概要
日本語で散弾銃と呼ばれ、その名の通り散弾という、一度の射撃で複数の弾丸が射出される弾薬を運用することに長けた銃。
一粒一粒が小さくなり空気力学的な安定性も低い散弾は、貫通力や射程に関してはライフルに大きく劣るものの、拡散する分命中率は格段に上がるため、すばしっこい小動物や飛翔する鳥類を撃つ際に重宝される。
またスラッグと呼ばれる一発弾を発射することも可能なので、やはりライフルには届かないものの、ある程度の射程と貫通力を発揮することが可能で大型獣にも対応できる。
基本的に頑丈な構造であるため口径より小さければ大抵のものは発射でき、ゴム散弾やビーンバッグ弾、「TASER XREP」(相手に電気ショックを与えて無力化する特殊弾)などの低致死性弾も開発され、ショットガンが対応しうる任務の幅は大きく広がっている。
その汎用性ゆえに法執行機関でも多数運用されており、SWATなどの警察の特殊部隊ではドアの蝶番やドアノブを粉砕するために使用されることが多いため、マスターキーとも呼ばれる。
単純な機構を採用した製品が多く、マルファンクション(作動不良)を起こす可能性が低い。また、大口径の利を活かして、拳銃やライフルでは発射できないような様々な弾種が開発され、多方面のニーズに応えられる一種の「万能銃」として重宝されている。
更に発射ガスの強さと大口径を利用して発射器として用いる用途もあり、ロープ付きのフックを撃ち出す等にも応用されている。
歴史
ショットガンの歴史は古く、近世フランスでは鳥などのスモールゲーム(小型の動物)を狩るために、小粒の弾丸を多数装填したマスケット銃が用いられていた。
その至近距離での殺傷力の高さから、大航海時代には船舶搭載火器としても需要があったことが分かっている。船員の反乱に対処するために使われた場合が大半だったようである。
しかし、ヨーロッパでは「ショットガン=猟銃」というイメージが強く、対人火器としてショットガンを使用する動きが広がることはなかった。
対照的に、対人火器として積極的にショットガンが使用されたのが18~19世紀のアメリカであった。法と秩序の手の及ばない大西部の荒野では、実力で個人の生命・財産を守るのが当然とされ、人々は身近にあるもので野獣や盗賊と対決しなければならなかった。そんな時、最も頼りになったのが、狩猟用として当時一般に普及しつつあったショットガンだった。
このためアメリカにおけるショットガンは歴史的・伝統的な武器として、軍用はもちろん警察、保安、西部開拓時代の駅馬車の自衛武器などとして重宝される。
古くはアメリカ独立戦争において、ジョージ・ワシントンのアイデアで、マスケット銃に通常の単体弾と散弾を同時に詰めて使用された。マスケット銃は命中率が悪かったため、同時に散弾を発射することで集弾率を下げてカバーするこの戦術は海上での戦闘で重宝された。
南北戦争では将兵の私物のショットガンが戦闘に使用され、特に南軍騎兵がショットガンを好んで使用したといわれる。
こうした歴史的経緯から、アメリカ軍はショットガンを対人火器として位置づけ、配備することを躊躇しなかった。
第一次世界大戦が始まりアメリカ軍の参戦が決まると、アメリカ軍は塹壕戦における切札として、銃身を切り詰めたポンプ式ショットガンに銃剣を装着したものを投入し、多大なる戦果を挙げた。トレンチガンと呼ばれたこれらのショットガンは、その激烈な破壊力ゆえにドイツ兵たちの恐怖と怨嗟の的となった。
この時ドイツから「戦争で散弾銃を使うのはハーグ陸戦条約違反」と抗議されたが、散弾そのものが明確に禁止されているわけではなかったのでアメリカは耳を貸さなかった。
その後もアメリカ軍はショットガンを軍用銃として運用し続けており、特にジャングルでの接近遭遇戦が頻発したベトナム戦争では大量に使用された。
こうしたことから、これまでショットガンの配備に慎重だったヨーロッパ諸国の軍・警察でも、徐々に装備する組織が増えてきている。
デザインと機構
最も普及しているのは、レミントンM870やモスバーグM500のようなポンプアクション式のものである。
このタイプの銃は機構が単純でマルファンクション(作動不良)を起こしにくく、弾の種類も選ばず、初弾を装填するアクション自体が警告にもなるため、狩猟用だけでなく自衛用、軍・警察用として広く用いられている。
また、発射ガスの強さを利用して銃口にアダプタを取り付けることで、ロープランチャー等にもともなることから救助用途等にも使用できる。
軍用としては、短時間で大火力を発揮できるセミオートマチック・ショットガンの需要も大きく、例えばSASやローデシア傭兵はブローニング・オート5を使用し、アメリカ軍はM1014を制式として運用している。
また、アサルトライフル等の下に取り付けるアンダーバレルショットガンも製作されており、イサカM37やレミントンM870等の既存の製品を改造したものだけでなく、最初からアンダーバレルショットガンとしても使うことを前提として設計されたC-MORE M26 MASSも登場している。
SAKO社のCrossfireに至っては、5.56mmのセミオートライフルとポンプアクション式12ゲージショットガンを一体化した複合銃となっている。
しかし、中にはかなり強烈なキャラクターを持ったものもあり、リボルバー型のRDIストライカー12(弾倉が回転するのではなく円状に弾が配置されている)のようなショットガンもあれば、チューブマガジンを二本持つショットガン、ダブルバレル、ダブルチューブマガジン式ショットガン、AK47突撃銃から進化したセミオート式ショットガンという化け物もいるし、中にはフルオート射撃可能、しかも榴弾も発射できるリアルチートさえ存在する。
更にタウルスジャッジ、S&Wガバナー等の410ゲージシェルを装填可能なリボルバー拳銃も存在している(銃規制がゆるいと言われるアメリカでも民間人には短銃身のショットガンの所持許可はおりないので、「もともと.45ロングコルトや.45ACP仕様だが、410ゲージも装填できるリボルバー」という建前をとっている。それでもソウドオフ扱いとして一部州では所持が禁止されている)。
スポーツ射撃用としては水平二連・上下二連銃が多く用いられる。
これらの製品の中には、過剰なほどの彫刻が施され、1丁あたり数千万円もする超高級品も存在する。
最近では三本銃身の三連銃が登場した。
またポンプアクションとセミオートが兼用できるフランキ スパス12やベネリM3も有名だが、前者はその複雑な機構や操作関係に問題も多く、あまり普及しなかった。
複合銃として通常のライフルと一体となったものもある。
先に挙げたCrossfireのようにコンバットショットガン的なものを目指したキワモノ銃や、マスターキーシステムなどのように突撃銃に取り付けることで複合銃となるものが有名だが、狩猟用としても実用品があり、例えば上下二連銃で上側がショットガン、下側がライフルとして機能するものもある。
法執行機関・民間問わず多く普及しているだけあって、アフターマーケット製のパーツも数多く出ており、ストックやグリップ等の形状を変えるパーツだけでなく、チューブマガジン式からボックスマガジン式に変更したり、チューブマガジンの先端を伸ばしたり、チューブマガジンを複数本束ねたリボルバー弾倉を追加して装弾数を増やすといったパーツも存在している。
一発一発詰めて行くイメージのあるチューブマガジンのショットガンだが、一度に複数弾の装填を行なえるクイックローダー(もしくはスピードローダー)もある。これはチューブマガジン同様にシェルを一列に入れた筒で、ショットガンのローディングポートに先端を差し込んでシェルを押し込むだけで一気に装填できる。
用語
ショットガン特有の部品
- フォアエンド
- ポンプアクション式の銃の銃身下部についたスライドするパーツ。これを前後させることで装填と排莢を行う。
- アクションバー
- 同じく、フォアエンドの動作を本体に伝えるための棒。
- ライフル銃身
- 基本的に散弾用である滑腔銃身をもつショットガンならではの部品名称。サボットスラッグを撃ち出すためにライフリングが刻まれた銃身を指す。規制の強い日本国内や散弾との兼用に、銃身の途中までしかライフリングのない「ハーフライフル銃身」というものもある。
- 日本においては1971年の銃刀法改正より生まれた10年縛りと呼ばれるライフル銃(ライフリングを持つ銃すべてが対象)の所持規制の回避のために薬室側のライフリングを銃身の半分までを削り落として命中精度を落としたものを使用している。(実際には厳しすぎ日本の狩猟情勢では実用範囲では大差が無いというのが実情で、10年縛り回避にしかなっていない)
- チョーク
- 銃口部分にある散弾の拡散範囲と射程を決める絞り。目的に応じて様々な径があるが、使用弾種にあわせて交換可能な銃もある。チョークの先に更にネジ等を設けることで、ダックビルハイダーのような拡散のパターンを変更する部品を付けたり、サウンドサプレッサーを付ける事も出来る。
- 銃のストックやレシーバー、フォアエンドといった銃の部品だけでなく、ベルトなどにショットシェルを並べて固定する部品。多くの場合は並列にシェルを並べるようになっているが、クアッドロードに対応するように並べたり、ジョン・ウィック:チャプター2で使われたマッチセイバー社のシングルシェルホルダーのようにエジェクションポート近くに取り付ける事で即座にエマージェンシーリロードが可能としたりとさまざまなものがある。どのような装填方法をとるかや異なる弾種のシェルを混ぜて並べるか等によって固定する向きを変える事も行われる。
口径
口径に合わせて「ゲージ(番)」と呼ばれる単位が使用される。基準となる数字は「口径が何分の1ポンドの鉛球に相当するか」で、数字が大きくなるほど口径は小さくなる。
12ゲージなら「1/12ポンドの鉛球の直径に相応する口径」ということ。
「12ゲージOOバックショット」のように口径 → 弾種で表記識別する。
0.410インチ口径の410ゲージのように、拳銃弾等と同様に何インチの直径かが使われているものもある。こちらは数字が大きくなるほど口径は大きくなる。
銃弾
現在はショットシェルなどと呼ばれる薬莢方式の実包が主流。
ショットシェルを構成する部品
- ケース
- 弾丸や火薬を収納するための円筒の部品。金属薬莢の場合はロンデルは存在せず全て一体型となっている。
- マグナム等と呼ばれる長いケースや1-3/4インチ長のミニシェル等と呼ばれる短いケースもある。
- 例えば12番ゲージの場合、通常のサイズは2-3/4インチだが、マグナムでは3インチ、ミニシェルは1-3/4インチとなっている。
- チューブ式弾倉の場合、対応する範囲であればシェルの長さにより装弾数が変わり、長いシェルを用いれば装弾数は少なくなり、短いシェルを用いれば装弾数を多くすることが出来る。
- ロンデル
- 紙ケースやプラスチックケースのショットシェルにおいて、金属で作られた、強度が必要なリムなどの部分。
- ワッズ
- サボット
- 粒弾の総量が少ない場合などに、弾の周囲を覆う円筒状の詰め物。
- サボットスラッグでは銃身のライフリングにサボットを食いこませて回転を加える為に用いている。
粒弾のサイズによる種別
- バードショット
- 鳥などのスモール・ゲーム(小型動物)向けに使用される、6mm未満の小粒弾。数十発から数百発を装填できる。大粒弾と比べれば一発の威力こそ小さいものの、弾の数が多いため、同じ拡散パターンであっても当たりやすい。
- ちなみに、対人用として使うとかなり悲惨なことになるため、先に述べたとおり戦場では滅多に使われない。
- バックショット
- スラッグ弾(スラッグショット)
- 「一粒弾」とも呼ばれる、一発だけ大きな弾丸を装填したショットシェル。狩猟用としては熊などのビッグ・ゲーム(大型動物)向けだが、対人・対物用としても使用される。有効射程内での破壊力が最も大きい。
- 主に滑腔銃身である散弾銃で使用されるため、精度を高めるために銃弾自体にライフル(旋条)が刻まれているものもあるが、弾自体が重いため有効射程は散弾より短い場合がある。跳弾の心配が低く、運動エネルギー(=破壊力)も大きいため、後述のドアブリーチ弾としても使われる事がある。
- また、「サボットスラッグ」という弾種も存在する。これはシェルよりも小径のスラッグ弾丸をプラスチック製のサボットで包んだもので、ライフリング銃身と併用する事でスラッグ弾に回転が加わりボトルネック(ネックダウン)薬莢のような効果を生み、高い精度が期待できる。発射に関する構造や原理はフレシェット弾に近い。
- ライフルの所持規制や使用制限がある国や地域で狩猟用として主に用いられ、基本的にライフリング銃身用の弾丸である。ライフル弾並みの命中精度と貫通性能を有しており、狩猟用として一定の需要がある。
- メカアクションゲーム『アーマード・コア』シリーズでは肩用武器のショットガンの名称だが、スラッグ弾は基本的に散弾ではないので小さい弾をばら撒くことは無い。
- 狩猟用としてスラッグ弾と共に大粒のバックショットを封入したものも一応はある。
その他特殊弾頭
- フレア弾
上空に撃ち上げると、一定時間燃焼、発光しながら落下していく。サイズが小さいため照明として期待できるほどではなく、発光信号として使うのがメイン。
- ドラゴンブレス弾
それでも枯れ草などに引火し燃え広がる可能性はあり、火災を防ぐために所持が禁止されている地域もある。実際に流れ弾により射場で火事が起きたりもしている。
低圧低反動のためにオートマチックショットガンでは使えず、一発の値段が非常に高い。
『CoD:BO』でも登場する。ゲームでは一撃で敵を火だるまにするような威力になっていることが多い。
- ガス弾
窓ガラスなどを突き破って撃ち込むために先端部が硬質素材で出来ているものもある。
- 暴徒鎮圧弾
- TASER XREP
低圧で撃ち出すため、ガス圧駆動のオートマチックショットガンでの使用は適さない。
- ミニグレネード
有名なFRAG-12は連射が出来るAA-12用に設計された弾(威力が小さいために連射できない銃では効果が薄い)であり、あまりポピュラーではない。
- フレシェット弾
比較的長距離でも鉄ヘルメットを貫通するなど、ショットガンの弾としては驚異的な貫通力を持つため、ソフトアーマーで食い止めるのは難しく、対人用としてかなりの殺傷力を発揮する。
- ドアブリーチング弾
発射ガス等を逃がす必要などから適切な射撃距離があり、銃口を密着させずに少し離して撃つ必要があるが、銃口を密着させても問題なく使えるブリーチングハイダーと呼ばれる部品もある。
- その他自作弾
5.56mm弾、7.62mm弾などの他口径の銃弾、紙吹雪、ライトスティックなど、さまざまなものを撃ち出せる。
ケースからはみ出すような形状となった場合はマガジンからの装填が不可能となるが、薬室へと手で装填する場合は余程の形状でなければ少々再装填がしづらい程度である。
ソウドオフ
銃身を短小化し狭い場所(室内など)での戦闘に特化させたショットガン。ソードオフショットガンを参照。
ライオットガン
暴動鎮圧用ショットガンの事。ライオットガンを参照。
メディアでのショットガン
ショットガンの活躍は西部劇でも紹介されており、有名な『OK牧場の決闘』では、名うてのアウトローであったドク・ホリデイが銃身を切り詰めた水平二連のショットガンを用いてクラントン一家に立ち向かい、駅馬車の護衛も銃身を切って取り回しを改良したショットガンを装備していた。
米国では現代でも容易に手に入る銃器なので、日常の延長が舞台となるゾンビ映画やクライム映画でも登場機会が多い。
粗野な武器と言う印象は米国でもあるようで、軍警察系のスマートな主人公がショットガンで活躍することは少な目。
ゲームにおいては、装弾数が少なく有効射程(効果的なダメージを与えられる距離)が短いながらも、弾丸が拡散して広範囲をカバーできることから、AIM(照準)が苦手な人でも敵に攻撃を当てやすいため、手数で補うマシンガンやアサルトライフルとは別方向で初心者がお世話になることが多い銃器である。当然、技量があれば至近距離での撃ち合いや拠点制圧等で八面六臂の活躍も見込めるため、末永く使っていける火器である。
ただ映画にしろゲームにしろ散弾の拡散性や威力が誇張されることが多く、2、3人をまとめて吹っ飛ばすような描写も多い。
実際にはチョークが存在しないものでも20m先で直径1mの範囲に拡散する程度で、フルチョークだと40mで1m程度で、複数名をまとめて撃ち倒すには厳しいものがある。
またゲームにおいてはバランスのために射程の短さが強調され、10mも離れれば敵を倒せなくなる拳銃未満の射程になってしまってることもあるほどだが、実際は散弾でも数十m、スラッグなら100m程度は狙える射程がある。
射程が劣ると言ってもあくまで数百m遠方を狙撃できるライフルと比べての話であり、銃である以上それなりの距離に対応できるようになっている。
多くの作品出はショットガンと言えば、で連想されるポンプアクションや水平2連が殆どであるが、セミオート、フルオートショットガンも登場する。
代表的なショットガン
- ウィンチェスターM1887
- ウィンチェスターM1897
- ウィンチェスターM1912
- ウィンチェスターM1300
- ブローニング・オート5
- アサルトショットガン
- ハイドラ
- ジェイル.ブレイカー
- レミントンM31
- コルトパイソン
- M3
- M870
- レミントンM1100
- イサカM37
- フランキ スパス12
- SPAS15
- モスバーグM500/M590
- ベネリM1/ベネリM2/M3/M4
- AA-12
- SAIGA
- RDIストライカー12
- KSG
- USAS-12
- MTs255
- C-MORE M26 MASS
- KACマスターキー
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英訳が「ショットガン・マリッジ / ウェディング (Shotgun Marriage / wedding)」。
婚前交渉で妊娠した際、女性側の父親が相手の男に散弾銃を突きつけて責任を取らせようとしたことから。