概要
『週刊少年ジャンプ』で連載された石山諒氏の漫画作品『歪のアマルガム』の主人公。
高校2年生、改造人間、特殊警察メンバーという複雑な経歴の持ち主である。
詳細
幼少期に母親を失くし、父親と2人の生活を送っていた少年。その父親が海外へ赴任したことで、1人暮らしをしながら高校に通っていた。
単行本掲載の登場人物紹介で「おとなしくお人好し」と明記されるほどの善良な性格。
幼稚園の頃からの幼馴染にして空手の猛者である火野彌生に恋心を抱くも、事あるごとに暴力を振るわれ、それを同級生にからかわれるという、(これが学園マンガなら)至って普通の日常を送っていた。
ある日、ふとしたことから彌生をデートに誘うことに成功した彼は、まんざらでもなさげな彼女の反応に喜びつつ家路を急ぐが、踏み切りで電車に轢かれそうになっている幼児を目撃。
気付いたら、飛び出していた。
目を覚ました時、彼は下半身と左腕を丸ごと失い、謎の研究施設の実験装置に閉じ込められていた。
彼が助けようとした幼児は、犯罪組織『賽』の科学長サラ・ヴェーレンが気まぐれで仕掛けたブービートラップの立体映像であり、罠にはまった六道は列車事故で瀕死の重傷を負い、組織の施設へと拉致されたのだった。
サラの総指揮のもと、がしゃ髑髏の妖細胞を移植され、六道は巨大な骸骨の怪物へと変貌を遂げる。
死を請うほどの激痛に、意識を失いかける六道。しかし彼には、彌生とのデートという『約束』があった。
「お前の蹴りに比べたら…こんぐらいの痛み、なんでもねェよ…!!」
骸骨の巨体を砕き、誰に教わったわけでもなく「骨の無限創生」という妖力(スペック)を駆使し、失われた下半身と左腕を骨で形作り、床に降り立つ六道。
人間としての自我を保ったまま妖力を操るその姿は、天才科学者たるサラの予想をも超えたものだった。
アマルガム(混ざり者)として
自分と同じ実験の被害者であり、移植失敗により狂える怪物と化した女性と出会う六道。
彼女を救おうとする六道だったが、彼女は僅かに自我を取り戻したものの自決してしまう。
「あなたは諦めないでね」。彼女の言い残した言葉を胸に、六道は元の肉体を取り戻し、元の日常へと帰還するため、茨の道を歩む決意を固める。
『賽』の壊滅を目的とする警察の特務部署・警視庁零課の牛頭次郎課長から課に加わるよう勧められた六道は、高校を休学し彌生にしばしの別れを告げ、寮生活を送ることとなる。
自分の移植実験に居合わせた課員の黒水影舟と同居しつつ、戦闘訓練を受ける六道。
一方サラは、自我と妖力を併せ持つ『アマルガム(混ざり者)』となった六道を、自身の計画に必要な存在と見込み、彼をピンチに追い込むことでデータ収集を行うべく、刺客を放ち始める。
能力
上記の通り、六道が実験体にされたのはあくまで偶然であり、才能や体質などを『賽』からマークされていたわけではない。
しかし彼の戦士としての成長速度は目を見張るものがある。
移植直後にもかかわらず本能的に骨を変形させ黒水の刀攻撃を受け止め、また移植失敗作とは比較にならない瞬発力も見せている。
妖力で生み出せる骨の硬度は彼の集中力に左右されるもので、敵の攻撃を弾く防具として使用できるほか、投げ槍として連射するという応用技も編み出している。
それ以上に特筆すべきは、とっさの判断力や機転の効かせ方で、偶然目に付いた筋弛緩薬を利用したり、敵の能力を逆手に取ったりしてピンチを脱している。
その判断力は、物語終盤では「老獪」と呼べるレベルに達しており、実際は実戦を3回しか経験していない(しかも1回はほぼ一方的に負けた)にも拘らず、サラの側近空佑を「随分闘い慣れている」と誤認させたほどである。
Antihero
元の体と日常に戻る方法を求め、同時に「誰も殺さず、誰も死なせない」という信念の元に、同じアマルガムである殺人鬼尾崎京を破った六道。
彼の中には常に、「還るべき日常の象徴」たる彌生と、救うことができず目の前で散って行った名も知らぬ女性の姿があった。
しかし次なる刺客として現れた『賽』の最高戦力・森不動によって、彼はなすすべもなく打ちのめされてしまう。
「仲間を死なせず、敵を倒す」ことを強く願った彼は、完全な妖化こそしていないものの自我を失いつつある狂戦士形態(バーサーカーフォルム)へと変化。不動を殺害寸前まで追い込む。
駆け付けた牛頭の放った最大の技『寸勁 極』によって、辛うじて自我を取り戻せたものの、これまで安定していたはずの彼の肉体と妖細胞の融比率は急激に跳ね上がっており、これ以上妖力を使えば人間に戻れなくなるというところまで来ていた。
「誰も殺さない」という誓いを破りかけた六道は、妖力を使うことに慣れてしまっていた自分に恐れを抱き、彌生が敵に連れ去られたと聞かされても行動できずにいた。
しかしかつて捕らえた尾崎京から奇妙な激励を受けたことで蟠りを捨て(開き直ったとも言う)、単身『賽』の本拠地に乗り込む。
妖完成体『鵺』を(具体的にどうやったのかは不明だが)瞬く間に撃破し、ブラックホールを操る空佑をも下した六道は、人の命や記憶を踏み躙るサラに最後の決戦を挑むが、不死身である彼女には及ばず、地面に串刺しにされてしまう。
しかし彌生を守りたいという一心により、六道は戦いによる激痛に耐え抜き、数十メートルもの巨大がしゃ髑髏『妖基盤のアマルガム』へと変貌を遂げる。
それはかつて、彌生とのデートの約束を胸に、妖細胞移植の激痛を耐え抜いた時に似ていた。
恋煩いは厄介だ。胸には常に耐え難い激痛。
この痛みに比べればホント、他の痛みなんてちっぽけで―――。
正義の味方
六道はサラに勝利した。
だが同時に自我を失い、妖細胞に飲み込まれ怪物と化そうとしていた。
かつての誓いに従い、六道を殺処分しようとする黒水。
その前に立ちはだかるも、泣き崩れることしかできない彌生。
しかし、六道は自我を取り戻した。
「誰も殺さず、誰も死なせない」という信念の象徴だったいつかの女性との約束が、「日常を取り戻す」というもう1つの信念の象徴である彌生との約束を思い出させたのだ。
以後、六道は高校に復学し、彌生と「正式な恋人」として交際しながら、高校生と零課員という二足のわらじを履いている。
妖の力は完全には消えていないが、それを制御し、胸を張って正義の味方と名乗りながら、彼は今日も『賽』の残党と戦い続けているのである。
関連人物
火野 彌生(ひの やよい)
六道の幼馴染にして高校の同級生、そして想い人。
空手の有段者であり学業優秀・容姿端麗という才色兼備ぶりで、学年内でも人気が高い。
しかし六道に対してだけはろくに話も聞かずに暴力を振るい、果ては新しく覚えた空手技の練習台にまでしていたらしい。
小学生の頃、悪ガキ達に隠された筆箱を取り返してもらったことから、六道を内心意識してはいたようだが、それが「恋愛感情」だとまでは明確に認識できていなかったらしく、彼からデートに誘われた際にはパニックを起こしかけていた。
それでも手作りのサンドイッチを持って待ち合わせ場所にやってくるが、彼は『賽』に狙われた結果デートには遅刻し、更に学校を去ってしまう。
本作品のヒロインであり、六道にとっての最大の精神的支柱でもあるのだが、彼が零課員として寮生活に入ったことで物語中盤は登場しなくなってしまう。
回想シーンを除けば、登場したのは全19話中9話であり、しかも終盤に再登場してからはほぼ人質扱いで、いわゆる「活躍」をするシーンは殆ど存在しなかった。
「闇に呑まれかけた主人公を救う」という、いかにも「愛の力」が必要そうなシーンでもその役割は全然別の人に持って行かれ…と、なんとも不遇な人物である。
社 文治(やしろ ふみはる)
六道の親友もしくは悪友である同級生。
六道の彌生への好意に気付いており、恋のキューピッドを気取って彼女に呼び出しメールを送るが、本心からの善意で行っているのか、単にからかいたくてやっているのかは微妙なところ。
回想シーンを除けば登場回数は2回のみで、しかも作中では「しゃもじ」という仇名でしか呼ばれておらず、本名は一度も登場しなかった。