概要
映画作品のもう1本の作品が上映される。二本立て興行、併映とも。
昭和期の映画においては主流の手法であり、東宝チャンピオンまつり以前の昭和ゴジラシリーズにはクレージー映画などの大人向けコメディ映画が同時上映されることも多かった。
二本立て興行の歴史
二本立て興行の原点は19世紀のオペラにさかのぼれるとされる。オペラの中には一幕または二幕構成の短編作品もあり、これらの作品は単独で上演することが困難だったため二本立てで上演されることが多かった。
代表例として『道化師』と『カヴァレリア・ルスティカーナ』は1893年にメトロポリタン・オペラで二本立て上演されて以降セットで上演されることが多く「Cav and Pag」と呼ばれることも多いとされる。
映画における二本立て興行は1930年代にアメリカで始まったとされる。
当時の映画は長編映画に実演、短編アニメ、実写短編喜劇、珍品もの、ニュース映画が添えられる形態が多かったが、トーキー映画が広まったことと世界大恐慌の影響で独立系劇場の収益は落ち込み上映形態の見直しを図ることになった。
そこで2本の映画を1本分の料金で上映することでコストを削減し、観客の呼び戻しを図った。これは見事に成功し、以来映画のスタンダードな上映形態となった。
当時の典型的な二本立て興行はこのような構成だった。
予告編 → ニュース映画 → 短編映画 → B級映画 → 幕間 → 大作映画
ところがこれが大ヒットした結果大手映画スタジオによる抱き合わせ商法が多発。1948年に合衆国最高裁判所は独占禁止法に触れると裁定し、当時のアメリカの映画産業を支えたスタジオ・システムは終焉を迎えた。
その後も地方の映画館では集客のために二本立て興行を行い、いわゆるB級映画のほかに旧作のリバイバル上映を行っていた。
しかし、日本では特に問題視されず、引き続き配給会社が直営の映画館に映画を卸す形式を取っていたので、引き続き行われた。
特に邦画では大作映画シリーズに人気タレントが主演を務めるコメディ映画を同時上映する二本立て興行が多く行われていた。
映画が大作志向になっていくに連れて廃れていってしまったが、子供向けのアニメ映画などでは平成初期に至るまで二本立て興行は多く見られた。
ただ、シネマコンプレックス(シネコン)が台頭して入れ替え制や指定席の導入が行われた結果、ほぼ過去のものとなった。
主な同時上映作品
第1作から第3作「フーテンの寅」までは別々の喜劇映画、第4作「新・男はつらいよ」から第7作「奮闘編」まではハナ肇主演の「アッと驚く為五郎」シリーズ、第8作「寅次郎恋歌」から第16作「立志編」まではドリフ映画が同時上映された。
以後はまた別々の作品が同時上映されている。
男はつらいよシリーズ第40作『寅次郎サラダ記念日』からは『釣りバカ日誌』シリーズが同時上映となり、第41作『寅次郎心の旅路』を除き第47作『拝啓車寅次郎様』まで『男はつらいよ』と『釣りバカ日誌』が同時上映となっていた。
男はつらいよシリーズ終了後の『釣りバカ日誌9』からは単独上映になっている。
- 東宝特撮映画
前述のように昭和ゴジラの初期は当時の人気コメディアン主演の喜劇映画やクレージー映画、若大将シリーズなどが同時上映になることが多かった。
しかし第一次怪獣ブーム以降は子供向けを意識し過去の東宝特撮映画の短縮版や短編アニメ映画を同時上映するようになり、東宝チャンピオンまつりに至った。
一例としては1965年の『フランケンシュタイン対地底怪獣』の同時上映は若大将シリーズの『海の若大将』、翌1966年の『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』の同時上映は『ジャングル大帝』と『つるのおんがえし』だった。
- ピカチュウ短編映画シリーズ
初期のポケモン映画シリーズはシリアスな長編映画とピカチュウが主人公の短編映画で構成されるオーソドックスな同時上映の形態をとっていた。
- 映画ドラえもんシリーズ
三本立てじゃないのかと思うなかれ。1930年代のアメリカにおける二本立て興行形態の「短編映画」にザ・ドラえもんズ、「B級映画」に感動短編が収まる形になる。
- 東映特撮ヒーロー映画
東映まんがまつりの後身のひとつである東映スーパーヒーローフェアがスーパー戦隊シリーズ、仮面ライダーシリーズ、メタルヒーローシリーズの三本立てで、いずれも仮面ライダー(1995年のみ『人造人間ハカイダー』)が長編映画、テレビ放送中のスーパー戦隊およびメタルヒーローが短編映画という形態だった。
2001年以降は夏季に上映される映画は仮面ライダーが長編、スーパー戦隊が短編という形でスーパーヒーローフェアの上映形態を踏襲している。
初期は東映まんがまつりの枠内だったため同時上映にスーパー戦隊やメタルヒーローが入っていたこともあったが、まんがまつりがアニメ・特撮で別枠に分けられ東映アニメフェアとなってからは「鳥山明・ザ・ワールド」と題して鳥山明原作の『Dr.スランプ』や『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』が同時上映されることも多かった。
『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』から『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』までの3作は『とっとこハム太郎』と同時上映された。
- スタジオジブリ作品
『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の同時上映が有名だが、『天空の城ラピュタ』(及びジブリ設立前に制作された『風の谷のナウシカ』)は『名探偵ホームズ』との二本立て興行だった。
このほか『耳をすませば』と『OnYourMark』、『猫の恩返し』と『ギブリーズepisode2』など二本立て興行を行った作品がある。
シネコン普及以前、映画館が多くない東京・大阪周辺以外の地方都市では、洋画系の配給網では元々一本立ての映画(なんなら配給会社すら異なる作品)であってもあらかじめ二本立てにパックした状態で映画館に配給されることが多かった。
中でもこの二本立ては双方の強烈な内容から引き合いに出されることが多い。なお、前者は20世紀フォックス、後者はオライオン・東宝東和の配給作品である。