概要
代役専門俳優で泥棒の七色いんこを主人公とする物語。「週刊少年チャンピオン」で連載され、後に稲垣吾郎主演で舞台化された。さらに、2018年にも再び舞台化され、乃木坂46の2期生である伊藤純奈が主演を務めた。2024年9月七海ひろき主演で舞台化。各話のサブタイトルは戯曲や小説から取られており、それを下敷きにしたストーリーが展開される。
登場キャラクター
七色いんこ
本作の主人公。代役専門の俳優で、出演料は受け取らないが、代わりに客席の金持ちから金目の物を盗み取る。観客の誰も代役に気づかないほどの演技力を見せるが、当人はモノマネに過ぎないと語る。普段はおかっぱのカツラにサングラスという格好。変装の達人であり、カツラやサングラスの下にある素顔すらも変装とされており、本当の彼の姿は謎に包まれている。アニメ化はされていないが、手塚スターシステムで他作品のアニメに登場した際には、富山敬(第2期『鉄腕アトム』シャーロック・ホームスパン)や子安武人(『ASTROBOY』カトウ)が声を担当した。
物語の終幕において自身が書き連ねた『自伝』において彼がいかにして演劇の世界に足を踏み入れ七色いんこが誕生したか描かれた。
そして、彼の行動の本当の目的とは…?
演劇に関しては並々ならぬ情熱を持っており、自らの演技力に自信は持ってはいるが、とある評論家には「名優の演技を真似ているだけのただのインコモノマネの様な物」と酷評されたり、時には演劇界の名優の迫真の演技力を目の当たりにした時は本気で弟子入りまで考えたことも。
警視庁捜査二課の女性刑事。泥棒であるいんこを追うが、次第に惹かれていく。大の鳥アレルギーで、鳥を見ると体が縮んでしまう。学生時代は有名なスケバンで、刑事となってからも格闘や拳銃の名人。
実は彼女にはある人物の人生をも一変させた隠された過去があった。当然、彼女は知らなかったのである。いんこのアジトを漁った時に出てきた「いんこの自伝」を目にするまでは…
玉サブロー
ある出会いにより、いんこの相棒となった犬。優れた知能や演技力を持ち、盗みの手伝いをこなすが、トラブルを起こすこともしばしば。
番外編ではいんこの元をどのようにして離れたのかは不明であるが、野良犬同然となっている。
だが、彼にはとてつもない冒険の旅が待ち受けていた。
鍬潟隆介
いくつもの会社の会長社長職を兼務し、政財界とも太いパイプを持つ、日本政財界の黒幕(フィクサー)「財界のキング」とも称される男。その男手ひとつ力にモノを言わせて自らがトップを務める企業群を帝国と呼ばれるまでに築き上げた立身出世に関しては、贈賄に裏社会との繋がりや国際的な裏取引など、かなりドス黒い噂もつきまとう。まさに清濁を併せ呑んで現在の地位に就いた本作屈指の大悪党。
その良くも悪くも「漢の浪漫」を地で行く来歴からも、非常に強権的な性格の持ち主で「自らが思い通りにならない事はなく、一時的に障害が起ころうとも全て叩き潰して意のままにしてきた」と豪語するレベル。その愛情も支配欲の発露で現れるため、おおよそ身内に対してもそのような関わりしか持てない人物。
しかし、そんな彼をもってしても、思い通りにできなかったのが、米国留学中に蒸発し死亡したとされる息子の陽介であり、現在でも息子への執着は並大抵ではない。(しかし息子への関わりに関しては、なぜ我が子が蒸発したのかという事に理解が及ばず、当然の事ながら後悔などもするはずはなく、むしろ「馬鹿な子ほど可愛い」「まだ子どもなのだから、きちんと教育すれば解る」という考えで、ぶっちゃけ毒親以外の何者でもない)そのために、一度は自社開発の自動運転車のテストダミードライバーの顔をコンピュータ合成で予測させた息子の顔にしている。(ちなみに、この自動運転車はAIのプログラムミスによって積極的に人間を跳ねる殺人カーと化した)
なぜか、いんことは因縁深いらしき描写があり、いんこは彼に苦悩を与える事を人生の目的のひとつとしているフシがある。
男谷マモル
万里子の見合い相手として登場した青年。
心優しく折り目正しい青年で、万里子の仕事にも理解を示している。
外国において心理関係の博士号を多数取得したエリートで、現在は米国の大学に籍を置く心理学者として研究職に就いている。また競走馬を所持しているオーナー馬主でもある。
そのインテリゆえに万里子からは毛嫌いされる羽目に陥るも、それすらも大らかに受け入れる大した度量の持ち主。普通に考えたなら「結婚相手としては超優良物件」の青年ともいえる。そのため万里子は時折、いんこと男谷の間で心を揺らす羽目にもなった。
ただ、その容姿は鍬潟隆介の息子である陽介(の成長予測シミュレーションによって合成されたモンタージュ画像)に瓜二つであり、また時には「いんこが男谷に変装している」らしき描写も時折あり、その存在には謎と影がつきまとっている。
ピエロのトミー
いんこの命の恩人であると同時に演劇の師匠。アメリカの裏寂れた小さな劇場でセリフがなく動きだけで演技するパントマイム役者。普段からピエロのメイクを外す事なく素顔は修業中のいんこでさえも同居の間は知らなかった。演劇の厳しさと奥深さを徹底して叩き込み、いんこを役者として育て上げた。いんこの芸名を与えたのも彼である。
だが、ある舞台で自身の人生を狂わせた者への復讐を込めたパントマイム劇の後に非業の死を遂げ、その生き様はいんこの心に深く刻まれその後の役者人生に大きく影響を与えた。
最終章「終幕」で判明する登場人物
ネタバレがあります!
終幕の人物(ネタバレ)
鍬潟陽介(くわがたようすけ)
日本の財界のドンこと鍬潟隆介の子息。子供の頃に富豪の家庭に生まれるも窮屈な生活に嫌気を持ち、密かな楽しみとして秘密の場所としていた空き家にあった衣装で様々な人物に変装しては他人に自分だと気付かれない事を喜びとしていたが、父が雇った家庭教師によってその楽しみさえ奪われる。しかし、家庭教師を彼なりの手段で追放した。
年頃になり、朝霞モモ子という少女と心を通わせる仲となるもその幸せな日々は長くは続かなかった。
彼女の父親が新聞記者であり、鍬潟隆介に纏わる黒い噂を追っていたが鍬潟の雇った鷹匠によってモモ子並びにモモ子の両親は交通事故を装った暗殺で帰らぬ人となった・・・。
そして鍬潟親子はついに親子関係がこれにより悪化してしまい、陽介は強制的に渡米させられる。その後陽介のアメリカでの消息は不明となってしまった。
・・・いつしか彼は寒波を襲ったアメリカの裏路地で倒れていた。そして彼を助けたのはパントマイム役者のピエロ。そう、あのいんこの師匠であるトミーである。
七色いんこの正体こそこの鍬潟陽介だった。
トミーの生涯最後のパントマイム劇…役者流の復讐を傍で見た陽介はトミーの過去を演劇で知る事となる。トミーはベトナム戦争に行った元兵士だった。軍産複合体への復讐・ベトナム戦争がもたらした悲劇を鬼気迫る演技でセリフはなくともわかるものだった。
トミーは演劇後に急いで劇場から逃げる事を陽介に促す。この復讐劇はトミーの命も狙われかねないものだった。その逃避行の最中に事故を起こした際に陽介は初めてピエロのメーキャップが剥がれたトミーの素顔を初めて見た。だが、トミーはアメリカに潜伏していたベトナム人達によって拉致され殺された。陽介の命を救い、役者の術を叩き込み、何よりも自身を無二の相棒とした師との別れは唐突かつ無情なものだった。その生き様を見届けた陽介は師のピエロのカツラを被り、舞台で務めた自身の悪役の象徴である小道具のサングラスを付けた姿の正体不明の役者・七色いんことして生きていくのだった。
師との悲劇の別れを経て帰国。自ら、父の悪事を暴き、その帝国を崩壊させ、父の犠牲となった人々の魂を弔い、その悲劇に報いる事こそが、あのトミーの弟子として自らがやるべき事であると定めた。
そのための調査過程の中で、陽介は実はあのモモ子が生きていた事を知る事となる。記憶を失ったまま成長したモモ子に陽介はいんこを含む様々な者に変装し度々接触を試み、いんこの姿では父・隆介に対する復讐を遂げる為に泥棒稼業を行いつつある計画を進めていた。
ある時は男谷マモルという青年になり、モモ子の養父と接触して信頼を得る事に成功し、またある時は男谷としても万里子の前に現れて関わりを持とうと努めた。
第一の計画は無事に果たしたが、その次の計画で彼の本当の戦いが始まる。泥棒稼業で稼いだ全財産を費やして隆介の悪事を白日の下に晒すためのパントマイム劇「鍬潟の悪魔」……それはかつてトミーが生涯最後の舞台としたのと同様の暴露劇である。千里刑事の協力で万が一の事に備えてはいるものの、七色いんこの命懸けの舞台が幕を上げるところでこの物語は終わる。その後、どうなったのかは明らかにされずに物語は終幕を迎えた。
朝霞モモ子
陽介のガールフレンドであり、心を通わせる仲であったが事故に見せかけた暗殺に巻き込まれ死んだと思われたが…実は生存していた。しかし、事故の影響でモモ子としての人格や記憶を失っていた。
時が経ち千里万里子として第二の人生を送っていた彼女は思わぬ形で失われた過去を目の当たりにする。
アジトに潜入して発見したいんこの自伝を読み進めた万里子はモモ子に関する記述で自身の本当の名前と過去、陽介とは昔から繋がりがあった事を知る。当然、彼女は信じられなかった。
いんこの自伝はいんこの正体である陽介の過去だけではなく、モモ子の失われた過去を綴ったものだった。
そして、いんこは荒療治だがかつての事故を再現させるショック療法を行う事によりついに彼女の記憶が蘇っていく。彼女がよく知る七色いんこは目の前で変装を解いていき男谷マモルの姿を経て本当の正体である鍬潟陽介の姿を現す事で完全に記憶を取り戻したのだった。
自分の鳥アレルギーの特異体質の正体は事故に見せかけた殺害計画の手段である鷹に車を襲われる状況がショックとして強く残ってしまったが為である。背が縮むと当時の体格に戻ってしまっているのはそのせいである。
全てを思い出した後、陽介が命懸けの舞台へ向かう後ろ姿を舞台袖からの彼女の視点でラストとなる。
派生作品
HeiSei七色いんこ
2019年に発表された手塚治虫生誕90周年記念トリビュート企画雑誌『テヅコミ』(マイクロマガジン社)における企画連載作品。作者は石田敦子。全5話、単行本1巻。
平成の最終年に突如として復活した代役専門の怪盗役者「七色いんこ」の活躍を描いている。
一応、上述した本編の続編という形になっているが、作者による手塚への敬意から様々な設定に関しては、あえて本編と符合しないようにズラされている部分がある。また、本作内では手塚作品が現実通りの手塚作品として存在している世界観を採用しており、いんこは結果的には手塚作品を代役で演じる役者として活動する羽目になっている。(いわゆるパラレル続編)
あらすじ(HeiSei)
平成も終わりを告げようとしている2019年。演劇『ブラック・ジャック』が開演されるハズの劇場で、ピノコ役を務める子役が代役専門の役者「七色いんこ」を密かに呼んでいた。かつて天才代役と謳われつつも、自らが演出を務めた演劇「鍬潟の悪魔」がテロリストの襲撃に遭った事により上演途中で混乱が巻き起こり、結果として、その生死の解らぬままに姿を消した名役者「七色いんこ」が復活したというのだ。
時を同じくして警視庁の刑事である朝霞サクラ子は上司でもある父より演劇の代役に紛れて盗みを働く犯罪者「七色いんこ」の捜査を命じられる。重大事件を任されたいサクラ子は、この人事に対して「たかがコソ泥の捜査なんて」と不満だらけであったが、結局は上司命令で請け負う事となってしまい演劇『ブラック・ジャック』の上演現場に踏み込むことに。
結果、報酬の盗みを働く寸前でサクラ子に現場を押さえられかけたいんこは、何も盗らずに逃げ出す羽目になった。
以降、追うサクラ子と逃げるいんこは、手塚作品演劇の上演舞台の裏表を縦横無尽に駆けずり回る事となる。火の鳥、紙の砦、リボンの騎士……それは知らず知らずのうちに2人の出自と存在を炙り出していく。
そして最後の最後に2人は廃劇場「アトム劇場」で行われる演劇に観客として呼び出される。この演劇の題こそは『七色いんこ』。
果たして平成に蘇った七色いんこは、昭和に活躍した七色いんこと同じなのか。あるいは違うとするならば、なにゆえに彼は七色いんこを名乗るのか。そして、いんことサクラ子とは、何者なのか。その謎を明かす『演劇・七色いんこ』の舞台が開く―――。
※以下、HeiSei版のネタバレに注意 |
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登場人物(HeiSei)
七色いんこ
昭和の時代(作内では30年程度前と表記)に代役専門の役者として名を馳せ、平成の末期に蘇ったと言われる伝説の泥棒。以前のいんこと同じくピエロとサングラスの衣装をまとう。
しかし、上述の「鍬潟陽介」によって出現したいんことは、「僕」の一人称を用い、たおやかな仕草が頻出しているなど、同一人物と見るには疑問が残るものの、そもそも「七色いんこ」自体が一種のミームでもある事から、別人として断じるにもやはり疑問が残る状態となっている。のちに自ら「(自称)2代目」である事を認める。
なぜか「女性のみが行う演劇」である桜塚歌劇(無論、元ネタはアレ)を「設定を複雑化させて美しい演劇を台無しにする駄目劇団」として手ひどく嫌っている。
その正体は鍬潟隆介の認知されなかった孫娘にあたる人物。すなわち初代いんこである鍬潟陽介の姪。
彼女の父は陽介の腹違いの兄弟であり鍬潟隆介の愛人の子。隆介が自らの後継者は陽介のみと考えていたために認知されず、隆介によって愛人であった母親もろともに捨てられた過去があった。父親に自らの愛を否定されて恨み骨髄の陽介とは異なり、隆介に対しては少なからず成功者であるという羨望や(歪んではいるものの)愛情を持っており「自らは鍬潟隆介の息子である」という誇りすらも持っていた。そのため父を憎み、自らが渇望しているもの(財産・地位・父親の愛情)をすべて持っていながら、その全てを価値なしとして打ち捨てた陽介に対して「偉大な父を、自分の願いや思いを、否定した」として、とんでもない逆恨みを抱いていた。そして、その鬱屈した恨みを晴らすため、自らの娘に歪んだ価値観を押し付け「鍬潟陽介が大事にしている『演劇の世界』を、そして陽介が名乗った『七色いんこ』の名前を穢してグチャグチャにするとともに、娘に『七色いんこ』を名乗らせて陽介を超えさせる」という破綻した願いのため、娘に「七色いんこ」を名乗らせ活動させていた。(いわゆる手塚作品お馴染みの「毒親のせいで男として振舞わねばならない女の子」である)
しかし、この娘は演劇をする毎に、その魅力に取りつかれた末に「自らの個性」を見出して「いんこにはなれない」事を悟る。同時に、その事を父親にも感づかれ「醜い失敗作」としてなじられてしまい、結果、父の妄執に取り憑かれたまま、あてどなく「七色いんこのできそこない」として彷徨う事となったのであった。
桜塚歌劇を嫌う理由は「自らが男性(いんこ)を演じている」ゆえに、桜塚の舞台に立てばその仮面が剥がれかねない、というものもあった。
白い少女
物陰から、いんこを見続けている少女。
いんこはストーカーと思い鬱陶しがっているが、なぜか彼女がいんこから離れる事は無い。
その正体は原作に言うところの「いんこのホンネ」に相当する存在で、実はいんこのみに見える幻影。
いんこがいんこであるために押し隠した「演劇が好きな女の子」が具現化した存在。
朝霞サクラ子
第4話で名字が明かされ、第5話で母親が登場し、名前が明かされる。
現代のいんこを追う警視庁の刑事。実質上の千里万里子の後継者。
いんこからは「おばさん」呼ばわりされてキレる事多々。不承不承にいんこを追う様を、他ならぬいんこから「演じている」と称されている。
実は陽介の恋人であり彼の戦いを最後まで見守った朝霞モモ子の実娘。そして母親であるモモ子によって本作に登場したいんこにとっては、年の離れた従姉にあたる事が明かされる。この言葉を素直に受け取るならば、サクラ子はモモ子(千里万里子)の娘であると同時に初代七色いんこ・鍬潟陽介の娘でもある、という事になり、すなわち万里子(モモ子)といんこ(陽介)の間に生まれた愛娘という事になる。
朝霞モモ子(千里万里子)
第5話に登場。サクラ子の母親。初代いんこの依頼で「今のいんこに存在意義をつきつける(代役の)初代いんこ」を演じていた。すべてを終わらせたのち、サクラ子に明かした姿は千里万里子の服装・髪型であるがモモ子を名乗り、相応の年を経た母としての熟女顔を見せている。
鍬潟陽介(初代・七色いんこ)
物語本編には登場しないが、モモ子によって存在が言及される。
モモ子いわく現在は「演じる事を封じられた」状態にあるという。
それゆえに平成に降臨した「七色いんこ」の在り方は歪んでいると察し、彼女の「鍬潟」の宿命からの解放のために人知れず暗躍していた。
劇団二十面相vs.七色いんこ
同じく2019年より『月刊少年チャンピオン』(秋田書店)に連載された記念作品。作者は中谷チカ。単行本は全3巻。
こちらは『HeiSei』のような続編ではなく、純粋なパラレル作品。この作品の第1話は原作第1話のリメイクとしての側面を持つが、第2話以降はパラレルとして連続性を持つオリジナルストーリーが展開された。
登場キャラクターのほぼ全員が、中谷の画風によって現代風にリファインされるとともに、手塚スターシステムを積極的に取り入れた作品となっている。
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野田秀樹、寺脇康文、大鶴義丹、斉藤由貴、熊谷真実 - 秋田文庫版の解説文を寄稿した。
怪盗ジョーカー - 怪盗スペードがお気に入りの漫画として本作を挙げている。