大穴には 魔力があった
その魔力が 人々を捕らえて離さないのである
大穴の底を 見た者は
まだ 誰もいない
概説
つくしあきひとによるファンタジー漫画作品。WEBコミックガンマにて連載中。 WEB上では本編(掲載期間限定、単行本発売と同時に単行本にある話は削除)と、幕間『ハウアーユードコカ』を見ることができる。
絵本のように繊細でかわいらしい絵柄と、それからは想像のつかないハードでリアルな展開が特徴。冒険の舞台である未開の大自然『アビス』の神秘と美しさ、そして現実の自然さながらの冷徹さが余すことなく描かれており、ファンタジー冒険作品ながら現実のごときリアリティをもつ作品となっている。
ゴア表現も下手なホラー作品よりしっかり描写され、たとえどれだけ強かろうと、また同情の余地や愛顧の深い人物だろうと、主要人物であったとしても、アビスの洗礼が情け容赦なく平等に襲い掛かってくる。
更に、登場人物も大半が常軌を逸した性質を何かしら抱えており、一癖も二癖もあるキャラクターに仕上がっている。
よって、ジャンルとしては、紛れもないダークファンタジーの部類と言える。
ファンタジーの世界を舞台にした作品ではあるが、本作には治癒や転移を始めとする魔法は存在しない上に、アビス内で発見される「遺物」と呼ばれる道具類を除いてオーバーテクノロジーなものは登場せず、作中の道具は原始的な構造の機械が大半を占めている。
細部まで綿密に練られた設定も魅力の一つであり、巻頭・巻末や単行本中には、登場した(未登場のものがひっそり載っていることも)生物や道具が資料として掲載されている。
昨今ありがちな「チート補正ありきの気ままな冒険活劇」とは真逆の、「どんなに弱かろうと知恵と心力で逆境を超えていく成長物語」であり、昔ながらのコツコツとした準備と創意工夫を要するゲームが好きな人は間違いなくハマる作風となっている。
一方、物語の進行度は加速度的に鈍化してゆく為、一貫した探索紀行物語とはやや言いづらい。
また、作中にはさりげなく、表紙裏には堂々と差し込まれるフェティッシュな描写も特徴。
本作を機に、特殊な性癖に目覚めてしまった大きなお友達も少なくない……かも、しれない。
2022年にゲーム『闇を目指した連星』がスパイク・チュンソフトより発売。CEROについてはZ指定となっている。
ストーリー
人類最後の秘境と呼ばれる、未だ底知れぬ巨大な縦穴『アビス』。その大穴の縁に作られた街には、アビスの探検を担う『探窟家』達が暮らしていた。彼らは命がけの危険と引き換えに、日々の糧や超常の『遺物』、そして未知へのロマンを求め、今日も奈落に挑み続けている。
主人公のリコは孤児院で暮らす探窟家見習い。アビスへの憧れが人一倍強い彼女は、母のような偉大な探窟家になることを夢見ていた。ある日の探窟で、リコは謎の存在に命の危機を救われる。その何者かが放った熱線の跡を辿ると、そこには少年そっくりのロボットが倒れており――。
主な登場人物
CV:富田美憂
本作の主人公である12歳の少女。物語開始時点では赤笛(見習い)。
子供であることを加味してもぶっ飛んだ価値観と、常人離れしたメンタル、そして危ういほどに巨大な好奇心の持ち主。
母親のライザから届いた手紙をきっかけにアビスの底を目指す。
CV:伊瀬茉莉也
本作のもう一人の主人公である、記憶喪失のロボット。
出自の手がかりを探すためにリコと共にアビスの底を目指す。お人好しでちょっと泣き虫。
掌に奈落の法則を書き換える『火葬砲(インシネレーター)』を備える。
CV:井澤詩織
深界四層で暮らすふわふわの『成れ果て』。優れた医療知識と外科技術の持ち主。
『黎明卿』ボンドルドの実験により、人間性を保ったまま成れ果てとなった。
リコとレグの旅路に同行する。
CV:坂本真綾
リコの母親であり、白笛(最高位)の探窟家。『不動卿』オーゼンの弟子でもあり、ジルオの師匠でもある。
数年前、アビス六層以下への『絶界行(ラストダイブ)』を決行し、生死不明となる。
CV:村田太志
月笛(師範代)の探窟家。リコのいるベルチェロ孤児院にて子供たちの探窟のリーダーを務める。
奔放なリコに手を焼いているが、気にかけてもいる。
CV:稲田徹
黒笛(達人)の探窟家。無精髭を生やした体格のいい男性。
リコとは彼女が幼い頃から面識が有る。黒笛だけあって探窟家としての技量は相当なもの。ラフィー(CV:生天目仁美)という妻がいる。
CV:大原さやか
深層二層の『監視基地(シーカーキャンプ)』で暮らす白笛の探窟家で、探窟隊『地臥せり(ハイドギヴァー)』を率いる。
高身長の女性で、外見に反してかなりの高齢である。子供嫌いだが面倒見はいい。
CV:豊崎愛生
蒼笛(一人前)で、深界二層の『監視基地(シーカーキャンプ)』でオーゼンと共に暮らしている。
外見はメイド服の少女だが、本当の性別は…?
CV:喜多村英梨
深界四層でナナチと共に暮らす成れ果て。不死身。
ナナチの親友だったが、ボンドルドの実験により人間性を喪失してしまった。
CV:森川智之
白笛の探窟家である仮面の男。探窟隊『祈手(アンブラハンズ)』を率いる。
深層五層の『前線基地(イドフロント)』でアビスについての研究を続けるマッドサイエンティスト。
CV:水瀬いのり
ボンドルドの娘で、深界五層の『前線基地(イドフロント)』に住む少女。
ボンドルドが大好きで、共に冒険に出ることを夢見ている。
CV:原奈津子
プルシュカのペットの謎生物。
正式な名前は「メイナストイリム」であり、「変化の子」を意味する。
CV:久野美咲
深界六層に住まう四本腕の少女のような成れ果て。
「価値の化身」「成れ果ての姫」などと呼ばれる。記憶喪失になる前のレグと親密だったらしい。
CV:竹内良太
ファプタの従者である巨大なロボット。
大昔に何者かにより造られた『干渉器』の一体。
CV:寺崎裕香
深界六層に存在する成れ果て村『イルぶる』で封印されていた女性。愛称はヴエコ。
かつてアビスを発見した決死隊『ガンジャ』の一員であった。
CV:平田広明
『イルぶる』のリーダー『三賢』の一人である成れ果て。
元はガンジャ隊のリーダーであり、「神がかりの予言者」と称される程の先見性を持つ。
CV:斎賀みつき
『イルぶる』に住む龍のような姿の成れ果て。『三賢』の一人。
元はガンジャ隊の一員で聡明な人物だったが…。
CV:後藤ヒロキ
リコ達が『イルぶる』で最初に出会った成れ果て。見た目によらずお人好し。
機械のような身体は入れ物で、本体は気体で出来ている。
CV:市ノ瀬加那
『イルぶる』に住まう成れ果て。「まああー」としか喋れない。
つぶらな瞳となんとなく卑猥な右腕、そしてやたらと汚いケツが特徴。
CV:斉藤貴美子
成れ果ての一人で、『イルぶる』で食堂を営むおかみさん。
リコに成れ果て語を教える。
CV:美坂朱音
『イルぶる』に住まう単眼の成れ果てで、元ガンジャ隊の一員。
ヴエコのことを慕っている。
白笛の探窟家である女性。探窟隊『呪詛船団(ヘイルヘックス)』を率いる。
現在は自らの隊と共に『絶界行(ラストダイブ)』を決行中。
白笛の探窟家。ボンドルドの台詞から高齢であるらしい。
アビス内で『絶界行(ラストダイブ)』を決行中。
用語
アビス
約1900年前に南海ベオルスカの孤島で発見された、直径約1000メートル、深さ推定20000メートル超の巨大な縦穴。人類最後の秘境とされている。
アビスの中には地上からの観測を妨げる謎の力場が存在するため未だに底はわかっていないが、中には独自の生態系が形成されている。また、超常的な力をもつ様々な遺物が眠っており、探窟家達はそれを目当てに日々探窟を続けている。
探窟家のランクごとに深度制限が設けられているのは、下記の『上昇負荷』のため。アビスは、この上昇負荷の重さによって大きく七つの『深界層』と『極点(アビスの底)』に分けられている。
- 深界一層・アビスの淵
海面下1350mまでの層。上昇負荷は「軽い目眩と吐き気」。
比較的安全で呪いも軽いが、それでも下層から危険な生物が上がってくることがあり、油断は禁物。
目ぼしい遺物は採りつくされてしまっており、この層で採れる遺物に期待はできない。
ここで採れる遺物の多くは、より下層で採れる遺物に比べて卵型に近い形状をしたものが多い。
- 深界二層・誘いの森
1350~2600mの層。上昇負荷は「重い吐き気と頭痛、末端の痺れ」。
辺りは森林で覆われており、ある場所からはねずみ返しのようになり、木々が逆さまに生える『逆さ森』に到達する。逆さ森付近は気流が不安定。
そこを真っ直ぐ行くとアビスの端に辿り着き、そこには『監視基地(シーカーキャンプ)』が設けられている。
アビス全体から見ればまだまだ浅い部分ではあるが、それでも赤笛が無許可で進入すれば自殺と見なされるほどに危険。
- 深界三層・大断層
2600~7000mの層。上昇負荷は第二層の症状に加え、「平衡感覚の異常、幻覚や幻聴」。
真っ直ぐに大きな縦穴が貫く断崖絶壁になっていて、強者の巣になっている反面、子供が入れる程度の小さな横穴には、比較的おとなしい動物が生息している。
その横穴は巣になっており、そこを降りて四層まで行くことが出来る。
- 深界四層・巨人の盃
7000~12000mの層。上昇負荷は「全身に走る激痛と、穴という穴からの流血」。
この層からは、呪いそのものが生命を直接脅かし始めるようになり、子供であれば即座に命取りになることすらあると言われる。
群生するダイラカズラという全長800m超の巨大な植物が盃のような形をしており、その補食器から出る液体があふれている様子が、この層の名称の由来。
特殊な力場の影響で空間は青みがかっており、非常に湿度が高い。
- 深界五層・なきがらの海
12000~13000mの層。上昇負荷は「全感覚の喪失と、それに伴う意識混濁、自傷行為」。
「自傷」というのは精神的負荷によるものではなく、感覚喪失と意識混濁により制御がきかなくなり、ちょっとした動作でも体を損傷するほどに力を入れてしまう、ということ。少し顔に手をやったつもりが皮膚を裂いてしまい、軽く歯を食いしばっただけで歯を割ることになる。
ここまで来れるのは、かつては白笛の探窟家のみで、現在でも黒笛以上の必要がある。
人間として地上へ生還可能な深度の限界であり、実際に帰ってきたものも数えるほどしかいない。
水で覆われており、さらに下に行こうと思えば泳ぐか、滝を下らければならない。水底に粘度の高い水があり、それが上部の水を支えている。
ここには『前線基地(イドフロント)』と呼ばれる関所のような施設が存在し、その中にあるエレベーター状の設備を利用すれば安全に下層に降りることができる。
- 深界六層・還らずの都
13000~15500mの層。上昇負荷は「人間性の喪失(異形生物への変異と、人間としての自我の消失)、もしくは死」。
六層からの上昇負荷によって異形と化した者は「成れ果て」と呼ばれる。
この層までの降下は、もはや人として生きて戻ることが事実上不可能となるため『絶界行(ラストダイブ)』と呼ばれる。
知性を持った成れ果てが住まう村『イルぶる』が存在している。
- 深界七層・最果ての渦
15500~?????m。上昇負荷は「確実な死」。
詳細は不明だが、白笛による「リング状の謎の光」の目撃例が存在する。
- 深界極点・奈落の底
推定20000m以上。アビスの最深部。詳細不明。
探窟家
『アビス』に潜る冒険家達の総称。
オースの組合に所属する探窟家は首から笛を提げており、仲間同士での救援要請などに使用する。また、笛の色はその探窟家のランクを表している。
探窟家のランクごとに潜れるアビスの深さの制限――「限界深度」が設定されている。ランクとその限界深度は、 探窟家としてまだ認められていない『鈴付き』から始まり、見習いの『赤笛』(一層まで)、一人前の『蒼笛』(二層まで)、師範代の『月笛』(四層まで)、達人の『黒笛』(五層まで)、英雄の『白笛』(無制限)となっている。
白笛は『奈落の星(ネザースター)』とも呼ばれ、各人ごとに「○○卿」という二つ名がある。
白笛(アイテム)
作中世界における英雄達、最高位の探窟家である『白笛』のみが持つアイテム。
デザインが一律の量産品である赤笛、蒼笛、月笛、黒笛とは違い、この白笛だけは色こそ同じ白だが、持ち主によって異なるデザインをしているオーダーメイド品。
素材には二級遺物『命を響く石(ユアワース)』が用いられており、それぞれが異なった「命の紋」を有するために持ち主以外は使用できず、偽造も不可能な仕様になっている。
後述する遺物の中には、この白笛を起動キーとして要するものもある。
遺物
アビスの中だけで発見される人工物の総称。それぞれが不可思議な性質を持つ。
価値に応じたランクがあり、四級~一級、その上の特級遺物に分類される。低級の遺物も海外では高値で取引され、特級遺物ともなると国同士のバランスにすら影響を与える。それ以上に希少な歴史的遺物は「奈落の至宝(オーバード)」と呼ばれるが、その存在が公にされることはなく、半ば都市伝説的な代物として語られる。
なお、発見して持ち帰るのはあくまで探窟家であるため、秘匿あるいは略奪によって世に出回ることなく個人所有される遺物もある。
上昇負荷
「アビスの呪い」や、単に「呪い」とも呼ばれる。
アビス内で上昇する際に必ず発生する謎の症状。
10m程度上方向へ移動すると発生するため、アビス内では坂や階段を上るだけでも命がけになり、帰還も容易ではない。
成れ果て
主に深界六層の上昇負荷によって、人間性を喪失し異形の姿へと変貌した人間の総称。
多くは肉塊か奇形の獣のような姿となり自我も失うが、中には様々な要因により成れ果てとなりながらも自我を保っている者も存在する。
アニメ版
2017年7月から9月まで、AT-X、TOKYO MX、BS11、KBS京都、サンテレビ、テレビ愛知、TVQ九州放送、サガテレビにて放送された。アニメーション制作はキネマシトラス。全13話。最終回である第13話は1時間スペシャルとして放送された。
原作が原作だけに、アニメ化発表当時はファンの大半が喜ぶのと同時(もしくは先)に「地上波で流して大丈夫なのか?」と真剣に心配した。それは原作者のつくしあきひとですら同じだったようで、インタビューではアニメ化の話が来た時は「5分アニメかな?」と勘違いし、30分1クールで作ると聞くと「正気か!?」と思ったと語っている。
しかし実際に放送されると、(良い意味で)度し難いまでに描き込まれた美術、メイドインアビスの世界観を彩る美麗な音楽、原作再現どころか補完まできっちりする話運び、そして声優陣の熱演が合わさり、多くのファンから歓喜と共に迎えられるアニメ化となった。国内だけでなく海外でもアニメ愛好家に大きな反響があり、世界最大級のアニメ配信サイト『Crunchyroll』で行われた2017年アニメ・オブ・ザ・イヤーでは最優秀作品賞と最優秀劇伴賞に選ばれている。
本編以外でも、最終回(13話)以外はエンドカードで毎回竹書房の雑誌に掲載されている漫画作品のキャラが遊びに来ていたり、エンドカード直前の提供クレジット画面でその週の放送分を意味深に編集したMAD風動画が流されたりしていた。
2017年11月に行われたイベント『Deep in アビス』にて、続編の制作が発表された。
2019年1月に、総集編映画として、前編『メイドインアビス 旅立ちの夜明け』、後編『メイドインアビス 放浪する黄昏』が公開された。
そして総集編映画の前編公開に合わせ、2019年1月に新作エピソードのタイトルが『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』であると発表され、大勢のファンがアニメで見たいと願っていた「あの親子」のエピソードが劇場のスクリーンで描かれることが確定した。当初はPG12を予定していたがR15+に変更された(尚、その名残かつ後述のテレビシリーズ第2期の放送に配慮したのか、映像ソフトではセル、レンタル共にパッケージにレイティング表記がされていない)。
2020年1月17日公開。
2019年にはmaimaiにおいてアニメ版OPが収録、MVも同時収録となる。
2020年にはクリスマスの日にSchool Daysを放送した実績があるABEMAが5月5日(こどもの日)に放送した。ちなみに“同時上映”は『のんのんびより』。
2021年5月に第2期の制作が発表され、『メイドインアビス 烈日の黄金郷』のタイトルで2022年7月から9月まで放送された。単行本6巻~10巻までの『成れ果て村』編がアニメ化されている。
第2期の放送に併せて、劇場版『深き魂の黎明』も2022年7月にTOKYO MXとBS11にて放送。TOKYO MXでは内容が内容だけに深夜枠もあり得た中で、ゴールデンタイムで放送された。
第2期でも第1期同様のエンドカードは健在で、今回も同じ竹書房作者つながり……と思われた中、第2話のエンドカードは出版社の垣根を超えた人物が担当する事に。
2023年1月に開催された、TVアニメ第2期スペシャルイベント『~探窟家組合 大精算会~』で続編の制作が決定し、PVも公開された。
さぁ、共に夜明けを見届けましょう。
関連動画
PV第1弾
PV第2弾
関連項目
世界樹の迷宮…メイドインアビス連載開始より前から発売されている、本作と世界観に共通点が多く見られる、アトラスの3DダンジョンRPGシリーズ。メイドインアビスの作者のつくしあきひと氏はこのゲームのプレイヤーでもあり、「世界樹やウィザードリィ好きが描いてます」と公言しており、少なからず影響を受けていると思われる。「世界樹の迷宮5」の情報が公開された際には、「褐色シャーマンにナナチって名前つけて囲うパーティでいきたい」とツイートしていた。メイドインアビスのアニメ化以降に発表された「世界樹の迷宮X」ではリコ役の富田美憂氏がアバターボイスとして出演しており、当然ながら反応を見せていた。
詳しくはこちらを参照。