Bv141
びーぶいいちよんいち
空軍の『プロペラが前方視界を遮らない単発三座偵察機』という要求に対し、
ブローム・ウント・フォス社のリヒャルト・フォークト博士の出した回答がコレ。
しかも左右非対称なのに操縦性や安定性に大きな問題は無く、
その上競争相手のFw189よりも速度や航続距離で勝っていた。
しかし搭載したエンジンが失敗作で、不採用となった。
その後Fw190戦闘機と同じBMW 801エンジンを搭載し、尾翼も左にずらしたBv141Bに発展した。
今日、よく知られているのはこちらの方である。
この頃はエンジンがまだ不調だったので、またもや採用されずに終わった。
つくづくエンジンに恵まれなかったのである。
Bv-141 V-1~3までの原型機が3機と、
評価試験機のBv141A-0が5機。
先行量産機のBv141B-0と量産型のB-1が10機ずつの、合計28機が生産された。
この設計を生かしてBv194爆撃機も計画された。
こちらは生産すらされなかった。
フォークト博士は他にも、さまざまな左右非対称機を提案したらしい。
どうして誰も止めなかった。
- 完成イメージ
- 完成品
どうしてこうなった・・・
その姿形の時点で飛行機の常識を全力で蹴り飛ばしているBv141だが、さらには本機の発展形として爆撃機タイプのBv194という機体も計画されていた。
こちらは機体に装甲を追加した上で(ちなみにコクピットはBv141のプロトタイプのように、通常の上に突き出たキャノピーになっている)、"胴体"の部分に爆弾倉を搭載。
さらにはキャビンの部分にはMe262戦闘機にも積まれたターボジェットエンジン、ユンカース・ユモ004を補助エンジンとして追加する予定だった。
しかしこちらは計画のみで終わっている。
もちろん、洒落や冗談あるいは趣味で左右非対称にしたわけではない。
ちゃんとした理由がある。
(でも設計者のリヒャルト・フォークト博士のことを考えると、「趣味」の部分は案外あってるような気もするけどなあ…)
普通の単発機であればエンジンは機体の前にくっついているので、その部分はどうしても「死角」になる。
後ろにつけてもいいけど、そうすると今度は後部が死角になる。
っていうか、エンジンがキャビンのある部分と同じ場所に付いている時点で、エンジンがどーやっても死角を作り出してしまう。
さらに、「視界良好」を達成するために、エンジンとか補機とか油圧系とかが入っている胴体部分までガラス張りにするわけには行かない。耐弾性とか耐久性の面で残念なことになる。
そもそもドイツ空軍からの要求は前述の通り『プロペラが前方視界を遮らない単発三座偵察機』というものであり、要するにこの時点で無茶振りだった。
ならば、最初から胴体を「機器室」と割りきって、キャビンは別に付けちゃえばいいじゃん。
そうすればキャビン「だけ」を全周ガラス張りにしても別に問題はない。
また、プロペラ機はプロペラが常に反トルクを機体に与え、さらにプロペラが渦巻状の気流を発生させることにより機体を回転させる力が常にかかっている。
これは意外とバカにできない問題である(このため普通の飛行機は自動的にトルクと反対方向に舵を切ったり、あるいは「微調整」のために微妙に左右非対称に設計されていたりする。もちろんこいつのようなあからさまな設計は「普通なら」無いけど)。
ここで、機体をあえて左右非対称に設計して、片方だけ重くしてみたらどうだろうか。
「キャビン」=重い側が錘となり、トルクで機体が回転しようとしても勝手にキャビンの重量でトルクを打ち消してしまう。
この構造は「視界良好」と「トルク(等)の打ち消し」を一挙に解決する方法の一つなのだ。
それに対し競争相手であり正式採用されたFw189は、無茶な要求を無視し双発機として設計された。
性能でBv141に劣っていた上にレギュレーション違反だったにもかかわらず採用されたことになるが、これはフォッウルフ社の政治力、Bv141のエンジンの問題、そして汎用性ではFw189の方が優れていると見做されたためとされる。
……見た目の問題も無かったとは言い切れないが。
第二次世界大戦が終戦した後の1974年。
その名をエジレイ オプティカという。
本機は軍用機でこそないものの、ヘリコプターの代用となる安価な軽飛行機を狙って設計されており、
- 小型ヘリコプターのような全面ガラス張り・タマゴ型のキャビン
- 低速で飛行し、地上観測に適した性能とする
- 乗員数は3人
- 推進器はレシプロエンジンで駆動されるダクテッドファンの単発
という仕様になっている。
地上観測に適した性能。
3人乗り。
エンジン単発。
何より「全面ガラス張りの見晴らしのいいキャビン」。
それをまとめあげた結果、奇妙な風貌となってしまった。
何かを思い出さないだろうか。
そう、この機体はどことなくBv141を思わせる方向性の機体だ。
(尤も機体の形状は双ブーム型であり、またデザイン的には左右対称なので、Bv141でなくFw189が現代に蘇った機体とも言えるかもしれないが)
リヒャルト・フォークト博士と、当時のドイツ航空省が目指した方向性は決して間違ってなどいなかったのだ。
・・・なお、機動戦士Ζガンダム14話「アムロ再び」で、アムロ・レイはこの機に乗って登場している。劇中では少しだけもじってオプチカとされていた。(設定資料より)
登場はほんの一瞬なので、見逃さないようにしよう。