CV:大塚周夫
『どうだこの痛みが!!キサマに分かるかァァァァ!!!』
『理想だと?戯言だ!』
※本項目にはロックマンゼロシリーズの核心に触れる内容があります。
経歴
ネオ・アルカディアに君臨する悪の天才科学者。
かつて人類の6割、レプリロイドの9割を死に至らしめた大戦争である妖精戦争を引き起こした罪で肉体を機械化される「不死の刑」を受け、ネオ・アルカディアを追放された過去を持つ。
死よりも重い極刑として全ての記憶をプログラムデータに変換され、傷つき老いた体は機械が自動的に修復するため死にたくとも死ぬ事を許されず、宇宙空間を100年間もの間独り彷徨っていた。
彼は憎んだ
己を認めなかった人間を、己を追放したレプリロイドを
この世の全てを憎んだ
瓦礫ばかりが漂う虚空の空間でその憎しみは強まるばかり
やがてそんな100年の生き地獄が彼を復讐の狂気に駆り立てる事になる
性格
一人称は「ワシ」。
自らの功績を認めず、死よりも重い罰を与えた人間とレプリロイドの双方全てを心から憎悪し、復讐することに憑りつかれた筋金入りの狂人。
とにかく悪い意味で人間臭く、(憎んでいる割に)極度の人間至上主義者であり、自らを「人間」と呼んではばからず全てのレプリロイド達を己の復讐を完遂するための〝人形〟としか思っていない冷徹な人物。
(こういった姿勢はロボットに愛を持って接し、その自由意志を尊重していた前時代の科学者達とは対照的であり、ロックマンの制作者であるライト博士はもちろん、あのワイリーでさえ自ら作り出したワイリーナンバーズに強い愛情を持っていた)
そういった思想から「他者を意のままに動かす快感は人間にしか味わえない最高の快楽」と豪語する。
(それに対しゼロは「まともな人間にも理解できるとは思えん」と返し、その上「俺にはお前がただのイレギュラーにしか見えん」と皮肉を込めて吐き捨てている)
元々は人間だったが体を機械化されただけに、現在はサイボーグへ確実に該当すると言ってもいい。しかし不死の刑を受けてから、悠に人間の寿命を超えた年月を経たために人間であった証拠となる生身の部分が残っているか非常に怪しい状態でもあり、実質「100年前の大罪人の意識記憶を移し込まれて活動を続けるレプリロイド」に変質していてもおかしくない(少なくとも、霊長類に属する人間の証だった両足の見当たらない姿になってしまっているのは明らか)。
上述した、憎んでいる割に極度の人間至上主義を掲げるスタンスの本質は、かつて純粋な人間だったことへの執着心か、コピーエックスが独裁するネオ・アルカディアの状況を見て単に立場上有利なほうを選んだのか、自分を機械に押し込んで放置、生身部分を朽ちさせても自我≒魂を電子データ化して風化させないようにし、かつそれを閉じ込める器(身体)を徐々にレプリロイドのものへ置き換えるやり方で、死なせないが人間としての尊厳を緩やかに破壊される仕打ちを受けたことに対する意趣返しなのか――色々仮説は立てられるが真相は不明。
科学者として
前提として、この時代の科学者としては間違いなく優秀。
破壊されたコピーエックスの修復、劣化コピーではあるもののブラックボックス化していたゼロのボディを作成、数々のレプリロイドを強化改造した事などが根拠である。
しかし独創性には乏しく、ゼロのオリジナルボディを改造したオメガや、洗脳したバイル八審官など、戦力の大半は既存の機体や他人の制作物に手を加えたものばかりである。
遥か後年になっても全貌の明らかになっていないエックスを制作したライト博士や、ゼロを制作したワイリー博士よりも明らかに凡庸な人物であると言える。
とはいえ、ロックマンゼロの世界は前作のロックマンXから続く戦争で、科学文明が衰退してしまっており、シエルのように、新たなレプリロイドを製作できる技術力すら貴重な荒廃した未来である。
そんな時代に己の技術力をもって一大勢力を築き上げただけでも相当なものであり、先の天才達が規格外なだけで、バイルも充分天才である。
加えると、エックスとゼロのオリジナルボディはブラックボックスだらけで、Xシリーズの時代でもろくな解析すらできなかった。そもそも他者の制作した作品に手を加えることすら難しい。にもかかわらず、ゼロのオリジナルボディをオメガに改造し、ゼロの新たな体となるコピーボディを制作したこと(しかもゼロはそのボディでオメガを撃破したため、劣化はしていたとしても十分すぎる力を持っていると言える)や、エックスのコピーであるコピーエックスを(元の製作者はシエルだが)復活させたというだけでも、考えてみれば相当の偉業である。
執念深い策士として
彼にとって最大の強みはその異常極まる“復讐心”そのものにある。
もとより、レプリロイドと人間の双方を憎むバイルにとって全ての命を苦しめ弄ぶことこそ至福であり、
自身が味わった苦痛以上の苦痛を世界に振り撒き続けるためにできるだけ多くの犠牲を出すことを重視した非道極まる作戦を次々と実行し、ゼロとレジスタンス達を最期の最期まで苦しめた。
活躍
ロックマンゼロ2
エンディング後に台詞のみ登場。
「またお前にもひと暴れして貰わなければいかんな、オメガ…」
と明らかに黒幕然とした言葉を残し、クリアしたプレイヤーをモヤモヤさせた。
ロックマンゼロ3
本作で初めてバイルの容姿が詳細になる。その姿というのも下半身は脚がなく常に浮遊しており頭部全体はオレンジ色の謎の液体で満たされた円錐状の装置に収められているという異様な風貌をしている。
本作冒頭で自身が幽閉されていた宇宙船が地球に墜落。自身に都合よく改造し復活させたコピーエックスと、オメガを引き連れ登場、ネオ・アルカディアに復帰した。
ネオ・アルカディアの人間の中にはかつての悪行からか再び追放しようという声もあったようだがコピーエックスを後ろ盾にしたため復帰することができた。ある意味ネオ・アルカディア建国期の闇より産まれた負の遺産でもあったバイルだったが、それを精算することは作中当代の住人たちには叶わず、ネオ・アルカディア衰亡の始まりを招いてしまったのである。
ネオ・アルカディア四天王を幹部の座から降ろす、八審官を改造して凶暴化させる、コピーエックスの死を意図的に引き起こしネオ・アルカディアの統括者に君臨するなど、謀略の限りを尽くす。
またダークエルフ確保のために人間の市街地にミサイルを撃ち込むなど、目的のためなら他の犠牲は顧みない非情な行動を起こしている。
ダークエルフとオメガの共鳴によって、四天王とゼロ以外のレプリロイドを支配下に置き、更なる混乱を引き起こすことを目的としていた
最終的にダークエルフの力を引き出したオメガをゼロにぶつけるも倒され、その野望は潰えた…はずだった。
ロックマンゼロ4
オメガを失ったものの、依然としてネオ・アルカディアの独裁者として君臨し続け、「逆らうもの、逃げ出す者は人間もレプリロイドも例外無くイレギュラーとして処分する」という暴政を敷いて地獄のような世界を築き上げていた。(この有り様であるためレジスタンス側とクラフトからは、かつてのネオ・アルカディアの支配体制は崩壊しているとして、ネオ・アルカディア跡地と呼ばれている)
そしてバイル配下のレプリロイド部隊アインヘルヤル八闘士を使って『ラグナロク作戦』を決行、各地へ部隊を展開し同時攻撃をしかける…というのは陽動で、真の目的である衛星砲台『ラグナロク』で外界の自然を全て破壊し、ネオ・アルカディアに閉じ込めた人間やレプリロイド達に自分と同じ永遠の苦しみを与えようと企む。
それを阻止せんとするゼロの健闘もむなしく、作戦の切り札であるラグナロクが完成してしまうが、とうとうバイルに反旗を翻したクラフトがラグナロク管制室を制圧。ラグナロクの主砲による砲撃を行いネオ・アルカディアに住む多くの民間人を巻き添えにする上でバイルの抹殺を図る。
そしてラグナロクの砲撃はバイルが居るネオ・アルカディアに直撃し、バイルは死亡した…。
かに思えたが、突如地球へ落下を開始したラグナロクを止めるべくラグナロク・コアに辿り着いたゼロの前にその死んだ筈だったバイルが現れた。バイルの機械化された肉体はラグナロクの攻撃を受けてもなお機能を止めずにバイルを生かしていたのである。
この際に頭部の装置が破損しバイルの顔が顕になっているのが分かるが、その直後に長い白髪をなびかせ、血のように真っ赤な目を見開きおぞましい笑みを浮かべるバイルの顔のアップが彼自身の不気味な笑い声と共に画面全体に表示される。
この時バイルの首部分や左目から左耳にかけての肌がラグナロクの攻撃で欠損し機械化した内部が見えるというグロテスクなもので、「100年前の人間の外見と自我を再現し続けたレプリロイド」となってしまったバイルの悲惨な状態を示すかの如きビジュアルにもなっている。
正直小学生向けゲーム機の作品に登場するキャラとは思えないほど憎悪や狂気に満ちた表情であり見る人によっては半端なホラー作品よりも恐怖感を覚えるかもしれない。
ラグナロクの砲撃でバイルの死を確信していたゼロも流石に「生きていたのか」と呟くほど驚きを隠せなかったが、当のバイル自身は「(「生きていた」のではなく)死ねなかった」と自嘲まじりに叫んでいる。
ただ生存していたとは言えさすがに無傷では済まなかったが、傷ついた体や顔面からは機械化された部分が露出しており、壮絶な笑みを浮かべながら言い放った「これでも私は人間なのだよ」というセリフはバイルの狂気を如実に表現している。
その後ラグナロク・コアのパーツを要塞のように身に纏い、立ちはだかったゼロと最後の死闘を演じ一度は敗れるものの、不死の肉体でしぶとく生き延び、最期のあがきとしてラグナロクそのものと融合することでとても「人間」には見えない「怪物」のような姿になり果てながらも、希代の英雄に最終決戦を挑む。
最終的にその野望は阻止され、ラグナロクと共に灼熱の大気圏で呪詛の念を吐き散らしながら焼き尽くされていった…。
しかし、彼の狂気は流星の如く世界各地に降り注ぎ、数百年後更なる悪夢を生み出す事になる…。
ある意味では作中最大の被害者とも受け取れるが、妖精戦争のきっかけ自体がバイルによるものであり、冷酷な処罰自体も妖精戦争で人間とレプリロイド双方が甚大な被害を受けたのも無謀な力押しを重ね続けたゆえの仕打ちである。結果論ではあるが、100年前の戦争終結後に危険因子を排除するだけならば単純に彼を処刑しておけばよかったはず。わざわざ死よりも重い刑罰を与えたのは当時の被害者たちが彼に対し並々ならぬ憎しみを抱いていたからと考えれば、憎しみがさらなる憎しみを生むという悲しみの連鎖を体現しているとも言える。
さらに言えば、後のネオアルカディア政府のレプリロイドに対する非道な扱いを見れば、バイルと近い考えを持つ人間も少なからずいた可能性は捨てきれず、そのような人間も罰せられたような記録は(少なくとも本編中では)確認されていないことから、一部賛同者はいたものの、保身のために蜥蜴の尻尾切りに遭った可能性もある(仮にそうであれば、人間に対し激しい憎悪を抱くのも納得である)。
一方、後世に残った彼の怨念の破片は最終的に一つの姿へなるも、そこよりバイルの自我が甦ることはなく、逆説的にこの時点でバイルの自我≒機械に閉じ込められた魂は消失し、事実上死への願望が叶ったとも取れる。
※当時のバイルは、ダークエルフの力をもってレプリロイドを完全に支配しなければ戦争が長引き犠牲が増加すると考えていた。
しかしこれをシエルの祖先の科学者やエックスたちから反対されており、「一部の愚か者を一掃するしかない」として反対意見を押しのけ、ダークエルフを取り込んだオメガ(オリジナルゼロ)によるレプリロイドの支配を強行、わざとレプリロイド同士で殺し合わせるという形で戦争を引き起こした。だが犠牲にするつもりのなかった人類にも甚大な犠牲を出してしまい、妖精戦争は未曽有の悲劇となった。
ちなみに、バイルの人間至上主義からすると人間が攻撃対象になる暴走が起こるようなプログラムを実装するとは思えないという観点から「オメガの行動はオリジナルのゼロの機体に込められたワイリーのウィルス(ゼロウィルス)が、ゼロの意思という束縛から解き放たれた結果バイルのプログラムを侵食してしまった」という説も存在する。
その最期について
バイルは本来レプリロイド(ロボット)が守るべき『人間』であり、ロボットが危害を加えることが決して許されない存在であるが、ゼロは悩まずに『敵』として彼を叩き斬った。
この「人間だろうが敵ならば一切容赦しない」という迷いのなさの根底にあったのが、
「ゼロは悪の科学者が世界征服の最終兵器として開発した悪のロボットだったから」だとすると、「悪の科学者の野望が、同じく悪の科学者が作ったロボットの手で阻止された」ということになる。
なんとも皮肉な話である。
これに限らず、ゼロシリーズ自体
- 一作目:ラスボスが前シリーズ主人公の複製品。
- 二作目:暴走した元一般人の手で前シリーズ主人公の肉体が破壊される。
- 三作目:主人公が複製品で、ラスボスの方が本物。前シリーズ主人公が完全消滅。(ただし劇中の話によると、偽物なのはボディだけで心=サイバーエルフや記憶メモリなどや、エックスから返却されたZセイバーはオリジナルのもの)
という、とにかく全面に渡って皮肉づくめのシナリオ構成である。
ちなみに、あっちの悪の科学者もある時危うくロボットの手で殺されそうになっており、
「ワシを撃つのか?このワシを!ロボットのお前が、人間のこのワシを!」と似た発言までしている。
最終決戦が「過去では未遂に終わったロボット最大の禁忌破りを、今度はしっかりと達成することによって決着をつける」という結末を迎えたのは、ある意味では過去の栄光を片っ端からガンガン切り捨てていったゼロシリーズに相応しい幕引きだったのではないだろうか。
戦闘時
第一形態
ラグナロクコアと合体し、巨大なアーマーを纏う。
物量に物を言わせた包囲攻撃やバイル八審官を召喚し波状攻撃を仕掛けるなど、ラスボスの名に恥じぬ多彩な技を繰り出し、更に本作では数少ない回復技も使う。
第二形態(最終形態)
一度は撃破されたがバイルはそれでも死ねなかった。
ラグナロクの動力ケーブルなどが次々と突き刺さり、最終的にはラグナロクそのものと融合、巨大な異形の怪物と化した。
この時に巨大な角が現れるが、この角には赤い光点がいくつもある。
この光点はおそらくモデルVのコア部分に変化したと推測できる。
なお、この最終決戦は120秒の時間制限がある。
台詞
「理想だと!?戯言だ!!」
バイル第一形態の戦闘直前の言葉。
ゼロの「それが貴様の理想か…?」という問いかけに対する反応であり、ゲーム中には「理想」という言葉は無いが、これはドラマCD版を意識した台詞である。
ちなみに後作で登場したある人物も上記とほぼ同じ言葉を口にしていた。
「流石だな!英雄!」
バイル第一形態撃破時のバイルの台詞。
撃破されたのにもかかわらずゼロを英雄と皮肉っており、余裕を窺わせる。
「死ねん!この程度では死ねんのだ!」
ラグナロク・コアの残骸を纏い、撃破されてもなおも生きているバイルの呪詛。むしろ「殺してくれ」と言っているようにも感じられる。
永遠に生きる苦しみを与えた人類と、レプリロイドへの憎悪の現れなのだろうか。
「終わらぬ悪夢だ!」
ラグナロクそのものと融合し、再びゼロに戦いを挑んだバイルの台詞。
地球環境を破壊し、自分に生き地獄を味わわせた地上の者達への憎悪、憤怒、狂気をはらんだ言葉である。
「この…ワシが…!人形如きに…!滅べ!滅んでしまえぇぇぇ…!」
ゼロに倒され、爆散していくバイルの最期の言葉。ゼロ、もしくは全人類、レプリロイドへ向けた呪詛を吐きながら光に消えていった。
最期まで憎悪をまき散らすことに終始していたバイルの怨念は、ラグナロクの破片と共に地球へ降り注ぎ、後の世へ災いを齎すことになる…。