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概要編集

戦場において人が潜れる程度の状構造物。この中に歩兵が入ることにより砲撃制圧射撃から身を守ることが可能となる。一人だけ入れる小さなものは蛸壺と呼ばれる。


歴史編集

戦争において敵兵の進撃を阻むための空堀土塁は古くから用いられてきたが、本格的な塹壕戦は、627年の「ハンダクの戦い」が最初と言われており、これはムハンマド率いるメディナ軍が騎兵対策として用いたものである。なお金属製のスコップもこのとき発明され、これを作らせた人の墓所に立つモスク聖遺物として保存されている。日本では1614年の大坂冬の陣真田丸の戦いにおいて徳川方が陣地構築の際に塹壕を掘った事が記録に残っている。このように、古い時代の塹壕は攻城戦で主に用いられ、野戦においては使用はされていなかった。


ライフルとなり、命中精度が上昇した19世紀の南北戦争ごろから、兵士は敵兵の射撃から身を守るため、塹壕や掩蔽壕に隠れる必要性に迫られるようになった。機関銃が猛威を振るった日露戦争では、南山の戦い、そして旅順攻囲戦で塹壕戦が展開された。塹壕を突破する手段としては、小型爆弾を塹壕に投げ込んだり、臼砲(後に迫撃砲となる)を撃ち込んだ後に歩兵の突撃が行われたが、砲撃では塹壕を完全に破壊することは困難であり、突撃は機関銃の良い的にしかならず、犠牲をそれまでとはケタ違いに増やす結果となった。


第一次世界大戦では特に塹壕戦が大々的に展開され、特に西部戦線では全域にわたって鉄条網地雷機関銃で守られた塹壕に籠った両軍が睨み合い、凄惨な塹壕の奪い合いが展開された。そして「歩兵の仕事のほとんどが塹壕を作ること」といわれるまでになった。攻略法としては、「弱いところを見つけてそこに攻撃を集中する」(浸透戦術)という戦術が用いられたが限界があった。「下にトンネルを掘り、爆破によりつぶす」(坑道戦)ことが最も効果的だったが年単位の工期がかかり、限られたケース以外には実用的ではなかった。塹壕突破のための新兵器として毒ガス戦車という兵器が開発されたが、効果的な戦術が確立していなかったためや数の少なさのため限定的な成功をおさめたにとどまり、第一次世界大戦の終結まで真に効果的な塹壕突破戦術は確立しなかった。


第二次世界大戦では、戦車や爆撃機の発達を背景に、ドイツ軍が「浸透戦術」と「電撃戦」の組み合わせで塹壕を突破するという戦術を確立。以降は大陸を横断するような長大な塹壕線は築かれなくなった。しかし、第二次世界大戦後も朝鮮戦争ベトナム戦争などで塹壕戦が展開されている。


特に、イラン・イラク戦争では大々的な塹壕戦が展開され、イラク軍は塹壕を効果的に運用してイラン軍の侵攻を撃退した。イラク軍は続く湾岸戦争でも塹壕を採用したが、アメリカ軍はサーモバリック弾(燃料気化爆弾)を投下し、塹壕に潜むイラク兵を殲滅。さらに装甲ブルドーザーを投入し、塹壕を兵士もろとも埋め立ててしまった。


現在では上記の対処法が確立されているため、過去のような大規模な塹壕戦は行われにくくなっているものの、山岳地帯など装甲車両の運用が困難なところや、各種事情により対処手段を持たない戦闘では行われることがある。韓国などの現在も戦争が続く地域やスイスなどの防衛主体の国では排水溝等を平時には排水路等の生活設備として利用し、有事の際は塹壕として利用する構造としている都市もある。それ以外の地勢でも、即席防御陣地としての塹壕は依然として有効であり、野戦における歩兵の最大の仕事は今でも穴掘り。スコップは歩兵の必需品である。


ところが、2022年に勃発したウクライナ侵攻では、ロシア連邦軍ウクライナ軍の両軍が大規模な塹壕陣地を構築して睨み合う構図となり、第一次世界大戦を彷彿とさせるような塹壕戦が行われていると言われている。ただ、詳しく見ていくと両軍とも塹壕内にまとまった兵力は常駐させておらず、塹壕自体も堅固に守られていないため、歩兵戦闘車で乗り付けた歩兵が敵側の塹壕に突入するなど、第一次世界大戦の塹壕戦とはかなり様相が違う戦い方が展開されているのも事実である。


構造編集

基本的には人が完全に隠れるための深さのある溝である。準備期間や人手によって塹壕の質は大きく変わり、簡単なものでは屈まなければ隠れられない程度の深さの溝だったりする。


一方大掛かりなものでは人がすれ違える程度の広さになり、壁は土嚢や木材で補強される。足元には雨水や手榴弾を逃がすための溝が掘られ、各所には兵士が射撃するための銃座や重機関銃などを設置する簡易トーチカが設営された。爆発物での被害が拡大しないために長い直線を作らず、クランク状に直角に曲げてジグザクを描くように掘られるようになったため、敵兵が侵入した際には突発的な近接戦闘が発生することも多くあった。


塹壕内には排水用の溝などが備えられているものの実際の大雨には殆ど役に立っておらず、中の兵士の足は常に湿気を持つ状態となっており、寒さによる凍傷や重度の水虫による塹壕足が発生するなどその居住環境は劣悪を極めた。


関連タグ編集

戦場 円匙/スコップ 第一次世界大戦 ウクライナ侵攻

トレンチコート ショットガン 重機関銃 鉄条網 歩兵

トレンチ トーチカ


参照編集

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