってすぐ、東に延びる通り。やや狭く、そのまま進むと排水溝がある。ここでは浮浪者や精神を病んだ者などが居る事もあり、単に話しかけただけでも狼狽し襲ってくることも多い。しかし時に、有用なアイテムをなぜか所有している事もある。
時計通りはそのまま、北へ折れ曲がる(そのまま東に進むと、宮殿通りと交差する)。
この辺りは、戸口の高さは4mほどに。その中には扉が空きっぱなし、内部も汚く散らかっている家もある。噂によると、ここの家人はオーガーで、食料が盗まれて見当たらないと愚痴をこぼしてばかりだという。親切心を起こして食料を分けてやっても、礼一つ言わない無礼な奴との事だ。
北に進むと、直角に左に曲がり、市場通りと交差する。
ただし、この角の周辺には、ただの水を薬効のある水と嘘を言って売りつける少年や、三人組のドワーフの辻強盗が縄張りにしているという話もあるので、通り抜けるだけでも注意が必要である。特にドワーフ三人組は、こちらが手ごわい敵だと知るとすぐに逃げるが、それを深追いしてはならない。見知らぬ横町の上から不意にネットを被され、身動きが取れない状態で金貨を全て奪ってしまうからだ。
そのまま進み、市場通りとの交差点近くの左側には、美しい商品のある二つの店がある。
一つは、パイプ夫人が経営する花屋。この老婦人は珍しい草花を育てており、特に最近は黄金の花弁を付けた花を咲かせたとの事。犬の血に花弁を浸せば、本物の金貨十枚になるらしい。これは食料二食分か、武器、マジックアイテムとの交換で手に入る。
もう一つは、宝石店。店主は左目に眼帯をした、禿の大男。その口元は宝石の美しさと対照的に、黒い乱杭歯がのぞく醜いもの。
彼はショーケースに並ぶ、宝石のはまった指輪を売ってくれるし、入手した宝石を鑑定し、買ってもくれる。売ってくれる指輪はマジックアイテムで、「不可視」「火」「氷」の力を有する。店主の鑑定はそれなりの値が付き、金貨も支払ってくれるが、これにケチを付けると激昂するので注意が必要。交渉決裂、もしくは強盗目的で襲い掛かったら、店主は携えた戦斧で自衛する。
マーケット広場
ブラックサンドの、ほぼ中心部に位置する広場。
ここではほぼ毎日、広場の周りに屋台が出店しており、物売りや楽士、芸人たちがそれぞれ仕事にはげんでいる。
食べ物の屋台で売られているのは、果物、野菜、肉、熱いスープ、コーン、ナッツ類など。どれもが金貨一枚ほどで買える。
竪琴など、楽士の奏でる音楽も聴ける。中には金貨三枚ほどを支払う事で、幸運をもたらす演奏を聴けることもあるかもしれない。
力自慢なら、筋骨隆々の芸人が行っている、砲丸でのキャッチボールに挑戦するのもいい。互いに、重たい砲丸を投げ合い、落とした方が相手に金貨五枚を支払うというゲームだ。
食べ物以外の屋台を冷やかすのもいい。手裏剣などの小さな武器や、ロープやランタン、肉屋の鉤などが売られている店もある。
また、派手な色彩のテントには、マダム・スターが透視術師……未来を予言する占いをしている。占って欲しければ、金貨二枚で水晶玉占いをしてもらう事が可能。
また、中央部にはさらし台が設けられている。そこには罪人がさらされ、群衆はその罪人に対して腐った食べ物を投げつけぶつける事を楽しんでいる。時にスリが、手ぶらな者を見つけて「これを投げな」と食べ物を手渡し、その隙に金貨や品物を盗み取る事もある。
広場の周辺には、空き家もあり、いきなりの雨の雨宿りに入り込む者もいるかもしれない。しかし、入った途端、そこが大きな毒蛇の住処という事が判明し、戦わざるを得ない事もあるので注意。
広場の北側には、ナマズ川が東西を横断している。向かって右側には、中橋に続く川通りが、左側には、歌う橋に続く橋通りが延びている。