概要
手塚治虫原作の漫画作品。オリジナル版は、光文社の少年向け雑誌「少年」にて1952年4月号 - 1968年3月号まで連載された。
21世紀の未来を舞台に、核融合をエネルギー源として動き、人と同等の感情を持った少年ロボット、アトムが活躍する物語。
原作は1951年から雑誌「少年」に連載された「アトム大使」を前身とし、翌1952年に「鉄腕アトム」と改題して連載を開始すると人気を博し、1968年3月に「少年」が休刊するまで連載が続けられた。特に子供たちに与えた影響は大変に大きなものがあり、本作を知ったことでロボット工学者を志し、そして夢を叶えた少年たちはロボット大国日本への道を作ったのである。
日本初の30分の連続テレビアニメでもあり、本作の日本アニメへの影響は計り知れない。
また2015年にはフランス版鉄腕アトムの制作も発表された。
原作漫画の登場人物
アニメ版の登場人物はそれぞれのアニメ版の記事を参照。
主要キャラクター
いわゆるレギュラーキャラ。
サブキャラクター
特定エピソードのみ登場するキャラクター。
- アトラス(鉄腕アトム)
- 青騎士(鉄腕アトム)
- プルートゥ
- モンブラン(鉄腕アトム)
- ノース2号
- ゲジヒト
- ヘラクレス(鉄腕アトム)
- ブランド
- エプシロン
- ボラー(鉄腕アトム)
- アブラー博士
- ゴジ博士
- シャーロック・ホームスパン
本作のテーマについて
本作のテーマは決して科学賛美ではない。手塚は元々1949年発表の『メトロポリス』において、「人間もその発達しすぎた科学のためにかえって自分を滅ぼしてしまうのではないだろうか?」というテーマを主張しており、近代文明の発展を単純に肯定してはいなかった。
本作のテーマは「ロボットを虐げる人間と虐げられるロボットの対立と差別」であり、アトムは万能な科学の力を持ちながらも時に人間からの差別に直面し、思い悩むという重いテーマを背負ったキャラクターである。
しかしながら戦後日本の発展と科学の進歩に伴い、本作も明るい未来を描いたものだという見方が強まっていき、本来伝えたかったテーマと世間一般の評価の乖離が目立ってきたことを手塚自身残念に思っていたことを自著で述べている。
また、鉄腕アトムの起動源に関しては誤解されがちであるが、有害な核分裂エンジンではない。手塚治虫は後年に公式にクリーンエンジンである核融合で動くと発表した。
(しかし有害な原子力推進のPRに鉄腕アトムを無断使用され、当時の手塚が遺憾の意を表すと共に反原発の意思を明確に示したという事件も起きた。鉄腕アトムは有害な原子力発電ではなく太陽と同じの夢のクリーンエンジンである核融合エンジンである。つまり鉄腕アトムは太陽と同じという設定であった。)
手塚治虫は鉄腕アトムについて次のように発言している。
「アトムは、初期の2,3年の間は書いていて楽しかったのですが、あとは惰性の産物でした。ことに虫プロでアニメーション化してからは、怪物化したアトムを書いて苦痛だったのです。
しかし、作品としての評価は別として、主人公の魅力の点では、いまだにアトムは、実の息子のように、いやそれ以上にぼくは好きです。なぜならアトムは戦後二十数年をぼくの分身として、おなじような体験をし、おなじように育ってきたからです。アトムをみていると、ぼくの半生のさまざまな思い出や体験がよみがえってきます。そして、ことにマンガ家としての希望と意欲にもえていたかけ出し時代のぼくの姿が……」(1969年12月 手塚治虫全集「鉄腕アトム」20巻 小学館より)
映像化作品
実写版
1959年3月7日から1960年5月28日まで。全65話。毎日放送制作、フジテレビ系列で放送。
詳細は鉄腕アトム(松崎プロ特撮版)を参照。
テレビアニメ第一期
「鉄腕アトム」アニメ映像_63年版 © TEZUKA PRO / KODDANSHA
※なお設定年代は2013年となっており、原作のアトム誕生の年である2003年から変更されている。
アニメ「鉄腕アトム」は日本初の本格的なテレビアニメとして誕生した。
1963年1月1日(または1月上旬)から(1966年12月31日または1967年1月上旬にかけて)、フジテレビなど全国33局にて放送された(当時のフジテレビはまだ系列局が少なく、ネット局のうち現在もフジテレビ系列なのはフジテレビ、関西テレビ、東海テレビ、仙台放送の4局のみ)。
アニメ自体はそれまでの日本にもアニメ映画などで存在したが、1話30分の毎週放送する商業用アニメとしては初の試みであった。
鉄腕アトムは「日本のアニメは1話30分で途中にCMを挟み、毎回opとedに歌が入る。」という基礎を作った。(海外にも30分アニメは存在しない訳ではないが、5分アニメや15分アニメを組み合わせたものが多く、OPやEDに歌などが入るものは少ない。)
鉄腕アトムは日本で最高視聴率40%の怪物番組になり、大ヒットした。
しかし、鉄腕アトムのアニメは衝撃的な結末を迎え、最終回はアトムが地球を守るためにカプセルを抱いて暴走した太陽に突っ込むという内容であった。
そのため、当時の子供たちから「アトムを殺さないで!!」「アトム死んじゃいや!」という悲痛なハガキや電話がテレビ局や虫プロのもとに殺到したという。
サンケイアトムズ
本シリーズの放映以前の1965年に、フジテレビの系列会社である産経新聞社が国鉄からプロ野球チーム「国鉄スワローズ」を譲り受け(実際にはそれ以前から国鉄に出資能力はなく、フジサンケイグループが最大のスポンサーだった)ていたが、このアニメの番宣を行うために、1966年に「サンケイアトムズ」に改称した。
ところが、このアトムズ時代は球団にとって黒歴史にぶち込みたいほどの不振時代で、1968年のリーグ4位(この年にしても首位の巨人とは13ゲーム差)を除いて常に最下位争いという悲惨な有様だった。
結局あまりにも振るわなかったうえ球団経営に乗り気であった(はずの)産経新聞側が経営者の交代もあってかやる気を無くし1969年にヤクルトに売却した。
名前については「アトムズ」→「ヤクルトアトムズ」となったものの、1972年12月にグッズが関連する著作権問題が発生。1973年11月に虫プロが経営破綻したこともあって(余談も参照)名称を戻すことになり「ヤクルトスワローズ」となって現在に至る。
テレビアニメ第二期
テレビ第2期(通称「昭和カラー版」)は、手塚治虫の第1期(モノクロ版)に対する不満を解消する予定で原作の設定を整理してスマートなアニメとして製作された。特にアトムの無版権デッドコピー機として登場した本シリーズのアトラスとアトムとの戦い、その中で育まれる複雑な関係性は、今なおアトムシリーズ最高作と評価される向きもある。
1980年の放送開始直後こそ好調だったものの、1981年に入ると強力な裏番組、『Dr.スランプアラレちゃん』と、奇しくも同じ人間型ロボット(アンドロイド)モノ同士の視聴率争いとなった。
実際、その後視聴者としても製作者としてもアニメの隆盛に深く関わる昭和50年代生まれの層にとって『鉄腕アトム』と言えばこの作品のイメージであり、後に他局(フジやNHKなど)も含めたアトム回顧特番などでもまず出てくるのは本シリーズだった。後のスピンオフ作品(『PLUTO』や『アトム・ザ・ビギニング』)も本シリーズの強い影響下にある。
詳細は鉄腕アトム(1980)を参照。
テレビアニメ第三期(『ASTRO BOY 鉄腕アトム』)
2003年4月から2004年3月(または4月上旬)にかけてフジテレビ系列(全28)局に加えて青森テレビ、テレビ山梨、テレビ山口(いずれもTBS系列局)で放送された。手塚没後初のアニメシリーズである。
元来のアトムとは違い、さまざまなエピソードを交えながら、ロボットと人間の共存から対立、そして全面衝突と和睦への流れをハードかつシリアスに描く大河ドラマ色の強い展開となった。
詳細はASTROBOY鉄腕アトムを参照。
アニメ映画
2009年に香港のアニメ制作会社IMAGI制作で映画化。『ドラゴンクエストユアストーリー』のような3DCGのコンピューターアニメーションとしてキャラクター造形がなされており、ストーリーは設定のみ原作を踏襲しているがほぼ別物。
フレディ・ハイモアがアトム、ニコラス・ケイジが天馬博士の声を担当しており、日本語吹き替え版ではアトムを上戸彩、天馬博士を役所広司が担当している。
ナイジェリア向けアニメ-ろぼっとアトム(原題 - Little Astro Boy)
手塚プロダクションがアフリカ市場に将来性を見いだし2014年3月からナイジェリアで放送するのを主目的として、現地の民間テレビ局と共同制作された作品、1話15分で全8話。
視聴層は低年齢向けに定められ、アトムは原典よりも幼い外見になり「ロボタウン」を舞台にアトムが人間やロボットの仲間たちと悪者を退治したりカーレースをする日常風景を単純明快に描くといった内容。
2015年11月には日本向けローカライズ版『ろぼっとアトム』としてハピネット・ピクチャーズからDVDソフトが販売された、声優のキャスティングは過去シリーズとガラリと変わっておりアトム役は村川梨衣。
ショートアニメ-GO!GO!アトム
2019年10月から2020年1月初旬にかけて、テレビ東京系列局の番組『プリスクタイム』第2部にて放送された。未就学児~小学校低学年向けのアニメでアトム役は朴璐美。
アトニャンという子猫ロボットとスズというお茶の水博士の孫娘と共に様々な場所で発生したトラブルを解決しにいく内容である。
天馬博士やウランも登場はしたがアトムと無関係の他人となっている。
鉄腕アトムの原作のその後
(以下ネタバレ注意、原作をこれから読むつもりの方は注意して下さい)
サンケイ新聞版
アニメ1作目の最終回はアトムが悲劇的な最後を遂げるが、サンケイ新聞版「鉄腕アトム」ではアニメの続きが描かれた。しかしサンケイ新聞版アトムは更に悲劇的な内容であった。
まず主人公のアトムは太陽に突っ込んだ後、奇跡的にも助けられたが代わりにタイムスリップしてしまう。
そこは50年ほど前の日本であった。
アトムは「ドロッピーのトム」という心を閉ざした少年と出会う。
アトムはドロッピーのトムを危機から助け出し、ドロッピーのトムは次第にアトムに心を許すようになる。そして、ドロッピーのトムは将来アトムのようなロボットを作ろうと思うようになった。
やがて彼は執念で科学省の長官にまで上り詰めた。
大人になったドロッピーのトムは『天馬博士』と呼ばれるようになる。
しかし、悲しいことに天馬博士の息子は交通事故で死んでしまった。そこで彼は科学省の粋を尽くし、昔自分を助けてくれたロボットに似せてロボットを作り始める。(原作ではアトムと飛雄が似てないのはこれが原因)
しかし、その様子を見守っていたアトムはあることに気づく。そう、このままではアトムが同時に2体存在してしまい、歴史がおかしくなってしまう。
そのためアトムはタイムパラドックスを防ぐために自殺を決意し、自分自身=もう一人のアトムが誕生した時に発生した電気エネルギー波に飛び込み死亡する。
その後、新たに誕生したアトムは「アトム誕生」の物語に続くように冒険を始める。しかし死んだアトムと生まれたアトム、両者は全く同じアトムであるがその後に冒険した内容は異なる。何故なら、タイムパラドックスによる時系列分岐で誕生した、違うアトムの物語だからである。(漫画やアニメなどが作品・シリーズごとに設定が少し異なるのはこれが理由)
…という内容がサンケイ新聞版の「鉄腕アトム」で描かれた。が、衝撃的すぎたためか、単行本化の際にごっそり削除された。現在では「復刻版アトム今昔物語」で読むことができる。
これは少し前に流行した「都市伝説ドラえもんの最終回」に酷似している。(大人になったのび太がドラえもんを作ったという都市伝説)。鉄腕アトムではこの都市伝説が流行るとっくの昔に同じアイデアを使っていた。
またサンケイ新聞版以降もアトムの活躍は続いた。
アトムの最後
しかし鉄腕アトムの世界の時系列で最後にあたる作品「アトムの最後」(別冊少年マガジン1970年7月号掲載)ではさらに衝撃的な続きが描かれている。
アトムの世界の最後はハッピーエンドとは程遠いものであった。
それは結局ロボットと人間はわかりあえず、人類はロボットに支配されアトムも破壊されて終了という悲痛な最後である。
鉄腕アトムの世界の時系列ではここが最後となる。
ただし「鉄腕アトム別巻」の手塚本人による後書きによれば本作を描くきっかけになった企画の趣旨と当時の風潮を反映させたらこうなったらしく、70年代の本人にとってはアトムの全作品の終わりだと思っていないと言及している。
小学館の学習雑誌版
アニメの続き、宇宙人によって改造され復活したアトムが地球に帰還し、元いた時代を目指しタイムトラベルをする。単行本では『アトム還る』に改題。
1959年以来の実写TVドラマ化も視野に入れ企画されていたがそちら実現にはいたらず、女の子ににアトムのコスチュームを着せたスチールが数枚撮られたのみとなった。
小学一年生版
1972年4月号~1973年3月号連載、作画:手塚治虫
小学二年生版
1972年4月号~10月号連載、作画:馬場秀夫
小学三年生版
1972年4月号~10月号連載、作画:宮添郁雄、池原成利、手塚プロダクション
小学四年生版
1972年4月号~9月号連載、作画:手塚治虫
スピンオフ
後に「地上最大のロボット」のエピソードを原案に浦沢直樹が「PLUTO」を執筆、また姫川明が「ASTROBOY」版をコミカライズしたほか、「青騎士」のエピソードなどをリメイクしている。
現在、小学館クリエィティブ発行 / セブンイレブン発売の「月刊ヒーローズ」にて、ゆうきまさみ / カサハラテツローによる鉄腕アトム誕生までの物語『アトム ザ・ビギニング』が連載中である。こちらに関しては2017年4月15日~7月8日にNHK総合でテレビアニメ版が放送された。
また、GBA用アクションゲームとして発売されたゲーム版ASTROBOYはスターシステムにより手塚キャラ総出演でリメイクされた豪華な作品であり、「スーパー手塚大戦」などと呼ばれたりしている。
余談
- カプコンのゲーム「ロックマン」シリーズの第一作目は「オリジナル作品では売れない」という考えで、当初アトムを題材にしたゲームとして開発される企画だったらしい。そのためか、レトロフューチャー的な世界観や丸みを帯びたロボットのデザインがどことなく「鉄腕アトム」と似ている。偶然なのか90年代にコミックボンボンでコミカライズを手がけたのは元手塚プロダクションスタッフだった池原しげとである。初期は本当にアトムっぽい画風だった。
- 先述の通り東京ヤクルトスワローズは産経時代の1966年からヤクルト時代の1973年まで「アトムズ」と名乗っておりペットマークなどにアトムが使用されていた。これはフジサンケイグループで鉄腕アトムが放送されていたためだが、先述の著作権問題と虫プロ倒産の影響でスワローズに改称しマスコットは使用中止となった。なお、2008年にはヤクルトアトムズ復刻イベントが行われた。中でも5月22日には埼玉西武ライオンズと対戦し同じく手塚治虫がデザインしたレオ・ライナとアトムが共演した。
- 提供は明治製菓一社提供。 マーブルチョコレートに同梱されたシールは人気となり、のちにココアなどにも展開された。(今も菓子に同梱されるシールは続いている)また許諾のない(所謂パチ物も)駄菓子メーカより販売される事態にもなった(著作物の考えが甘かった、次第に厳しくなり淘汰されることになる)。 衣服や下着も展開されてアニメでの損出をプロダクションとして挽回できることになった。
立体物
- 【鉄腕アトム トビオ人形】
※身長135センチ、体重30キログラムの小学生男児学童(小学校4年生:9歳相当)の体型を基に『3自由度電磁型球面モーターを球体関節に組み込んだ機械式球体関節人形』というコンセプトを踏まえて創作された経緯を持つ。
関連タグ
ロックマン…こちらはシリーズが進むごとにアトム以上に悲惨に感じる。
ロボット刑事K…同じロボット関係。漫画版では主人公であるKが人間との関係に悩む描写がある。
人造人間キカイダー…主人公が同じロボット。こちらは元ネタがピノキオで原作漫画はBADENDにも見える。
仮面ライダーキカイ…変身者がロボット。こちらは世界観が最後のアトムに近い。
絵師神の絆…手塚治虫の漫画のキャラを美少女化したソーシャルゲームでアトムも登場、声優は釘宮理恵