概要
警察、軍隊などで行われる挨拶で、創作作品ではキャラ付けとして頻繁に用いられる。
イラストとして描かれる場合は腕を横に伸ばし、肘から先を額の方向に曲げる挙手の敬礼と呼ばれるタイプのものが多い。
ピシっとした敬礼もいいけど手首に力が入ってないのも可愛らしくてとてもいいと思います。
自衛隊の場合
上記の「腕を横に伸ばし、肘から先を額の方向に曲げるタイプ」は「挙手(挙手注目)の敬礼」といい、一般的には(特に右腕が不自由である場合を除き)右腕で行われることが多い。
現在、自衛官には四肢の不自由な者が勤務する状態にないため、全員が右腕で行う。
自衛隊の場合、この挙手の敬礼は「着帽時」または「つれ銃」時に行うものである。着帽時であっても両手が塞がっている場合はこの限りではない。
自衛隊式の挙手の敬礼は、「右手をあげ手のひらを左下方に向け、人さし指を帽のひさしの右斜め前部にあてて行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条)」。
特に陸上自衛隊、航空自衛隊の挙手の敬礼は、直立不動の状態(不動の姿勢)から、二の腕を水平にし、肘から先は指先まで一直線に伸ばした状態で帽子のつばの右端に向かって曲げる。親指を曲げてはいけないし、掌を受礼者に対して見せてはいけない。このとき、不動の姿勢から一挙動で素早く行わなくてはならない。
海上自衛隊の場合は、狭い艦内を想定し、肘を張らずに行う。なお、艦内での敬礼は敬礼より先に上官に通路を譲る事が優先され、その際に不可抗力で欠礼しても咎められないとの事。
脱帽時は挙手の敬礼をせず、「頭を正しく上体の方向に保ったまま、体の上部を約10度前に傾けて行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条)」(10度の敬礼)。または「頭を正しく上体の方向に保ったまま、体の上部を約45度前に傾けて行う(同)」(45度の敬礼)。
この時、背骨に沿ってまっすぐな棒が一本入っているように、背中を曲げてはいけない。10度の敬礼は、脱帽時の会釈に用いられる。45度の敬礼は、天皇、国旗、隊員の棺に対して行うものである。
基本的に、下位者が上位者に対して先に敬礼をし、上位者が返礼をし終えたら下位者が直る。
旧軍の挙手の敬礼
部隊や兵士によって個性があったりもするが、礼式に定められている敬礼は以下の通り。
陸軍礼式
「挙手注目の敬礼は姿勢を正し右手(傷痍疾病に依り右手を使用し得ざる者は左手)を挙げ其の指を接して伸ばし食指(人差し指)と中指とを帽の庇(つば)の右(左)側(庇なき帽に在りては其の相当位置)に当て掌を稍〻(やや)外方に向け肘を肩の方向にて略〻(ほぼ)其の高さに斉しくし頭を向けて受礼者の目若くは敬礼すべきものに注目す」
とのこと。注意すべきは人差し指、中指の二本が触れること、肘が真横に張り出すこと。掌については誤差レベル。
敬礼は一般に額に手を当てるイメージがあるが、旧陸軍の礼式を厳密に守る場合、手は側頭部に近い位置に来ることになる。
海軍礼式
「挙手注目は姿勢を正し右手を挙げ右臂(ひじ)を右斜に右前腕及び掌を一線に保ち五指を伸ばして之を接し掌を左方に向け食指の第三関節を帽の右前部又は庇の右縁に当て頭を向けて受礼者の目又は敬礼を受くへきものに注目す」
こちらの方がより敬礼のイメージに近いかもしれない。
なお肘をあからさまに前に突き出したり、或いは胴体にくっつけて腕をほとんど垂直に上げるような形の敬礼が「海軍式敬礼」であるという誤解が蔓延しているが、礼式によると肘は斜め右である。肘の高さについては言及がなく、狭い艦内の廊下では閉じた形での敬礼も行われたが、地上、甲板等の開けた場所では脇を開いて敬礼が行われていた。
警察の挙手の敬礼
旧陸軍のものに準じる。
文民 文官の敬礼
基本的には、挙手の敬礼は行わない。
最も馴染みがあるものは脱帽状態でのお辞儀である。
会釈から、腰を45度まで曲げる最敬礼まで幾つか種類がある。基本的に文民、文官同士で行うものである。
また、武官より敬礼を受けたときの答礼は「右手で脱帽し帽子を左胸に当てる」、帽子を被っていない場合は「右手を左胸に当てる」とされている。
国歌に対しては自衛隊などと同様に「姿勢を正す敬礼」を行う。卒業式などで「国歌斉唱。皆様、ご起立ください」というのはこの為である。
なお、細部は国によって異なる場合がある。
日本以外の場合
特に挙手の敬礼については、脱帽時でも行う軍隊もある。ここでは、そうした世界の敬礼を挙げる。
一般的な敬礼
自衛隊で行われているものと同様に手の平を水平にして行うタイプ(主にドイツ、フランス、イギリスなど)と、やや手の平を外側に向けて行うタイプ(アメリカなど)の2種類がある。
国によっては複数ある軍(陸海空海兵隊など)で敬礼のタイプが違うこともあり、手の平を見せない側に対し、見せる側が「あいつら汚いことやってるから手の平を見せる事ができないよ」といったからかいのネタにもなっている。
なお、実際に英海軍は甲板作業で汚れた手の平を隠すために手の平を見せない敬礼の形をとるようになったと言われている。
近代化によって甲板作業で手が汚れる事の減った現在では海軍、特に船に乗ったままで陸への攻撃を行う船乗り、海面下で攻撃を行う潜水艦乗りに対し、陸戦を主とする陸軍や海兵隊から手が汚いと揶揄したからかいが行われる事もある。
アメリカ軍の議会名誉勲章の授章者は階級に関わらず先に敬礼を受ける特権を有している。
由来
・甲冑の面覆を押し上げる動作
・右手を挙げて武器を持っていないことを示す動作
等々由来があるが、現代組織の挙手敬礼の直径の先祖は脱帽の動作というのが有力。
今でも最大限の敬意を表す慣用句として「脱帽する」というものがあり、国旗掲揚の際は「脱帽ご起立の上で~」というアナウンスがおなじみのものとなっている。
昔はこれが上官に対する日常的な挨拶として用いられていたのだが、すれ違うたびにいちいち帽子を脱いで頭を下げていたのでは面倒くさいし帽子も傷んでしまう。そこで1800年イギリスで、現代のような敬礼の作法が定められた。
この由来を知れば、帽子があるかないかで敬礼の作法が変わることにも納得できるのではないだろうか。
ナチス式敬礼(ファシスト敬礼)
ローマ帝国のローマ式敬礼を、ベニート・ムッソリーニがファシスト党やイタリア軍で復活させたものであり、敬礼の種類としては一番歴史が古い。ファシスト等を模したナチスも更にドイツで採用した為、こう呼ばれるようになった。よく知られる右手挙手のタイプ(左上図)と,肘を曲げて行う簡易的なタイプ(右上図)の2種類がある。
突撃隊や親衛隊では公式な敬礼として用いられていたが、国防軍では謁見などを除いて基本的には一般的な挙手の敬礼(前者のタイプ)が行われ続けていた。しかし、1944年7月20日のヒトラー暗殺未遂事件以降、国防軍内でもナチス式敬礼を行う事が求められるようになった。
ナチスに対する国家規模のトラウマから、現在のドイツやオーストリアでは「ナチ賛美・賞賛」と見做され民衆扇動罪で逮捕・処罰の対象となる。おかげで会議や授業で発言する際には、通常の挙手ではなく人差し指を突き上げなければならない。その他ヨーロッパやアメリカでもこの敬礼はタブー視されており、公の場で行うと最悪警察沙汰になる可能性があるので注意が必要。
これと類似した挙手の礼は現在でも日本と台湾において続けられている。前者ではスポーツイベントの選手宣誓(とはいえやはりやらなくなってきているが)で、後者では総統に就任する人間が孫文の肖像画の前で宣誓しながら行う。
現代日本ではショッカー戦闘員のポーズとして知られている。某赤い通り魔も怪獣を倒した後でこれとよく似た謎のポーズをとることがあるとして、密かな話題になっている(厳密にはその前番組で別のヒーローが既にこの仕草をしているのだが、あまり知られていない)。
ポーランド式敬礼
掌を前方に向けた上で人差し指と中指のみを揃えて伸ばし、残りの指は握る。
ボーイスカウトで行われる親指と小指をつなぎ、残りの3指は伸ばす「三指敬礼」と似ている。
小説・アニメ「星界の紋章」「星界の戦旗」においてアーヴ星界軍が行っている敬礼は、手の形がポーランド式敬礼と同じであるが、掌を下方に向ける点が異なる。
共産式敬礼
共産主義その他の革命思想を掲げる武装組織や軍隊では、掌の指を伸ばす一般的な挙手の礼を「ブルジョワ的」または「反動的」として廃し、代わりに握りこぶしを掲げる形式をとった例もある。漫画「皇国の守護者」において帝国軍が行っていたのはこれ。
ピオネール式敬礼
共産圏のボーイスカウトにおける敬礼方式。右手を頭の上まであげる。本家は無くなったが中国少年先鋒隊で残っている。
AA式敬礼
一行AAについて特に「ゝ(くり返し)」記号を用いた物が有名。
「ゝ」を腕に見立てて
(顔)ゝ
のように用いるが、これまでに述べたように敬礼は右手で行うのが一般的であるので、
「敬礼は右手で」とツッコミが入るのが通例である。
そのため軍事関連のネタの時には「<」記号などを使って「右手で」敬礼を行う事もある。
創作作品において
かなりいい加減。自衛官や警官が当然のように無帽時に挙手の敬礼を行ったり、姿勢や手の角度が崩れていたりなど日常茶飯事。デフォルメの強い絵だとそもそも正しい位置に手が届かなかったり。
まあ、現実の軍人、警官も親しい間柄だったり上官が部下に答礼したりなどの場合では緩い敬礼になることもあるし、民間人、特に子供に敬礼をしてみせるような時も同様。
TPOをわきまえてスーツのグレードを変えるように、敬礼にも状況に応じてふさわしいものが存在する。敢えて崩した敬礼で「緩さ」を表現するのもテクニック。
実際、個々の軍人によって敬礼の上手い下手は存在するし、「有能だがそういうところは雑」とか、「敬礼は上手いが実務能力は低い」とか「才覚を買われて急遽軍籍を与えられたため、階級からすると敬礼等がまだ身についていない」とか設定してもいいだろう。
戦時に緊急練成された一部部隊が「敬礼などの戦闘力に直接響かない部分の訓練はほどほどで済ませ、ひたすら実戦的な訓練を課した」と公式に設定された「A君(17)の戦争のような例もある。
ただ、例えば「海軍人に対し陸軍式の(しばしばわざと。コイツとか)敬礼を見せて反感を買ってしまう」、「陸海軍の敬礼の差異で構成組織の違いを表現する」ような、少々ひねった表現を取り入れる場合は気を付けたい。先述した旧海軍式敬礼に関する誤解のせいで、反感を買った人物が誰よりも海軍の礼式に近い敬礼をしている、といった事態がしばしば見受けられる。
また『らいむいろ戦奇譚』では「海軍所属なのに陸軍式敬礼」と言うツッコミに対し、脚本家が「だって腋見たいじゃん」と返答している。
そもそも「女性が大日本帝国海軍に所属している」「当時の風紀では逮捕必至と言えるデザインの制服(マイクロミニは基本、更にはノースリーブやへそ出し等)」と言う世界観の作品に対して「敬礼にだけツッコむ」のは可笑しな話である。