黄泉の国
死後の世界、あの世。冥土。冥界。特に、地獄。閻魔(えんま)の庁。
ギリシャ神話の冥府
ギリシャ神話におけるハーデスが治める世界ハイドゥー(Ἄιδου、すなわちハデスと同義)の和訳として一般に用いられる。神の名(ハデス)とその治める世界の名(ハデス)が同じでは混乱することもその一因であろう。この冥府は、後述するようにその中に天国と地獄がともに存在する世界である。
冥府への道程
英雄が死ぬとその魂をヘルメスがこの世界に運び、一般の人々が死んだ際はタナトスがその魂をこの世界に運ぶという。タナトスの職務にはしばしば眠りの神ヒュプノスが同行する。これは死の苦痛を眠りによって和らげることが出来るからである。冥府は、かつて世界の西方オケアノスの果てにあるとされたが、後には地下深くに存在するとされるようになった。
冥府の周囲は何本かの川に取り巻かれている。中でも有名なのはアケロン川であり、ここにはカロンという渡し守がいて規定の通行料を死者から徴収するという。ステュクスの川は神が誓いをなす際に用いられ、その都度虹の女神イーリスがその水を汲みに来る。同名の精霊レテが住むレテ川は、その水を飲む者に忘却をもたらす。転生する者が前世の記憶を失うのはこの水を飲むせいだともいう。
冥府の王宮
冥府の全てを統治している王はゼウスの兄(あるいは弟)たるハーデスである。ハーデスの宮殿はケルベロスという怪物が守護する。ハーデスの仕事全般を補佐するのは魔術の女神ヘカテー(ヘカテ)である。また冬の間は、王妃である花の女神ペルセポネが滞在して事情のある死者の赦免や復活などについてハーデスに助言している。死者を生前の行いによって裁き、天国への招待あるいは地獄での刑罰を与えるのはハーデスの権限である。しかし激務であることもあり、三人の裁判官がその元で実務を担当している。それぞれミノス(ミーノス)、ラダマンテュス(ラダマンティス)、アイアコスというかつての善政の王あるいは敬虔さで知られた人々である。
冥府における天国と地獄
エリュシオン(エリュシオンの野)はギリシャ神話における天国に相当する。裁判を経て限られた者だけが招かれる、冥界で最も美しい場所である。エリュシオンに招かれなかったが重い罪もない者はハーデスの元で暮らす。この地はエレボスとも呼ばれる。彼らは姿も定かではない亡者で、楽しみの多くない暮らしを送るという。冥府の果て、エレボスのさらに奥にあり同名の神が治める地が地獄に相当するタルタロスである。裁判の結果罪深いとされた者たちはこのタルタロスに送られる。これらの地についてはそれぞれの記事を参照のこと。