概要
直訳すると「狂った科学者」。
何ゆえ「狂」の字がつくのかといえば、次のどちらか、或いは両方の特徴を持つからである。
- 理論や研究内容が狂っている。▶従来な科学では説明がつかない、或いは現在な技術では不可能なものを研究している。そして研究をしばしば完成させてしまう。
- 性格が狂っている。▶性格が常軌を逸しており、研究のために法・倫理・他人の迷惑をしばしば省みない。また研究テーマについても常識では忌避するようなテーマを選んでしまう。
あまりお近づきになりたくない人種ではあるが、こういった変わり者の科学者たちによって文明が発展してきたのは事実であり、フィクションにおける狂言回しとしても都合がよいため、しばしば登場する人気なモチーフである。
現実的なマッドサイエンティスト
フィクションに登場するマッドサイエンティストはマッドと呼ばれるだけあって、とかくとっつきにくい変人が多いが、フィクションに登場する古典的なマッドサイエンティストのような突飛な人間性と大掛かりな研究は現実的には両立しにくい。
何かしらの研究開発に携わったことがある人であればおわかりいただけるだろうが、実際の研究開発というのは各分野に特化した専門家達の知見を結集した協働によって行なわれるのが常であり、またそれ自体に莫大な予算がかかるものだからである。
フィクションに登場するような大規模な研究を個人で成し遂げることはおおよそ不可能といってもよく、マッドサイエンティストと呼ばれる実在の人物の多くがビジネスマンや軍事関係者といった組織人としての顔も併せ持っているのも、研究開発というものが孤高の天才による個人作業でなく経済や軍事など社会と密接に結びついた協働作業であることをあらわしている。
端的に言えば、マッドサイエンティスト的な研究開発は、マッドサイエンティスト的な社会不適合者には不可能なのである。自分の研究テーマに関わるもの全てを個人で網羅できるのであれば話は別だが、到底現実的ではない(もちろん、その現実的ではないことを成し遂げてしまうからこそ凄い、と言えなくもないし、実際にそれをやってる人もいるにはいるのだが)。
フィクションにおけるマッドサイエンティストが変人であることが多いのは、現実にマッドサイエンティストと呼ばれた人々のパーソナリティ(確かに変わり者もいるが、大なり小なり誰もが持っている部分ではある)が誇張されてきたことや、科学研究への無理解、フィクションとしてのマッドサイエンティストが科学発展の黎明期に登場してきた人々(貴族がパトロンだったり、個人研究が基本だった時代)が元ネタであることなどが理由として考えられる。
こうした面もある一方、「長年にわたって地道に研究を重ねてきた結果、偉大な功績を残した学者」という実例も枚挙に暇がない。誰からも省みられることなく自分の研究を続けた結果として大きな成果を築き上げた孤高の努力家である彼らもまた、ある意味ではマッドなサイエンティストと言える。また革新的な研究というのは得てして風変わりなものであり、周囲から理解を得られない場合が多いため、こうしたテーマを選ぶ時点で変わり者であることに変わりはない。
現在のフィクションでは現実的な側面を踏まえたマッドサイエンティストも多く登場しており、「何らかの組織に属している」「表向きには実業家や真っ当な研究者としての顔を持っており社会的には成功している」といった特徴を持っていることがある。
実在したマッドサイエンティスト
フィクションほど突きぬけた人物は流石に少ないものの、研究テーマと用途が倫理を踏み外したものである場合や、研究内容や主張が風変わりなものである場合、技術は革新的だが本人のパーソナリティや経歴に変わった部分があるとマッドサイエンティストと呼ばれる。
学者
- ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ(アメリカ合衆国:医学者)
- ジョン・フォン・ノイマン(アメリカ合衆国:理論物理学者・数学者・経済学者)
- 原爆開発に関わり、映画『博士の異常な愛情』のストレンジラヴ博士のモデルの一人(もう一人はエドワード・テラー)。
- エドワード・テラー(アメリカ合衆国:理論物理学者)
- 水爆開発に関わり、映画『博士の異常な愛情』のストレンジラヴ博士のモデルの一人(もう一人はジョン・フォン・ノイマン)。
- ジョン・グールド(イギリス:動物学者)
- トロフィム・ルイセンコ(ソビエト連邦:農学者・生物学者)
- 武田邦彦(日本:工学博士<資源材料工学>)
- アルバート・ホフマン(スイス:化学者)
- LSDを開発した。幻覚剤の開発に取り組み、マジックマッシュルームなどを研究した。
- 賀建奎(中華人民共和国:生物物理学者)
- 2018年に世界で初めて遺伝子編集ベビーを誕生させた。受精卵にHIVに感染しにくい遺伝子編集を施し、双子の赤ちゃんを誕生させたもので、倫理的、法的、手続き的問題(大学に無断で行った)から世界的な非難を浴びた。
- ヴィルヘルム・ライヒ(オーストリア=ハンガリー帝国:精神分析学者)
- 元フロイト派の精神分析学者。ナチスを批判していたため後にアメリカへ移住。顕微鏡下でオルゴンエネルギーという生命エネルギーを発見したと報告したが、他の研究者の追試に耐えうるものでは無かったのにもかかわらず、アメリカでオルゴンエネルギー増強による治癒を銘打った医療機器を開発・販売するなどしたため、医療法違反で逮捕拘禁され、そのまま死去した(今でも関連法に抵触しない範囲で関連器具が売られている)。
- イブラヒム・アル・アシリ(サウジアラビア:化学者)
- アルカイダの化学者、爆発物専門家。サウード王国大学で化学を学んでおり、アルカイダにて爆発物の製造を行い、2009年のサウジアラビア副内相暗殺未遂事件等に関与した。彼の製造した爆弾は発見が難しく、2013年に体内に埋め込む爆弾を開発するなどしている。また、インクカートリッジに偽装し爆弾の原料を仕込み密輸しようとする事件を起こしている。2017年にアメリカ軍の作戦により暗殺されたと言われている。
医師
- ジャック・ケヴォーキアン(アメリカ合衆国:医師)
- 自殺装置を発明した。要はリアルドクター・キリコ。
- ヨーゼフ・メンゲレ(ドイツ:ナチス親衛隊員・医師)
- ジークムント・ラッシャー(ドイツ:ナチス親衛隊員・医師)
- メンゲレ二号。実験内容はメンゲレより石井のそれに近い。
- 山福二郎(大日本帝国:陸軍軍医)
- B-29搭乗員の8名の米兵捕虜を生体解剖に供する事を病院詰見習士官の小森卓軍医と共に軍に提案、これを軍が認めたため、8名は九州帝国大学へ引き渡され彼らによって生体解剖が行われた。
- 石井四郎(大日本帝国:陸軍軍医)
- 齊藤元章(日本:医師)
- スーパーコンピューターの開発者。「日本初の人工知能で不老不死がもたらされる」などの奇矯な言動で注目されるも、自身の経営する会社への補助金を趣味のカーレースにつぎ込んでいたとして逮捕されている。
- ジョン・ハンター(イギリス:医師)
- 「近代外科医の開祖」と呼ばれる一方で死体の窃盗に手を染めていた。
- モーリス・チュビアーナ(フランス:医師)
- フランス原子力学会の議長を務めていた医師。放射線ホルミシス説(低線量の放射線は身体の抵抗力を増すとする)の強力な主張者。「人間の細胞は自然放射線の10万倍程度までなら遺伝子を修復できる」という現代の放射線医学の常識とは反する主張を行っており、Pixivにも彼の主張を真に受けたイラストが投稿されている。
工学系技師・技術者
- 平賀源内(日本:本草学者・発明家)
- ニコラ・テスラ(アメリカ合衆国:電気技師)
- ヴィリー・メッサーシュミット(ドイツ:航空機設計技師・会社経営者)
- Bf109を始めとする数々の名機を設計したことで航空機史に名を遺した。自身の名を冠した会社の経営者としても有能であり、戦後も会社を切り盛りしていた。しかし技術者としては倫理に欠けた面があり、乗員の安全を無視した無茶な設計をすることも多かった。
- リヒャルト・フォークト(ドイツ:航空機設計技師)
- ブローム・ウント・フォス社の航空機設計技師。どういうわけか左右非対称の飛行機に固執しており、Bv141を筆頭とする左右非対称の"作品"をコレでもかというほど考案した。川崎造船所(川崎航空機)で航空機設計の指導を行っていたこともある。
- アブドゥル・カディール・カーン(パキスタン:技術者)
- 大学で金属工学を学び、卒業後はヨーロッパで核兵器の製造で重要な役割を果たす遠心分離機を製造する会社に就職。その後パキスタンに帰国し、核開発の責任者として核実験を成功させる。また、その際作った人脈「核の闇市場」を用いてイラン・北朝鮮の核開発に関与している。
- ジェラルド・ブル(カナダ:技術者)
- 大砲の研究者。イラクのフセイン大統領のもと、ミサイルの距離を飛躍的に伸ばす多薬室砲を研究していたが何者かに暗殺された。
宗教家
マッドサイエンティスト風の人物
- 中松義郎(日本:発明家)
- 中川基(日本:科学系フリーライター)
- 故意にマッドサイエンティストのように振舞っている科学系フリーライター。別名義はくられ先生もしくはドクタークラレ。著作は有害図書指定された物が多い。
- 米村でんじろう(日本:サイエンス・プロデューサー)
- 科学の面白さを伝えるサイエンス・プロデューサー。実験に物理(主に質量や電気、空気関連)が絡むと、(安全には配慮しているが)番組共演者が身の危険を感じさせるような実験をすることもある(通称ブラックでんじろう。一時期黒衣を着て現れたこともある)。
フィクションにおけるマッドサイエンティスト
フィクションにおいては一般的な善悪・倫理の基準をどこかに置き忘れて来たような、いわゆる『頭のねじの飛んだ』性格として描写される。研究そのものや研究の成果にしか興味がなく、危険な研究を行っているにもかかわらず道徳や倫理観が希薄で善悪の概念が欠如した危険人物であることが多い。
多くの場合、自身の研究成果によって何が引き起こされるかについては無頓着かあえて無視しており、人の心を顧みない行動で周囲の反感を買うことも少なくない。
そのような性質のために悪役となることがしばしばであるが、結果的に主人公達の役に立つこともある。一般的な善悪の概念は欠如しているが、自分なりの信念や美学を持つようなタイプは、その傾向が強く、信念や美学が主人公の目的や思想と一致した結果、協力する立場になるというのがお決まりのパターンである。またコメディ色の強い作品では、悪役とまではいかなくともトンデモない発明で周囲に迷惑をかけるトラブルメーカーとして描かれることが多い。
- 大体自分の手に負えない怪物を造り出してしまい、「誰だ!あんな怪物を造ったのは!」「オメーだよ!」とツッコまれる事になる。
- 自分が造り出した怪物やロボットの方がマトモな倫理観を持ち合わせており「いくら貴方が創造主でも、そんな命令はきけません!」と光落ちされ、「ちっ…この失敗作め!!」と言うハメになる例も、よくある。
フィクションの中で最初から悪意を持った悪役として登場する場合は古典的なマッドサイエンティスト像がいくつか存在し、中には複合しているパターンなども見受けられる。
- 満たしたい目的そのものは研究とは関係がなく、単に役割や生活の糧として研究を行ない、周囲に研究成果を提供するパターン。
- 研究を行なうこと自体に快楽を見出しているパターン。
- 自分が楽しければ何がどうなろうとどうでもよい自己中心的な気質から、倫理や道徳を踏み外してしまう。
- 周囲に自分の研究が認めてもらえない不満や憎しみ、またライバルへの嫉妬から、いわば自己実現や承認欲求、復讐心の為に研究に執着するパターン。
- 研究の成功によって実現したい目的があり、それに執着するあまりに暴走してゆくパターン。
- 目的の内容は善悪貴賎を問わず、単に金銭や支配欲を理由としたものから悲劇的なものまで様々に見受けられる。
また善の側で登場する場合でも上記のパターンのいくつかを踏襲し善性を持った人間として登場することがある。
- 変人ながら正義感や倫理観は強い。
- 扱っている研究テーマや技術力が常識外れなだけで、人間性は真っ当な常識人。
- 一般人よりも倫理観や道徳観は希薄だが、最低限のラインを踏みとどまる程度の理性は持っている。
- 最初は悪役もしくは悪の協力者として登場するが、作中において改心する。
ただし上記はあくまでも古典的なパターンであり、終始悪役でありながらもこのパターンに当てはまらないタイプ、善の側にありながらも善悪や倫理感が大きく欠如した悪人と紙一重なタイプもおり、一口にマッドサイエンティストといってもそのキャラクター性は多様である。
フィクションのマッドサイエンティスト一覧
太字は投稿作品数100以上のキャラクター
漫画
ジャンプ作品
他少年漫画
他ジャンル
アニメ
※1:作品媒体によっては該当しない場合もある。
※2:マッドサイエンティストというより、『マッドエンジニア』の方が正しい。
小説・ラノベ
※1:代々マッドサイエンティストな家系、最近では血縁は関係のない概念とされる。
※2:現状、web版のみの登場。発現してしまった盾の影響で本来の人格を押しのけて生まれてしまった、「コミカルな悪の科学者」的な別人格。一人称は「ワシ」。
ゲーム
アクション
※作品のテーマ上、幹部以上の地位を持っている敵キャラクターは、ほぼ全員がマッドサイエンティストである。
RPG
※インペリアルサガ/同エクリプスでのエピソードに関しては特に常軌を逸している。
SRPG・ARPG
※原典は「ファイアーエムブレム聖魔の光石」。2019年ハロウィンイベントの特別バージョン
STG
キャラ名 | 作品名 |
---|---|
アンドルフ | スターフォックスシリーズ |
河城にとり※1、八意永琳※2 | 東方Project |
Dr.キュリアン | ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド |
ジーニアス山田 | ゲーム天国 |
※1:ただし二次創作
※2:同上。こちらは原作に描写がある。
アダルト
キャラ名 | 作品名 |
---|---|
奥涯雅彦 | 沙耶の唄 |
西正人 | EXTRAVAGANZA |
ドクターウェスト | デモンベインシリーズ |
香月夕呼 | マブラヴシリーズ |
他ジャンル
特撮・ドラマ
仮面ライダーシリーズ
改造人間がテーマである為、シリーズを通して多数登場。
※これらも含めると100以上になる。
スーパー戦隊シリーズ
こちらも敵の組織が悪の研究に手を染めてたりすると登場することが多い。
キャラ名 | 作品名 |
---|---|
ドクターマン | 超電子バイオマン |
熊沢博士 | 電撃戦隊チェンジマン |
リー・ケフレン | 超新星フラッシュマン |
大教授ビアス※ | 超獣戦隊ライブマン |
Dr.ヒネラー | 電磁戦隊メガレンジャー |
インサーン、ザイエン | 海賊戦隊ゴーカイジャー |
アントン博士 | 宇宙戦隊キュウレンジャー |
ゴーシュ・ル・メドゥ | 快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー |
クランチュラ | 魔進戦隊キラメイジャー |
イジルデ | 機界戦隊ゼンカイジャー |
他特撮
キャラ名 | 作品名 |
---|---|
プロフェッサーK | 星雲仮面マシンマン |
黒田鬼吉※ | 特警ウインスペクター |
綾小路麗子 | 特捜ロボジャンパーソン |
※ただし物語の構成上、登場シーンは少ない。
海外作品
※海外での名前はクーキー。
他ジャンル
キャラ名 | 作品名 |
---|---|
ばいきんまん、ドクター・ヒヤリ | それいけ!アンパンマン |
ゾロリ、ガオン、マディー | かいけつゾロリ |
魔導サイエンティスト、コザッキー | 遊戯王OCG |
ナゾー | 黄金バット |
楯山研次朗 | カゲロウプロジェクト |
猫柳田愛吉 | 空想科学大戦! |
神前、横森 | ユーバエ8号 |
Dr.ワルーダ | トミカハイパーシリーズ |
関連イラスト
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マッドアーティスト:マッドサイエンティストの芸術家版
天本英世:マッドサイエンティスト役で氏の右に出る者はいないと言われるほどであった俳優(故人)。