一般に生前に悪を成したものを死後処罰する場所を指す。本来は仏教用語だが、転じてさまざまな諸外国の地獄概念の訳語や地獄を想起させる事物の比喩表現として用いられる。
曖昧さ回避
- 仏教、神仏習合における地獄(本記事で説明)
- キリスト教でいう地獄(英語:Hell、本記事で説明)
- ギリシャ神話の地獄 ⇒タルタロス
- 北欧神話の地獄 ⇒ニブルヘイム
- アイヌ神話の地獄 ⇒テイネモシリ
- そのほかの「地獄」の用法 ⇒記事末尾関連タグ参照
仏教における地獄
仏教における六道の一つ、地獄界のこと。六道輪廻においては、大罪を犯した者が死後生まれ変わる世界であり、鬼達による果てしない拷問が行われる。神仏習合が進んだ古代・中世の日本で広く受け入れられた地獄観。
歴史
インド仏教からヤマ(中国で音訳して閻魔)という死後の世界の神の思想はあったが、中国で道教と混淆することで閻魔大王、泰山王(泰山府君)等の地獄の裁判官が生まれ、日本に伝わって巨大な官僚組織を伴う地獄の概念が完成した。様々な文献で地獄は語られているが、その地獄の記述が広く民衆に影響を与え浄土教の基礎ともなった(『大辞林』第三版)という源信『往生要集』が描く地獄を例示してみる。
『往生要集』の地獄
地獄は以下の表にまとめた八種の大地獄に分かれる。下に行くほど罪は重く、そこに転生してからの寿命(というかぶっちゃけ刑期)も長い。その長さたるや等活地獄ですら、「人間の五十年を四天王天の一昼夜とすれば四天王天の寿命は五百年、これを一昼夜と見なしての五百年(つまり、約一兆年ほど)」とか、一体いつになったら出られるのやら。一応、刑期を終えた罪人は輪廻転生のサイクルに再び戻ることになるのだが、その頃には地球が滅んでる気がするが…(尤も、輪廻転生が過去や未来を超越した概念だと考えれば、長すぎる刑期でも全く問題はないのだが)。
地獄名 | 罪名 | 刑罰 |
---|---|---|
等活(とうかつ) | 殺生 | 鬼に殺され、互いに殺し合い、生き返ってまた殺される |
黒縄(こくじょう) | 窃盗 | 砕き殺しては鉄の釜で煮られる |
衆合(しゅごう) | 淫欲 | 岩鉄で潰され剣山で切り裂かれる |
叫喚(きょうかん) | 邪な飲酒 | 熱釜で煮る、溶けた銅を飲ませる等 |
大叫喚(だいきょうかん) | 虚偽 | この世で最も恐るべき炎で焼かれる |
焦熱(しょうねつ) | 因果を否定する邪な考え | 上の各地獄の炎が冷たいと思える程の火力で焼く |
大焦熱(だいしょうねつ) | 浄戒を保つ尼への乱暴 | 源信にも詳しくは述べられないとか |
無間(むげん)・阿鼻(あび) | 全ての戒に背きながら僧侶としての施しを受けた者・自分の親を殺した者 | 源信曰く刑罰の内容を聞いただけで死ぬ |
なお例えば下の黒縄地獄に堕ちるのは窃盗だけでなく上の等活の罪である殺生両方の罪を犯したものである。ならば、人さえ殺さなければ地獄に堕ちないのか、というとそう甘くはない様だ。八つの大地獄には、それぞれ概ね大地獄と関連した罪を裁く十六の地獄が付属しており、合わせて百三十六の大地獄が存在し、ここには人を殺さずとも落ちる。例えば鳥獣を殺した者は等活地獄に付属した十六地獄のうち不喜処に堕ち、鳥や犬、狐に喰い殺される。酒を水増しして売った者は叫喚地獄に付属する火末虫処にてあらゆる病気に罹って苦しむ。仏前への供え物を取って食べ用いた者は、阿鼻地獄に付属する黒肚処にて、飢えの果てに自分の肉体を食う羽目になるとか。更にそうした百三十六の地獄の内の1つにでも落ちれば、残りの地獄も全て廻らなければならない。
さてこれら、八つの大地獄を管理し亡者を処罰しているのは閻魔王に仕える鬼たちであるとのこと。またこれらとは別に八寒地獄という地獄もあるという。
ただ、無理に悪行を重ねたのではなく結ばれた縁によって悪行を行ってしまった者、つまりやりたくてやったのではなく
・そうしなければ生きられなかった者(襲われて返り討ちにした等)
・意図していなかった行動によって結果的に悪事を行なってしまった者(転んだ時人を突き飛ばした結果人が死んでしまった等)
・兵士同士のようにお互いに殺し殺される縁で結ばれている者の殺生
・親の洗脳教育等のせいで罪を罪と思わず悪事を働いていた場合(物事の分別が付くようになってからも続けた場合は除く)
等は、人々があの世におもむく際の初七日(亡くなった日から数えて7日目に営む法要)から三回忌(亡くなってから2年後に営む法要)までに罪の重い軽いを定め、転生する世を決める十王の下で召人(めしうど)として仕え、地獄行きを免れられるともされている。
地獄の伝承
この他、136種の地獄の刑が存在するとも言われ、有名どころでは血の池地獄、針地獄、釜ゆで地獄、舌抜き地獄などが伝わっている。実体験どころか、耳をも覆いたくなるようなおぞましいものも存在する。
キリスト教における地獄
キリスト教にも似たような概念は存在する。神を信じ善行を積んでいれば天国に行けるが、神を信じず悪いことばかりしていると死後に地獄へ行く、と説いている。仏教と違って転生はないので、地獄に堕ちたら永遠の刑罰に晒される。唯一救われる可能性があるのは最後の審判である。天国にある者から地獄で苦しむ者まで、全ての人類は神に裁かれる。そこで地獄行きが決定したらば、本当に永遠に地獄で刑罰を受け続けることになる。宗派によっては、最後の審判の後に堕ちる場所のみを地獄と呼ぶ場合もある。
有名なコピペで宣教師の説法に「ご先祖はキリスト教信じてなかったから地獄行きなの?ならワシらも地獄でいい、自分達だけ救われるような親不孝はしたくない」と返して宣教師を悩ませた逸話があるが、これ以後は元からあったのか聖四文字が後付けしたのかはわからないが辺獄という概念が追加され「正しい教えを知らないまま死んでしまった者や、地獄に落ちるほどでもない小悪党は一度ここで悔い改める機会を貰える」ということになっている。
キリスト教の地獄について詳しく描いている有名な例が、ダンテの『神曲』である。『神曲』によれば、キリスト教では地獄は8層に分類され、下層に行くほど罪の深さと刑罰の過酷さが増していく。最下層には永久凍土に封じられた大魔王サタンが眠っているとしている。
大体のファンタジー作品はここから地獄の着想を得ている。
ちなみに、煉獄という場所も存在し、名前の響きから炎の地獄のようなイメージを持たれているが、実際のところ煉獄とは「天国に無条件に行ける程清らかでは無いが軽い罪しか持っていない者」が一度滞在して、神に赦しを貰い、改めて天国に出発する為の中継点であり、なんらかの罰を与える場所では無い。
要するに
天国→真っ白な魂が行く場所
煉獄→魂を真っ白にする為の洗濯場
辺獄→魂の洗い方を知らなかった人に洗い方を教える場所
地獄→罪に塗れた魂に罰を与える場所
である。
そして、上記四つは今のところ仮入所であり、最後の審判にて、天の国に招かれる魂か、救いようの無い魂かを振り分けられ、正式に天国行きか地獄行きかが決まる、つまり地獄で真摯に罪を滅ぼしていた魂はワンチャン天国行きもあり得るのである。
日常会話ではしばしば苛酷な環境、凄惨な出来事の代名詞として用いられる。
『神曲』における地獄の各名称
- 地獄の門
- 地獄前域
- アケローン川
- 第一圏 辺獄(リンボ)
- 第二圏 愛欲者の地獄
- 第三圏 貪食者の地獄
- 第四圏 貪欲者の地獄
- 第五圏 憤怒者の地獄
- ディーテの市
- 第六圏 異端者の地獄
- 第七圏 暴力者の地獄
- 第八圏 悪意者の地獄 - 「マーレボルジェ」
- 第九圏 裏切者の地獄 - 「コキュートス」
最後に…
太古の権力者が地獄という概念をいつどこで創作したか、考古学的な証拠は未だ発掘されていない。
しかしながら、坊主が地獄を語るとは二律背反も甚だしい。それ自体が既に憎しみという煩悩に囚われているからだ。よって、本記事はあくまでフィクションと割り切って話半分で聞き流すがよかろう。
ただし、説法で語られる・絵図で描かれる地獄は決してあの世だけで実現可能とは限らない。よく見ると我々が生きる「この世」でも実現できてしまうものが半数以上を占めている。実現がいまだ叶っていない天国よりも案外地獄こそがこの世と隣り合わせなのかもしれない。
関連タグ
宗教 仏教 キリスト教 煉獄 冥界 冥府
鬼 悪魔 閻魔大王
戦場 修羅場
ヘル
地獄一覧
作品タイトル
地獄先生ぬ~べ~ 地獄少女 地獄の使者たち
瓶詰の地獄 少女地獄
天国と地獄 地獄の黙示録
東方地霊殿関連
旧地獄 怪輪「地獄の苦輪」 地獄の輪禍 究極焼肉レストラン!お燐の地獄亭!
「地獄極楽メルトダウン」 地獄鴉_with_八咫烏 火炎地獄の八咫烏
地獄のラブリービジター 「ローズ地獄」
地獄のミサワ関連
地獄のミナミサワ 地獄のマミサワ 地獄のまどか 地獄のミサカ 地獄の東方
その他
地獄絵図 地獄耳 フリル地獄
じごくのもんばん じごくのつかい
地獄の断頭台 金朋地獄 地獄兄弟 地獄のシェフ 地獄からの使者
マジンカイザーSKL - 「俺達が地獄だ!」
仮面ライダーエターナル - 「さぁ、地獄を楽しみな!」
地獄ミミ子
地獄の悪魔
くすぐり地獄
地獄が舞台の作品
鬼灯の冷徹
GANDHARA(ガンダーラ仏陀の聖戦) ※ゲームの舞台は六道だが地獄界もステージに入る
ゲゲゲの鬼太郎 地獄編
劇場版BLEACH 地獄篇
月風魔伝 ※舞台となった狂気島は地獄界に存在する
獄都事変
地獄めぐり
妖怪道中記 ※主人公のたろすけは神様の罰を受けて地獄へ旅に出ている
チェンソーマン ※メインの舞台は人間世界だが、時折り地獄も舞台となる。
アニメ版涼宮ハルヒの憂鬱のエンドレスエイトシリーズ ※放送当時のピクシブ百科事典のエンドレスエイトの記事には →地獄 とだけ書かれていた。