断章のグリムとは、電撃文庫より発刊されているライトノベル。
著者は甲田学人。
あらすじ
この世界には、「神」が存在する。
あらゆる人間の無意識を共有する「集合無意識」の奥底で眠り続けている神は、ある時、全知ゆえにこの世のすべての恐怖を夢に見てしまう。しかし神は全能である故に、眠りの邪魔となるその悪夢を切り離して捨ててしまった。
その「悪夢の泡」が人間の無意識に浮かび上がった時、それは人間が抱く恐怖と混じり合い、現実を犯す災い〈泡禍(バブル・ペリル)〉となる。
そして世界には、〈泡禍〉から人々を守るために、我々の日常の裏で戦う〈騎士〉たちが存在していた。
日常を愛する平凡な男子高校生・白野蒼衣は、ある日〈泡禍〉に巻き込まれ、命の危機にさらされる。それを救ったのは〈泡禍〉から人々を守るために活動する〈騎士〉の一人、時槻雪乃だった。
その日から蒼衣は彼が愛していた「普通の日常」とは対極の、神の悪夢に創り出された狂った童話の世界との戦いの日々へと足を踏み入れる事になる…。
作風
甲田学人の得意とするグロテスクかつホラーな描写は前作Missingから引き続き顕在で、サブタイトルにもある通り「童話」を下敷きにした身の毛もよだつような怪奇現象が毎回繰り広げられる。
〈泡禍〉によって引き起こされる怪奇現象もさることながら、味方である〈騎士〉が使う特殊能力〈断章〉の描写も「使用者のトラウマを引き起こし能力を引き出す」という設定から痛々しい物がほとんどで、「リストカットをすることで周囲を焼き尽くす」「安全ピンで自分を突き刺し、対象者を内側から幾重もの針で串刺しにする」などエグイものがほとんど。
物語の主軸は「作中に登場する人物は元となった『童話』におけるどのような役柄なのか」「泡禍の元凶はどのようなトラウマ・原因があるのか」という謎の推理であり、そこに人間関係や怪異との戦闘が絡まって物語に厚みをもたせている。
物語の最後に明かされる、『甲田流』の解釈がされた物語と童話との符号は圧巻である。
グロ耐性がある人、或いはグロを楽しめる人にとってはこの上ない名作になり得るだろう。
ちなみに「自分が書いているのはあくまでメルヘン」と公言する甲田学人だが、この断章のグリムにおいては「スプーン1杯ほどの、グロテスクを加えた」と発言している。
…このグロさでスプーン一杯…だと…?
余談だが、この「スプーン一杯」はティースプーンらしい。
主な登場人物
・白野 蒼衣
日常を愛する普通の男子高校生。〈泡禍〉に巻き込まれたことで非日常へと足を踏み入れ、〈泡禍〉と戦うことになる。
絵に描いたようなお人好しとでも言うべき性格で困っている人間を見捨てたり、他人の頼みを断る事ができない。
後に〈断章保持者〉であることが発覚し、〈目醒めのアリス〉と名付けられる。
主人公でありながら「前線に立って戦う」タイプではなく、後述する神狩屋と共に童話と〈泡禍〉の関連性を推理し、次の被害を予測することで仲間を助けるサポート役。
・時槻 雪乃
本作のヒロイン。〈泡禍〉を激しく憎悪しており、一般的な〈騎士〉から見ても異常なほどに戦いへと没頭する。
〈断章保持者〉でありながら日常を愛する蒼衣を鬱陶しく思っており、フレンドリーに接する蒼衣と真逆で彼を露骨に嫌っている。彼と会話すると二言目には「うるさい、殺すわよ」と毒を吐き、敵意を隠そうともしない。
もうツンデレという次元ではない。かのツンドラでも、ここまではしないさ。
しかしこの性格は〈泡禍〉に巻き込まれて以降に意図的に作り上げたものらしく、追い詰められたり余裕がなくなったりすると元の情に篤い行動をすることもある。
・鹿狩 雅孝
〈保持者〉や〈騎士〉をまとめ上げる「神狩屋ロッジ」の世話役。通称「神狩屋」。温厚な性格で、童話ヲタク。
彼の童話に関する知識を元に彼と蒼衣が〈泡禍〉と童話の関連性、配役を推理するのがお約束であり、童話の話になるとつい話し続けてしまう。
・田上 颯姫
サポート役の〈騎士〉。保護欲を掻き立てられる小動物のような少女。
しかし自身の有する断章〈食害〉によって常に記憶を蝕まれており、反復しない記憶はすぐに忘れてしまう。内心では「当たり前の感情さえ忘れてしまう」ことを恐れている。
戸籍を持たない私生児であり、学校にも通っていない。
・夏木夢見子
〈泡禍〉によって心を壊してしまった少女。親族もすべて〈泡禍〉で亡くしており、現在は「神狩屋」で暮らしている。普段は店の奥の書庫で童話の本を読んでいる。
〈残酷劇(グランギニョル)の索引引き〉と名付けられた、「童話」の形になるほど大きな〈泡禍〉の発生が予言する〈断章〉を保有している。