サラ・ヴェーレン
さらゔぇーれん
犯罪組織『賽』の科学長を務めるマッドサイエンティスト。5年前に『賽』の一員となり、組織の科学力を飛躍的に高めた天才科学者である。
妖細胞研究の中心的人物であり、移植に成功し妖完成体となった者達を「私のベイビー」と呼ぶ。
常にハイテンションで、血みどろになるのも構わず人間の臓物を生で貪り食い、事あるごとに性的快感を覚えているかのような嬌声を張り上げるという狂人然とした女性だが、敵の侵入を知るや身代わりのホログラフと入れ替わっておくという抜け目の無さも併せ持つ、底の知れない人物である。
実働部隊のトップ2人に直接命令を下せるほどの強い権限を持ち、組織内でも自由奔放に振舞う。
彼女にとっては、この世界そのものが1つの試験管の内部に過ぎず、興味の赴くままに実験・研究を行い、人々の命や記憶を平然と弄ぶ。
その正体は800年前、「魔女狩りが行われている王国」に住んでいた学者である。
妖怪などではなくあくまで人間だったが、当時から異常なまでの天才であり、異端者扱いを受けていた。
国に愛想を尽かした彼女は、自ら開発した 機械仕掛けの船で異国へ旅立ったが、航海中に「人魚としか呼びようのない謎の生物」を発見し、生きたまま喰らった。
その結果彼女は、首を切り落とされても再生できるという不老不死の肉体を得た。
やがて日本の漁村に辿り着いた彼女は、かつて1人の 妊婦と交わした会話から「今の肉体で子供を産んだらどうなるか」ということに興味を抱き、6体の赤子を出産する(具体的にどうやって孕んだのかは不明)。
しかしその6体はいずれも妖怪そのものの姿をしており、しかも出産直後に全て死亡した。
サラはこれらの死体をミイラに変え、H県の山間に埋めた。
そのミイラこそが妖細胞の基となった『人魚』『大天狗』『赤鬼』『九尾の狐』『鵺』『がしゃ髑髏』の6体であり、彼女が妖完成体を「私のベイビー」と呼ぶのはこのためである。
サラはその後、50年間欲望のままに生き、次の250年を元の肉体に戻るために費やし、その次の500年間をかけて「死ぬ方法」を探した。
その結果、1人で生き続けるのもこのままただ死ぬのも嫌だという結論に達し、全人類を自分と同じ不老不死の存在へと進化させる人類強制進化を目指すようになる。
人魚の妖細胞を植え付けることで全ての人間を「人魚の妖完成体」に変えようと企み、まず6体のミイラを所有する『賽』に接触。
表向きは組織の一員として兵器開発・研究に従事しつつ、自身の計画実行を狙っていた彼女だったが、 久佐場六道を知ったことで、それに変化が生じる。
がしゃ髑髏の妖細胞を移植されながらも、妖完成体ではなく人間としての自我を維持しつつ妖力(スペック)を操れる存在「アマルガム(混ざり者)」となった六道。
自分と同じ自我と妖力を併せ持った存在が誕生したことで、サラは人類を妖完成体ではなく六道同様のアマルガムへと進化させるべく計画を変更。
成功作である六道を様々なピンチに追い込むことでデータ収集を行おうとする。
同じアマルガムである殺人鬼の尾崎京を野に放ち、同時に『賽』にも見切りを付け、組織の弱体化を兼ねて幹部戦闘員の宇治橋美姫と森不動を派遣。
更に数多くの研究員を毒薬注射で殺害した(ものすごく効率の悪い殺し方だが…)。
そして六道の精神的支柱である幼馴染火野彌生を人質に取り、組織の本拠地である離島『祈島』に来るよう、零課に挑戦状を送り付ける。
サラは乗り込んできた牛頭次郎と黒水影舟を単身で圧倒。六道に妖完成体の鵺と側近の空佑を撃破されたことで、遂に彼との一騎打ちに臨む。
サラが身に付けている能力は以下の通り。
- 骨の無限創生…がしゃ髑髏由来の妖力で、無限に骨を作り出す。トゲ状の骨で黒水の足を地に縫い付け動きを封じたほか、六道を串刺しにしている。
- 神通力…大天狗由来の妖力。重力をコントロールすることで自在に飛行できる。更に応用することで、小型のブラックホールをも生成できる。
- 九尾の狐の尾…作り出した尻尾で背後からの攻撃を防ぎ、また牛頭と黒水を一撃でなぎ倒している。
- 不老不死…人魚を喰らうことで得た、自前の能力。骨の無限創生にスピードは劣るが、体のどの部位を失っても復元できる。
- く号兵器…サラが森不動に埋め込んだのと同じ兵器で、両手から超音波(どう見ても電流だが)を発する。彼女自身が不死身であるため負荷を考える必要が無く、最大出力で撃つことができる。しかし彼女の再生能力が移植された機器を体外に押し出してしまうため、1日しか装着していられない。故に不動ほど使い慣れておらず、黒水から動きを読まれている。
- 見切り…彼女の観察力から来る能力。敵の予備動作を読み取ることで、次の行動を予測、回避する。
妖の産みの親だけに妖力を熟知しており、見切りや再生能力も相まって攻防共に隙がない。
そんな彼女の姿を六道は「歪だよ」と吐き捨てた。
あらゆる攻撃を見切り、不死身ゆえに負荷を考えない攻撃を繰り出すサラの前に、遂に倒れる六道。
しかしサラが彼を追い込むため彌生を嬲り殺しにすると宣言したことで、彼は彌生を守りたいという意志により、数十メートルにも及ぶ巨大がしゃ髑髏へと変貌を遂げる。
「自分と同じ存在」になり得る人間として親近感を覚えていたのか、彼が妖完成体になり下がった(と誤認した)事で「結局アナタも私(不老不死)には届かない」と失望の言葉を漏らすサラ。
しかし彼の変化はまたもサラの予想を超えており、自我を失ってはいなかった。
見切ることのできない攻撃によって追い込まれたサラは、巨大な人工ブラックホール『空亡(そらなき)』を生成、彌生目掛けて放つ。
彌生を庇った巨大がしゃ髑髏が空亡に飲み込まれていく様を見て、サラは勝利を確信。六道への憐みの言葉を呟く。
しかし次の瞬間、巨大がしゃ髑髏から飛び出してきた六道の本体によってサラは触手状の骨を撃ち込まれ、胴体をズタズタにされる。
自己再生を優先するため他の妖力を使えなくなった彼女は、そのままなすすべもなく自ら生み出した空亡に投げ込まれ、恍惚にも似た笑みを浮かべつつ遂に消滅した。
…しかし…。
サラは生きていた。
妖完成体「赤鬼」の力で救助された彼女に対し、その赤鬼を手懐けていた『賽』の社長牛頭一臣は、彼女を厳重な管理下に置いたうえでその頭脳を組織再建のために利用すると宣言。
不老不死以外の妖力を全て失った彼女は、「どーせ私は、この世界には混ざれそうにも無いしね」と自嘲しつつこれを承諾する。
そして物語は終了した。
明言こそされていないが、「800年前」「魔女狩りが行われていた王国」「単行本3巻カバー裏の妊婦の髪の色が一致している」などから、彼女が会話を交わした妊婦は同じ作者の前作『三ツ首コンドル』の魔女パンドラであり、また同時に『歪のアマルガム』が『三ツ首コンドル』の200年後(パンドラは「コンドル」の600年前の登場人物)であった可能性が示唆されている。
サラ・クリスティー
本連載のプロトタイプに当たる読み切り作品『妖移植変異体ガロ』に登場したキャラクター。
「瀕死となった主人公にがしゃ髑髏の妖細胞を移植する科学者」という立ち位置は連載版のヴェーレンと同じだが、こちらでは一応味方側の人間で、物語のサブヒロイン的存在だった。
またヴェーレンが前髪で右目を隠しているのに対し、こちらは左目を隠している。
科警研の地下メンバー(?)で、妖怪鎌鼬によって胴体を泣き別れにされた唯我六道刑事を救い、妖細胞を与える。
元々虫型のカメラロボットを偵察に出しており、それに映った六道に一目惚れしていたらしいのだが、常に焦点の合わない目付きとふざけた口調をしているため、どこまで本気で言っているのかは正直不明。
一応「美人マッドサイエンティスト」を自称しているので、自分がまともでないという自覚はある模様。
その正体は妖細胞の作り手である「悪の科学者」の娘であり、六道に移植したがしゃ髑髏の細胞は彼女が父の元から持ち逃げしたものだったらしい。
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