ヘリコプター
へりこぷたー
機体の上部についているローター(回転翼)を回転させることで揚力と推進力を生み出し飛行する。固定翼機では前進する事で得ている揚力を、高速で回転翼を回すことで「その場で」得ることができるのが特徴である。
ただし、ローターを回転させるだけでは、機体がローターと反対回りで回転(トルク)を始めてしまって飛ぶどころではなくなるので、機体の後端に付けたテイルローターを回転させるか、2つ(まれに3つ以上)のローターを別々の回転方向で回転させるかして回転を打ち消す必要がある。
近年では、テイルブーム内から送り込まれた空気を噴射することで回転運動を打ち消すテイルローターを用いないノーターと呼ばれる方式も登場している。
浮上する原理そのものは竹とんぼと同じであり、その着想はなんと紀元前にまで遡る。これに人を乗せるというアイデアについても、かのレオナルド・ダ・ヴィンチも考案しているほどに歴史は古いが、飛行機と同様に「適切な動力がない」というだけでなく、「複数のローターで機体の回転を防ぐ」という案がなかったせいで、長年に渡り日の目を見なかった。
飛行原理としては古くから認識されていながら、まともに飛べるようになったのは、固定翼機が既に空を飛んでいた第一次世界大戦よりも後である。最初の飛行例については、人が支えていないと浮上できない、着陸時に破損したなど成功とは呼び難い試行錯誤が繰り返される。1907年11月、フランスの発明家ポール・コルニュによる飛行が最初の成功例と呼ばれることがある。これでも20秒、数十cm浮上したに過ぎず、浮かぶだけで移動手段などは備えていなかった。以来、反対回りトルク対策、回転によるローター破損の防止、水平方向への移動手段、操縦といった難題への挑戦が繰り返されていくことになる。
固定翼機にはない「運用柔軟性」を持つことが最大のメリット。固定翼機と異なる最大のポイントは「飛行に前進速度を必要としない」事であり、これを利用して空中の同じ地点に留まる「ホバリング」(空中静止)が可能である。しかもそこから垂直上昇、垂直降下、そして真横、真後ろへの水平移動ができる。運用面においても垂直に離着陸でき、そこそこの広さの空き地(ビルの屋上など)で離着陸が完結できる事から「点から点」へのピンポイントの移動ができる。これらの特性から地上や海面近くでの利用に適した航空機となり、輸送、監視、報道、捜索救難の他、農薬散布や救急(ドクターヘリ)などに幅広く利用されている。
しかし、滞空するだけでもエンジン出力の多くを使っている関係上、非常に燃費が悪く、航続距離が短い。運航コストの高さのため定期航空路線にはほとんど利用されない。日本国内のヘリ航空路線は八丈島-利島・御蔵島・青ヶ島と大島-三宅島を結ぶ「東京愛らんどシャトル」のみである。
事故リスクも高い。原理上ローターに異常が発生すると墜落に直結する。離着陸が頻繁なこともあって飛行時間当たりの事故率は固定翼機の10倍以上にもなり、航空機事故の約75%をヘリが占めるといわれる。そのため2010年代にはより安定性の高いマルチコプターの開発が本格化している。
回転翼の上昇エネルギーのわずかな余剰を前進に振り向けて進む原理上、固定翼機に比べると速度も遅く、また速度が上がるとローター回転面左右での速度差から機体のバランスが崩れるため、通常のヘリでは対気速度で400km/hが限界(一般的な機種の最高速度は300km/h程度)である。
空気の密度が希薄な高空での飛行にはあまり向いていない。例えば日赤ヘリが公開しているロビンソンR66の仕様では、4300m弱(14000ft)まで飛行が可能であるとしているが、これは巡航速度の話であり、ホバリング限界高度となると3000mちょっと(10000ft)、つまり富士山頂には着陸できないのである。
また非与圧下で運用される前提のヘリでは人間側が(酸素マスク無しでは)持たないという問題も出てくる。ちなみに世界最高高度を飛行したヘリはSA 315で、デモンストレーションの範疇ではあるが12,440mというヘリコプターが到達した絶対高度記録を樹立している。また、AS350B3はエベレストの山頂(8848 m)に着陸したという記録を作っている。
なお、上で「垂直離着陸できる」と書いたが、ヘリコプターが数十メートルの高さから垂直降下することは、通常ない。操縦席からは真下が見えないので真っ直ぐ降りるのが危険ということもあるが、垂直降下中のヘリコプターはローターが起こす渦に巻き込まれて機体が急降下する「セットリング・ウィズ・パワー」(セットリング)という現象に陥りやすいためである。セットリングについては「メカニズム」の項目で説明するが、墜落に直結しかねないヘリコプターの重大な欠点の一つである。
セットリングを避けるため、ヘリコプターはVTOL機のような垂直離着陸はせず、斜め飛行で高度を下げ、着陸帯の直上1メートル程度でホバリングしてから降りることがほとんどである。この高さであれば、最悪セットリングに陥って地面に叩きつけられても重大事故には繋がりにくい。
このため、ヘリポートは開けた場所になければならず、建物が立て込んだ場所に設置するのは難しいし、離着陸時の騒音がうるさいからといって周辺に防音壁などを設置することはできない。
それぞれのブレード(羽)は角度を変更できるようになっており、上昇、下降はこれに一定の角度変化を与えて、ローター全体の揚力を一様に増減させることで行う。誤解されがちだが、回転速度は基本的に一定である。水平方向に移動する場合は、これの角度を周期的に変化させて(ブレードが機体右側に来るときに角度大、左に来るとき角度小、といった具合)、ローターの揚力を偏らせる。
水平方向に回転する場合は、シングルローターであればテイルローターのブレード角度を変化させ、タンデムローターであれば前後のローターの揚力を互い違いに偏らせることになる。対気速度ゼロかこれに近い状態(20ノット以下)でいくつかの条件が重なると、自らが送り出した空気(ダウンウォッシュ)に入り込んでしまい浮力が生じずに墜落してしまう(セットリング・ウイズ・パワーもしくはボルテックス・リング・ステート)。セットリングはヘリコプターがホバリングから降下に移った時によく起こる現象であり、重大な事故に繋がりやすい。
固定翼を持つ航空機と異なり、飛行中のエンジンの停止は即墜落に繋がると思われがちだが、十分な高度や前進速度があればオートローテーションという技術で比較的安全に降下して着陸できる(高空では降下する速度をローターの回転に変換して減速し、地表近くで一気にローターの角度を変えて着地のための揚力を生む。極めて高度な操縦技術が要求される)。
テイルローターが故障した場合、回転の反動を消すためにエンジンを止めねばならず、この場合もオートローテーションが必要になる。
固定翼機の失速からの回復と同様に免許を取得する際には必ず練習する操縦技能である(ただし練習には壊しても安く済む機体で行われており、軽いヘリでもあるので実際に操縦するヘリとは勝手が異なる事が多い。また、高価なヘリでは訓練の度にクラスA事故を起こすわけにはいかないのでほぼシミュレーター訓練となっている)。
しかしながら高度、速度の条件が満たなければオートローテーションは不可能となり、墜落する(この関係を示す図はH-V線図、またはデッドマンズ・カーブと呼ばれている)。
オートローテーションが働いても安全に着陸できるとは限らず、機体が大破した例は成功例より多く存在している。
実際の事故の際には訓練やデモンストレーションとは異なり柔らかい地面に滑らすように着陸するということが出来るとは限らず、エンジン停止等により行われた際には墜落に等しい着地となった事もあり、どちらかと言えば機体を潰してでも乗員の怪我を軽くする方法、といった方がいい。また、機体構造によってはオートローテーションは難しいこともあり、エンジン停止が即墜落に繋がることもあり、同軸二重反転ローターのKa-50で射出座席が採用された理由と推測されている。
マルチコプター
3つ以上のローターを持つヘリコプター。黎明期にはエンジン駆動の者も存在したが、現代では専ら電動モーターでローターを回す。
ローター同士でトルクが相殺できるのでテールローターを持たず、またモーターの性質上ブレード角は固定で回転速度により揚力を調整する。このため従来のヘリコプターより構造が単純であり、故障の際の修理もヘリコプターより楽、軽量な為事故を起こした際の被害もヘリコプターより小さい可能性が有る、構造が単純な分付加機能を付けやすく、安定性も高く操縦が極めて容易。
しかし軽量、操縦が容易過ぎる為ラジコン保険やメンテナンスを侮りかねない危険性が有り、ホビー目的で使用する際はくれぐれも高高度を飛べる物体で有る事を忘れないようにしたい(同重量の物が高度100メートルから降ってきたらどれだけ危険か想像してみよう)。
軍用ヘリコプター
1923年にヘリコプターの原型である「オートジャイロ」が現れた。これは無動力の回転翼と前進のための動力プロペラを持ち、飛行に前進速度は必要とするが非常に低い速度で済むため、画期的な短距離離着陸が可能になるものであった。
そして第二次世界大戦中には現在のヘリの構造を持つものが現れたが、この頃は実験機のような扱いで目立たない存在であった。そもそもエンジン出力の関係で垂直離着陸やホバリングはまだ困難であり、重量物も積めなかったため実戦に耐える能力はまだ無かった。
朝鮮戦争が勃発すると、人員輸送や偵察、救難に用いられるようになった。またこの頃までは重く出力の高くないレシプロエンジンであったヘリは次第に軽量高出力なタービンエンジンになっていく。ベトナム戦争においてアメリカ軍はベルUH-1イロコイをはじめとしたヘリコプターを大量投入する。兵員を空中輸送し、前線で展開するヘリボーン戦術が生まれた。
ベトコンの攻撃が激しくなってくると被害を受ける機体も増加し、対処するために重武装を施したUH-1を投入した。ヘリコプターで偵察し、敵を発見すると共に殲滅するサーチアンドデストロイ戦法もこの頃に生まれた。しかし、UH-1は前方投影面積が大きく、無駄も多かったために対地攻撃専用のヘリコプターが要求された。
そして試作競争の結果、AH-1コブラが繋ぎの攻撃ヘリコプターとして選定された。これが想定していたよりも良い出来だったので、改修されて現在まで使い続けられることになろうとは……現在のヘリコプター戦術及び軍用ヘリコプター思想はここから継承されたものである。海上においても、対潜装備を搭載した対潜ヘリコプターやレーダーを搭載したAEW仕様が活躍している。
映画や漫画などで移動手段または攻撃手段にヘリコプターが採用されるケースがある。戦闘用ヘリコプターの場合は敵側の誇る強敵であったり、心強い武器という位置づけをされる場合もある。しかし、ローターに接触すると大ダメージ、最悪即死するトラップ的扱いをされる作品もある。
カプコンのゲーム作品、特にバイオハザードシリーズではよく墜落し、その残骸が後々障害物となってプレイヤーを邪魔することも。 → 詳しくはカプコン製ヘリ
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