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地獄の責苦

じごくのせめく

現世で悪行を犯し償う事無く死んだ者が、死後の世界、地獄において償いとして受けさせられる刑罰。
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概要

ごく初期の原始宗教から体裁が整えられていくにつれ、多くの宗教に地獄の概念が形成されている。閉じられた世界に亡者を収容し、罪人として痛みと苦しみによる責苦を加えて罰を与える。

宗教的世界観により、与えられる罰や苦しみの意味合いが異なる。

世界三大宗教と呼ばれる、仏教、キリスト教、イスラム教の地獄を例に地獄の責苦を示す。


宗教による違い

イスラム教における地獄はジャハンナムと呼ばれ、七つの階層があるとされる。

いずれも、炎、火炎の熱地獄であり、高熱による体への責苦を受ける。階層はイスラム教徒の落ちる一番軽いものから、キリスト教徒が落ちる地獄、仏教などの多神教徒が落ちる地獄に分かれている。一度収容された地獄から出される事は永久に無い。また、飲み物は熱湯で棘のある実(ザックーム)を食べさせられる生活そのものも地獄の責苦である。


キリスト教では、九つの濠(ほり)に分かれた円錐状の地獄が形成され、七つ目の濠は三つ、八つめの濠は十、九つめの濠は四つの嚢(ふくろ)に分かれて対象者を収容する。蜂に全身を刺されるものから始り、妖獣に喰われるもの、沸騰するタールで煮られるもの、刀剣で身体を離断されるもの、氷漬けで罰せられるものなど、二十三種の責苦が用意されており、決められた地獄に一度落ちた者は決して移動する事は無く、ただ一種の同じ責苦を永遠に受け続ける。(宗派により永遠で無く許しが与えられる場合もある)


これら一神教における地獄では、罪人としての死者は更生を目的とせず、徹底的に責苦が施される。神が怒りの罰を与える事が責苦の目的であり、永遠に、ただ一種類の責苦を与え続けられていく。

唯一、ただ一人の神を信仰する事を求められる為、多神教徒が他の神を信仰する事は許されない。いずれの地獄にも、多神教徒専用の地獄が用意されており、相当に重い地獄の責苦を与えられる様になっている。

イスラム教、キリスト教とも第六の地獄がそれにあたり、イスラム教では徹底した熱罰、キリスト教でも同様に、火炎が吹き出す自分の墓穴に閉じこめられ永遠に焼き続けられる責苦を受ける。


仏教世界では、魂は輪廻転生により、天界、人間界、阿修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界の六界のいずれかに繰り返し生まれる。最上の天界をもってしても、死を逃れられない苦しみの世界であり、六界から解脱し仏となる事を最終目的としている。

そのうち地獄界は苦しみの世界とされ、無数の責苦が用意されている。責苦を受ける事で償いと反省を行い、自身の更生を行なっていく。

地獄界に入る者は、八つの大地獄のうちの一つに落ちる事になる。大地獄には舌抜きからはじまり、釜茹でや鋸曳き、火炙りなど無数の刑種が用意されていて、それこそ無限の地獄の責苦を亡者に与える事が出来る。その様子は図版などにも描かれており(国宝として指定されているものなども多数ある)広く伝わっている。これらの図版などから読み解けるのは、例えば大釜に入れて油で揚げる(油で揚げるという調理方法が伝来した)、毛抜き(身分の高い者から使われ始めたと思われる)が責具として使用されたりと、当時外国より伝わった最新の調理法、器具が使用されている事である。また、本来日本には居ないはずの象などが責苦を与える獄士として描かれているなど、時代に応じて最先端の物を取り入れている様である。

大地獄では、慣れるという事も無く幾らでも責苦が作られる為に、どんな罪を犯した者でさえ完全に償う事が出来る。また、人が犯す象徴的な罪を罰する為に大地獄にはそれぞれ十六づつの特別地獄が付属している。大叫喚地獄だけは十八の別処がある為、全ての地獄総数は百三十八になる。この特別付属地獄では、ただ一種類の刑罰を徹底的にやり抜く。ただ一種の罰を受け続ける事は、一神教の地獄の責苦と同じといえる。違いは、絶対に永遠に許しの時が訪れない一神教の地獄と違い、更生を目的とする責苦には必ず終わる時が来る事だ。

ただし、地獄での時間は六界の中で最も遅く、大変に長期に渡る期間、地獄の責苦を受け続けていく。


いずれの地獄世界も、獄卒と呼ばれる鬼が責苦処置を実施する。一神教の獄卒は神の怒りを与える存在であるが、仏教の獄卒の場合は、亡者それぞれの罪の償いの為に責苦を与える。地獄界より転生する為には自身の罪を全て償う必要があり、その為に亡者自身が獄卒を生み出しているという考え方もある。地獄そのもの、責苦そのものも、亡者自身が望んで求めるのかもしれない。地獄界への入獄が確定するには、死後、閻魔王を含む十人の裁きを受ける必要があるが、その最終選択決定するのは、実は亡者自身なのだ。選択は六つの世界に通じる六つの鳥居が用意され、どの鳥居でも自由に選ぶ事が出来る。最終選択として自ら地獄を選んだ者は、自分自身が自ら選んだ世界に入り、地獄の責苦を受けていく。仏教世界では、苦しみも責苦も全ては亡者自身の為にあるとも言える。必要な者には、さらに八つの寒大地獄も用意されている。その責苦も、亡者自身の為のものだ。


地獄の責苦をうける期間は最も罪の軽い一番目の等活地獄の五百年間、二番目に罪の重い黒縄地獄は一千年間、と一つ罪の重い地獄に落ちる度に二倍の期間となる。六番目の焦熱地獄までは一万六千年間と、正確に二倍に増えるが、七番目、八番目の大焦熱、阿鼻地獄では、使われる時間の単位が「劫」という単位に変る。大焦熱地獄では一劫、阿鼻地獄では一中劫とされる。(仏教では中の付くものの方がより大きい)劫は人間の時間単位では、到底あらわす事も出来ない永遠ともとれる時間単位の為、等活地獄よりおおよその二倍とし、最も重い八番目の阿鼻地獄では約八万年間、大焦熱地獄では約四万年間とする場合が多く見受けられる。ただ、不定期で無期刑に近いという考え方もある。いずれにしても、この二つの地獄に落ちた者は、本当に許されるのかどうか分からない苦しみの中で責苦を受け続ける事になる。


 地下にあるとされる地獄界は、そもそも時間の経ち方が地上より遅い。同じ一日を過す為には、人間界よりも膨大な時間が必要なのだ。人間が百四年間生きたとして、等活地獄では、たったの一秒間が過ぎるだけだ。最も短い等活地獄の五百年間を過ごす為ですら、人間界の一兆六千六百五十三億年間の時間が必要なのだ。しかも、一つ下の地獄に行く度に、時間の流れ方が四倍になる。刑期が二倍に増える事と合わせると実際には八倍の時間が必要なのだ。

必ず、許しは訪れる。しかし、凄まじい期間を地獄の責苦を受ける。



三つの宗教における責苦の詳細


イスラム教の地獄における責苦

イスラム教の地獄はイスラム教の教典、アル=クルアーン(コーラン)には断片的に描写されるが、名称も一様では無い。現在伝わっている地獄世界をまとめたのは、中世期における説教師達とされる。


イスラム教の地獄は、罪の軽重に応じた七つの地獄が存在する。それぞれの地獄には門があり、その門は開かれている。門の下に門があり、地獄は七つの階層構造になっている。地上に近い地獄程、罪の軽い者が落ち、下に行く程に収容者の罪は重くなる。門と門の間は、それぞれ歩いて700年掛かる距離とされている。地獄の高さについては、石を落とすと底に到達するまでに70年掛かる高さとされる。一つ下の地獄に行く毎に熱は70倍増加する。


イスラム教の地獄において受ける責苦を、最も罪の重いハーウィヤの地獄より順に示す。


ハーウィヤ(焦熱の火)

食卓の人々の中で不信心者となった者、モーゼを迫害したファラオの一党が罰せられる。

食卓の人々の中で不信心者となった者とは、かつて神は弟子の求めにより、天から食卓を下され40日間もの間毎日1300人の者に食事を与えた。その奇跡を実際に眼前で見たにも拘わらず、神の存在を否定した者である。この奇跡を行うにあたり、神はこの奇跡を見せつけても神を信じぬ者は地獄に落とすと警告している。神の警告を聞かなかった彼らは極刑を受ける。

本来のハーウィヤの意味は、底の知れない深い淵を意味し、奈落とも訳される。

彼らはフタマに投げ込まれる。フタマとは粉砕釜で、どんなものでも粉々に潰してしまう。住人は、はてしなく続く柱の列となり奈落における焦熱の火とされる。


ジャヒー厶(穴の中で激しく燃える火)

多神教徒が罰せられる。

激しい炎で人の皮膚を黒く焦がされる。


サカル

ザービア(ユダヤ教、キリスト教と並ぶ一神教)教徒が罰せられる。

人の皮を黒く焦がす。


ラザー(激しい炎)

ゾロアスター教徒が罰せられる。

頭の皮まで剥ぎ取られる。


フタマ(粉砕する)

ユダヤ教徒が罰せられる。

焚きつけられた神の火が心臓を焼き尽くし、頭上から完全に覆い被さり、火の柱とされる。


サイール(点火され、燃え上がる火)

キリスト教徒が罰せられる。


ジャハンナム

ムスリム(イスラム教徒)が罰せられる。


イスラム教の地獄の責苦は、ひたすら火で焼く刑罰である。たとえば仏教の地獄の様に様々な種類の責苦を与えるレパートリーは存在しない。これは、多くの苦痛の中で、火で焼かれるという苦痛こそが最高の苦痛と考えられたからだ。

また、イスラム教の地獄の火は、現世の火とは比べものにならない程の強烈さだという。現世の火の七十倍の火力であるという説もあるが、天使マーリクが地上に火を持ち出す為に(アダムが料理に使える様に神が命じられた)原子の大きさにまで小分けした地獄の火を、七十回も川で冷やした後に地上に持ち出し山頂に置いたが、山は溶けてしまった為、火は地獄に落ち戻った。その時に残った煙だけが現世の火の元だという逸話もある為、七十倍どころでは無いと思われる。また、地獄の火は光を出さず、漆黒の暗さのままで人を焼くという。


それぞれの地獄で全員が火による責苦を受けるが、懲罰方法に変化は無く、軽い責苦というものが存在しない。最も軽いジャハンナムの責苦を受ける者でさえ、自分こそが地獄で最も辛い責苦を受けていると思う程だという。その最も軽い責苦とは、顔は熱湯で焼かれ炭の様に黒くなる。目も見えず言葉も話せず、耳と鼻を削ぎ取られる。首に枷を取り付けられて背骨を折られ、顔が足元に重なる姿にされて、顔を下に押し付けられ火の上を引きずり回される。眼球に鉄の串が刺さり、頭髪は引き抜かれ全身の皮膚は焼けただれ、赤剥けた肉が露出する。しかし直ちに、新しい皮膚に取り替えられ、傷が癒えた体で責苦が繰り返し執行される。死は決して無い。

両足には火のサンダルを履かされ、その熱は脳髄までも煮えたぎらせる。歯は炭の様に燃え、足と内臓から炎が噴出する。


罪人は永遠の責苦を受けていく。

ただし、イスラム教徒の落ちる最も軽いジャハンナムの者にのみ真に神を信じる言葉を唱えれば、地獄より救い出され天国に行く事ができる。それは「アッラーの他に神なく、ムハンマドは神の預言者である」と唱える事である。

ただし、この言葉を発してからムハンマドに声が届くまで四千年間掛かる。ムスリムの罪人は、心を入れ替えてから最低でも四千年間は神を信じて地獄の生活を受け入れねばならない。


罪人に責苦を与えるのは、ザバーニーヤと呼ばれる天使だ。マーリクを天使長とする十九人の天使が神から地獄の看守として任命され、罪人に責苦を与える。彼等の手は一つの手で一万人の罪人を掴む事ができ、両足も手と同じ様に使えるので一度に四万人の不信心者を罰する事が出来る。彼等は神により創造され、目は雷光の様に鋭く、足元まで垂れた唇から角の様な歯が飛び出している。神は彼等の中に、ただの少しも慈悲の心を生じさせておらず、罪人がどんなに泣き叫ぼうとも決して赦す事無く情け容赦のない罰を与える。

天使長マーリクは「火の天使」とも呼ばれ、マーリクだけは全ての地獄の住人と同じだけの手足があるので、あらゆる全ての罪人に彼の思い通りの罰を与える事が出来る。マーリクを見れば、地獄の火さえ恐ろしさに震え上がるという。

天使は罪人に地獄の責苦として肉体の破壊を行うが、永遠に責苦を受け続けさせる為に皮膚の張り替えなどの治療も行っている。また、食事用にザックームの実を用意して食べさせたり、飲み物を飲ませたりと、生活の介助も行っている。イスラム教の地獄では、ただ生きて地獄に居さえいれば受動的に責苦を与えられ、体が痛んで責苦に支障が出れば治療まで受ける事が出来る。普段の生活では飲食まで面倒を見てもらえる。すべて、神が用意して与える地獄の生活なのだ。


地獄には蛇や蠍(サソリ)もいる。地獄の蛇はラクダの首ほども太く、蠍もラバと同等の巨大な大きだ。蛇は罪人の体を締め上げて噛みつく。蠍は巨大なハサミで罪人を挟み込み毒針を刺す。いずれも毒の効果は四十年間続く。


地獄に生育する唯一の植物はザックームの木で、これは地獄の住人の食物とされている。ザックームは悪魔の頭の様な実をつける。罪人は鋭い棘だらけの、この実を食べさせられて自分の胃袋を満たされた後、口より沸騰する湯を注ぎ込まれ満腹にされる。実は胃の中で溶けた銅のように胃袋の中で沸騰する。飲まされた熱湯と合わせて、まさに煮えたぎるのだ。栄養は一切無く、罪人は満腹でも常に飢えに苛まれていく。

また、味は物凄い苦さだ。この苦さは、もし樹液が一滴でも現世の海に混入してしまえば、全人類が死に絶える程だ。これが地獄での唯一の食事だ。


飲み物はガッサークとハミームの二種が用意される。

ガッサークは地獄の住人の体から流れ出す膿で、これを飲まされる時は膿汁の中に自分の体を漬け入れられて飲まされる。物凄い悪臭の膿で、もしバケツ一杯の膿を現世に注いでしまったら、それで全人類が死滅する。

これを飲む時はどれ程強要されても、なかなか飲み込めない。それでも強制的に死ぬ程の苦しみを与えられ飲み込んでいく以外には無い。

ハミームとは煮えたぎる湯で、ハミームを手に取るだけで指は抜け落ち、顔を近づけると目や頬が落ちてしまうし、胃に入れば内臓がバラバラに引き裂かれる。罪人がザックー厶の実を食べさせられた後、口から注ぎ足されて満腹にさせられるのがこのハミュー厶だ。



キリスト教の地獄における責苦

キリスト教の地獄は、14世紀イタリアの詩人、ダンテ・アリギェーリによりまとめられた「神曲」のものが良く知られている。九つの階層からなる漏斗状の地獄で行われる責苦について示す。


地獄の門

ダンテはイタリアの荒野をさまよううち、異界への道に進み、地獄の門に至った。その門には『われを過ぎる者、苦患の都市に入る。われを過ぎる者、永劫の呵責に入る。 われを過ぎる者、滅びの民に伍する。正義は高き創り主を動かし、神威は、至高の智は、始源の愛は、われを作る。永遠に創られしもののほか、わが前に 創られしものなく、われは無窮に立つ。 われを過ぎんとする者、すべての望みを捨てよ。』 (帝京大学外国語外国文学論集 第16号 より)と書かれていた。


地獄の入り口

ただ自堕落に生きた者達は、人生を無駄にした報いとして地獄にすら入る事を許されず、裸の体を永久に蜂や虻に刺されて過ごす。


地獄への渡河

仏教世界では三途の川に相当する、アケローン川を渡り地獄へと入る。渡し舟が待ち受けており、船守カローンに櫂(かい)で打ち脅されながら強制的に乗船させられる。アケローンを渡れば完全に地獄に入り、戻る事は決して叶わない。


第一の地獄

洗礼を受けずに死んだキリスト教徒が、ただため息をついて永遠に過ごさせられる。


地獄の裁判

ミーノースが全ての死者一人一人に対して、どの地獄に落ちるかを決定する。ミーノースは死者の体に尻尾を巻き付ける。その回数が三回の者は第三の地獄。九回の者は第九の地獄に落とされる事が決定する。判決を受け、決定された深淵(地獄)へ向かうとされるが、それぞれの地獄に罪人達が連行される記述は無い。次々と地獄への道を進む多数の亡者達の動向が途絶える事から、もしかすると、同心円状に広がる対象の地獄に巻かれた尻尾で、そのまま投げ落とされてしまうのかもしれない。


第二の地獄

愛を伴わない肉欲に溺れた男女は、つむじ風で空中に吹き上げられ、永遠に暴風の中で裸体を翻弄されて過ごす。


第三の地獄

飽食を行った大食者は、永遠に降り続く大粒の雨に裸体を打たれ雨を避けようと汚泥の中をのたうち回る。獄内を徘徊するチェルベロに喰われて糞となる。泥となって雨に打たれ肉体を取り戻せば、のたうち回る繰り返しが永久に続く。


第四の地獄

けちんぼや無駄遣いをした者達は、金貨の詰まった袋を永久に転がし続けなければならない。私欲が強烈で、金貨を独占しようといつも罵り合いをしている。


第五の地獄

怒りっぽい者達は、スティージュの沼に放り込まれ酷い喧嘩をしている。殴り合う者や、相手に噛み付く者など永遠に争いを続けるのだ。


第六の地獄

キリスト教を信じない異教徒は、自分の名の彫られた墓を用意され、その中で永遠に焼かれる。墓の蓋は全て開かれており、異教徒が苦しみ悶えている。


第七の地獄

第一の嚢 他人を傷つけた者は、煮えたぎる血の河に落とされ永遠に藻掻き苦しまされる。

第二の嚢 自殺した者は、この地獄で体を木に変えられ怪鳥アルピィエに襲われ、枝や葉を落とされ血を吹き出して悶える。

第三の嚢 同性愛者は、火の雨が降り注ぐ砂漠に永遠に入れられる。


第八の地獄

第一の嚢 女性を誘拐し売った者は、裸体を鞭で永遠に打たれ続ける。

第二の嚢 こびへつらった者は、糞尿の中に永遠に漬けられる。

第三の嚢 神聖な物を金に変えた者は、逆さまにされて脚だけを突き出した姿に埋められ、焔が脚を舐めている。

第四の嚢 占い師は、首を後ろ向きに捩じ曲げられ、永久に後ろ向きに歩かされる。

第五の嚢 汚職者は、煮えたぎった瀝青の流れる河に沈められ、少しでも姿を晒すと鉤爪で体を貫かれる。

第六の嚢 偽善者は、金メッキがされた重い鉛の外套を着せさせられて永遠に歩かされる。聖職者でありながら偽善を行った者は三本の杭で大地に固定されており、その全裸の体を外套を着衣した者達に踏みつけられ続ける。

第七の嚢 盗賊は、蛇の大群に襲われる。永遠に体を呵まれ、首を噛まれて燃え上がる者、錯乱して自身が蛇と入れ替わる者など、神の苦痛を受け続ける。

第八の嚢 謀略を行った者は、体を火焔に包まれて永遠に悶え苦しむ。

第九の嚢 不和や分断を招いた者は、その体を分断されて罰を受ける。痛みに逃げ走るうちに傷は戻り、永遠に切断処置を受け続ける。

第十の嚢 錬金術を行った者は、体が腐乱し蛆が湧く。凄まじい痒みに呵まれ自分の身体を掻き毟って永遠に過ごす。


第九の地獄 コキュートス 全てが凍りついた氷地獄となる。

第一の嚢 カイーナ 近親を裏切った者は、首まで氷り漬けにされ、流した涙が目の回りを覆っている。

第二の嚢 アンテノーラ 国を裏切った者は、逆さまにされ脚だけを突き出した姿で厚い氷に閉じこめられる。

第三の嚢 トロメーア 客人を裏切った者は、上を向いた姿で氷り漬けにされ、自分が流した涙が氷粒となって体内に逆流し藻掻き苦しむ。

第四の嚢 ジュデッカ 主人(神)を裏切った者の最高刑罰地獄。地獄の帝王ルチフェロに凍った体を噛み砕かれる。ダンテが地獄を巡った時には、ルチィフェロはキリストを裏切ったユダ、カエサルを裏切ったブルータス、カッシウスを砕いていた。


仏教の地獄における責苦

八つの大地獄とそれに付随する特別付属地獄で責苦を受ける。初期仏教経典から地獄の思想は語られているが、より体系化されて記述されている「正法念処経」(西暦五百年頃成立)での記述を中心に地獄の責苦を示す。


等活地獄

殺生の罪を罰する。亡者を殺す事で罪を償わせる。また、亡者同士が憎しみ合う様にさせて殺し合いをさせる事も行われる。死んだとしても時折、熱苦しい地獄内に本当に涼しい風が吹くという。この時、獄卒が金棒で地面を打ち鳴らしながら「活きかえれ、活きかえれ」と掛け声をかけると元の等しい人の姿で生き返らなければならない。等しく活きかえり続けるので等活地獄と呼ばれている。

寿命は天界を基準にしており、最下天である四王天の寿命(人間の九百万年)を一日として五百年間である。人間界の一兆六千二百億年間であり、この地獄の一秒間は、人間の百四年である。


等活地獄付属地獄

・屎泥処(しでいしょ) 鹿や鳥などの小動物を狩ったり、いたぶり殺した者。煮えたぎる糞尿の池に落とされ、亡者同士で争いをさせられる。金剛石の歯をもつ蛆虫が体を食い千切る。

・刀林処(とうりんしょ) 私有欲が強く、他人の物を奪い取ったりした者の特別付属地獄。真っ赤に焼けた両刃の剣や、鉄の固まりが雨の様に降り注ぐ。周りは鉄の壁で猛火が燃え盛っている為、絶対に逃げられない。

・瓮熟処(おうじゅくしょ) 駱駝や猪、鳥などの有毛の生き物を殺して毛をむしり、煮たり焼いたりして食べた者の特別付属地獄。亡者も同様に毛をむしられ焙烙鍋に入れられて煎り焼かれる。

・多苦処(たくしょ) 他人を縄で縛ったり、暴力で痛めつけたりした者の特別付属地獄。針の山や釜茹でなど、何万、何億種類もの苦しみが用意され執行される。

・闇冥処(あんみょうしょ) 羊や亀などの口を塞いで窒息させて殺したり、棍棒で殴ったり、焼けた瓦の上で殺した者の特別付属地獄。漆黒の火に焼かれ悶え苦しむ。

・不喜処(ふきしょ) 大きな音で動物を驚かせて追い回して殺した者の特別付属地獄。火焔地獄に入れられ様々な動物が凄まじい音を出しながら亡者を責め呵む。

・極苦処(ごくくしょ) ちょっとした事で腹を立てて暴れ回り、物を壊した者の特別付属地獄。激しい崖の下にある不気味な洞穴。溶けた鉄が流れ出し、亡者は焼き溶かされる。

・衆病処(しゅうびょうしょ) 教典に名称のみ記述。あらゆる病気に罹る地獄と思われる。

・両鉄処(りょうてつしょ) 教典に名称のみ記述。鉄玉が雨の様に降り、打ち潰されると思われる。

・悪杖処(あくじょうしょ) 教典に名称のみ記述。杖で執拗に打ち付けられると思われる。

・黒色鼠狼処(こくしょくそろうしょ) 教典に名称のみ記述。黒い鼠に襲われると思われる。

・異異廻転処(いいかいてんしょ) 教典に名称のみ記述。体が潰れるまで回転させられ、方々に連れ回されると思われる。

・苦逼処(くひつしょ) 教典に名称のみ記述。苦しい事をひたすら与えられ続けられると思われる。

・鉢頭麻鬚処(はちずまびんしょ) 教典に名称のみ記述。火と血で全身を蓮の花の様にされると思われる。

・陂池処(ひちしょ) 教典に名称のみ記述。ため池に落とされ罰を受けると思われる。

・空中受苦処(くうちゅうじゅくしょ) 教典に名称のみ記述。空中に吹き上げられるか、吊り下げられて罰せられると思われる。


黒縄地獄

殺生の罪、盗みの罪を罰する。体に黒縄で墨打ちをされ、その線に沿って斧や鋸で切断される。また、石を背負わされて沸騰した鍋の上に張った縄を渡らされる。当然、必ず鍋に落とされ煮られる。

下位第二天である忉利天の寿命(四王天の寿命九百万年の四倍の三千六百万年)を一日として千年間の寿命を定められる。人間の十二兆九千六百億年間責苦を受け続ける。三千六百万年を過ごしても、地獄のたった一日が過ぎるだけだ。


黒縄地獄の特別地獄

・等喚受苦処(とうかんじゅくしょ) ありがたい法話を聞いたにも拘わらず、他人の物を盗み、他人の妻を盗み、簡単に人を殺した者の特別付属地獄。猛毒を発する熱炎が渦巻く崖の上で焼けた鉄縄でしばられ、鋭い刃の生えた地面に飛び下ろされる。体は切れ千切れバラバラになり、火焔を吹く狗に食い散らされる。

・旃茶処(せんだしょ) 病気でもないのに薬を奪い、滋養のある食べ物を掠取ったり、治療具を盗んだ者の特別付属地獄。巨大な猛禽類の怪鳥に襲われる。事前に赤銅を飲ませて肉を体内から焼いたり、杵で打って柔らかくして、猛禽に食べやすくされている。

・畏熟処(いじゅくしょ) 他人を縛って物を奪った者の特別付属地獄。食物を奪いその家族を飢え死にさせた者も落ちる。鉄棘が生えた火焔地獄で、あまりの高温の為に美しい水色になっている。亡者は転べば鉄棘に刺さり、藻掻き苦しむ体にさらに鉄棘が飛び出して貫入する。


「正法念処経」教典に黒縄地獄の別処は、この三つの地獄しか書かれていない。

原典から漢訳時の写し忘れではないかとの説もある。(山本健治氏著 現代語地獄めぐり)

 

以下は「長阿含経」における十六小地獄を以下に示す。長阿含経における付属地獄は、各大地獄に共通のものとされている。

・黒沙地獄(こくさじごく) 熱風が吹き荒れ、高熱の黒沙が体に張り付いて焼く。

・沸屎地獄(ふっしじごく) 沸騰した屎の鉄丸があちこちにあり、追い込まれた亡者はこれに抱付かされ焼ける。さらには、焼けた屎を喰わされ内蔵まで焼ける。

・飢餓地獄(きがじごく) 飢えた亡者達に獄卒が、高熱の鉄丸を飲ませ続ける。

・渇地獄(かつじごく) 咽の渇いた亡者に、溶けた銅を飲ませる。

・一銅鍑地獄(いちどうふくじごく) 銅の釜に入れられ、ぐつぐつと煮られる。

・多銅鍑地獄(たどうふくじごく) 多数の銅の釜があり、一つの釜で煮えると鉄鉤で引き上げられ、別の釜に移される。

・鉄釘地獄(てつくぎじごく) 熱した鉄の上に寝かされ、釘を打ち付けられる。釘は手足から始め、全身に合計五百本打ち込まれる。

・石磨地獄(いしまじごく) 巨大な熱した石の上に押し広げられ、回転する大熱石で亡者の身体を磨く。

・膿血地獄(のうけつじごく) 沸騰した膿と血の池に入れられる。最猛勝という蜂の様な大虫が、煮えて空中にさらした体を刺して苦しめる。

・量火地獄(りょうかじごく) 業火の燃え盛る刑場で、鉄の升(ます)を与えられ焼け炭を計量させられる。

・灰河地獄(はいがじごく) 沸騰した灰の河で煮られ、苦しさに這い上がると刀の葉が生えた草花で身体はずたずたになる。熱鉄の上に広げられ、口を鉤で開かれて溶けた銅を流し込まれた後、刀の葉の生えた大木に登らされ、悪鳥に脳天をかち割られる。

・鉄丸地獄(てつがんじごく) 赤熱した鉄の玉で満たされている。亡者は鉄玉の間で、焼け、潰れ、悶え苦しむ。

・釿斧地獄(きんふじごく) 釿(ちょうな。先が湾曲した柄の付いた斧)や斧を用いて体を粉々に粉砕する。

・犲狼地獄(ざいろうじごく) 山犬、狼に心臓から喰い散らされる。

・剣樹地獄(けんじゅじごく) 鉄の葉を持つ樹林が密集し、激しい強風に亡者は玩ばれ、吹き飛んだ大量の葉が全身に刺さる。鉄の嘴(くちばし)を持つ鳥は亡者の頭にとまり、両目をついばむ。

・寒氷地獄(かんぴょうじごく) 激しい大寒風が吹き荒れ、亡者の体は凍りつき、皮膚や肉も割れ飛んでしまう。


衆合地獄

殺生、盗み、邪淫の罪を罰する。衆合とは人を寄せ集める事で、大量の人を石版に挟んで潰したり、向かい合った鉄の山の間に追い込んで山を合わせて潰す。圧殺を特徴とし「堆圧地獄」とも呼ばれる。また、性欲を増強される異性が着座する木を登らされる罰も特徴だ。葉は逆向きの刃葉で体を引き裂く。必死に登り上がると、異性は地上に下りている。下りるときは葉は上を向く。地上に下りれば異性は当然、木上に戻っている。性的な罰も多く、子供の陰部を打ち付けたり、性交を行った肛門に溶けた銅を流し込んだりする罰も地獄絵に描かれている。

夜摩天の寿命を一日とし二千年間の寿命を定められる。千六百六十七年を過ごしても、たった一秒が過ぎるだけだ。人間の百三兆六千八百億年間責苦を受ける。


衆合地獄の特別地獄

・大量受苦悩処(たいりょうじゅくのうしょ) 正常位でない、淫らな体位でセックスをし、またはそれを見て興奮し真似ようとした者の特別付属地獄。獄卒が炎熱の鉾で股間部分を貫き、腹や胸、肩や頭蓋から飛び出させる。一人に対し何人もの獄卒が刺す。この状態で男性は睾丸、女性は卵巣を引き出される。

・割刳処(かっこしょ) 口を使って男根を愛した女性、自分が上になって積極的に腰を振った女性の特別付属地獄。舌を引きずり出して痛め、口から熱鉄の棒を刺す。頭を突き抜けると直ぐに抜く。次は口から耳を抜く。口淫と同様に素早い出し入れを繰り返す。苦痛に放心すると赤銅の熱泥が唇を焼きながら口に流し込まれる。淫らな行為を行った唇、口、舌、全てを焼き、目や内蔵までも焼き、肛門から流れ出る。身体は焼き割られ、刳り貫かれる。

・脈脈断処(みゃくみゃくだんしょ) 嫌がる男に無理やり性行為におよんだ女の特別付属地獄。女性亡者は口を無理やり抉じ開けられ、太い筒を挿入されて、熱い銅汁を流し込まれる。獄卒は介抱する様に女性に寄り添い、言葉を発する事の出来ない女性亡者は必死に身振り手振りで助けを求める。獄卒は「辛いか、痛いか、その口と舌で男を誘惑したのだ。恨むなら己の邪淫さを恨め」と亡者をなじり、さらに銅汁を注ぎ入れ女を狂乱させる。

・悪見処(あくけんしょ) 他人の子供を性的に虐待した者の特別付属地獄。自分の子供が地獄に落とされ性的な責めを受ける様を見せつけられ、悲鳴を聞かされながら自分自身も同様に責めを受ける。陰部に鉄棒や錐を突き刺されるが、さらに肛門にまで手を出した者は、股を開いた逆さ吊りにされ、肛門に赤銅を注ぎ入れられる。いずれも、獄卒に救済の懇願を続けながら、それをなじられ、精神を全否定されて責苦を執行されていく。

・団処(だんしょ) 牛や馬、犬や猫までが交尾する様をみて性的に興奮したり、自分でふけった者の特別付属地獄。いたる所から鉄が溶けて流れ出し、亡者は高熱に苦しむ。牛や馬に似た鉄の獣がおり、交尾している。亡者はそれを見て興奮していると、獄卒が現れ「そんなに気持ちが良いのならさせてやろう」と亡者を獣の陰門に押し込む。獣の体内は超高熱なのだ。亡者は入れられてはじめて気付くが手遅れだ。高熱炉の丸焼き状態での苦悶が続く。

・多苦悩処(たくのうしょ) 男性なのに男性を好きになり性行為におよんだ者の特別付属地獄。地獄に自分の好みの男がいる。おもわず抱きつくと、男の頭髪は火焔を吹き出し身体は火の塊と変る。全身が灰になるまで強く抱きしめられる。灰は獄卒が集めて息を吹き掛け人に再生させる。延々と繰り返す。もし逃げようとすれば、火焔に吹き上げられ猛鳥に襲われ切れ肉になって地面に落ちる。地面には鉄の牙を持つ狼がおりすっかり食べられる。糞は集められ息を吹き掛けられると人に戻る。どうしても、性の快楽を忘れる事が出来ず、男に抱きつく。

・忍苦処(にんくしょ) 敗戦国の女を無理やり強姦したり、家来に与えたりした者の特別付属地獄。高い木の上に逆さ吊りにされ、下から火を焚かれて燃やされる。体は事前に燃えやすい様に何度も打たれて柔かくされている為、あっと言う間に焼かれてしまう。眼球が一番に燃えるので、盲目の中での苦痛は耐え難い。悲鳴を上げれば口から火が入り内蔵まで焼けてしまう。全身がこんがりと焼き上がる頃、地獄鳥が現れて体をついばまれて悶絶する。

・朱誅処(しゅちゅうしょ) 羊やロバなどを相手に淫行した男の特別付属地獄。無数の鉄の蟻に全身を這い回られ、喰われていく。朱誅(しゅちゅう)とは肉を喰われ血を吸われるチュウチュウという音からきている。蟻は亡者の口からも体内に入り、胃や腸を喰い、筋肉を切り、全ての肉も臓器も脳も喰い尽くす。やがて骨も残さずに消失すると、獄卒は蟻の糞を集めて亡者の体を再生してしまう。

・何何奚処 (かかけいしょ)近親相姦をした者の特別付属地獄。焼かれて全身に火を付けられたまま、谷間に追い詰められる。誰かが歌う様な楽しげな声が聞こえ入って行くと、物凄い悲鳴だった。足をすくませると「何をぐずぐずしている」と獄卒に罵倒される。もうろうと美しい池と花畑が見え、必死に向かうと火焔の刑場に変る。地獄鳥の餌食となり、脳天をついばまれ、目を抉られ、体の肉は抜き喰われる。体が再生しては、焼かれ、ついばまれバラバラにされ、錯覚をする事を繰り返す。近親への愛情を他の異性間の愛と錯覚した報いである。

・涙火出処(るいかしゅっしょ) 修業をしている尼を誘惑し、暴力を使って強姦した者の特別付属地獄。目から涙の火が出る程の高熱の炎で全身を焼かれる。目が焼けるとキャダラタンという毒を流し込まれる。眼球は焼けただれ、毒の傷みに錯乱し潰される。失明すると体を鉄の枷で固定され、大きな鉄の鉤と杵で男根と睾丸を打たれ、燃えている体よりもさらに入念に火で焙られる。続いて鉄鉗で肛門を裂かれ、煮えた白蝋を流し込まれる。

・一切根滅処(いっさいこんめつしょ) 女性に対して、口や肛門を使った性行為を強要した男の特別付属地獄。口を抉じ開けられ、大量の黒虫の入った赤銅を流し込まれる。内蔵は煮えたぎると同時に内部から食い散らされていく。次に、口や鼻、耳や臍、肛門にいたるまで、体のあらゆる穴に高熱の白蝋を流し込まれる。「生殖器はともかく、口や体の他の穴は淫行にふけるものではない。生きる為の器官を淫行に使うとは何事か」と獄卒は詰り、舌を引き出し、ささら切りにし、身体全てを熱刃で切り刻み、体中の急所を痛めつけ、男根には最後の強烈な苦痛を与える。亡者はその一切を根滅される。

・無彼岸受苦処(むひがんじゅくしょ) 妻がいるのに他人の妻を犯した者の特別付属地獄。火に焼かれ、刀で割られ、熱い灰を被せられ、あらゆる病気に苦しめられる。彼岸を得る事など考える事も出来ない様な責苦を与えられ続ける。

・鉢頭摩処(はちずましょ) 出家して修業中の身でありながら、女性と性行為に及んだ者の特別付属地獄。鉢頭摩とは紅蓮色の事であり、火焔と血に染まった刑場だ。亡者は、美しい場所と錯覚するが、安楽の地を求めて逃げ走っても、至る所に鉄の棘がつき出し、全身傷だらけで獄卒の元に至る。亡者は、鼎に放り込まれて煮られるか、鉄函の上に磔にされ鉄杵で打たれるかのどちらかの罰を選ぶ事が出来る。以後は延々と、この責苦が続く。

・摩譁訶鉢頭処(まかはちづましょ) 沙門でないにも拘わらず、偽って淫行に至った者の特別付属地獄。火山から流れ出る溶岩の様な紅蓮の熱灰が流れる川に投げ落とされる。人の体は一瞬で灰と化す。灰は集められ魚に変えられて、ふたたび川に放たれる。余りの苦しさに空気を求めると、鳥に捕まれ、空中で噛まれ喰われ、投げ落とされれば獄卒が鉄炎の鉾を突き出し待っている。熱泥の川で苦しめられ、焼かれ灰になるまで蹂躙され、再び魚に戻されて放たれる。

・火盆処(かぼんしょ) 沙門の修業中に人を欺き、反省して沙門になったにも拘わらず、再び遊興にふけった者の特別付属地獄。いたる所から熱焔が噴出し、亡者の身体に全ての火焔が集まって来る。亡者は蝋燭の様に燃え上がるのだ。

・鉄末火処(てつまっかしょ) 沙門で無いにも拘わらず、沙門と称して女性と行為に及んだ者の特別付属地獄。巨大な鉄の箱の中に入れられ、高熱で焼かれる。熱炎は鉄の雨の様に降り注ぎ亡者の体を焼く。箱から決して出る事は出来ない。


叫喚地獄

殺生、盗み、邪淫、飲酒の罪を罰する。飲酒の罪は、赤銅(溶けた銅)を飲まされる事で罰せられる。口を抉じ開けられ、赤銅が注ぎ込まれる。

兜率天の寿命を一日とし、四千年間の寿命を定められる。六千六百六十七年を過ごしても、たった一秒が過ぎるだけだ。人間の八百二十九兆四千四百億年間責苦を受ける。


叫喚地獄の付属地獄

・大吼処(だいくしょ) 清らかに生きようと仏の修業をしている人に酒を飲ませた者の責苦。口を無理やり抉じ開けて、煮えたぎった白蝋を流し込まれ続ける。口や咽が焼けただれ、獣が吼える様に大声で叫び声を上げ続ける。

・普聲処(ふしょうしょ) 修業を終え、ようやく比丘になった者達が祝いに酒を飲んだ事を罰せられる。頭に杵を振り下ろされ粉々になるまで突き続けられる。苦痛に泣き叫ぶ聲が普く獄内に響き渡る。

・髪火流処(はっかるしょ) 修業して五戒を学んだ者に酒を飲ませた者、飲んだ者の責苦。火の雨が降り注ぎ、髪は火を吹く。鉄の犬や狼、鉄の嘴を持つ何羽もの鷲が襲い、焼けた全身をズタズタにされる。

・火末虫処(かまつちゅうしょ) 水で薄めた酒を売った者の刑罰。四百四の病気に次々と罹り、虫に姿を変えられて自分自身の身体、肉を喰わされる。自分の体を食べる痛さに悲鳴を上げるが、虫に姿を変えられている為に、誰一人気付く者はいない。

・熱鉄火杵処(ねってつかしょしょ) 動物や鳥に酒を飲ませて捕らえたり、売ったりした者の責苦。泥酔したのと同じ様に、判断力と身体の自由を奪う薬液を飲まされた後、金棒で叩き潰され、餅にされて獄卒に喰われる。獄卒の糞から再生させられ、繰り返しが続く。

・雨炎火石処(うえんかせきしょ) 象に酒を飲ませて暴れさせた者の責苦。炎につつまれた象が荒れ狂い、体をズタズタにされる。同時に火の雨も降り注ぐ。また、赤銅煮立っている鼎に取り付けられ、無量百千年間にわたり茹でられ続ける。

・殺殺処(せつせつしょ) 貞淑な女性に酒を飲ませて強姦に及んだ者の責苦。獄卒に押さえつけられ、熱い鉤で男根を引き抜かれる。抜かれると、まるで若布の様に新しい男根が生えて来る。何度でも、何度でも、抜き続けられる。

・鉄林曠野処(てつりんこうやしょ) 酒に毒や不純物を混ぜて他人に飲ませた者の責苦。高速で回転する焼けた鉄の車輪に、真っ赤に焼けた鉄の鎖で縛り上げられる。血液も体液も絞り散らされてしまう。回転する体には鉄の矢が打ち込まれてゆき、ハリネズミのようにされる。

・普闇処(ふあんしょ) 安酒を偽って高く売った者の責苦。完全な暗闇の中で漆黒の火焔が亡者を焼く。金棒で獄卒に打ちのめされ、暗黒の中で何をされているのかすらも分からず、泣き叫んで悶える。

・閻魔羅遮曠野処(えんまらこうやしょ) 病気や妊婦などに薬と騙して酒を飲ませた者の責苦。吊り下げられて全身を金棒で打たれる。足の先から火を付けられ頭の先まで焼かれる。熱炎の刀で全身を切って刺され、ズタズタにされるが、決して許される事は無く、さらに打って、焼かれ、切られる。

・剣林処(けんりんしょ) 旅人に酒を飲ませ持ち物を奪った者の責苦。炎火の石が雨のように降り注ぐ。石は細かく、亡者の全身をくまなく焼く。降り注いだ石は河の様に流れ、亡者は溺れさせられて焼き苦しめられる。

・大剣林処(だいけんりんしょ) 人里離れた一本道で酒を売り、暴利を得た者の責苦。剣の形をした山よりも高い大木が森林をなしている。葉のすべては鋭い刃で幹からは火焔が噴出している。追い立てられた亡者は執拗に追い回され、森林を走り回らされて体の全てを焼き切り刻まれていく。

・芭蕉烟林処(ばしょうえんりんしょ) 戒律を守る女性を酔わせて淫行した者の責苦。火を吹く芭蕉が隙間なく成育している。男根を徹底的に責められる地獄で、棹は打ち潰し睾丸を破裂させたりは当然で、尿道には毒煙を注入される。どれ程の痛みに叫び狂おうとも決して許される事は無い。

・有煙火林処(うえんかりんしょ) 政治家や役人に酒を飲ませ自分に有利にしようとした者の責苦。熱風が竜巻の様に渦を巻いている。亡者は巻き込まれ翻弄されて責めを受ける。獄卒は炎刃を用いてさらに肉体に苦痛を加える。

・火雲霧処(かうんむしょ) 正道を歩んでいる者に酒を飲ませて辱めた者の責苦。超高温の火焔が雲か霧の様に充満し、亡者が一瞬で燃え尽きる程の雲霧であるが、獄卒に焼き加減を調整されて、凄まじい苦しみに悶えさせられていく。

・分別苦処(ふんべつくしょ) 使用人に酒をのませ乱暴した者の責苦。何万、何億回でも何兆回でも終わる事無く、殴り飛ばし蹴り飛ばす。


大叫喚地獄

殺生、盗み、邪淫、飲酒、虚言の罪を罰する。虚言の罪は舌を抜いて罰する。焼けた金鋏で抜かれるが、抜くと直ぐに新しい舌が生えて、終わり無く抜かれる。また、痛みを感じる面積を増やす為に、舌を巨大化させて責める罰もある。

楽変化天の寿命を一日とし、八千年間の寿命を定められる。二万六千六百六十七年を過ごしても、たった一秒が過ぎるだけだ。人間の六千六百三十五兆五千二百億年間責苦を受ける。


大叫喚地獄の付属地獄

・吼々処(こうこうしょ) もめ事を起こして、恩をあだで返した者の責苦。鋭い刀で顎に穴を開けられて舌を引き出される。悪泥水と呼ばれる猛毒水を舌に塗られ発火する。無数の黒虫を口にいれられ、舌の中に喰い入られ、凄まじい激痛に獣の様な吼声を上げ続ける。

・受苦無有数量処(じゅくむゆうすうりょうしょ) 恨みから他人の悪口を言いふらした者の責苦。身体に無数の虫が生じて泣き狂う。虫は毒を吐き、全身が痙攣した亡者はエビの様に跳ね回って悶える。獄卒は亡者の全身を切り刻み、熱灰の河に漬込んで焼き上げ、鉄の鉤を掛けて引き上げる。

・受堅苦悩不可忍耐処(じゅけんくのうふかにんたいしょ) 上司でありながら責任を部下になすりつけた者の責苦。亡者の体内に猛毒を吹き出す無数の蛇が生じる。肉体を内部から、筋肉も血管も臓器も脳までも、押し分けられ、喰い破られ、毒を注入され、さらには火焔まで吹かれ、身体を粉砕される。不可忍耐とは、人が耐えられる限度を超えているという意味である。

・随意圧処(ずいいあっしょ) 他人の田畑や山を奪い取った者の責苦。巨大な鞴が火焔の竜巻を作り出す高温炉に亡者を入れて加熱する。取り出され、鉄盆の上に乗せられ金槌で延々と打ち続けられる。温度が少しでも下がると再び炉に戻し、火焔竜巻の中で苦しめた後、赤熱した体を再び打ち直す。

・一切闇処(いっさいあんしょ) 人妻を強姦しておきながら、誘拐されたものだと嘘をついた者の責苦。鋭い鉈で頭をかち割られ、分かれた頭蓋から飛び出した舌を縄のれんの様に切り裂く。これを延々と繰り返し続ける。

・人闇煙処(じんあんえんしょ) 一緒に仕事をしていた者を裏切った者の責苦。全身をみじん切りにされ、さらに完全に刻めなくなるまで切り刻まれる。これを無量百千年続けた後、虫に喰わせて発火させ、人体を煙に変え、高熱暗黒の中に煙として閉じこめる。無量百千年間、喪失した肉体で苦しめた後、人に戻し最初からやり直す。

・如飛虫堕処(にょひちゅうだしょ) 修行僧の持ち物を盗んで売った者の責苦。大量の鉄の狗に襲われ喰い散らされる。逃げようと獄卒の元に近寄ると火焔炉が用意されている。「飛んで火に入る夏の虫とはおまえの事だ」とまるで夏の虫を焼く様に、火の中に飛び込み入らせら、虫か紙切れの様に焼かれてしまう。灰から人に戻り繰り返す。

・死活等処(しかつとうしょ) 出家していないのに、出家したと偽った者の責苦。亡者は獄卒に鉄棒で全身を打ち苦しめられる。地獄の中心に清蓮の美しい池があり、そこに逃げようとする。実際には余りに高温の炎の為に、美しい青色になっていたのだ。獄卒は、亡者が逃げない様に足を切り、この池に落とす。

・異々転処(いいてんしょ) 嘘をついて他人の仕事を失敗させた者の責苦。愛する家族や知人が熱灰の河で煮られている。助けようと近寄るが、助ける事は出来ず、愛する人が苦しむ様を見せつけられながら、自分も同じ責苦を受けさせられる。皮を剥がれ、肉を削がれ、筋を抜き取られ骨だけにされる。骨格標本の様になって、さらに愛する人が傷つけられる様を見せつけられ、助ける事の出来ない辛さに呵まれる。

・唐悸望処(とうきぼうしょ) 病気や貧困で苦しんでいる人を見ながら無視した者の責苦。キャダニ食、フジャニ食と呼ばれる大変なご馳走が部屋に用意されており、それを食べようと亡者が近づくが、鉄鉤の入り口で体をズタズタにされる。それでも必死に近づく。やっと食べようとすると、ご馳走は真っ赤に焼けた鉄や人糞で、鼻も溶け落ちる猛毒の臭気を噴出している。それでも卑しいい心が勝り、口に入れてしまう。胃も腸も肛門も全てが焼かれ、耐えきれずに外に出ると、灼熱の銅版が敷かれており、あっと言う間に焼き上がってしまう。

・双逼悩処(そうひつのうしょ) 町や村などの集団で和を乱した者の責苦。炎の牙を持った多数の獅子に襲われる。噛み付かれ焼かれ、襲われる様子が和を乱した亡者の姿と重なるとされる。

・迭相圧処(てっそうあつしょ) 親兄弟、親類縁者の間で相続財産を争った者の責苦。無数の鉄の鋏が用意されており、亡者に騙された者が連れられており、獄卒の指示で亡者の肉を切り取る。切り取った肉は自分で喰わされる。嘘をついた体の肉は、その行動の卑しさから毒をもっており、物凄い苦しみを味わって自分を食べさせられていく。

・金剛嘴烏処 (こんごうしうしょ)病人に適切な治療を受けさせなかった者の責苦。金剛嘴烏と呼ばれる、金剛石よりも硬い金属の嘴を持った鳥が無数に飛び回っている。大変に飢えており、亡者はあっという間に、足の先から頭のてっぺんまで啄ばまれてしまう。ズタズタに喰い千切られても、獄卒が直ぐに体を再生させてしまい、無終の苦しみが続く。

・火鬘処(かまんしょ) 罪を犯した法務執行者の責苦。焼けた二枚の鉄板で亡者を挟み、焼き潰して、肉、脂肪、粉骨の粘土液にされる。活き返れば涼しそうな河を見つけて走り込むが、錯覚でドロドロに溶けた熱灰だ。亡者の体は巻き込まれ、液状になる。苦しめて再生させ、繰り返しが続く。

・受鋒苦処(じゅほうくしょ) お布施に言いがかりをつけた者の責苦。亡者は縛り上げられて舌を引き出され、上下の唇で挟んで熱針を通して固定される。ウーうーと呻きを上げる事しか出来なくされて、大量にある熱針を全身に刺されていく。

・受無辺苦処(じゅむへんくしょ) 教育者でありながら、間違った道を教えた者の責苦。舌が生える度に延々と抜き続けられ、剃刀で全身を切られ、断虫という鋭い歯をもった無数の虫を入れる。暗黒の水槽に連れ、摩竭魚と呼ばれる金属の歯を持ち火焔を吹く怪魚に襲わせる。摩竭魚は腹の中まで燃え盛っており、喰われてまで焼かれ悶える。

・血髄食処(けつずいじきしょ) 民に無理な徴税をした王や役人の責苦。樹木が密生した火焔の山で、足に縄をかけ木に逆さ吊りにされる。全身を焼かれ、無数の怪鳥に襲われて身体をズタズタにされる。血を滴らせ髄を喰われ泣き狂う。苦しみが終わる事は無く、無終に繰り返され続ける。

・十一炎処(じゅういちえんしょ) 賄賂を受けた権力者の責苦。十一炎とは、これまでの罰をはるかに超える、厳しく壮絶な罰を受けるという意味だ。ここでは非常に激しい炎で焼かれる。嘘をついた口と舌は徹底的に焼かれ、焼け落ちれば直ちに生えさせられ、休息を与える事なく苦痛を与え続けられる。


焦熱地獄

殺生、盗み、邪淫、飲酒、虚言、邪見の罪を罰する。これまでの地獄の火は、まるで雪の様に冷たく感じる程、この地獄の火は高温だ。豆粒程の火を持ち出しただけで、地上の全ては焼き尽くされる程だ。この火を使って徹底的な熱罰が行われる。

他化自在天の寿命を一日とし、一万六千年間の寿命を定められる。十万八千三百三十三年を過ごしても、たった一秒が過ぎるだけだ。人間の五京三千八十四兆一千六百億年間責苦を受ける。


焦熱地獄の付属地獄

・大焼処(だいしょうしょ) 殺生をする事で天界に転生出来るとの邪見を広めた者の責苦。悔やみの心が炎となって、体内に沸き上がり、自らの体内から自身を焼く。

・分茶梨釈迦処(ぶんだりかしょ) 食を断つ事で天界に転生出来るとの邪見を広めた者の責苦。体内に火焔を生じさせられる。美しい分茶梨の池が見え、獄卒に招き入れられて必死に飛び込む。本当は極熱の火焔地獄池だ。

・龍旋処(りゅうせんじょ) 怒り、愚かさ、欲を絶つ事により涅槃を目指す者を嘘つきよばわりし、礼儀作法を無視した者の責苦。体中に毒を持つ竜の群れに揉みくちゃにされ、全身の毒と回転摩擦で劇熱の苦痛を受ける。

・赤銅弥泥魚旋処(しゃくどうみでいぎょせんしょ) 仏教の教えを否定し異教を推奨しようとした者の責苦。高熱の銅汁の中に落とされ、鉄の泥魚に半身を喰われる。喰われた半身は火焔の胃で苦悶し、沈んだ半身は焼かれながら悪虫が体内に這い入る。

・鉄钁処(てっかくしょ) 殺人を天界に通じる道だとの邪見を広めた者の責苦。平等受苦無力無救釜、火常熱沸釜、鋸歯水生釜、極利刀鬘釜、極熱沸水釜、多饒悪蛇釜という六種の釜が用意され、煮られる。

・血河漂処(けつがひょうしょ) 教えに背いた事を、自らの体を傷つける事により償えると信じた者の責苦。赤銅が流れる、悪水可畏と呼ばれる河に投げ入れられ、丸虫という高熱の虫にたかられて焼き苦しめられる。

・饒骨髄虫処(にょうこつずいちゅうしょ) 現世から逃れる為、乾いた牛糞に火をつけて焼身自殺した者の責苦。鉄の杵で頭と足から突き潰されて蜜蝋の様にされ、罪虫を練り込まれた肉塊にされて焼かれる。

・一切人熟処(いっさいにんじゅくしょ) 野や山に放火をし、焼く事で天界に至れるとの邪見を持った者の責苦。愛する父母や家族、親友が焼き苦しめられる様子を見せられる。

・無終没入処(むしゅうぼつにゅうしょ) 虫や蛇、鹿などを焼く事を勧めた者の責苦。燃え盛る鉄山に登らされて、脚、腰、腿、背、肘、頭、うなじ、手、足、耳、眼、脳に体を切り分けられてから焼かれる。

・大鉢特摩処(だいはちとくましょ) 断食修業を行えば、他人を殺しても構わないという邪見を行った者の責苦。花弁から無数の棘が突き出した巨大な蓮華花が咲いている。罪人はその美しい花弁の中に突き落とされ、身体を串刺しにされる。全身の全ての傷口からは炎が噴出し苦しみ悶える。

・悪険岸処(あくけんがんしょ) 水死して天界に至ろうとの邪見を実行した者の責苦。高熱の焦野で獄卒に追い立てられ「あの山を越えれば責苦は終わる」と言われ必死に山に登るが鋭い崖から落ちる。崖下には鋭い石の刀が林立しており、体を貫かれ火炎が噴き出して燃やされる。

・金剛骨処(こんごうこつしょ) 因縁を否定し、仏教の教えには意味がないとの邪見を広めた者の責苦。刀で肉を削り落とされ、骨だけにされるが意識は鮮明だ。生前、騙された者達がやって来て骨を持ち、手に取って強烈に打ち合わせ続ける。

・黒鉄縄擁刀解受苦処(こくてつじょうびょうとうかいじゅくしょ) 修業を否定し、努力は無意味であると他人に説き広めた者の責苦。鉄の縄で縛られ、足先から頭に向けて刀で細かく裂かれていく。

・那遞虫柱悪火受苦処(なかちゅうちゅうあくかじゅくしょ) 輪廻を否定し、現世も来世も無い事を信じ他人に説き広めた者の責苦。頭に巨大な釘を打ち込まれ、地獄の地面に固定される。罪人の体内から虫が湧き出し、肉を食い血を吸い尽くす。

・闇火風処(あんかふうしょ) 人は無情であるけれども、地、水、火、風は定常で不変であるとの邪見を持ち説き広めた者の責苦。つむじ風で吹き上げられ、風車のようにクルクル回される。風向きが変ると罪人の体は砂のように細かく砕かれてしまう。空中で再生させられ、けっして地に下りる立つ事は出来ない。

・金剛嘴蜂処(こんごうしほうしょ) 全てを因縁のせいにし、この世の虚しさを他人に説き広めた者の責苦。

罪人は挟みで全身の肉を切り取りられてる。肉は無理やり自分で喰わされる。切り取られた肉にも完全な感覚がある。


大焦熱地獄

殺生、盗み、邪淫、飲酒、虚言、邪見、尼を犯した罪を罰する。この地獄では、次に自分が実際に罰を受けている様を見せつけられる。恐怖に堪え切れなくなれば、実際に責苦を実行される。

半中劫の寿命を定められる。人間の約四十二京四千六百七十三兆三千億年間責苦を受ける。四十三万三千三百三年を過ごしても、たった一秒が過ぎただけなのだ。


大焦熱地獄の付属地獄

・一切方焦熱処(いっさいほうしょうねつしょ) 在家信者の女性を犯した者の責苦。空までの全てが炎に満たされた刑場で、罪人は鉄の地面に押さえ付けられ、巻物の様に足の先から巻かれていく。全身の血が頭に集まると巨大な釘を打ち込む。

・大身悪吼可畏処(だいしんあくこうかいしょ) 出家して修業中の女性を犯した者の責苦。小さな毛抜きを使い、罪人の全身の毛、全てを一本いっぽん肉もろともに抜いて苦しめる。

・火髻処(かけいしょ) 仏法を正しく身に付けた女性を犯した者の責苦。縛り上げられ、肛門から弓の弦の様に細い似茎虫を挿入される。似茎虫は触れただけでも飛び上がる程の猛毒を出し、鋭い刃で体内を喰い尽くして頭骨を破り飛び出して来る。

・雨沙火処(うしゃかしょ) 仏門に入ったばかりの尼を犯した者の責苦。空には五百由旬の大火炎が吹き上がり、地面は灼熱の金剛砂で満たされている。罪人は砂の上に立つ事は出来ず、蟻地獄のように飲み込まれていく。熱砂の中にはおびただしい量の鋭く尖り体に突き刺さる物が混ぜられている。

・内熱沸処(ないねつふっしょ) 五戒を受けた尼を犯した者の責苦。火炎地獄の中で、五つの火山が美しい情景を見せている。木々が茂り涼しそうな池もある。それを見に罪人が近づくと、暴風に吹き上げられ、噴火する火口内部に落とされる。

・吁吁吁嚌処(たたたざいしょ) 受戒した正行の尼を、たぶらかした者の責苦。凄まじい悪熱風に吹き散らされて、体がバラバラにされる。吹き散らされた肉片と化した体を金剛の鼠に喰い散らされる。糞と化し、芥子粒の様になる。

・普受一切資生苦悩処(ふじゅいっさいしせいくのうしょ) 尼に酒を飲ませたり、財物を渡して堕落させた者の責苦。焼けた鉄隗の上に寝かされ、炎が噴き出す刀で全身の皮膚を剥ぎ取られる。赤剥けにされ溶けた鉄を全身にぶちまけられる。

・鞞多羅尼処(ひたらにしょ) 嫌がる女性と無理矢理関係した者の責苦。暗黒の刑場に入れられる。高熱の鉄杖が雨のように振り続け、全てを貫かれ続ける。

・無間闇処(むけんあんしょ) 善行を行っている者を女性に誘惑させて、堕落させた者の責苦。暗黒の刑場で、金剛よりも堅い嘴を持った地盆虫にたかられる。骨の髄すらも残す事は出来ない。

・苦鬘処(くまんしょ) 受戒した正行の僧を誘惑した女性の責苦。鉄の鑢(ヤスリ)を使って身体を削られる。肉を削ぎ落とされ、骨を削られ髄を出される。頭蓋も脳味噌ともども削り擦られる。

・雨縷鬘抖攘処(うるまんとそうしょ) 真面目に努力をし、ようやく受戒した尼を強姦した者の責苦。回転する刀が生え、隙間なく獄内をうめている。少しでも身動きすれば、跡形もなく切り裂かれる。直ぐに再生してしまい、決して終わる事が無い。

・髪愧烏処(ほっきうしょ) 酒によって姉妹を犯した者の責苦。炎炉が太鼓になっており、罪人を中に入れる。ふいごが取り付けられており、超高温にまで火力を高める事が出来る。加熱されながら、太鼓を激しく打ち鳴らされる。太鼓の中の罪人は凄まじい恐怖と苦しみを味合う。

・悲苦吼処(ひくこうしょ) 邪法に騙されて、淫行を行った女性の責苦。穏やかな林があり、逃げ込むと千の頭の竜が無数にいる。罪人は口の中で噛み砕かれるが、口の中で再生させられ同じ繰り返しが延々と続く。

・大悲処(だいひしょ) 恩師や教え子の妻に、不倫をさせた者の責苦。地面の全てが鑢(ヤスリ)になっていて、罪人は擦り付けられる。体の形が無くなっても執拗に最後まで磨り減らされる。

・無悲闇処(むひあんしょ) 自分の子の妻を犯した者の責苦。無数の罪人が集められて釜で煮られ、巨大な臼に入れられて杵で突かれ、巨大な一つの肉団子にされる。

・木転処(もくてんしょ) 命の恩人の妻を犯した者の責苦。岩石や重金属などが超高熱で溶けて巨大な流れになっている。「大叫喚河」と名付けられた、この河に投げ込まれる。摩竭受大魚と呼ばれる巨魚が群がって襲う。


阿鼻地獄

阿鼻とは、伝来した原典にあるアビィーチェの発音を漢字として音写したものである。殺生、盗み、邪淫、飲酒、虚言、邪見、尼を犯した罪、五逆罪(父、母殺し、羅漢殺し、仏を傷つけた罪、仏の教えを否定した罪)を罰する。八万四千種あるとされる人の苦しみの全てが用意され、これまでの全ての地獄の苦しみの千倍の苦痛を与えられる。無間地獄とも呼ばれ、責苦と責苦の間が一切無い。阿鼻地獄に比べれば、これまでのあらゆる地獄はまるで天界の様に幸福な世界だ。罪人はここで地獄の責苦を受ける。

一中劫の寿命を定められる。人間の約三百三十九京七千三百八十六兆年間責苦を受ける。百七十三万三千三百三十三年を過ごしても、たった一秒が過ぎただけなのだ。


阿鼻地獄の付属地獄

・烏口処(うこうしょ) 最高位の修行者、阿羅漢を殺した者の責苦。口を鳥のくちばしのように裂いて閉じられない様にし、熱泥の河に落とす。熱泥を飲み続け、沸騰した泥の熱で罪人の体は内部から焼けただれる。

・一切向地処 徳の高い尼僧や、阿羅漢を犯した者の責苦。体をクルクルと強烈に回転させながら火炎で焼く。また、灰汁の中でも同様にする。

・無彼岸常受苦悩処(むひがんじょうじゅくのうしょ) 酒に酔った母と性交した者の責苦。鉄の鉤で臍から魂を取り出される。臍には鉄釘を打ち、口には熱鉄を注ぎ込み、魂の逃げ場を無くす。魂は鋭い棘を刺され続けられる。

・野干吼処(やかんこうしょ) 聖人、阿羅漢、智人の悪口を広めた者の責苦。鉄の口を持つ火を吹く狐が罪人を襲う。手、足、舌、顔など罪のある部分を次々に喰いちぎられる。また、舌を引き出し鉄で打って薄く、大変な大きさに引き延ばし、牛に踏ませて鋭い鋤(すき)で耕す。

・鉄野干食処(てつやかんじきしょ) 仏像や僧侶の持ち物を焼き払った者の責苦。吹き上がる火焔の上でほんろうされながら焼かれる。程よく焼けた頃、鉄野千(狼)があらわれ、干し肉のようになった体を喰い千切られる。

・黒肚処(こくとしょ) 供え物を食べたり、仏の物を盗んだ者の責苦。凄まじい飢餓にさいなまれ、我と我が身を喰う。黒い腹の蛇がおり、罪人は足の甲から喰われていく。

・身洋処(しんようしょ) 集団で仏の物を盗んだ者達の責苦。燃え上がる二本の鉄の巨木の間に置かれる。風で鉄木が揺れるたびに、罪人の体は粉々になる。肉片になると、鳥が現れ金剛の嘴(くちばし)で喰い散らされる。

・夢見畏処(むけんいしょ) 僧侶の食糧を奪い、飢えさせた者の責苦。鉄の箱の中に正座させられて、鉄の杵で突かれ、粉砕されながら加熱されて焼かれる。体は蝋蜜のようにされてしまう。

・身洋受苦脳処(しんようじゅくのうしょ) 袈裟を着て、僧侶のふりをして布施や財物を受けた者の責苦。山ほどの高さの燃えさかる鉄の大樹が茂る刑場で、あらゆる病気の全てに掛かり続ける。全てに罹患し終えると、蛆虫が湧き出して全身が溶ける。

・雨山聚処(うせんじゅしょ) 単身で修業を行った僧の食物を奪い、飢えさせた者の責苦。鉄の山が物凄い音をたてながら雨のようにふり続ける。罪人の体は粉々に砕かれるが、獄卒は罪人の体を集め、人の形に戻して熱い蝋を注ぎ込む。

・閻婆叵度処(えんばはどしょ) 自然を壊し、人や動物の命を奪った者の責苦。閻婆度と呼ばれる怪鳥が、罪人を掴み空中高くに持ち上げ高空から落下させる。閻婆度は火を吹き罪人を焼く。あまりの高さから落とされる為、身体は跡形もなく粉砕される。

・星鬘処(せいまんじょ) 修業を行っていながら戒めを忘れ、他人の食物を盗んだ者の責苦。回転させられながら煮られる釜、強風で乱舞する剣で切り裂かれた後、溶けた銅で煮られる二種の釜で罰せられる。

・一切苦旋処(いっさいくせんしょ) 経文や画書などを隠して、他人の修業を邪魔した者の責苦。頭を固定され、眼球に赤銅を流し込まれる。また、抉り出した眼球を、すり鉢で潰す事もある。指の爪を剥がし、胴を切り、鼎に入れて半身を焼く。鼎の外に垂れた半身は鳥に喰わせる。

・臭気覆処(しゅうきふくしょ) 僧の田畑や、果樹を焼いた者の責苦。針孔網と呼ばれ無数の針が生えた燃え上がる網に、弓矢や鉄棒で追い立てられて走り入れられる。熱網が全身に絡まり、針で身体を刺し貫かれながら、さらに矢で射ぬかれ燃え上がる。

・鉄鍱処(てっちょうしょ) 修行者を助けるふりだけをして、修業の邪魔をした者の責苦。十一の巨大な熱塊が大変な熱を発している。熱鉄を飲まされ、大変な力で塵よりも小さな粒に潰される。瞬時に元の体に戻され、最初から同じ苦しみが延々と繰り返される。この責めを幾百幾千億と味わった後、火焔を吹き上げる鉄鍱で包まれ、布団蒸しの様にし、さらに打ち潰す。

・十一焔処(じゅういちえんしょ) 仏の弟子を装い、仏像や仏画などを破壊した者の責苦。火を吹く猛毒をもった蛇の大群に襲われる。その毒はこれまでの全ての地獄の苦痛の千倍を与える。獄卒は鉄棒で罪人を打ち、踏みつけてさらに毒蛇に襲わせる。


八寒地獄

八大(熱)地獄地獄の他に、八寒地獄があるとされているが、その地獄の有り様や、責苦、いかなる罪状で罰を受けるかなどが詳しく書かれている経典は無いとされる。


阿部陀地獄(あぶだじごく) 寒さの為に全身に痘痕(アバタ)が出来る。阿部陀「あぶた」→アバタという事のようである。


尼刺部陀地獄(にらぶだじごく) アバタが潰れアカギレとなった様子をあらわすようである。


頞哳吒地獄 (あたたじごく)余りに寒い為に「アタタ」と悲鳴をあげる。


臑臑婆地獄(かかばじごく) 余りに寒い為に「カカバ(ははば)」と悲鳴をあげる。


虎虎婆地獄(ここばじごく) 余りに寒い為に「ココバ(ふふば)」と悲鳴をあげる。


嗢鉢羅地獄(うばらじごく) 嗢鉢羅は青い睡蓮を意味し、凍傷で全身が青い睡蓮(すいれん)の様になる。


鉢特摩地獄(はどまじごく) 鉢特摩とは蓮華(れんげ)の事であり、全身の肉が捲れ上がり、出血と肉の色でまるで花そのものになる。


摩訶鉢特摩地獄(まかはどまじごく) 摩訶とは大きいという意味で、最も広大な刑場で前の地獄の蓮華花にも増した凄い花になる。





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