昭和51年に発行された、夢野久作の著作。
『何んでも無い』『殺人リレー』『火星の女』と言う3つの短編小説で構成されている。
それぞれの小説は、書簡体形式・独白体形式の小説となっている。
『何んでも無い』
虚言癖を持つ看護師の少女の自殺と、彼女の死をきっかけとした周囲の医師達の苦悩を描く。
『殺人リレー』
女車掌のトミ子はバスの女車掌として報われない日々を過ごしていた。 そんなある日、バスの女車掌と関係を持っては殺しているという噂の新高が入社してくる。
『火星の女』
学校の物置が全焼して中から黒焦げの遺体が見つかった。それを機に校長が発狂して学校関係者が失踪する、奇妙な出来事が起こる。
現在では角川文庫より短編集(傑作集)として発行され購入することが出来る。
原文を維持する目的から、現代では廃止されている『看護婦』の呼び名が多用されている作品でもある。
主な登場人物
『何んでも無い』
姫草ユリ子(ひめくさ・)
本作を代表する人物。『美少女』と評される魅力を持つ看護師。
医療の腕もさることながら、患者はおろか関わる人間全てと仲良くなることが出来る、ある種の天才的な技術の持ち主。
しかしその実態は病的な虚言癖によるものであり、嘘を嘘で重ねて生き続けた結果、自らの虚構の世界を守る為に自ら命を絶ってしまう。
本編では彼女の残した遺書を元凶として物語が始まることになる。
臼杵利平(うすき・りへい)
主人公。耳鼻科医の男性。
ユリ子とはかつて上司部下の関係にあった。
ある日産婦人病院の院長『曼陀羅先生』からユリ子の遺書を受け取り、過去や人となりを回想しつつ、彼女の嘘が織りなす『地獄』の渦中に入り込んでいくことになる。
本作は彼が先輩の医師『白鷹先生』にあてた手記という形をとっている。
白鷹秀麿(しらたか・ひでまろ)
臼杵の先輩にあたる医師。大学時代の彼に指導を行っていた。
作中にて未だ大学に留まっていることをユリ子に知らされた臼杵は彼に会おうとするが、何故かいつも間が悪く接触できずにいる。
これに関して臼杵の妻は、『臼杵の会おうとしている白鷹はユリ子の作った偽物ではないか』と推測するのだが……。
曼陀羅(まんだら)
産婦人病院の院長。
ユリ子が自殺した際、遺書によって心臓麻痺で死亡したように偽装するよう指示され、それに従った。
ユリ子の遺骨を保管しているらしいが、臼杵に彼女の遺書を渡して立ち去ってからは行方不明になっている。