工兵とは陸軍組織の兵士の職種(兵科)のひとつ。陸上自衛隊では施設科と呼んでいる職種だ。
(基本的に)歩兵や砲兵などと違って直接的に敵と戦闘を行うことは無いものの、かなり危険を伴う任務が多い上に高度な技術と専門的知識が求められる兵科である。
任務
時代や組織によって従事する任務の内容や性格は大きく変わってくるが、代表的なものは次のとおり。
…などなど、後方での安全な任務が多いと思いきやさにあらず。
時と場合によっては、
- 地雷やIED、ブービートラップの探知・除去
- 不発弾の処理(武器整備を専門とする兵士が行うこともある)
- 撤退する自軍の最後尾で、地雷の設置や橋梁・道路・鉄道などの破壊、ブービートラップの設置などの敵軍の進軍妨害工作
- 敵の橋梁や道路・鉄道線路などの重要施設の破壊(※1)
- 敵防御陣地の破壊(※2)
- 敵前での架橋
などなど、下手な歩兵よりも危険な任務に従事することもあるという、かなり胆力が要る兵科であった。
特に、第二次世界大戦の頃までは、爆発物の専門家でもあるという特性が買われて「(一応生還前提であるが)爆薬を抱えて敵の鼻先に飛び込んで敵陣や障害物に爆薬を投げ入れて主力たる歩兵のための突破口を拓く」ために戦闘が本分の歩兵よりも前で活動する場合もあり、兵科としては支援的な性質ながら犠牲者が多い部隊であった。
大日本帝国陸軍では、これらの危険な任務、特に銃弾が飛び交う中での作戦を行う部隊を『戦闘工兵』、逆に土木作業を主体とする部隊を『建設工兵』と区別していた。
とは言え、破壊工作を担う兵士も、土木・建築作業を担う兵士も、任務の内容が大きく違うにもかかわらず『工兵』とされていたのは、「破壊工作を行う上で最も効率的な方法を知っているのは土木・建築分野の専門的な知識を持った兵士、則ち『工兵』である」という理由であると考えられる。
(※1)現在では、ミサイルを用いたり特殊部隊や精鋭部隊のうち爆薬の教育を受けた兵士が行うことが増えたが、かつてはこれも工兵の主たる仕事であった。
(※2)侵入坑道を掘って地下から爆薬を仕掛けて要塞陣地ごと爆破したり、要塞陣地の擁壁に爆薬を設置して穴をあけるなど。
工兵とインフラ工事
軍のインフラの敷設・管理は工兵の重要な任務だったが、民間向けののインフラも工兵の手によるものがある。
代表的なものは、国土の測量(地図の作成)や土木工事である。
測量は、自国(あるいは敵国)で作戦を行うための生命線と言えるもので、日本では戦後に国土地理院の業務となったものの、戦前戦中は民間向けのものも陸軍参謀本部の陸地測量部で行われており、トップは工兵科の佐官・将官であった。
また、工兵部隊でも平時に訓練を兼ねて(公共事業たる)道路建設などのインフラ建設を行う事も多かった。例えばパナマ運河建設にもアメリカ陸軍工兵部隊が投入されている。
- 共産主義国家や、建設業の機械化・組織化が進んでいない国々で大規模動員されるイメージは想像しやすい… が、資本主義国でも、発注者が部隊に依頼し、工事内容や規模などが適切と判断されれば行われる。
- 日本では、陸軍の鉄道連隊が訓練を兼ねて鉄道敷設工事を受託していた。第一・第二連隊が津田沼にあったため、関東地方の中小事業者からの受託が多かった。著名なものは小湊鉄道線や東武野田線など。
- 戦後、自衛隊が成立してからも民生協力の一環で様々な土木工事などを受注している。「部外工事」と呼ばれるもので、民間事業者の間で重機の普及率が低かった自衛隊創設期はかなり重宝されていた。しかしながら、時代が下ると受注件数は下がり、現在では極めて稀である。
余談
- 大日本帝国陸軍では、兵士などの輸送用の船舶を運用する『船舶工兵』が存在した。これは河川や沿岸部で兵士70名程度を輸送できる「大発動艇」から、外洋で「神州丸」「あきつ丸」といった排水量1万噸弱の大型船舶までを運用できる大規模な輸送部隊であった。また、アメリカ陸軍も船舶輸送部隊を有している。
- このほかに、建設工兵に近いながらも鉄道の建設・運行を専門とし輜重科の性質も併せ持つ『鉄道連隊』も存在した。連隊長は工兵大佐ないし工兵中佐が任ぜられている。