レオナルド・ダ・ヴィンチ
れおなるどだゔぃんち
『レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ』(Leonardo di Ser Piero da Vinci)は、イタリアの芸術家。
14世紀から16世紀にかけて、イタリアを中心とした西ヨーロッパで勃興した文化復興運動『ルネサンス』で活躍し、ミケランジェロ・ブオナローティやラファエロ・サンティと共に「ルネサンス三大巨匠」の1人に列する。
一般的には芸術家として扱われるが医学、科学、軍事、数学、工学、建築などに精通し、当時としても計り知れない先進的、且つ莫大な知識を示したために「万能人」の異名を持つ。近代には「専門家」という概念が確立するが、その入口たるルネサンスではあらゆる分野で才能を示す人間こそが理想とされており、レオナルドこそが後述の通り最もその理想を体現した人物の一人であった。さらに、その先進的過ぎるアイデアに時代が追いついたのが、ずっと後世になる面が多々あったのもご愛嬌である。
1452年4月15日、トスカーナ地方のヴィンチ村で公証人を務めるセル・ピエーロと農家の娘カテリーナの子として生まれる。父親は名士だったが、母親の身分が低いため認知されず、私生児として育てられる。芸術家として名を成した後も、彼は家名を名乗ることも許されず、生涯低い地位のままであった(上記の長ったらしい名前も、「ヴィンチ村の公証人ピエーロの息子レオナルド」を表している)。
幼少期は教会や学校などでの正規教育を受けずに自然と親しむ中で自由奔放に育ち、1469年に単身でフィレンツェ共和国に移るとアンドレア・デル・ヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio)に弟子入りして雑用をこなしながら画業を学ぶ。この頃描かれた代表作『受胎告知』によって一躍名声を高めたが、欠点である「未完成癖」はこのころから健在で、多くの依頼を未完成のまま投げ出し評判を失ってフィレンツェを出る羽目になる。
1482年に当時のミラノを治めていたスフォルツァ家の当主ルドヴィーコ・マリーア・スフォルツァ(Ludovico Maria Sforza)に仕え、後にパトロンとしての援助を得て自らの工房を設立すると同時に独立する。しかし1499年10月に起こったフランス王ルイ12世のミラノ侵攻でルドヴィーコ公が失脚すると弟子を連れてフィレンツェを離れ、その年の暮れまでイタリア各地を転々としながら様々な活動や研究に傾倒する日々を送る。
1515年にミラノが再びフランスに占領されると和平会談の場に招かれ、ここで終生の恩人となるフランス王フランソワ1世と対面する。和平会談での対面を境にフランソワ1世の庇護を受けるようになり、翌年にはアンボワーズ城に隣接するシャトー・ドゥ・クロ・リュセ(フランソワ1世が幼少期に居住した別邸)へ招待され、同行した最愛の弟子(後述)と共に平穏な余生を過ごす。
1519年5月2日、死去。享年67。
遺言状に従って執り行われた葬儀の後、アンボワーズ城敷地内に併設されたサン・フロランタン教会に埋葬されたが、幾つかの事件が重なってその遺骨は行方不明となったとされている。
現在、アンボワーズ城内のサン・ユベール礼拝堂(1493年建造)内にあるレオナルドの墓は、老朽化したサン・フロランタン教会の解体工事に併せて行われた19世紀初頭の発掘調査で発見された人骨と周辺の発掘品状況から「レオナルド本人と断定した遺骨」を1874年に移葬したものであり、レオナルドの全容解明を目的としたアメリカの研究機関『J・クレイグ・ヴェンター研究所』が主導する「レオナルド・プロジェクト」の一環としてDNA合致鑑定が進められている。
様々な方面に対して徹底的な研究と実践に取り組み、現代にも通用し得る知識を手稿13000ページに及ぶ莫大な資料として遺している。現在、様々な経路を辿って四散したそれらの手稿集は『ダ・ヴィンチノート』の総称で広く知られている。
レオナルドは、いつの日かまとめて出版することを考えていたらしいが果たせず、残ったものは研究と日記と雑記と落書きの入り混じった、つまるところ巨大な黒歴史ノートであった。
以下の業績は手稿で示された知識の一部である。
美術
スフマート技法(視認困難な色調変化によって形状や質感を精密に表現する)と空気遠近法(透視図法に光の軌道を組み込んで実際の視覚に基づいた色調変化や境界の歪みを表現する)の導入による写実描画技法を確立し、『モナ・リザ』『最後の晩餐』などを描いた。また、様々な素材を塗装の顔料に用い、作品にふさわしい絵の具の開発にも余念が無かった。
医学
老体や死体を通じて、「現世の真実性」を見出そうとする目的から動物の死骸や死刑囚の死体を解剖し、内臓や骨格の構造を詳細に記した緻密な解剖図録を著した。
この中には「視認は眼球内で起こる光の屈折現象を経由して網膜に投影されることで成立する」とする目のメカニズムを解析した研究書の他、「陰茎の勃起は空気による膨張ではなく血液の充血によって起こるものである」とする考察文も含まれている。
機械工学
大小が異なる歯車の動きを利用した機械式計算機、ばねの伸縮を動力とする自動車、凹面鏡による集光型太陽熱温水器、錘と歯車を組み合わせた制御式エレベーターなどの構想を遺している。
ただし、この分野のレオナルドの構想は、当時の金属加工技術が未熟すぎたので文字通り机上の空論でしかなかった。彼の発想が日の目を見るのは、その後の産業革命を待たなければならない。
航空工学
レオナルドは航空機が現実に現れる遥か前に(単なる思い付きではない)理論的裏付けのある航空機を構想した世界初の航空工学者である。滑空機(ハンググライダー)、飛翔機(オーニソプター)、回転翼機(ヘリコプター)の原型となるそれぞれの設計図面を作成し、さらには上記の実験による上空からの落下事故を想定して現代のパラシュートの概念を持つ布製用具の図面も遺している。
なお、最も有名なヘリコプターの設計図面『空気ねじ』は日本の航空会社『ANA』(全日空)の社章に採用され、旅客機の垂直尾翼を彩るカンパニーロゴとしては1969年5月から1989年3月までの約20年間、社章自体は2012年4月までの約43年間に渡って活躍し、『JAL』(日本航空)のカンパニーロゴである『鶴丸』と共に長く航空ファンに愛された。
<補足資料:ANA、JAL旧社章>
- ANA旧社章『空気ねじ』
- JAL旧社章『初代鶴丸』
建築学
古代ローマの建築家ウィトルウィウスの著書『建築論』の一節に基づいて克明な人体比率図を独自に表し、手稿『プロポーションの法則』の挿絵として『ウィトルウィウス的人体図』を描いた。これとは別に、パトロンの要望に応じて部屋のリフォームまで1人でこなした。
また、着工には至らなかったがコンスタンティノープル(後のイスタンブール)の金角湾の対岸を結ぶ全長240mの橋の設計を行っている。
<補足資料:ウィトルウィウス的人体図>
土木工学
イタリアのアルノ川、フランスのロアール川やソーヌ川などの河川改修に技術者として携わる一方、水の動きや連続性を何十枚にも及ぶスケッチで厳密に描き出し、研究書『水の運動と測定』の中で水流に関する科学的な考察を示すなど後世の水理学に対して大きな功績を挙げた。
軍事学
ミラノがルイ12世の統治下にあった頃、ローマ教皇軍総司令官チェーザレ・ボルジアの招聘を受けて建築技術総監督、軍事顧問、軍事技術者を8ヶ月間に渡って兼務し、兵器開発についても機関銃、装甲戦車、潜水艦など近代兵器の原案となる構想を遺している。
音楽
リュートやリラ(ここでのリラは本来の竪琴ではなく、現代のヴィオラに近い擦弦楽器『リラ・ダ・ブラッチョ』を指す)などの楽器を自作、演奏する他、作詞作曲、歌唱までこなすなど音楽家としても高名であった逸話が数多く語り継がれている。
また、他に類を見ない擦弦式鍵盤楽器『ガイゲンヴェルク』の元となった『ヴィオラ・オルガニスタ』や、現在のアコーディオンに見られる側面鍵盤構造をポルタティフ(携帯型パイプオルガン)に組み込みつつ一層の利便性を図った小型鍵盤楽器『ペーパーオルガン』などの構想を遺している。
※蛇腹式ふいごと側面鍵盤構造を併せ持つアコーディオン属が正式に歴史に登場するのは、ペーパーオルガンの構想から約300年後に当たる1822年のことであり、ドイツのフリードリッヒ・ブッシュマンの発明による『ハンド・エリオーネ』が最初であるとされている。
レオナルド本人は「画業が最も肌に合っている」と感じたために本業を画家ということにしていたが、残した作品やそれにまつわるダ・ヴィンチノートを見る限りでは、芸術家というよりもマッドサイエンティストに近い発明家の側面が強く表れていた。
その反面、本人の自己紹介文では「建築や技術に対する造詣の深さを延々と書き述べた最後に『一応、絵も描けます』」と簡単に記すに留まった。
寡作
芸術家として偉大な功績を数限りなく遺した反面、完成品の現存数が極端に少ないことでも有名である(絵画17点、彫刻1点)。
「平穏な時期であっても膨大なスケッチのみを描いて終わる」「作品に着手しても未完成のままで別の作品の構想に移る」「依頼主が提示する期日を超えても平然と創作に没頭する」「作品が完成しても依頼主に届けないまま放置される」などの裏話も数多く語られている。
これには、「レオナルドが完璧主義者であったため」「他の研究に費やす時間を惜しんだため」など諸説あるが、レオナルドの当時の言動やメモの走り書きを見るに「金のために仕方なく芸術をやっている」節すらある。もちろん、金や名声を求めるのは芸術家としては当然のことだが、彼にとって芸術とは「手段のひとつ」に過ぎなかったのではなかろうか。それで、あれらの傑作をものにしたのなら周囲の芸術家はたまったものではないだろうが(実際、ミケランジェロに面と向かって罵倒されたという逸話が遺されている)。
男色
1476年に男娼で当時17歳のヤコポ・サルタレッリに対してモデルの依頼を打診した一件に端を発し、匿名の告発によって同性愛者の嫌疑がかけられる事態に陥り、綿密な取り調べの末に証拠不十分による無罪放免を言い渡されるも、これ以降は「夜の士官」(当時の風紀取締巡察官)の監視を受け続けることとなった。
この後も、ミラノに工房を開いた頃に孤児で当時10歳のジャン・ジャコモ・カプロッティを引き取って幾度と無く盗みを働く手癖の悪さに苦言を呈しつつも「サライ」(小悪魔)と呼んで密に接し、さらに17年後にはロンバルディア州貴族の子息で当時14歳のフランチェスコ・メルツィを工房に迎え入れて「最愛の弟子」と呼んで深い愛情を注いでいる。
この二人に対する終生の愛情を示すエピソードとして、最後までレオナルドの傍にあったメルツィには自身の遺言執行人に指名した上で数多の作品、研究書、写本、参考資料を贈与し、イタリアに残ったサライことジャコモには1520年まで自身の工房を居宅として提供した上に、アンドレア・サライの名前で画家として活動していた頃に制作した『モナ・ヴァンナ』の元となった『モナ・リザ』を含めた数々の遺品を譲っている。
- 左:フランチェスコ・メルツィ
- 中央:レオナルド・ダ・ヴィンチ
- 右:ジャン・ジャコモ・カプロッティ
当時のミラノでは「高貴な女性ほど無闇に姿を見せるべきではない」とする貞操観念から貴族の令嬢はほぼ深窓にあり、社交場に出入りする年頃の令息や知識人は女性との性接触が皆無に等しい状態であった。このため、俗世間から遠い上流階級層ほど色欲を発散するべく同性と体を重ねるようになり、遂には「男性による同性愛は先哲が示した高貴・高潔な結束行為である」とする便宜的曲解を帯びた理論として成立せしめ、先史文化復興を旨とする風潮と相まって少年愛と共に広く浸透するに至った。
絶世の美男子と謳われたにもかかわらず独身を貫いて生涯を閉じた事実、加えて前述のヤコポのようにそれを生業とする者の存在も公に認められていた時代背景もあって、仮にレオナルドが男色嗜好あるいは少年愛者であったとしても別段の珍しさは無かったが、男色風潮の衰退に伴って同性愛を禁忌とする宗教観への回帰が教皇権限で発令されて以降、生前から不明な点が多かった私生活の内情、ジャコモやメルツィとの師弟以上の親密な関係などが絡み合った後世の憶測からその部分だけが誇張され、男色家としての噂が一人歩きを始めた結果、槍玉に挙げられる形で語り継がれることとなった。
飛躍的な発想を生み出した頭脳、莫大な知識を書き留めた手稿、謎に包まれた記述による多数の文筆や文言など、後世の人々の想像力を掻き立てる数々の産物を遺した人物であるために「万能の天才」の代名詞として広く用いられており、人智を超えた神の知識を持つ者、あるいはそれによって様々な発明や研究に傾倒する異能者、人の身にありながら神の領域へ踏み込む異端者として描かれる。
作品によっては、その作品に登場するオーバーテクノロジーに対する時代背景や世界観との整合性を持たせる役割として名前や存在が用いられ、特に江戸時代の世界観を元にした作品では古くは江戸の平賀源内、近年では古今無双の置時計『万年自鳴鐘』をほぼ独力で完成させた肥前の田中久重(たなか ひさしげ、通称「からくり儀右衛門」。東芝の前身『芝浦製作所』創業者)などが同様の立ち位置として登場する場合が多い。
ゲーム
アサシンクリード
15世紀のイタリアが舞台となった『アサシンクリード2』に登場。
フィレンツェの銀行家を務めるジョヴァンニ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェの妻マリアから手厚い援助を受ける芸術家であり、これが縁となって後に2の主人公エツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェと出会い、終生の友情を誓い合う仲となる。以後は、アルタイルが遺した写本の復元・解読に着手し、そこから得られた知識を利用しつつ武具の強化や新造を行う一方、謎に満ちた秘宝『エデンの果実』の分析から導き出された結果を伝えるなど、持ち前の広範多様な才能を存分に発揮した後方支援を担うようになる。
後日談として描かれた続編『アサシンクリード ブラザーフッド』にも登場し、父親である第214代ローマ教皇アレクサンデル6世に苦渋を舐めさせたエツィオと敵対するチェーザレによって軍事技術顧問の名目で束縛されているが、アサシン教団を再興してローマ教皇軍に対抗するエツィオの動向を察知し、水面下での惜しみない助力を提供する。また、史実ではペーパープランのみで終わった装甲戦闘車両などの発明品が、本作ではエデンの果実の力などもあって完成している。
アニメ
ヤッターマン(リメイク版)
声優:八奈見乗児
ヤッターマン、ドロンボーに続いてドクロリング奪取を狙う謎の第三勢力『ドクロリングハンター』のメンバーである霊能者バーバラが現世に呼び戻したルネサンス期の大発明家。
実際にはボヤッキーと瓜二つの顔相を持つレ・オナラ・ブー・ダベンキという別人ではあったが、突貫工事の上に歯車だらけの時代錯誤な内部構造を持つ巨大メカ『ダベンキメカ』1機でヤッターワンを始めとするヤッターメカ6機を窮地に追い込み(このうちヤッタードラゴンは完全破壊)、さらに本来の実力を引き出す獣人変化「御虎子形態」(オーマルモード)への可変機構まで備えるなど、ボヤッキーが毎回苦心して生み出す巨大メカとは雲泥の性能差を見せつけた。
ところが、肝心のダベンキはヤッターメカの総攻撃をものともしない様子に感激したメンバーの賞賛を受けたと同時に現世召喚のタイムリミットを迎えてしまい、折角の山場であるにもかかわらず「ブタもおだてりゃ木に登る、霊もおだてりゃ天にも昇る」と告げて満足気に昇天してしまった。
マリー&ガリー
あらゆる知識と技術を活用して図面作成から玩具修理に至るまで何でも請け負う便利屋を経営しており、軽トラックで街を巡回してはその道々でどんな仕事が飛び込んできても二つ返事で引き受ける反面、素晴らしい発想が頭に浮かんだ途端に急いで自宅へ帰って研究に没頭してしまう悪癖持ちのため、その度に依頼者を困らせている。
薄汚れたヨレヨレのツナギに身を包み、伸ばし放題の白髪と白髭に浅黒く日焼けした肌といった冴えない風貌ではあるが、ガリハバラ(稀代の科学者が集う不思議な街)の中心人物にして怖いもの知らずを自負するガリレオが畏敬の念を表す唯一絶対の存在である一方、絵画や彫刻などにも優れた手腕を発揮する芸術家でもあり、キュリー夫人を始めとして街に住まう多くの女性から高い人気を得ている。
ノブナガ・ザ・フール
声優:杉田智和
西の星出身の科学者兼芸術家。歴史の闇に埋没した先史高度文明の復活計画を指揮し、発見された技術に基づいて再生・建造した人型機動兵器『イクサヨロイ』の開発研究に携わった中心人物の1人だったが、ジャンヌ・カグヤ・ダルクが示した天啓に興味をくすぐられ、半ば強引な手段を用いて共に渡った東の星でオダ・ノブナガと出会う。
地位や権力には毛ほどの価値観も示さず、己を突き動かす知的探究心を第一に行動する現実的な学者の側面が強い一方、疑問や悩みを持つ人物が選び取ったタロットの啓示によって運命を読み解く超常的な予言者を思わせる一面を持つ。
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