薬莢
やっきょう
概要
大まかには金属製の円筒で、内部に火薬を詰め、先端に弾丸を固定し、尾部に雷管を装着する。
雷管を撃針ならびに同様の役割を果たす部品が打撃することにより火花が発生し、火薬に点火。
火薬が爆発的に燃焼することにより発生した燃焼ガスの勢いで弾丸を押し出す。
弾丸を発射した薬莢はその後、オートマチック拳銃や小銃、機関銃ならばエジェクションポートから排莢される。
使われる金属は主に真鍮や鉄だが、H&K G11のように薬莢の存在しないケースレス弾と呼ばれるものも存在している。
最近では底部等一部の部分を除いて樹脂製であったり、完全な樹脂製になるなど、非金属薬莢の開発が進んでいる。
リボルバー拳銃ならばシリンダが回転することで使用済みの薬莢は脇に除けられるが、再装填の際に手動で排莢する。
ショットガンの弾薬であるショットシェルにおいても薬莢はあるが、薬莢より前の弾丸が詰められている部分までが同径のワッズと呼ばれるもので覆われており、発射薬と弾丸が詰められている。
ワッズは弾丸とともに発射され、発射後2~3メートルほどで分裂して剥がれて弾丸だけが飛んでいく。
排莢については作動形式によって異なり、自動排莢、ポンプアクションによる手動排莢、薬室を開いての手動排莢がある。
銃との照合
発射された弾丸と発射した銃の照合はライフルマーク(旋条痕)で行うことはドラマなどで広く知られている。
しかし薬莢と発射した銃の照合も行うことができる。
弾丸の発射には薬莢の雷管に撃針による打撃を与えることが不可欠であり、撃針によって雷管部に刻まれる痕跡(撃針痕)はライフルマークと同じく銃によって固有のものである。
よって、撃針痕を照合することによりどの銃で発射された薬莢かを判別することが可能なのである。
また、発射時の薬莢の変形によって薬室の形状となるため、変形の違いによって使われた銃身を絞り込むこともできる。
ボトルネックのある薬莢の場合、用途によって角度の違うショルダーや射撃後の変形により銃の種類を絞り込むことも出来る。
自衛隊では
有名なことであるが、自衛隊においては使用済みの薬莢をすべて回収する。
これは薬莢を敵勢力に回収されて再利用されることを防ぐほか、発射した数と薬莢の数を照合することで弾薬の管理を徹底するという目的がある。
事実、以前訓練後に濡れた野戦服をストーブで乾かしていたところ、野戦服に紛れ込んでいた弾薬が加熱されて暴発したという事故があった。
そのため、自衛隊が装備する火器には薬莢受けが装備されたり、網を用いて排莢された薬莢を受け止めたりする。
薬莢受け自体は室内戦での薬莢の散乱による事故を防いだり、回収され再利用、残す事での存在を示す等を防ぐために付ける事は珍しくない。
薬莢がないもの
戦車などの砲においても、ほとんどは銃器の弾薬をそのまま拡大したような『弾丸』『薬莢』『火薬』『雷管』がセットになった弾薬を用いる。
しかし戦艦の主砲などは薬莢が存在せず、火薬を詰めた巨大な袋を砲身に詰めて用いる。
また個人携行火器についても、装薬を固めて弾丸と雷管を固定した無薬莢弾薬(ケースレス弾)というものがある。
もっとも、火器の内部に火薬が直接接触するため暴発の危険性が高い、薬莢による放熱効果がないため熱が篭りやすいなどの問題が多く、無薬莢弾薬はほとんど実用化されていない。
燃え尽きる焼尽薬莢というものもあるが、現在の技術では薬莢の基底部は金属製のために完全に燃え尽き、無薬莢同様に扱えるものは無い。
火縄銃において
火縄銃では弾丸と火薬をそれぞれ別個に銃口から装填するため、薬莢はない。
だが『弾丸と装薬を一体にしておく』役割のものは存在した。
『早合(はやごう)』と呼ばれるものがそれで、紙の筒の中に規定量の火薬と弾丸をまとめて入れておく。
使用に際しては早合の端部を破って火薬から弾丸の順で火縄銃に注ぎ入れ、朔杖で突き固めることにより、火薬の量を測ったり弾丸を取り出す手間をかけずに装填が可能になる。
なお、火縄銃は連続使用することで熱によって銃身が膨張していくので、後に使用するものになるにつれて小ぶりにしていくという工夫もあった。
よくある間違い
少女漫画など、火器についての知識が乏しい作者はしばしば銃から薬莢が付いたまま、つまり『弾丸』ではなく『弾薬』のまま発射される描写をすることがある。
これは火器の作動原理上あり得ないことであり、正しくは薬莢の先端についている弾丸だけが発射されるのである。
さらに言うと、多くの銃火器には銃身内部にライフリングという弾丸を回転させることで軌道を安定させるための螺旋状の凹凸が刻まれており、それによって弾丸の側面にはライフルマークが刻まれる。
素のままのライフル弾の雷管を叩き、発射した場合でも銃から撃ち出した場合と同様の弾道特性を示すということは無い。