君は刻の涙を見る
作品解説
『機動戦士ガンダム』から7年後の世界を描いた作品。監督は引き続き、富野由悠季であり、ガンダムシリーズとしては第2作目。
前半の脚本は富野由悠季氏(クレジットは斧谷稔表記)が他の脚本家と共同で執筆する体制だったが、第17話以降は主に遠藤明吾氏と鈴木裕美子氏がメインの脚本を担当している。
本作から薬物投与などで人工的に作られたニュータイプである「強化人間」が初登場。後のガンダムシリーズでも基本設定として受け継がれる事となる。
前作『機動戦士ガンダム』が地球連邦対ジオンという明快な対立構造だったのに対して、本作ではティターンズとエゥーゴという地球連邦の内部で起こる二つの軍閥による対立を中心として、ジオン残党最大勢力であるアクシズの登場、各勢力同士の同盟や決裂、内紛、派閥争いなど、複雑な抗争劇が描かれる。
本作は、ガンダムでなしえなかったスペースノイドの自立という希望を感じさせるテーマを扱いながら、悲劇的あるいは鬱的な展開が続くのも特徴である。
リアリティある人物描写と重厚な物語への評価が高い一方で放送当時は連邦内での派閥争いという複雑な対立構造が視聴者に理解できず、前作とは違った内容の難解さで評価を下げた。またストーリー展開でも登場人物の多くがエゴをむき出しにした病的な性格の持ち主で感情移入し難いという批判もあり、かなり当時は好みが大きく割れた作品である。
これは富野監督が制作当時、ガンダムを初代で完結したと考えておりシリーズを続けることに対する氏の複雑な思いが影響を与えた部分が大きい。
しかしその後ファンの間では、本作のストーリーの難解さを解消するために初代からZに繋がる物語を描いた外伝作品である機動戦士ガンダム0083が制作され人気を博したことでZの内容の理解、再評価がなされ、登場人物の癖のあるキャラ付けも「鬱屈を抱えた切れやすい若者」が実際に社会問題になることでリアリティを増し始めた。
よって、月日が経つにつれてカミーユおよび「機動戦士Ζガンダム」という作品そのものに対する評価が、当時批判していたファーストガンダムファンの間でも、好意的な方向へと徐々に変化していく事になった。
また数十年後には富野氏も自分の作品として見なければ評価はできると考えをある程度改めており、後に設定を改変しつつも劇場版の制作まで行うなど良い印象に変化している。
なお、ギリシャ文学である「Ζ(ゼータ)」は、文字化け対策や変喚の弁などの事情で使われることは稀であり圧到的に入力が楽であるラテン・アルファベットの「Z(ゼット)」で代用される事が多い。
『ガンダム』から広まった80年代前半のリアルロボットの風潮を逆輸入しており、特に変形ロボットの流行を受けての可変モビルスーツの登場や、「重戦機エルガイム」からのリニアシート・ムーバブルフレームといった設定の導入にそれが見て取れる。
また、それまでアニメの続編といえば前作と同じ主人公達が新しい敵と戦うか世界観を完全一新するのが通例であったのに対し、本作では主要登場人物を一新しながらも前作の登場人物が年齢を重ねて立場や考え方を変えて登場するなど、同じ世界観の中で空白の期間も交えながら、時代や世界情勢の変化を描くという当時としては斬新な作劇手法が試みられ、宇宙世紀を舞台としたガンダムシリーズという歴史絵巻の始まりの契機となった。
2005年から2006年にかけて、劇場用アニメ映画『機動戦士Ζガンダム A New Translation』三部作が劇場公開された。
あらすじ
ジオン公国軍に勝利した地球連邦軍は増長し、コロニーに対し支配と圧力を強めていた。やがて連邦軍内部に「ジオンの残党狩り」を名目に、スペースノイドへの強権的制裁を加えるエリート部隊「ティターンズ」が創設された。急速に勢力を拡大したティターンズに反発する一部の連邦軍人やスペースノイド達は、反地球連邦組織「エゥーゴ」を結成する。エゥーゴはティターンズの拠点であるサイド7のコロニー「グリーンオアシス」を襲撃、コロニーの住民カミーユ・ビダンがその戦闘に巻き込まれていく。
登場キャラクター
エゥーゴ
カラバ
ティターンズ
地球連邦
アクシズ
民間人・その他
登場メカニック
エゥーゴ
カラバ
ティターンズ
- ジムⅡ
- ガルバルディβ
- ガンダムMk-Ⅱ
- ハイザック
- ハイザック・カスタム
- マラサイ
- ギャプラン
- バーザム
- ガブスレイ
- バイアラン
- ハンブラビ
- メッサーラ
- ボリノーク・サマーン
- パラス・アテネ
- バウンド・ドック
- サイコガンダム
- サイコガンダムMk-Ⅱ
- ジ・O
- アレキサンドリア
- ハリオ
- ロンバルディア
- スードリ
- ドゴス・ギア
- ジュピトリス
- コロニーレーザー
地球連邦
アクシズ
作中用語
一年戦争後、ジオン軍の残党狩りを目的に結成された特殊部隊。
権力の拡大によって横暴を続けるティターンズに不満を抱いた連邦の一派や民間企業、ジオン残党等が寄り合い結成した反連邦組織。
エゥーゴと同じく反ティターンズを掲げる社会ネットワーク。
一年戦争後、地球圏からアステロイドベルトに逃れた旧ジオン公国残党の一派。及び彼らが拠点とする小惑星。
エゥーゴのメイン・スポンサーである複合企業。一年戦争以前より連邦政府と強い繋がりを持つが、エゥーゴとティターンズの抗争を切っ掛けによりその影響力を強めていく。
- ジュピトリス
パプテマス・シロッコが艦長を務める木星船団の指揮艦。ヘリウム3採取を目的に編成された木星船団に所属しながら、宇宙世紀0087年の地球帰還の際にシロッコの一存によってティターンズへ参画する。
木星-地球間の往来を想定し居住区には重力ブロックが配されている他、内部には独自にモビルスーツを開発・建造出来る工場区画を有する。
また、自衛目的の為の武装もある程度ではあるが装備されていた。
- 30バンチ事件
宇宙世紀0085年、サイド1の30バンチコロニーに於いて行われた反連邦運動に対してティターンズが当時使用が禁止されていたG3ガスを使用し無関係な住民ごと虐殺した事件。
情報操作によってこの事件は伝染病事故として処理されているが、この情報操作に連邦が加担した事から、連邦はティターンズに恫喝される形で支配下に置かれる事になった。
一方でこの事実を知る一部のスペースノイドや連邦軍人達による反発も活発化していく事になり、エゥーゴやカラバの決起に繋がった。
- 第2世代モビルスーツ/第3世代モビルスーツ
ガンダリウムγとムーバブルフレームを標準装備したモビルスーツを、一年戦争当時に運用されたモビルスーツと比較して第2世代モビルスーツと呼ぶ。
ジェネレーター出力の向上によってドムやザクと異なりビーム兵器が標準装備として採用されており、同時にこれを避ける為に機動性に重点を置いた設計思想を採る機体が多数開発された。また、第2世代モビルスーツをベースに可変機構等の特殊な機構が加えられたモビルスーツを第3世代と呼び、様々な試験機が実戦投入されるが、いずれも機体構造の複雑化やそれに伴うコストパフォーマンスの悪化、整備性の低下によって主力となり得る機体は生まれる事は無かった。
この時代よりモビルスーツに標準装備されているコックピット・システム。
- ガンダリウムγ
アクシズに於いて宇宙世紀0083年に開発されたルナチタニウム合金(ガンダリウム合金)の再現素材の一種。
高い強度を誇る一方で同時期に開発されたα・βと比較して生産性・加工性に優れており、シャア・アズナブル経由でアナハイムへもたらされた結果地球圏へと普及し、ムーバブルフレームと共に第2世代モビルスーツの基本技術となった。
一年戦争後に開発された、セミ・モノコック構造に代わるモビルスーツ構造技術。
モビルスーツ用の外付け式大気圏突入装備。
- Ζ計画
「プロジェクトΖ」とも呼ばれる、エゥーゴとアナハイムによる可変モビルスーツ開発計画。
カミーユ・ビダンのフライング・アーマーのアイデアと彼がティターンズから強奪したガンダムMk-Ⅱのデータ、そしてエゥーゴの持つ技術を融合させた結果完成したのが、フラッグシップ機であるΖガンダムであり、メタスや百式等もこの計画の成果物である。
Ζガンダム完成以降も計画は続き、様々な試作機や量産試験機等が開発された。
主題歌
オープニングテーマ
『Ζ・刻を越えて』
原作詞・作曲:ニール・セダカ、日本語版作詞:井荻麟、編曲:渡辺博也、歌:鮎川麻弥
作詞:売野雅勇、作曲:ニール・セダカ、編曲:馬飼野康二、歌:森口博子
エンディングテーマ
原作詞・作曲:ニール・セダカ、フィリップ・コーディ、日本語版作詞:竜真知子、編曲:渡辺博也、歌:鮎川麻弥
挿入歌
『ハッシャバイ』
作詞:井荻麟、作曲:井上忠夫、編曲:宮川泰、歌:間嶋里美
『銀色ドレス』
作詞:井荻麟、作曲・編曲:馬飼野康二、歌:森口博子
ナレーション
本編・サブタイトルコール・次回予告:小杉十郎太
各話リスト
話数 | サブタイトル |
---|---|
第1話 | 黒いガンダム |
第2話 | 旅立ち |
第3話 | カプセルの中 |
第4話 | エマの脱走 |
第5話 | 父と子と… |
第6話 | 地球圏へ |
第7話 | サイド1の脱出 |
第8話 | 月の裏側 |
第9話 | 新しい絆 |
第10話 | 再会 |
第11話 | 大気圏突入 |
第12話 | ジャブローの風 |
第13話 | シャトル発進 |
第14話 | アムロ再び |
第15話 | カツの出撃 |
第16話 | 白い闇を抜けて |
第17話 | ホンコン・シティ |
第18話 | とらわれたミライ |
第19話 | シンデレラ・フォウ |
第20話 | 灼熱の脱出 |
第21話 | ゼータの鼓動 |
第22話 | シロッコの眼 |
第23話 | ムーン・アタック |
第24話 | 反撃 |
第25話 | コロニーが落ちる日 |
第26話 | ジオンの亡霊 |
第27話 | シャアの帰還 |
第28話 | ジュピトリス潜入 |
第29話 | サイド2の危機 |
第30話 | ジェリド特攻 |
第31話 | ハーフムーン・ラブ |
第32話 | 謎のモビルスーツ |
第33話 | アクシズからの使者 |
第34話 | 宇宙(そら)が呼ぶ声 |
第35話 | キリマンジャロの嵐 |
第36話 | 永遠のフォウ |
第37話 | ダカールの日 |
第38話 | レコアの気配 |
第39話 | 湖畔 |
第40話 | グリプス始動 |
第41話 | 目覚め |
第42話 | さよならロザミィ |
第43話 | ハマーンの嘲笑 |
第44話 | ゼダンの門 |
第45話 | 天から来るもの |
第46話 | シロッコ立つ |
第47話 | 宇宙(そら)の渦 |
第48話 | ロザミアの中で |
第49話 | 生命散って |
第50話 | 宇宙(そら)を駆ける |
劇場版
2005年から2006年にかけて、劇場版作品『機動戦士Ζガンダム A New Translation』三部作が劇場公開された。
2005年5月28日に『星を継ぐもの』、2005年10月29日に『恋人たち』、2006年3月4日に『星の鼓動は愛』が公開された。
物語の大筋はTVシリーズと同じだが、キャラクターの解釈それに基づく結末が異なる点や、追加のMSや新カットなど変更点も多い。富野監督によると、機動戦士ガンダムΖΖとは繋がらないが、「逆襲のシャア」とは繋がるようになっているとの事。
ガンダム無双のゲームシリーズの一つである真・ガンダム無双では本作のストーリーは劇場版をベースとして入っているが、「逆襲のシャア」のストーリーのプロローグでは、ガンダムΖΖの出来事が語られているため、劇場版Zガンダムの世界でも似たような出来事が起こっていたのではないかと思われる。)また劇場版準拠のカイ・シデンを主役とした作品『機動戦士Ζガンダムデイアフタートゥモロー—カイ・シデンのレポートより』の最終巻ではZZに繋ることを匂わせている台詞が出てくる。
新作カットと20年以上前に描かれた旧作カットではタッチもクオリティもかなり異なる為に、デジタルエフェクトでエイジング(経年変化)加工を施す事でマッチングを図っている。また、旧作カットについても、画面のトリミングやモニターの表示系のリメイク、エフェクトの追加といった部分的な修正・加工が加えられている。それでも大体のカットの新作旧作の判別は一目瞭然だが、中には言われなければ判らないレベルでマッチしてるカットも存在する。
富野監督によると、完全に新作にしてしまうと『Ζガンダム』ではなくなってしまう為に、敢えてTVシリーズのカットも使い回す形式をとったとの事。
音楽は、TV版と同じく三枝成彰氏作曲のものがそのまま使われているほか、劇場用の新曲も追加されている。挿入歌「ハッシャバイ」もTV版と同じである。
主題歌は、富野監督の友人でもあるGACKTが担当した。
キャラクターの解釈と展開の変更や、それに基づく一部アニメ版エピソードのカット、さらにこれらの作画の是非についてなどで、Ζから抜け出せない頭の固い古参ファンからは頭ごなしに批判されたものの、特に主人公のカミーユ関連でのアニメ版とは異なる展開やそれに基づく結末、さらに全体的に暗い展開の中にもちゃんと希望のある絶えず前向きなシナリオと新たなラストは、アニメ版でショックを受けたファンからは好評であり、興行的にも劇場版一作目の『星を継ぐもの』の時点で、3作分の製作費を回収出来る程ヒットした。
また、映画以降に発売されたゲームでは、百式の「赤いツインアイ」や、クライマックスでカミーユが使用した「ビーム・コンフューズ」等の劇場版要素が取り入れられている。
関連イラスト
関連動画
関連項目
重戦機エルガイム(前番組)
アドバンス・オブ・Z(外伝)
エコール・デュ・シエル(外伝)
ガンダムセンチネル(外伝)
タイラント・ソード(外伝)
サイドストーリーオブZ(外伝)
ガンダムシリーズ
宇宙世紀
機動戦士ガンダム0083STARDUSTMEMORY← →機動戦士ガンダムΖΖ
宇宙世紀(富野由悠季担当)
テレビ朝日系土曜17:30アニメ
表記ゆれ
機動戦士Zガンダム ギリシア文字ではなくアルファベットのZになっている