概要
防衛省の実働部門(自衛隊)のひとつで、他国の陸軍に相当する組織のこと。英名は「Japan Ground Self-Defense Force(JGSDF)」。
キャッチコピーは”守りたい人がいる”(余談だが某県警が知らずにこれを使おうとしたが、先に陸上自衛隊が使っていたため、断念したことがある)。
主に災害派遣などで活躍する組織。装備品には戦車、装甲車、ヘリコプター、飛行機、重機、小銃、迫撃砲、トラック、リヤカーなどがある。
発足当初から米軍の補完組織としての側面が強かった海上自衛隊・航空自衛隊に比べ、海外行動がほとんどない陸上自衛隊はアメリカ軍からの独立性が比較的強かったが、近年における海外派遣の増加と日本政府の日米同盟強化の意向に伴い、陸上自衛隊の海外派遣を担当する中央即応集団(2007年創設~2018年廃止)の司令部を在日アメリカ陸軍の司令部があるキャンプ座間内に移転させるなど、段階的にアメリカ陸軍やアメリカ海兵隊などと協同連携する方針をとりつつある。
島国である日本に陸上戦力が必要なのかという疑問が起こることもあるが、制海権、制空権を奪われた際の最後の盾が陸上戦力である。日本に戦車があるのなら、侵略する国も戦車を持ってこなければならない為、相手に負担を強いることができる。
逆に何もなければ、空挺部隊などで銃を持った兵士を送り込むだけで容易に制圧できてしまう。
故に、日本を守る上で陸上戦力も欠かせないのである。
気質・文化
戦後根強かった陸軍悪玉説の影響により、陸上自衛隊は組織的には旧内務省(警察などを所管していた省庁)の流れをくんでおり、旧軍の伝統とは基本的に断絶している。また2.26事件のような軍人のテロ、憲兵隊といった暗部からの決別を強調する為に、平和憲法の尊重と慎重で堅実な運用を重んじることとなった。とにかくお堅い、だがそれがいい。
ただし、実際は士官学校卒の旧軍軍人達(幼年学校卒は弾かれた)の再就職先でもあったため、アメリカ軍の指導も受けつつも少しずつ伝統を受け継いで、旧内務省的な要素を基調としつつも、旧陸軍的な要素とアメリカ陸軍的な要素が混ざった組織となっていったのである。現在では、実際に戦中に旧陸軍の蛮行を目にした世代が世代交代したこともあり、かつてほどタブー視がなされないようになり、旧陸軍の伝統を受け継いだ側面もアピールできるようになったといわれている。
組織的には、”官庁の中の官庁”と呼ばれた旧内務省の流れをくんでいることもあり、陸自は三自衛隊でもっとも官僚的でお堅い組織でもあると言われており、防衛省記者クラブによれば「用意周到・動脈硬化」とのこと。
しかし、空自に負けず劣らず愉快な人たちも相当数いるらしく、部隊によっては流行したアニメの台詞を訓練の際のかけ声に使ったりするなどのお茶目な話もあり、某艦隊育成ブラウザゲームに興じている隊員も少なくないとか(そもそも某地本がご乱心の時点でお察し)。
また、2012年10月に開催された木更津基地航空祭において隊員の自費で木更津茜なるアニメ調イラストのオリジナルキャラクターをラッピングしたAH-1Sが展示されるに留まらず、同基地所属の女性隊員が実際にそのキャラのコスプレを行い、来場者に機体の解説を行った(その後、そのヘリは他の駐屯地の駐屯地祭に呼ばれたが、基地司令ストップが掛かったとか)。
ちなみにその前年には茜の妹である「木更津 葵」なるキャラクターのラッピングコブラが登場している。
そして2013年度の基地航空祭では、さらに2人の姉妹が登場した。三女の若菜、四女の柚子である。(詳細は木更津茜の記事を参照)
AH-1Sには若菜、OH-1“ニンジャ”には柚子のラッピングが施され、更に前年度同様、若菜のコスプレコンパニオン(尚、演じているのは前年度に茜のコスプレをした人《現役自衛官らしい》)まで登場する始末。
しかしさすがに自費とはいえやり過ぎたのか、惜しまれつつも2013年度をもって痛ヘリ企画は中止とのこと。
部隊編成
令和6年(2024年)度における定員は15万245人。ただし折からの人員不足により充足率は9割を切っており、年によってバラつくものの現員は13万人台となっている(出典:防衛省HP)。
陸上総隊とその指揮下にある5つの方面隊、そしてその他の防衛大臣直轄部隊によって編成されている。
陸上総隊
平成30年(2018年)3月に創設された、5つの方面隊の統合的な指揮・運用を担う部隊。英名は「Ground Component Command(GCC)」。
陸上総隊司令官が統括し、司令部は朝霞駐屯地に置かれている。
陸上自衛隊は設立以来、長らく5つの方面隊(※平成19(2007)年からは中央即応集団も加える)が最上級部隊として並立しており、防衛庁長官や防衛大臣が各方面隊ごとに個別に命令を下さなければならない状態にあった。これを排して全国的・一元的に部隊を運用するための措置として新たに設立されたのが、この陸上総隊である。
直轄部隊には、航空自衛隊の輸送機と協同してパラシュート降下作戦を行う第1空挺団、海上自衛隊の輸送艦と協同して水陸両用作戦を行う水陸機動団、国際平和協力活動や緊急展開任務にあたる中央即応連隊など、高い練度のもとに特殊な任務に従事する部隊が多く名を連ねている。
方面隊
- 北部方面隊:ロシアと対峙する最前線であり、90式戦車や99式自走155mmりゅう弾砲などの高性能重装備が配備されているほか、陸自最大の駐屯地もここに所在している。冬季には雪まつりで毎年本命の大雪像を食わんばかりのクオリティの雪像をボランティアで製作している。
- 東北方面隊:東北6県の護り。雪中行軍や雪かきなど、寒冷地ならではの特色がある。東日本大震災にも出動した。
- 東部方面隊:関東、甲信越、静岡の1都10県を護る政経中枢防衛の部隊。首都防衛を任務の中心とする第1師団や、相馬原に司令部を置く”空中機動旅団”こと第12旅団などが特徴。
- 中部方面隊:北陸、東海、近畿、四国の2府19県と、国土の3分の1の防衛を担当するが、戦車などの一部の重装備が回ってこない。
- 西部方面隊:九州全域と南西諸島の8県を護る最前線の部隊。中国や朝鮮半島に近いこの地域がこれからの最前線となる。
自衛隊種目
- 自衛官候補生:もっとも簡単、人数も多いが任期制であるため再就職を考えるか曹昇格試験を受けるか、任期が来るまでに考えなくてはならない。
- 一般曹候補生:自衛官候補生と違い、最初から二等陸士である。しかし曹昇格試験に受からなければ退職金も少ない。一応、永続勤務らしいが……
- 一般幹部候補生:有名大学卒業者から社会人まで受験するが、競争率は高い。しかしえげつないため、脱落者も多い。防衛大学校卒業組はあまり減らないようである。
- 高等工科学校生徒:中学校を卒業し、陸自の高等工科学校に入学するルート。最も若く男子のみ。かつて自衛隊生徒と呼ばれていた。
- 防衛大学校:高校を卒業して防衛大学校に入学するルート。とても難しい。女子も少数いる。
- 防衛医科大学校:医官と看護師を目指すルート。自衛隊病院などで勤務することになる。かつては看護師を目指すルートとして自衛隊中央病院高等看護学院が別個に存在したが、2016年3月に防衛医科大学校に組み込まれる形で廃止された。
職種
職種とは諸外国軍における兵科である。入隊して三カ月の前期教育を終えるといずれかの部隊に配置されて後期教育を受ける。希望が通るとは限らない。
- 戦闘職種
- 後方支援職種
- 施設科:工兵に相当する職種で、陣地構築から架橋、障害除去などが主な任務。
- 通信科:モールス通信や有線、無線電話、基地通信装備などを運用する部隊。
- 衛生科:医官や看護師が所属している。身体検査から負傷者の後送までをこなす職種。
- 輸送科:いわゆる輜重兵、兵站を支える部隊。トラックなどが主な装備。
- 需品科:被服や物品を扱う職種。ここから官給品を受け取って、ここに返納。
- 武器科:不発弾処理から武器の整備まで行う職種。
- 情報科:もっとも新しい職種。情報収集から地上レーダーや無人偵察機などを担当する。
- 警務科:いわゆる憲兵。陸曹以上じゃなければなれない。喧嘩や盗難、流出事案などで出動する。
- 音楽科:いわゆる軍楽隊。各地で隊歌や歌謡曲、アニソンなどを演奏するのが役目。
- 会計科:給料の取扱いや装備品等調達を行う部隊。
問題点
島国である日本では防衛任務の正面に立つのは航空・海上戦力であり、陸上戦力は最後の「抑え」の役割を果たすものである。
しかし、日本政府や国民は旧陸軍が暴走したトラウマを忘れられず、旧陸軍の後釜となった陸自は海上自衛隊や航空自衛隊に比べて冷遇され、日本は海洋国家なんだから海軍と空軍が先!陸軍なんて兵隊の銃さえあればいいじゃないと言わんばかりに、装備調達の優先順位が軽視される傾向がある。予算のほとんどが人件費に費やされることもあって、“偶に撃つ 弾が無いのが 玉に瑕”という陸自の内情を揶揄した川柳が公開されるほど、装備は充分ではない時代が続いている。
冷戦終結後、定員を減らすことで正面装備はそれなりに行き渡っているが、個人装備や弾薬、補給などは最低限で、隊員の自腹で賄っている有様。給食設備など直接戦闘に関わらない装備品は全く足りていない。近年、日本国政府が慢性的な財政赤字を抱える中でも例外的に防衛費は増加しているが、対外有償軍事援助(FMS)を活用した「イージス・アショア」やV-22オスプレイなどアメリカからの正面装備調達費が膨れ上がり、陸自の台所事情は改善されるどころか悪化している有様。特に「オスプレイ」に関しては価格が汎用ヘリの10倍であり、しわ寄せで汎用ヘリが削減される上、整備の手間が激増することが懸念されるため、現場からは「陸自の実情に合わない」と怒りの声が上がっているとか。ある意味、正面装備ばかり重視して兵站を軽視する日本面を体現した組織であり、この点は帝国陸軍からまるで成長していないと言わざるを得ない。
ちなみに原因としては予算不足という点が大きいが、元々『一国で東側の超大国と対峙している』という立地が大きい。
『近海に跋扈するソビエト海軍を圧迫できるアメリカ並みの対潜装備』と『ソビエト空軍と対峙できる先進国レベルの防空装備』を両立させつつ『アメリカの主力がくるまでに上陸戦を耐えられると想定される陸上装備』と、条件が違うとはいえドイツや英国などが数か国で分担していた能力をほぼ一か国(当時の韓国は北朝鮮との対峙で手一杯)で計画されていたので、戦略時点でかなりの無理を強いられていたのもある。冷戦後、落ち着いたと思ったら今度は中国が台頭し、むしろ状況は悪化している。その為、「正面装備も足りないし後方設備も足らないし何なら理解も足らない」という三重苦状態なのが現状である。
陸上自衛隊駐屯地では、トイレットペーパーすら隊員の自己負担であると言えば、その劣悪さがよくわかるだろう。
2022年のウクライナ侵攻以降、防衛予算が倍額されるといった改善もみられた。……のだが、今度は今まで不足していた分に一気に予算が投下された結果、使いどころが決まらず1400億円の予算を余らせてしまうという本末転倒な事態も起きている(これは陸自に限った問題ではないのだが)。
また「定員を減らすことで正面装備はそれなりに行き渡った」と述べたものの、実際には定員すら満たせない深刻な人員不足が慢性化しており、部隊編成の項目でも先述した通り充足率が9割を切るという深刻な状況にも陥っている。
主な装備品
(注)ピクシブ百科事典に紹介記事があるもののみ記載。
- ※:退役済・予備火器として保管中と見られるもの。
- ★:試験用。或いは特殊部隊向け。
戦車 | 装甲戦闘車両 | 装甲車両 |
---|---|---|
自走榴弾砲 | 自走高射機関砲 | その他自走砲 |
非戦闘車両 | 施設科車両等 | 火砲 |
携行対戦車火器 | 対戦車誘導弾 | 対空砲 |
対空誘導弾 | 対艦誘導弾 | 多目的誘導弾 |
小銃 | 短機関銃 | 拳銃 |
狙撃銃 | 機関銃 | 手榴弾 |
化学科装備 | その他装備 | |
ヘリコプター | ティルトローター | 固定翼機 |
試験装備品 |
---|
以下はいずれも実用化予定などの試験的な装備で、実戦部隊向けの調達はされていない。「※」は開発中止となったもの。
|
制服
現在、通常勤務に使用されているのは、平成3年(1991年)制定で緑色基調の『91式』と、平成30年(2018年)制定で紫紺色基調の『16式』の2種類で、順次16式に入れ替えられる見込みである。
- 91式
- 16式
題材となった作品
架空の陸上自衛官
- 陣内理一(サマーウォーズ)
- 伊丹耀司 栗林志乃 富田章 倉田武雄 黒川茉莉 桑原惣一郎 古田均(自衛隊彼の地にて、斯く戦えり)
- 古賀沼美埜里(アウトブレイク・カンパニー)
- カズヒラ・ミラー(MGSシリーズ)
- 蝶野亜美(ガールズ&パンツァー)
- 永井頼人 三沢岳明(SIREN2)
- 加藤保憲(帝都物語)
関連動画
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