「私はイオン。
アディトゥムの崇高なるカルキストにして、
尋常ならざる力を帯びたもの。」
概要
サーキック・カルトもとい、Nälkäの創始者にして、アディトゥムを帝都とするアディウム帝国の魔術王にして、崇高なるカルキストである。優男らしく、イラストではかなりの美男子として描かれることが多い。
クラヴィガルと呼ばれる4人の側近を持っている。
- クラヴィガル・ナドックス
- クラヴィガル・ロヴァタール(妻)
- クラヴィガル・オロク
- クラヴィガル・サルアン
元々彼は、ダエーバイト文明とよばれるユーラシア一帯に広がっていた巨大帝国において、ダエーワの母とその側室である人間の父から生まれた人であった。
この文明は記録される有力者が全て女性であったことから女権社会だと考えられる。支配者であるダエーワなる種族はその血統にこそ価値があると考え、異種族である人間を奴隷として支配していた。またダエーバイト人女性とその側室の人間男性の間に産まれた男児は、奴隷となることが定められていた。
側室の父を持つイオンも例外ではなかったが、生まれつきかなり優秀であったため労働奴隷や魔術の実験モルモットにはならずに、女司祭あるいは錬金術師の召使いであったと推測されている。
ダエーバイト文明は非常に強大な勢力を有していたが、この圧政に耐えかねた奴隷たちは 西シベリアを中心にダエーバイトに抗う反乱組織が生まれたことを知り続々と脱走してはその組織へと加入していく。
これこそがイオンが創始したサーキックであり、見る見るうちに勢力を拡大したサーキックによってダエーバイト文明の歴史は滅びの道へと歩んでいく。
救済者イオン
現在の『崇高なるカルキスト・イオン』のイメージと言えば、救済の名のもとに全世界を支配せんと蠢く異形の肉塊の軍勢を統べる、いかにも魔王然とした姿が浮かぶが、より古いイオンについて記した聖典や文献を見てみると、それまでのイオンに抱いていたイメージがかなり変わる。
ウラルトゥの人々は崇高なるカルキストを歓待しようと望んだ。戦争のため、彼は街の、命の、そして人々の運命の主であった。
イオンは宮廷のバルコニーに行き、群衆に視線を投げかけた。
人々が血と臓物にまみれているのを見て、崇高なるカルキストは彼らが何をしたところか聞いた。
「我らはあなたに我らの子らの血を捧げます!あなたの名のもとの偉大なる供物です!あなたのため、我らの救世主 ― 我らの生きる神のため!」
彼らは狂喜して体を揺すり、真紅の手を挙げたので、イオンは彼らの行いの証拠を見つめたのだろう。
「あなたの力と栄光のために!」
彼らは叫んだ。
崇高なるカルキストはよろめき膝をついた。無垢なものの壊れた残骸が地面に撒き散らされ、彼らの母と父が恍惚として立っていた
― 彼らの目は狂信に見開かれていた。オロクがイオンの側に立ち、彼が立ち上がるのを助け、問いかけた。
「このような獣たちが救済に値するのですか?彼らは贖われることすらできるのでしょうか?」
イオンは蛮行の輝きに目をくらまされて狼狽した。
「そうだ。」
彼は頬に涙を流しさえしながら言った。
「彼らは見捨てられしものだ。ダエーワと、その過ちを認めぬ神々のやり方しか知らぬ。我らは彼らをこの暗闇から教え、導き出す。」
オロクは嘆息して頭を垂れた。
「一度弱さを見せれば、彼らは彼らがそうであるところの貪欲な獣のようにあなたを裏切るでしょう。
夜の間はお隠れになるよう注進いたします ― 群衆はただ予測し難いです。我らに彼らの熱狂を鎮めさせてくださるのが最良です。
そしてもし彼らがあなたを害そうとすれば、私が彼らを破壊します。」
「彼らは救われることができる。」
彼はもう一度言った。
「そうでなくてはならぬ。」
イオンがあるダエーバイトの都市を陥落させて奴隷たちを開放した際、
都市の住人達は歓喜と共に自分たちを救ってくれたイオンへの感謝として
自分の子供をバラバラに切り刻み血肉と贓物をイオンへの献上品とした。
一つの都市中の人間がそれを行い夥しい量の血肉を撒き散らし、人々は血まみれで狂喜しながらイオンを讃えた。
それまでのイメージのサーキシズムであればそれはある意味いつも通りの光景とも言えたが、
それを目の当たりにしたイオンは……
その場に膝から崩れ落ち、涙を流すほどに深いショックを受けて肉塊となった子供たちを哀れんだ。
イオンは生贄も臓腑の供物も望んでなどいなかった。
同伴していたクラヴィガル・オロクも明らかに住人たちの凶行を嫌悪していた。
しかし、それでもイオンは目の前の血まみれの人々を救うべき存在と断言する。
彼らは何も悪くない。ダエーバイトの中で生きてきたせいで、感謝とは生贄であり、
崇拝とは血肉をもって行うことであるとしか知ることが出来なかった、この人たちこそ犠牲者なのだと。
そしてそんな血塗られた生き方から救い出すことこそが、自分の使命だと信じている……
アディトゥムの魔術師王、崇高なるカルキスト・イオンとは、そういった人物だと古い文献には記されていた。
“欲望は万物の尺度である”という教義も、元々は単純に虐げられてきて己のしたいことも出来ない奴隷たちに、
“平等な自由を謳歌してもらいたい”という想いが時代を得るにつれて変容した言葉なのかもしれない。
なぜサーキックは邪教に変貌したのか
さて、そうなると何故これほどまでに高潔な人物であったイオンが現在の魔王の如き邪教の大神官となり、配下たる信者たちは打倒すべきダエーバイトと同じ血肉と生贄を捧げ、世界を征服せんと魔手を伸ばす異形の邪教団と成り果ててしまったのか。
原因の一つは上述したように原始サーキシズムからの教義の認識が大きく変容してしまったことが大きい。
紀元前から続いていたサーキックも、長い時代を得るにつれてどうしてもその全貌を完全な形で後世に伝えていくことは出来ず、
それでなくても時代の世相によって宗教の在り方というものは流動的に変わっていくものである。
プロトとネオでのサーキシズムの認識もほとんど正反対と言っていいほど変容してしまい、
しかもネオを構成する人物の大半が犯罪結社などの悪人で占められてしまったせいで現在の悪のカルト教団というイメージが広がってしまった。
加えて古代の戦争の時点で指導者であるイオンとクラヴィガル達が居なくなってしまったせいで改めて正しい教義を教える存在もいない。
もはやかつての弱者を救済する心優しき救済者たちは、大きく逸れてしまった道を正すことも出来ないのである。
と、ここで気になるのは、「そもそも古代のイオンがダエーバイト以外に侵略戦争をしなければよかったのでは」という事。
何故、イオンはダエーバイトを倒した後もその侵略の手を止めなかったのか。
イオンの本来の目的が世界征服ではない事も当時の信者たちやクラヴィガル達もわかっていたはずである。
何故、イオンは変わってしまったのか。
考えられる可能性として一番高いのは………
封印されしヤルダバオートの復活を目論見、人類を見下し、その道具として弄んできた悪意の神…
アルコーン(ヤルダバオートに仕える堕天使)が、イオンを操ったからである。
確かにイオンは魔術師として財団世界においてもトップクラスの力と才能を持っていた。
Metaphysician氏のヘッドカノンにおいては、アルコーンがイオンに力を与えたのも、それまで自分を崇拝していたダエーバイトの女帝ダエーワを見限り、より素質のあるイオンを選んだ為。
アルコーンは数々の誘惑をイオンのその身の中で囁き、嘯き、誑かそうとした。宇宙の叡智と神秘を、より人を操る術を、より巧みな現実操作の力を。
イオンは自分にとって有益になる部分だけを聞き入れながら、それでいて最後はアルコーンの誘いをキッパリと拒絶していった。
そのイオンをもってしても…その内に秘めたアルコーンの悪意を抑え切れず、徐々に魂と精神を浸食されていったのかもしれない。
彼の最も傍で彼を支え続けていた、クラヴィガル達にも伝播させながら。
つまり、現代のサーキックが邪教団として変容した本当の意味での元凶は―――
救世主が悪へと堕ちるよう導かれた、人類の真なる“ 敵 ”による狡猾な暗躍によるものだったと思われる。
さらに、アルコーン達にはある“計画”があった。
現実のグノーシス主義において、ヤルダバオートが生み出した天使たるアルコーンは基本的に7体存在するという。
しかし、この世界でのアルコーンは6体しかいない…
アルコーン達は自分たちの力を宿す、現時点での最高の逸材であるイオンを使い――――
崇高なるカルキスト・イオンを媒体に、『7番目のアルコーン』を生み出そうとしていた。
アルコーンが7体揃う。これに一体どういう意味があり、それが成された時一体どうなるのかは、何もわかっていない。
しかし、少なくともこの世界にとって“確実に良くない何か”が起こる事は間違いないだろう。
現在、イオンは古代の戦争の末にメカニトとの戦いに敗れアディトゥムごと異空間へと逃走したと語られているが、実際は
「自らがアルコーンに侵食されていることに気付いたイオンが、ギリギリ残った理性で自分ごと異空間に封印し世界を守った」
というのが真相らしい。
しかしその後の現代においても、イオンは時折その姿を見せている。だがそれは大半が別のアルコーンがイオンに擬態した存在で、サーキックをより邪悪に、勢力を拡大させてヤルダバオート再臨に“都合がいい邪教団”となるよう暗躍し誘導していたが為であった。
原始サーキシズムにおける聖人たちの人物像
崇高なるカルキスト・イオン
上述の通り、本来の彼の人柄は虐げられる者たちを決して見捨てない、
弱者に救いの手を差し伸べる善良な聖人で、凄惨な光景に涙するほど繊細な心を持っていた心優しい人物だったと思われる。
最初の人物欄で書かれた邪教の教祖の姿や、悪性の自意識に満ちた人格や邪悪のカリスマとも言える人物像は、恐らくはアルコーンによって精神を浸食された後の姿が後世に伝わったものか、アルコーン自身が分身を現世に飛ばし干渉する際にイオンの姿に化けて暗躍したことによる部分が大きいとされる。
(少なくともSCP-2480でボドフェル邸で召喚されサイト管理官を誘惑したイオンは、現在では高確率で偽物であると推測されている)
- クラヴィガル・ナドックス
イオンの側近にしてクラヴィガルのリーダー格とも推測されていたかつての賢者。
原始サーキシズムでは信者たちからはより深い知恵を求める者や、物事の正しい選択を決める際に彼に祈りを捧げるらしい。
古代での戦争の終盤、彼だけがイオンに起きたことを正確に把握していたとされ、イオンが自身をアルコーンごと封じる際には
イオン自らの頼みを受ける形でイオンの動きを封じる術を彼にかけ、世界をアルコーンから守る一端を担ったとされる。
ナドックスのその後の行方は不明となっているが、Tale『ナドックスとメカニト』では、
戦争終結後、イオンも、アディトゥムも、同胞たちも全て失い呆然と荒野を彷徨い歩くしかなかった彼のもとに、一人の若いメカニトの青年が自身の命を狙い後を付けていることに気付く。
力の差は圧倒的、襲いかかられても特に気にすることもなく適当にあしらっていたものの、
既に戦争も終わり、戦いあう理由も意義も互いに無くした者同士。
サーキック「元」最高幹部と未熟なメカニトの若者は少しずつ言葉と心を交わしていく。その果てには……
- クラヴィガル・ロヴァタール
イオンの側近にして妻でもあった彼女も原始サーキシズム信者からはイオンと同じく崇拝対象となっており、上記での黒魔術要素的な性愛や自己増殖といったようなグロテスクなイメージのものではなく、もっと一般的な縁結びや子宝、子孫繁栄を司る女神の様に扱われていたらしい。
出産間近の妊婦や、恋人探しをするものが彼女に祈るとされる。
司祭でありダエーワの女族長の娘であった彼女は、最初イオンに対し彼の革命は彼女の人生を脅かしていたため敵意を抱いていた。彼女のイオンに対する憎悪は最終的にある種の心酔のような感情になったと記されている。彼を心から取り払うことが出来ず、彼女はイオンを捕らえ、つがいとして束縛しようとした。
彼を己のものにしようとする探求の中で、ロヴァタールは奴隷狩りを次から次へと送ったが、誰も帰還しなかった。ある夜、守衛を出し抜き彼女の寝室に現れたイオンは、寝台の端に腰掛け彼女に静かに語り、自身の中に存在するアルコーンを自らを通じて、直接彼女に見せてSAN値直葬一歩手前にするショック療法で自分が今まで崇拝していた存在のおぞましさを理解することで、彼女を一発改心させている。その後ロヴァタールとイオンは12日間に渡って”和合”し、12日めに、2人は宮殿を後にし戻ることはなかった。
当時の彼女も、組織の側近としての立場だけではなく一人の女性としても甲斐甲斐しくイオンを傍で支えており、傍目から見ても普通に仲睦まじく互いに信頼しあう夫婦だったと伝えられている。
- クラヴィガル・オロク
凄惨な光景に狼狽し涙するイオンを支え、その身を護る為に戦い続けた強靭な戦士。
自身も魔術の実験モルモットだった故かダエーバイトの民が行う残虐な崇拝方法には明確に嫌悪感を示していた。
また、イオンに対して「民たちにあまり親身になり過ぎれば裏切りや打算を考える者から危害を加えられるかも」と忠告を言うなど、
ともすれば御人好し過ぎる部分も見えるイオンに一歩引いたところから冷静に進言する一面もあったようだ。
力と守護を求める者、狩りにおける成功と幸運を望む狩人が彼に祈りを捧げている。
- クラヴィガル・サアルン
呪い・復讐を司る彼女は、基本的に平和主義の原始サーキシズムでは流石に祈る者は少なく当時の彼女の人物像も現状あまり判明していない。
どうしても自分たちを害する存在から身を護る為、一方的な攻撃、理不尽な虐げを身内が受けた際に限り、
彼女への祈りが捧げられ呪術的儀式が行われる。