飴細工(陰陽師)
あめざいく
概要
CV:大川透
中華人民共和国のソーシャルゲーム『陰陽師本格幻想RPG』の登場キャラクター。
覚醒前と覚醒後で、姿がかなり変わる式神のひとり。
最も甘く温かい糖衣に包まれたのは、最も苦い心だった。世間から冷たい目で見られ、予期せぬ死を遂げた職人の化身。
彼の清苦な力の本質は、苦痛の炎に焼き焦がれた糖の芯であった。
外界から暖かく応えてくれた時のみ、清苦な力が再び熱い水飴に戻り、より強大な力を発揮する。
(陰陽師「式神図鑑」より)
伝記一より
夜の海は寒い。荒波に揺れる船の中、人々はひしめき合いながら、新たな地への到着を待ちわびていた。
あの時の私は、炎のような気持ちを胸に抱いていた。じゃが、ふるさとは飢饉にみまわれ、その炎は消えつつあった。私は船に乗り、海を渡って旅に出ることに決めた。船での日々は常に空腹との戦いじゃった。魚を腹いっぱい食べられることなどほとんどなかったからじゃ。
「海の向こうには何があるの?美味しい魚が食べられるの?」と問う声がきこえた。
「海の向こうで食べられる魚は甘いよ。」
聞き覚えのない、年老いた声が答えた。その老人は手品のように、袖から飴細工を取り出す。次から次へと出てくる動物の飴は、まるで生きているかのようじゃった。
「お腹がすいたら、これを舐めてごらん。食べ終る頃には、わしのふるさとについているじゃろう。」
あの方からもらった金色の飴細工のおかげで、私たちは飢えをしのぐことができた。そして、無事にあの豊かな地に足を踏み入れられた。
あの方は、悠久の歴史を持つこの地に生まれたのだという。諸国を巡った後、ふるさとに帰ってきた飴細工の職人だった。この地にたどり着いたその日から、私はあの方を師と仰ぎ、飴細工の技を磨いた。時が流れ、一人前になった私は、自分のふるさとに戻った。今まで目にしてきた物の形を記憶に刻み、飴細工で再現した。空飛ぶ草花、師匠の十八番だった巨大な龍、そして、金魚…
じゃが、師匠の飴と違って、私が作った飴は苦い。
人気のない私の屋台には、今日もあの子しか来なかった。
お面をかぶったあの子は、愛しくていつも朗らかだった。手を伸ばして私に金魚飴をねだる姿を見ていると、ついついあげてしまうのじゃった。あの子が持っていった金魚飴は、私の夢の中を泳ぎ回る。赤い尻尾と金色の鱗は燃え盛る炎となって私の胸にしがみ付く。果てのない苦しみの中、私の心は焦がされ続けていた。
何故こうなったかは覚えていない。
それでも、あの子は必ず私の目の前に現れるのじゃ。
「金魚の尻尾が歪んでるよ」とあの子はそう言いながら、駄作を持ち去る。
飴は甘いと思ってくれているのなら、それはそれでよかったかもしれん
あの日、あの子は虐められていた。無理にはがされたお面の下の顔を、私は見てしまった。そういうことか。あの顔のせいで周囲に疎外されていたのか。私なら金魚飴以外のものであの子を笑顔にすることができるはずじゃ。
あの時、人の顔も飴のように自在に造形できることを知ったのじゃ。私はあの子に綺麗な鼻を作ってあげた。
はしゃぐあの子に、既視感を覚えた。古い記憶の中の誰かをみているような気がした。